9.誓いのキス
「こいつ! こいつが! 大丈夫か、リリィ!」
閉じ込められて早々にモンスターフラワーの蔓を、持っていた小型ナイフで切り裂いた。
蔓の解かれたリリィはすぐさま俺にへと抱きつき、離さない。
「つるぎぃ……つるぎぃ……っ!」
「よしよし、怖かったな」
先ほどの光も無くなり通常状態に戻ったリリィを安心させつつ、当たりを見回した。
周りは隙間無く蔓の壁が形成されており、どこを見ても出れそうな場所は見つからない。
持っていたナイフで切ろうとも思ったが、迂闊な行動は避けた方がいいだろ。
「にしてもモンスターフラワーがなんでこんなところにあるんだ? もしかして種が風に乗ってたまたま他の花に付着したのか? 何にしろ碌でもない事態にならないといいが」
「つるぎぃ、どうするの?」
「本音を言えば外からの助けを待ちたいところなんだが……」
モンスターフラワーの特性を知っている身からすれば、あまり得策ではないだろう。
今この状況は多分あの状態だ。こういうとき、武器が無いことや、戦えるようなスキルでないことが悔やまれる。
そう思っていた矢先、予見していたものは現れた。
再び周りの蔓が伸び始め、俺とリリィを絡め取ろうとしてきたのだ。
「避けろリリィ! 養分にされるぞ!」
そう、モンスターフラワーは閉じ込めた生き物の魔力を吸い取り、成長していく厄介な植物系のモンスターだ。
先ほどは恐らく強く放出されたリリィの魔力に当てられて、発芽してしまったのだろう。
現に今ではリリィだけでなく、俺までも捕まえようとしてきている。
どうにかして小型ナイフで抵抗するも、数が多いため、捕まるのも時間の問題だ。
その時、一本の蔓の先端が尖り、真っ直ぐ俺の体を突き刺してきた。
「がはぁ!」
「つるぎ!」
「り……りりぃ……」
体から何かが抜けていく感覚がし、立つ気力も無くなって、膝から崩れ落ちてしまう。
「くっぅうう! はぁッ!!」
だがすぐに体に刺さった蔓を切り、俺たちを取り囲む蔓を相手取る。
少し頭はぼーとするが、大丈夫、まだ時間が稼げる。
蔓はその後も容赦なく俺を指していき、リリィを捕まえていく。
全身に蔓が刺さり、意識が朦朧とし、死すら頭によぎった俺だが、まだ俺にはあれがある……!
「かっぁ……っ! す、進めって……言ってるだろうが、このクソスキルがよぉッ!」
即座に死から【逃走】をはかり、どうにしかして二、三本を蔓を切るも、それを補填するかのように、再び俺の体に蔓が刺さっていく。
それでもう完全に動けなくなってしまい。持っていたナイフも取り落としてしまった。
リリィの体にも蔓は巻き付いており、養分を吸われて、あれだけ張りのあった若々しい体も、あちこちが老婆のごとく干からびている。
どうにかして死から逃げようといてももう駄目だった。血も魔力も抜かれて、発動することもできない。
「にげろ……りりぃ……どうにかして……にげるんだぁ……」
もう既に役に立たなくなった頭で、リリィに何かを伝えるも、何を伝えているのかすら、俺には分かっていない。
多分、「逃げろ」と言っているのだと思う。
俺は壊れた頭と、ノイズ混じりの言葉で、リリィに言い続けることしかできなかった。
「つるぎ……! しんじゃ……いや……ひとりにしないでっ!」
「りりぃ……いきるんだ……いきて、ゆめ……かなえ……だ……」
「っ! ……そう……りりぃのしたかったこと……は……!」
リリィの顔も霞んでいく。
言語も思考も魂すら死んでいく最中、何かの感触を覚えた。
何をされたのかは分からなかったが、それは口元から感じられた。
それと共に目の前が光に包まれて、暗転した。
「──ぎ──ツル──!」
顔を殴る強い衝撃によって目が覚めた。
「ん!? え、え、何々!? なんだ?!」
周りを見ると、そこには涙目なカッチェラと、期待通りの物を見たように笑う月夜、一息付いた鈴鳴さんに、信じられないもの見るかのように俺を見るクレームがいた。
「こっ、このバカ者が……っ! 全くお主は何度わが輩を心配させれば気が済むのじゃっ!?」
「んっ……悪い……」
「先輩、この数ヶ月で一体何回死にかけてるんですか? マジでライトノベル主人公とため張れるレベルですよ」
「こっちだって好きで死にかけてるわけじぇねぇよ……て、うわぁ……タキシードが穴だらけじゃんかぁ……これいくらするんだ……?」
着ていたタキシードは、蔓に刺されたため、全身に穴が空いておりボロボロだ。
幸い血も一緒に吸われていたために、服に付着してなかったのがせめてもの救いか。ああ……その所為かふらふらする……。
「いやー剣気が頑丈で助かったわぁー」
「頑丈って……あれだけ体を突き刺されてなんで生きてるのよ……!?」
「て、なんで俺死にかけて……リリィは!?」
「先輩、ちゃんと周りを見てくださいよ」
月夜に言われて背後を見ると、そこには光の化身が立っていた。
黄金色に輝くそれは、紛れもないリリィ。
その光は最早、神々しさすら感じさせて、邪な気持ちなど吹き飛ばしてくれるほどに、頼もしさを感じさせた。
そんな彼女が、体の一部を失ったモンスターフラワーと真っ正面からためを張っていたのだ。
「りりぃのほんとうにしたいこと────りりぃのゆめは、つるぎたちといっしょに、いつまでもいっしょにいることっ! だから、つるぎたちはりりぃがまもるのっ!!」
「なんなんだ? 一体ないが起きたんだ……!」
「あれだけの魔力を放出するなんて通過儀礼しかないでしょうが。でもあれだけの魔力量はちょっとやそっとな行為で出るようなものじゃ……あんた、見かけによらず獣だったのね……」
「先輩、いくら童貞で死にたくないからって、本当に五歳児としちゃう人がいますかねぇ……? バレたら即逮捕ですよ……」
「え? ち、ちょっと待てよ! 俺は何もしてない! てかよく覚えてないんだよッ!!」
軽蔑するようなクレームの視線と、流石にドン引きの月夜の反応が、俺にへと投げかけられるも待ってほしい。俺は本当にリリィとその……本番しちゃったの?
これって……本当に洒落にならないやつじゃないか……!?
「ギャアアアッ!!」
「はっ! リリィ!」
モンスターフラワーは最後の力を振り絞るかのように、建物中に張り巡らされた蔓全てを中心にいる俺たち目掛けて放った!
「させない」
リリィはモンスターフラワーにへと右手を伸ばす。すると、少しずつハートの形をした幻影が形成されていき、膨らむように大きくなっていく。
そして膨らみ終えると共に、リリィは目を開けた。
「ハートキャッチ!」
リリィは突き出した右手で、ハート強く握り潰した。
「ギィエエエエエエエエエエッ!?」
その瞬間、モンスターフラワーの中心に深い穴が突然空き、そして即座にかれて萎んでいく。
俺たちに放たれた蔓も当たる直前で枯れ、床にへとへたれこんでいく。
その現象に、俺たちは理解が追いついていなかった。
「な、何が起きたんだ……?」
「お、恐らくですけど……リリィちゃんはモンスターフラワーのコア、つまり心臓を潰したんじゃないですか……?」
「はっ? ええ!? 待てよ、それてあまりにも強力すぎないか? どんだけすごいんだよリリィは……?」
「つるぎぃ……りりぃもみつけたよ……ゆ……め……」
リリィは振り返り、心の底から満足したように笑みを俺たちに見せた後、体から力を失った。
「リリィ!」
そうやってリリィは、眠りにへとついたのだった。




