表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/14

幸田露伴「うすらひ」現代語勝手訳(4)

 其 四


 突き出されて新三郎は、よろよろばたりと雪の中に倒れ込んだが、起き上がりざまにお力の顔をじっと見つめて瞬きもせず、涙も落とさず、声も出さなければ身動きもせず、頭に肩に降りかかる雪をも払わず突っ立てば、

「おお、恐ろしい眼だ。身が縮む、どれどれ私は逃げ出しましょう。戸でも心ゆくまで存分に睨んでおきなさい」と、お力は雨戸をぴしゃりと閉めきり、奥へ行ってしまったのか、音もしない。しかし、雨戸を開けようともしないで、新三は畦道(あぜみち)(はた)(みち)を嫌がりもせず、すたすたと走りに走って行った。そして、眞里谷の家の門を(くぐ)るや否や、流石(さすが)幼児(こども)のこと、(こら)えきれずに、声は立てないけれども、しくしく泣きながら、庭口から出し抜けに縁先に廻った。


 丁度、南天の実を眼と見做(みな)して雪の兎を、母のお静が笑いながら作っているのを息をこらして、興味深そうに見ていたお小夜は吃驚(びっくり)して、

「あれ、新ちゃんが」と、急に叫んだ。

「まあ、こんな雪に傘も無しでどうして家においでか、さあさあ、早く中に入って火にでもおあたり、さぞ寒かったろう」と、お静も(いたわ)り慰める。優しくされて、一層湧いてくる涙を雪で冷えた袖で払いながらも、詳しくは話さなず、

「叔母様、どうかこの寝衣(ねまき)を洗ってください。新の一生のお願いでござりまする」と、思い詰めた顔つきで言った。

「何か知らないけれど、泣いていないで、まあ、兎に角こっちへお上がり。おお、()裸足(はだし)じゃないか、可哀想に。足が真っ赤になっている。(かん)(*下女の名)や(たらい)に湯を取って、新ちゃんの足を洗ってあげな」と、無理に新三郎を部屋に上げて、一つ一つ理由を聞いていけば、言葉も絶するお力の無理が一々理解出来、

「もう泣かないでもようござります。解りました。そなたは家でお小夜と二人仲良く遊んでいるが良い。ちょっと私はそなたの家に行って来るから、お勘は二人と留守番をしといておくれ。直ぐに帰るから機嫌を直して、しばらく新ちゃん、待っておいで」と、衣服(なり)を改め、頭巾(ずきん)を被り、(おとこ)木工(もく)(すけ)を従えて、青柳の家を目指して出掛けて行った。と、その入れ違いに毛布(ケット)()(ぶか)に頭から引っかけた大の男がのそりのそりと門に入って来て、勝手に縁側に腰を掛け、足袋(たび)と一緒に下駄も脱ぎ捨て、雪だらけの毛布も脱いで、ぬっとばかり上がり込んだ。


つづく

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ