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091-4 ― Одноденна подія(ある日の出来事) ―

オレ(ヴァリオ)は最初、親友セヴェリの妹、ヘルヴィが冗談を言ってるんだと思った。


しょっちゅうオレにからかわれてるから、そのお返しとばかりにオレ達の目の前で息も絶え絶えになりながら、それらしく振る舞ってみせてるんだって。きっと『オレ達にいるトコに来るまで走ってくれば、何かあったと慌てふためくだろうと』って考えたまでは良かったが、肝心の話題の中身についちゃ考えなかったんだろうなって。


というか、ヘルヴィの口にする話の中身があまりにもブッ飛び過ぎてて、オレとセヴェリはなんとも間の抜けた表情をしながら互いの顔を見合せるしかなかった。


大体、川に尻だけが流れ着くわけがない。それがモモみたいな立派なモンだとしてもだ。


もし仮に流れ着くとしたら、オレはデカい尻よりもデカいオッパイの方がいい。というか誰だってそっちのが断然イイに決まってる!


……けど、目の前で慌てふためいているヘルヴィの様子は、オレの目からしても明らかにおかしかった。


いつもならからかう役のオレやセヴェリをたしなめる役目をいつも自分から買って出るような性格彼女が、こんなあからさまな冗談でオレ達をからかうか?


そんないつも真面目で少しだけ不愛想なヘルヴィが、今しがた自分の見たモノを必死になって伝えようとしているこの状況を、幼なじみのオレはもちろん、彼女の実の兄貴であるセヴェリですらうまく理解ができてなかった。


結局、どうしたもんかと顔を見合わせていまいちピンと来ていない様子のオレ達に我慢ならなくなったのか、ヘルヴィはオレ達の手を引っ掴んだまま、無理矢理山の斜面を下り始めやがった。


薬草やらキノコやらを、目を皿みたいにして探し回りながらオレとセヴェリがやっとの事ここまで登ってきたってのに、一直線に駆け下りさせる幼なじみの妹に、流石のオレも二、三回は文句を言い放った。


―――まぁ、当の本人はオレの言葉を取り合う気すらないのか、全然話を聞いちゃくれなかったけどな。


その後、何度か――なぜかオレだけ――木にぶつかりそうになったり、――どういうわけかオレだけ――山の斜面を転げ落ちそうになったりを繰り返して、オレとセヴェリはようやくヘルヴィが薬草摘みをしていた河原に辿りついた。


オレ達の手を引っ張ってここまで連れてきたヘルヴィの身長がオレ達男連中よりも一回り低いせいもあって、彼女の歩幅の狭さや姿勢の低さに無理に付き合わされたせいでオレもセヴェリも、一息するのもエライ苦労した。


けど、荒い息遣いでヘルヴィが指差しす方向に目を向けた時、オレもセヴェリも息をすることを忘れるくらい呆気に取られてしまった。


「……うっそだろ、おい」


「ほ、本当、だったのか……」


ヘルヴィの話しの通り、確かにそこには『【普人種(ヒト)】のモモ尻らしきモノ』が川岸に流れ着いてやがった。


「ほら! やっぱりお尻なんじゃないですか! さっきから私が何度も説明してるのに全然信じてくれないんですもの! 日頃から信用ないヴァリオならともかく、私の話を信じてくれないなんてあんまりです!」


そういってヘルヴィは腰の両側に手を当てながら寒さで赤らんだ頬を膨らませてプリプリ怒っている。


「いやいやいやいや! 普通誰も本当だなんて思うわけないだろ、あんなの! ってか、オレが信用ないってなんだよ!? 腹黒なお前が言えることかよ!」


「し、失礼なこと言わないでください!? 私、腹黒くなんてありません!」


突然名前を呼ばれたオレは、ビクッとしながらも――ヘルヴィと同じように『【普人種(ヒト)】のケツ』のような物を指差しつつ――声を荒げ、いつしかオレはなかなか食い下がらないヘルヴィとその場で言い争いを始めた。


「おいおい二人ともよさないか! 今は言い争ってる場合じゃないだろう!」


オレがヘルヴィへ詰め寄った瞬間、ちょうど頃合いを見計らったようにセヴェリがいがみ合ってるオレ達の間へと割って入ってきた。


「じゃますんなよ、セヴェリ! たしかにヘルヴィはウソつきじゃなかった。けど、オレ達がせっかく集めたカゴを山に置きっぱにしてまで見に来るもんじゃねぇだろ!?」


そう。オレ達が山のいたる所を駆けずり回って集めたカゴは、駆け下りる時に地べたへとブチ撒けないように、あえて山の斜面に置いてきてしまっているのだ。


オレ達が集めたモノは村にとってもご馳走であり、それは山に暮らしてる動物たちにとっても同じことだ。

もしかしたら今頃、カゴの中身は綺麗さっぱり、山の動物たちの腹の中に入っているかもしれない。そう考えるとオレは気が気じゃなかった。


「お前にとってはそうかもしれないが、ヘルヴィにしてみればそれだけびっくりしたって事だったってだけじゃないか。ケンカするほどの事じゃない。カゴの中身に関しては、最悪また別の日に採りに行けばいい」


「何だよ、兄妹だからってコイツの肩持つのか!?」


親友の家族びいきな言い草にムッときたオレは、思わずセヴェリにまで食ってかかった。


「そうじゃない。もし俺やヴァリオがヘルヴィと同じ立場だったら、俺もお前もきっと同じようなことになってただろうって話だよ」


反対に、当のセヴェリの話し方はいつも落ち着いた話し方をするため、なぜだか分からないが、オレのイラつきは次第に薄れていた。


「そりゃあ、まぁ、そうかもしれないけどさ。だけど、この川にはときたま山でおっ()んだヤツが流れてくることがあるってオヤジたちが話してるの聞いた事あるぜ?」


村の大人たちの話によると、別の村から逃げ足してきた村人や野盗なんかがここよりももっと深い山奥にいて、ソイツらの仲間が病気になって死んだりすると、身ぐるみをひん剥かれてそのまま川に流されるらしい。


その方が死体を埋めるだとか後処理の手間が省けるんだとか。


オレは酔っぱらった村の大人が怖がらせようとその話をオレに話して聞かせたせいもあって、オレはあまりの怖さにマジでビビってしまい、その夜眠れかったのを今でも覚えてる。


「何にせよ、今はアレが何なのか確かめなきゃいけないだろう。その話が本当なら、せめて河原に埋めてやるくらいはしてやりたい」


「私も兄さんの意見に賛成です。死んだ後もあのままだなんて、あまりにも可哀そうすぎます」


「ちょ、マジで!? お前ら、アレを川から引きあげようって言ってんの!?」


セヴェリたちの口から出た提案に、オレは思わず聞き返してしまった。


「本気も本気だ。俺が川に入ってアレを担ぎ上げるから、ヴァリオはその肩にかけてる縄で岸からヘルヴィと一緒に引っ張り上げてくれ」


「兄さん、縄をかけるくらいなら私でもできます。兄さんの足じゃ流されてしまうかもしれませんから、川には私が入ります」


どっちも一向に譲らない兄妹の話し合いに我慢ならなくなったオレは、思わず自分のクセっ毛な頭をガリガリと掻きむしりながら怒鳴った。


「あぁもう! 揃いも揃って仕方ねぇ兄妹だな! オレがやるよ! 川に入って担ぎ上げる役!」


すると、今まで一歩も譲らなかった話し合いがピタリと止み、兄妹はそろってオレに顔を向けた。


「いいのか?」


「当たり前だろう! オレはそう言うめんどくさい事で話し合ってるの聞いてるとイライラしてくんの!」


そう言ってオレは、溶けきっていない雪がそこら辺に残ってるこのクソ寒い時期に、なんの因果かこれまたクソ寒い川に入ることになってしまったのだった。

ここまでご高覧いただきありがとうございます。

誤字脱字ならびにご指摘ご感想等があれば、随時受け付けておりますのでよろしくお願いいたします。

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