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幸田露伴「うすらひ」現代語勝手訳(6)

 其 六


 火鉢一つ出そうともせず、茶の一杯も出そうともせず、ただ早く帰れと言わんばかりのお力の応対(あしらい)に、それを承知のお静は少しも気にかけず、しめやかにおとわに向かって語りかける。

 新三郎は自分の家に来て遊んでいるので心配のないこと、今夜は兎に角新三郎を泊めようと思うこと、そのために一応断りを言おうとここに来たこと、この先も新を見棄てるようなことはないこと、新が怜悧(りこう)で、村中の評判では、小児(こども)らしくないとまで言われていること、お力は相手にする必要はないこと、新をお力の元に置いておくのは新の将来のために良くないこと、お前様を長くこんな悲しい目にだけに遭わせておこうとは思っていないこと、新右衛門殿に角が立たないように相談(はなし)して、うまく纏まりさえすれば、お前様と新三郎を自分の家に引き取って、ご介抱をして差し上げ、又、養育をすることに何の心配もないこと、青柳の家から他に行きたくないとお思いならばしょうがないけれど、ご遠慮は少しもいらぬこと、新右衛門とお力の振る舞いは非道ではあるが、説き諭したりしても到底過ちを改めるようなことにはならないこと、十年、十五年先の本人の考えは分からないけれど、もらえるものなら、今から新をもらって眞里谷の(うじ)を名乗らせたいこと、婚縁は無理に押し付けるべきものではないが、今から新を養子にすれば、たとえ当人同士の気が合わないにせよ、その時になって新を見棄てるようなことは絶対にないこと、青柳の跡取りをとらえてこんなことを言うのは無礼であるけれど、富之助という者がいる上、お力が新右衛門殿の傍を離れぬ以上は、当人のためには(かえ)って青柳の家を出る方がいいと考えられること、これ等はかねてから考えていたこと、お力を追い出すことがとても叶わないのであれば、正妻に据え直すやり方も、曲がりなりにではあるが、平穏(おだやか)であろうこと、新を眞里谷のものにすれば、青柳の血筋は絶えてしまうことになるが、新というものが居る以上、新の子に立てさせさえすれば、青柳の家は(かえ)って繁栄するというものだということ、大きくなった新三郎がお小夜を嫌い、又眞里谷の家をも望まないというのであれば、婚縁のこと故、どうしようもなく、当人の思う通りに任せて勝手にさせるべきであること等々、優しく丁寧に話して慰めていると、真実(ほんとう)に酒に酔って寝ていた情けない新右衛門が目覚めて、お静の前にやって来た。しかし、お静は何も言わず、ただ、

「お寒うございます、お寒うございます。いやなものが降ってきてお寒うございまする」とだけ言う。そう言われた主人(あるじ)があたふたして、

「火を持って来い、火を持って来い」と、叫ぶのも聞き流し捨てて、

「お老人(としより)は定めし冷えることでござりましょう」と、当てこすれば、新右衛門はますます困って、頭を掻く有り様。

「他のことではござりませぬが、こちらの新三郎どのを今宵は私の方にお泊め申しますので、ちょっとおことわり申しに参りました。この雪の中で何故か洗濯をされたようで、腹を痛めたみたいで、いやもう児童(こども)というものは無理な物好きをするもので、お互いさまに児童(こども)を持っては苦労は絶えませぬもので」と、新右衛門をじんわり責めた。


つづく

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