幸田露伴「うすらひ」現代語勝手訳(14)
其 十四
『癡児は刻意す止啼銭、良駟は風を追うて影鞭を顧る』
(*子どもを泣き止ませようと、金の代わりに黄色い葉を与えたりするなど、様々な苦労をするようだが、名馬というものは、鞭を打たれる前にその影を見ただけで速度を上げるものだ)
『我は行くぞ。何を躊躇などするものか』と、奮い立って出た遠藤雪丸、後ろを見ることもなく半里足らずを木更津の方に進めば、あちらこちらの岸に舫い結びの綱で繋がれた船が誰もいないままに長閑に横たわっている、そんな小櫃河の渡しを越えて、つま先上がりの路にさしかかると、日は暖かいものの川の面から吹いて来て、裾から身に浸み入る風は冷ややかである。
融けかかった昨日の雪が、楢の木、くぬぎの樹などの梢からはらはらと墜ちて、袖やら肩やらに掛かるのも何となく淋しい。『中流に柁を拍きて豪語を放ちし祖逖の昔時を忍ぶ』というのでもないが、もしも自分が功を立てられなければ、どんな顔をして再びこの河を渡ると言うのか、と大股歩きの足を停め、怒るようにして首を返し、自分が今来た方向を見やれば、川の水の流れは速いけれど、汀一体の浅いところは、岸から折れ込んだ篠竹が洗い出された灌木の根などを僅かの手掛かりにして、白い絹を一面、長く敷いたように薄氷が張っている。それを見て、雪丸は少し考え、莞爾と笑い、
ぬば玉の夜のあらしの、冴え冴えて如何に吹き剣、
河浪の瀬に立ちさわぎ、河水の寄せしがままに、
河浪はやがてかえらず、河水は流れて去らず、
栲領巾の白く清げに、薄氷ぞ岸辺に張れる、朝日出ずれども。
(*夜に吹いた嵐は河を波立たせていたが、朝になると、波も立たず、白く清らかな薄氷が岸辺に張っている。朝日は出ているのだけれども)
と、歌をいかにも面白そうに歌った。
(了)
今回で「風流微塵蔵」のうち「うすらひ」は終了しました。
お読みいただき、ありがとうございました。
最後のこの部分は、難しい語句が並びましたが、おおよそのことが分かればいいのではないかと考えています。(自分の浅学さと訳の拙さを棚に上げて……)
次回から、次の章である「つゆくさ」に入ります。




