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092-1 ― 【幕間】公国公女、未知と遭遇す ―

いつも本小説をご高覧いただきありがとうございます。

さて、今回はいつもの【幕間】同様に主人公とは別の人物視点のオムニバス形式であり、主人公が地下世界にいた間の地上の空白の時間を埋める章となっております。

今回の話を読み飛ばしてもくださっても物語の進行には影響はございませんのでご安心ください。


ヴ……ヴヴ…………。


エ…ルギ……ライ……、バイパス……接……成…功。


予備タン……り、補助エネ……ー、流入……開始。


…………。


……11……23……38……51……68……75……86……94…………。


……緊急用予備タンクからの補助動力バイパス供給、安定値を確保。


メインシステムの再起動及び、各区画の破損箇所チェック開始。


メイン動力炉、異常なし。全冷却システム、異常なし。


サブ動力炉、1番……異常なし。2番……大破。3番……動作不良、連続稼働時に破損する懸念あり。


内外壁、一部損壊。その他連絡通路及びハッチの開閉、問題なし。


各区画及び各動力の被害レベル、想定範囲内。


続いてチェックシーケンス、各種航行システムチェックへ移項開始。


……。


……………通常航行、亜空間潜航、どちらも動力不足のため現状では航行不能。


艦内外に艦長の生体エネルギーを感知できず。


捜索範囲を拡大、対象を探査中。


併せて艦外センサーによる全天周囲を簡易モニタリング。


認識可能範囲内の惑星及び恒星、星系の照合開始…………該当なし。


照合作業には膨大な時間が経過する可能性大。照合作業は一時中断。定期的な観測と各種センサーを用いての検索方法で割り出し作業が妥当と判断。


続いてメイン動力炉及び冷却システム、試験運転開始。


…………微量ではあるものの複数エネルギー粒子の生成成功を確認。ただし、艦外への流出も同時に観測されたため、現状で大規模生成は不可能と判断。


再度、現状の再確認。艦内外に艦長の生体エネルギーを探査開始。


……。


…………。


………………………。


………………………………………………、通信可能限界域にまで該当なし、ですか。


困りましたね。


このまま艦長が行方不明となると、いよいよもって本艦も幽霊船の仲間入りとなってしまいます。


とまれ、まずは航行不能をなんとかしなければ『船』とすら呼んでもらえません。


まずは各セクションの補修・復旧と備蓄エネルギーを用いての余剰エネルギー生成と備蓄、それとは別に周辺状況の確認を……おや?


生体エネルギーを感知? しかも複数、原生生物でしょうか。もしかしたら本艦は彼らの生息地を脅かしてしまっているのかもしれません。


一旦、艦長(キャプテン)の捜索及び各セクション復旧作業を中断。


ここはひとまず、外壁にディフレクター(偏向障壁)を限定展開して相手の出方を待つとしましょう。



◆◇◆◇◆



我が【ベルンシュタイン公国】と【シンビオフスク連邦】の両政府が停戦協定に調印して半年以上の月日が流れた。


両陣営とも、あの戦乱時に突如空を切り裂いて落ちてきた『正体不明の物体』に戦線をズタズタにされ、もはや戦争どころの話ではなくなった為だ。


結局、永世中立の立場を保つ【ディフレッテン諸国連合体】へ赴いた二つの国の首脳陣は、自他共に現状での調印することに対して納得せざるを得ない厳しい表情をしていた。


両国――といっても、その大部分が【連邦】側ではあったが――が受けた、あの【厄災】とも呼べる出来事の引き起こした二次的被害があまりにも凄惨たるものだったからだ。寸断された陸路、それによって繋がっていた中継地との交易の途絶。そこから発生する飢饉や略奪、さらに酷い所では徴兵崩れの野盗まで出没しているという。


逆に言えば、この現状こそが調停までに至った最たる要因だろう。


我が【公国】に侵攻してきた【シンビオフスク連邦】は、その領土下にあった【イェストリア連山】の一部を文字通り消失。


神代(かみよ)三叉槍(さんさそう)』、『白銀の三峯(さんぽう)』、『(きら)めきの万年凍土』。


数々の名で謳われた【イェストリア連山】は、あの奇っ怪な事象があった直後に大規模な山崩れを起こし、【連邦】に与する北東部の周辺国家に甚大な被害をもたらしたと聞く。


だが、被害はそれだけに留まらない。


今まで不変であった山の一部が消失したせいで、【連邦】はあらゆる産業に必要な鉱物資源の六割近くを一瞬の内に失ってしまったのだ。


さらにそれを採掘するための人足にも大打撃を被ったことは想像に難くない。


もっとも、それは国土が小さく、年中多方面において人員不足の我が【公国】にも言えることだが。


とはいえ、いくら憎むべき相手であった彼ら(【連邦】)へうかうか同情もしていられない。


なぜなら怪光を発して山を消し飛ばした怪物体は、こともあろうに我が【ベルンシュタイン公国】領北部に存在する湖に落着してしまったからだ。


このままでは【公国】の特産品の一つである湖の魚が獲れる漁場に影響を及ぼしかねない。


だが問題はそれだけじゃない。


重要なのは落着現場が、約定を結んでいる『【法術】の申し子』とも呼ばれる【長耳亜人種(エルフェ)】の一族と【公国】の境界線ギリギリだということだ。



―――【長耳亜人種(エルフェ)】。



我が祖先が【ベルンシュタイン公国】をこの地に築く遥か昔から、彼らは北西にある大森林の最奥の住人であった。


そして彼らは、歴史の節目節目に現れては我々【普人種(ニンゲン)】に【法術】の存在やその使い方を教え、その真意を説いてきた。


だが【普人種(ニンゲン)】は【法術】の強さと万能さに魅いられ、悪道に逸れてしまうことが幾度もあった。


過去の歴史を紐解けば、そのような蛮行をしでかした人物は大小様々存在している。


だが【法力(ほうりょく)】を使い、ましてその悪行を【長耳亜人種(エルフェ)】達に振るおうものなら、『裁定』の名の下に苛烈ともとれる焦土作戦で国ごと地図から消されてしまうことだろう。


しかしながら、そういった力にモノを言わせる手段をすぐさまとったという話は、これまでほとんど聞いたことがない。


彼らは武よりも智を重んずる一族なのだ。


それにいくら我々【普人種(ニンゲン)】が【法術】を使えるといっても、その限界値や強さにはどうしても越えられない壁があり、彼ら【長耳亜人種(エルフェ)】と比較すること自体、おこがましいだろう。


仮に、目の前に置かれているこのコップ一杯の水が【普人種(ニンゲン)】の扱える【法術】の限界、【法力量】としよう。


当然、その程度の水で万人の喉を潤すことなど不可能だ。


しかし、【長耳亜人種(エルフェ)】達にそういったことはない。彼らの【法力限界】は湖ほどの広さと深さを持つといわれているのだから。


つまり比べること自体、バカバカしいということだ。


話が大分逸れてしまったが、とどのつまり、我が【公国】は隣近所にそれほどの『逸脱者の集団』が住んでいるというわけである。


さて、ここからが本題となる。


以前より【ベルンシュタイン公国】と【長耳亜人種(エルフェ)】の間には『約定』が存在し、その中に『【公国】は【長耳亜人種(エルフェ)】との境界線をいかなる理由をもってしても踏みにじらない』というものがある。


あの物体は【長耳亜人種(エルフェ)】の住む森の外縁部ギリギリに落ちはしたが、【長耳亜人種(エルフェ)】と共有している湖に影響を与えたことは事実だ。


それを【公国】側の侵略と誤解され、『裁定』されては堪ったものではない。


約定違反がないか、目を皿のようにして条文を何度も読み返して確かめた。


しかし、いくらこちらに非がなくとも湖の一部を使えなくしているのだから、何らかの弁明をしに『かの森』に赴かねばならないのは必然なのかもしれない。


「まったく、我らを創りたもうた女神はよほど試練を課すのがお好きなようだ」


「公女殿下、そのような発言はお控えください」


「ああ、確かに軽卒な発言だったな。だが今回は突拍子のない出来事が多すぎだ。我が国では地方有力者の代替わりとそれに伴っての一時的な納税軽減措置。【公国軍】兵士の兵役期間更新手続きの発布やその期間中の租税免除。退役軍人に支払う恩賞給付については、それらすべてが【公国】側の財政をひっ迫。結果的に自由にできる国家予算は既に無いに等しい。さらに待っていましたとばかりに始まった彼ら(【連邦】)からの侵略戦争と、膨大な数の犠牲者とその遺族への年金の捻出。果ては『正体不明の怪物体』ときた。愚痴の一つもこぼしたくなるというものだ」


「……心中お察し致します。しかしながら、天より落ちてきたあの物体が現状を、今時戦争を終結させたのも事実。この出来事も、きっと女神様の思し召しだったのでしょう」


「まぁ、そのおかげで私達は多忙になったわけだが。戦争とは違い、こちらは死人が出ないだけまだマシということか……」


不意に、隣の部屋からノック音が響く。


「公女殿下。ご公務の最中、失礼いたしいたします」


声の主が隣に詰めている侍女であると判断した私、『ソフィア・フィーネ・ベルンシュタイン』は侍女を部屋に入るように指示を出した。


「失礼いたします。公女殿下、『メッサァシュミット少佐』がいらっしゃっております」


侍女が隣室に待たせてあるであろう人物の名前を口にする。


「ああ、もうそんな時間か。構わない、通してくれ」


侍女が一礼して隣室に下がると、入れ替わるようにして若干童顔な軍服姿の男が入ってくる。童顔で、かつ目鼻立ちが整っているがためよく誤解されがちではあるが、こう見えても彼は壮年期後半だというのだから驚きである。


「公女殿下におかれましては……」


「少佐、前置きは不要だ。頼んでおいた例の件で来たのだろう?」


本来なら公女という役目をせねばならないのだが、どうにも堅苦しいのは肩が凝ってしまうため、あまり好きではないというのが私の本音である。


ゆえに正式な場ではないところでは、肩肘を張らず用件だけ言ってもらった方が互いの精神のためだと、面識のある者には既に伝えていた。


「失礼いたしました。殿下のご指示のありました、『調査隊の編成』が完了いたしました。殿下の御命令にていつでも出立が可能です」


「ご苦労。規模はどのくらいだ?」


「はっ。『出来うる限り少数精鋭で』とのご下命でしたので二個中隊(二百四十名)まで絞らせていただきました。勿論、殿下直属の【雪豹(ゆきひょう)部隊】はそのまま組み込ませていただいております」


「それでいてそこまで絞れたか。やはりお前に任せただけはある。よくやってくれた」


「もったいなきお言葉、ありがたく頂戴致します。それで公女殿下、出立はいつになされますか?」


「今からでは到着は……深夜になってしまうな。では出立予定時刻は明朝、各兵には十分な休息を摂るように通達を出せ。飲酒するようなバカがいないことを祈るぞ?」


「ご安心のほど。仮にその様な者がおりましたら、現地の湖にて()()()()()()を課しますゆえ」


そう言って彼は柔和に微笑むが、その瞳は一切笑っていなかったのを私が見逃すわけもなかった。

ここまでご高覧いただきありがとうございます。

誤字脱字ならびにご指摘ご感想等があれば、随時受け付けておりますのでよろしくお願いいたします。

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