第十一章『邂逅と憎悪』(下)登場人物紹介
<主人公サイド>
◎ リーパー
【アースフェイル】という世界に(物理的に)落っこちてきた、尻尾と二対の腕を持った二足歩行型の『惑星外生命体=エイリアン』にして、この物語の主人公。未知の生物っぽく自身の存在を演出してみた結果、殺意マシマシで二の腕をヒゲ面のオジさんに軍刀で刺し貫かれ、彼を反射的に振り払ったせいで怪我を負わせ、応急処置をしようとした矢先に突然飛び出してきた青年に手首をちょん切られ、挙句、自分の絶叫が引き金となった雪崩に巻き込まれて行方不明となってしまうという、何とも散々な目に遭ってしまう。現在、身動きが取れない雪崩の中で少しでも生存確率を向上せんと、何やら怪しげなことを行なっている模様。
<異世界サイド>
◎ アダムスカ・クラフトフ
【シンビオフスク連邦】の【下級民】に位置する農民出身者。階級は中尉。お尻に卵の殻を付けたような訓練生を引き連れた山岳演習中に主人公と遭遇してしまうも、自身が怪物と交戦経験があることである程度恐怖への耐性が付いており、訓練生たちに撤退命令を発しつつ、自ら殿を務める。さらに、逃げ遅れたと思しき二人の訓練生のため奮戦し、怪物に手傷を負わせることはできたものの、代償として瀕死の重傷を負ってしまう。部下を守ろうと、無意識の中で発現させた【法術】によって数名の部下たちと共に雪崩から奇跡的に生還するも、受け持っていた訓練部隊は雪崩によって壊滅。さらに自分の生まれ故郷が跡形もなく消滅したという無慈悲かつ残酷な真実を知ったことで、怪物に対して深い恨みと憎しみの炎に燃える執着心と復讐心を滾らせる復讐の鬼と化す。しかしその一方で、雪崩で生き埋めとなって落命した訓練生たちを【法杖】や『個人識別用の金属プレート』に込められた僅かな【法力】を頼りにブリザードが吹き荒れる悪天候の山中を単独で探そうとするなど、自身が教官を務めた訓練部隊の訓練生に対して責任感や気を遣う一面も見られるため、魂の全てが憎悪に染まったわけではないようだ。
◎ グレゴリー・ムドールィ・ヴォルク
【シンビオフスク連邦軍】の参謀本部直轄、【特別情報収集保安対策事務局】、通称【特務】に籍を置く軍人兼局長。階級は中佐。手巻きの煙草をこよなく愛する重度の愛煙家。化学薬品の臭いが充満する薄暗い病室に押し込まれていたクラフトフに外の空気を吸わせるべく、『病院』の主治医に根回しをするとともに早期退院をさせてもらうように『説得』。更にクラフトフの人付き合いの悪さを少しでも緩和させるとともに、自身が様々な階級層から選抜した若者たちで構成された訓練部隊の引率者に任命し、なおかつ山岳演習を行なわせるように指示を出した張本人。しかし、当の本人は訓練中に天候が激変する情報を事前に掴んでおり、あくまで今回の訓練には、『訓練部隊の中で階級や権威を笠に着て無法を働く、あるいは今後自分にとって障害となりうるであろう【連邦】内部派閥の新芽を排除し、各勢力図を塗り替えることで【特務】にとって好都合な人員の補充をする』という狙いがあった。リーパーという全くの予想外の要素はあったもの、リーパーの介入によって予想を遥かに超える収穫を得ることに成功する。
◎ ユーリ・ジハチェフスキー
先述のヴォルク中佐同様、【シンビオフスク連邦軍】の参謀本部直轄の【特務】に所属している軍人。階級は准尉。クラフトフから下された撤退命令で一度は下山を試みようとしたが、本来の直属の上司であるヴォルク中佐の密命を思い出し、指揮命令権の重要性を鑑みた結果、ヴォルク中佐側の命令を最優先と判断し下山を中止。来た道を戻るという、遭難待ったなしの常識はずれな行動に出る。しかしながら、その無謀な行動によって、後述のアレクサンドロヴナ訓練生の絹を裂くような悲鳴を聞きつけることができ、なおかつ怪物から手傷を負わされ戦闘不能に陥っていたクラフトフらの危機に対処することができた。また、自身の周囲に水を纏う水属性の【法術】にあわせて、飛び道具対策として併用した扁平状に特殊形成した氷の粒を多数浮かべる【法術】を併用したことにより、怪物の探知能力への欺瞞に成功。さらに【体躯増強】にものをいわせた捨て身の斬撃によって怪物の手首から先を切り落とすという奇跡とも呼べる偉業を成し遂げる。しかし、その後に発生した雪崩には対処しきれず、クラフトフが発現させた【法術】と、彼自身の【法術】で周囲の仲間を守り抜くことしかできず、その後は運よく雪崩から生き残った生存者たちと共に出発前に立ち寄った基地へ収容されることとなった。
◎ マリーヤ・レオナヴナ・ボカチョリーワ
クラフトフ率いる【シンビオフスク連邦軍第一〇三法術兵士訓練部隊】所属の女性訓練生。階級は上等兵相当。出自が特殊であるがゆえに、連邦ではもはや形骸化しつつある『貴族たらんとする父の背中から唯一学んだ貴族としての務め』を強く胸に抱く人物であり、考えるよりまずは行動するタイプ。そのため、同じ訓練生であったアレクサンドロヴナ訓練生の悲鳴を聞いた時には反射的に踵を返し、誰よりも早くその場に駆け付け未知の怪物に対して攻撃を仕掛けた。結果的に怪物からの反撃とは名ばかりの丸太を突き出しただけだった所へ自身に掛けた【体躯増強】で増強されたスピードを殺すことができず、見事に激突。山岳演習中の道中でエネルギー補給として摂取していた未消化物を地面へとブチ撒けるとともに、あばら骨の骨折と内臓への負傷をしてしまう。とはいえ、自前のメイスを使った怒涛の連撃によって異形の怪物をその場に釘付けできた一点においては称賛に値するといえよう。また、雪崩が発生する直前にアレクサンドロヴナ訓練生の下まで這いつくばりながら移動し、彼女を励ましたこともあって、雪崩に抵抗しようとしていた怪物を共に撃退することにも成功している。
◎ エカチェリーナ・アレクサンドロヴナ・エリストラートフ
クラフトフ率いる【シンビオフスク連邦軍第一〇三法術兵士訓練部隊】所属の女性訓練生。相当階級は上等兵。【シンビオフスク連邦】で五本の指といわれる【エリストラートフ商会】会頭の一人娘であり、金髪縦巻きロールの『テンプレお嬢様』を体現したような女性。また、容姿端麗であることから同訓練部隊には彼女専用の私設ファンクラブが存在する。しかし、残念なことに異形の怪物を前にして己が命を顧みず彼の所を守る固い決意を持った勇士はいなかったらしく、足を挫いて動けなくなった彼女を置き去りにして逃げ出してしまった。結局、死の恐怖に立たされた彼女を救ったのは、数えるくらいしか会話したことのないレオナヴナ訓練生だけであった。当初こそ怪物を目の前にして恐怖するしかない彼女ではあったが、上官兼引率者であるクラフトフ中尉にの行動に『軍人としての心構え』を見い出すとともに、遅参ながらも、逆境にあって爆発的な力を発揮したことで、怪物の右手を切り飛ばすという離れ業を成し遂げたジハチェフスキー准尉、そして自分を最初に助けに来てくれたレオナヴナ訓練生からの激励が後押しとなり、レオナヴナ訓練生とともに、残存する【法力】から捻り出した【法術】を発現させ、雪崩から逃れようとする怪物を退けることに成功する。
◎ グルピェーツとドゥラーク
棺桶の中身その一とその二、以上。
……というのは流石に不憫であるため、一応経緯を記載。山岳演習中の雪崩に巻き込まれたことにより両名は死亡。しかし、山岳演習中に命令不服従、並びに様々な問題行動を恒常的に引き起こしたことが、同部隊の訓練生からの聴取で発覚しており、【連邦】の人的および経済的損害を招いた人物として死亡扱いではあるものの軍法会議に掛けられた。
▽ 【シンビオフスク連邦軍】の参謀本部直轄【特別情報収集保安対策事務局】(以下、【特務】と省略)による調査の結果、二人の罪状は以下のとおりである。
・ 日常的な上官命令の不服従、ならびに山岳演習時の上官に対する法撃行為による殺害未遂、該当する山岳演習に参加した同僚との不和の助長および同士討ちの扇動行為を行なった。
・ 同訓練部隊の『仲間』であるはずの同僚を『敵呼ばわり』した上で、自分の陣営に付いた仲間へ同士討ちを強要し、自ら【霊詞】を用いての大規模【中位法術】を発現させたことで小規模で抑えられるはずの戦闘の被害を拡大させた。
上記の行為から、【特務】は該当者の日常での行動、ならびに山岳演習中の行動を、【連邦】に対する人的あるいは経済的損害を故意に発生させた重大な背信行為、および「フラッギング行為 = 嫌な上官・同僚を、軍隊火器などの武器で殺傷すること」に当たると判断するものとする。
よって、グルピェーツ訓練生並びにドゥラーク訓練生は、栄えある【シンビオフスク連邦軍】に対する深刻な背信行為を働いた者とみなし、【シンビオフスク連邦軍法】に則り、軍籍の剥奪および不名誉除隊処分とする。(※ 不名誉除隊:退職金・恩給など退役軍人が受けられる権利の全てが差し止められる。加えて彼らは故人であるものの、軍籍を剥奪されたため遺族年金が発生しない。)
・作中用語
◎ 【シンビオフスク連邦軍第一〇三法術兵士訓練部隊】
【シンビオフスク連邦】、【ベルンシュタイン公国】間で発生した【第三次平定戦争(のちの【厄災事変】)】の戦後処理の中、他国に比べて【法術兵士】の質が悪いことを憂慮した【連邦軍】の上層部が提唱した『良質な【法術兵士】の選抜・育成と該当者を用いた即応部隊の早期設立』の下に、様々な階級層から徴兵――自薦他薦含む――を経て選抜された、いわば実験部隊。しかし蓋を開けてみれば、質を重視して選抜した結果、融通が利かず、協調性に欠け、さらには他の階級層を互いに蔑視しあうという、最悪の部隊構成となってしまった。それでも一部の善良な心根の持ち主たちがなんとか彼らの間を取り持っていたが、冬期の山岳演習中に突如発生した雪崩に巻き込まれてしまう。死者行方不明者を多数出したこの事件は、連邦史上、最悪の大惨事として後世に語り継がれ、軍人のみならず民間人に『冬山がいかに恐ろしいものであるか』を物語る事例とされている。
◎ 雪崩
山岳部に降り積もった雪が何らかの拍子で崩れ落ちる自然現象の一つであり、崩れ落ちてくる速さは最高時速200km――現実世界の新幹線と同程度――を超える、雪山の白い悪魔。規模の大小にかかわらず、いかに適切な訓練を受け万全の装備を備えた熟練者であっても、遭遇した場合に晒される命の危険に変わりはない。また、屋外で雪に埋まってしまった被災者のなんと60%近くが、骨折や皮膚の裂傷等の外傷、酸素不足による窒息、雪による低体温症の諸症状により死亡するといわれ、雪崩で生き埋めになった際はたった15分程度の時間で生存率が大幅に低下するとされる。現実世界では、雪崩による生き埋めから30分経過するだけで生存率は30%まで低下し、発生から2時間後の生存率ではほぼ0%となる。戦史においては紀元前、カルタゴの将軍であるハンニバルが雪崩による死傷者のため、アルプス越えを断念。第二次世界大戦時には某チョビ髭氏がスイスへの侵攻を諦めたほど。現在は大規模な雪崩の発生を避けるため、爆薬などによる遠隔爆破を用いて人為的に小規模な雪崩を発生させて対応するといった対策が各地で行なわれている。
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