3.ゆめがほしい
突然のリリィの言葉に、なんと返答したものか、俺は困ってしまった。
そんな夢なんていう形のないものを欲しがられてもなぁ……。
「いきなりどうしたんだ? それに夢って……一体どういう意味だよ?」
「とにかくりりぃもゆめがほしいのっ!」
リリィはそう言って、俺の体を揺らしてくるも、解決策が一向に見えない。
分からない、リリィは一体どんな夢を欲しがってるんだ?
そう困り果てる俺に、月夜が助け船のごとく話しかけてきた。
「それならここはまず、リリィちゃんのやりたいことからリストアップしてみてはどうですか? そうすれば、リリィちゃんが求めてる夢の手がかりも見つかるんじゃないですか?」
「お、そうだな。それじゃあリリィは何がしたいんだ?」
それに俺も乗っかり、リリィの答えを待つ。
「たべることと、ねること」
「それは知ってるよ。それ以外でなにかないか?」
「えっちなこと」
「それは却下な」
「なら明日、リリィちゃんに夢を紹介するというのはどうでしょうか?」
「夢を紹介? どうやって?」
「私たちが夢見る場所に行って、リリィちゃんにプレゼンテーションするんですよ。そうすれば、何かの参考にはなるかもしれないでしょ」
「おお! 明日も出かけるのじゃな! やったのじゃ!」
「どうですか、先輩? いい案でしょ」
得意げにウィンクを撃ってくる月夜なのだが、彼女の言葉に引っかかりを感じる。
「それは別にいいけどよ、その口調だと、月夜も一緒に来る気なのか?」
それを言った途端、月夜は俺を疑うような目で見てきた。
「駄目なんですか……? 仲間はずれですか、そうですか。先輩酷いですよ。期待させておいて捨てるなんてクズ男すぎます。えーんえーんですよ」
わざとらしく泣いたフリをしている月夜は、指で空いた隙間から俺をチラチラと見ている。口元も笑っており、明らかに泣いてなどいない。て、俺は別にそういう意味で言ったんじゃない。
「そうじゃなくて、そうなると月夜が大変だと思ったんだよ。また明日埼玉からこっちまで来るんだろ? 交通費もそうだが、大丈夫なのかよ?」
「ああ、それなら今日は先輩の家に泊めてくださいよ」
「は? 何言ってるの?」
この子はいつもそうだが一体何を言い出すのだろうか?
いつもおかしな事ばかりを口走っているが、今のそれは流石に聞き捨てならないぞ☆
「大丈夫ですよ。歯ブラシとかも持ってきてますから。ほら」
月夜は背負っていた青色のボストンバッグを開けると、中には着替えや歯ブラシ、持ち運び充電器などの一式が入っていた。
通りで今日は大きな荷物を持ってきていると思ったが、まさか最初から泊まることを想定していたのか?
「違いますよ。今まで色々な経験をした上で、どんな事態に陥っても大丈夫なように、先輩を見習ってこうして鞄を持ち歩くようにしたんですよ。だからこれでいつでも先輩の家に泊まりに行けますよ!」
「バカかお前は、高校生の女子を泊められるかっての」
「幼女二人と一緒に暮らしてるんだから、今更女子高生の一人増えたところで変わりませんよ。むしろ外見年齢だけで見ればバランスが取れる位ですよ?」
「なんのバランスだよ」
「諦めてくださいよ先輩。これだけ美少女を周りに侍らせているんですよ? あなたはもうただの冒険者じゃない、立派なラノベ主人公なんです」
「はっ、二次元と現実を混同するんじゃねぇーよ。俺はそんな大層なものなった覚えはないつぅーの」
「あれだけの死闘を繰り広げておいてて、よく言いますね」
「あーはいはい、分かったよ、しょうがねぇな。今回だけだからな」
「そのツンデレ態度も主人公ぽくて可愛いですよ、先輩」
「うるせぇよ!」
含んだ笑いをする月夜に付き合いきれず、今回は俺が折れることにした。
まあ俺はもちろん手なんて出さない大丈夫だが、今夜は廊下に布団を敷いて眠ることになりそうだ。
「やったのじゃ! ルナと一緒にお泊まり会なのじゃ!」
「うー」
結局ここでの結論は、明日探しに行くことに決まり、月夜も引き連れて俺達は帰りの電車にへと乗り込んだ。
家に帰って急遽始まったお泊まり会は波乱の展開だった。
テンションを上げたカッチェラは夕食時、俺の制止も振り切って大量のコーンスープを飲み、リリィはすかさず目の前つくものを次々と食べ、月夜は相変わらず体で料理の美味さを表現しようとして脱ぎだしたのだ。
といっても、もやは慣れきってしまった俺はそれらを適度にあしらい、対処。
夕食を終えた後は、明日行く場所の相談をし、早めに眠ることにした。
女子メンバーに部屋を譲って、今日の俺の寝床は玄関に続く廊下である。
そこに敷き布団と薄い毛布を引いて、眠りついた。
「先輩……起きてますか?」
そんな声が聞こえてきたは、大分眠りについて頃だった。
俺はその声で目を覚まし、反射的に近くに置いていたスマートフォンを起動させた。
時刻は0時を回っている。
寝ぼけ眼の目で見ると、月夜が俺に覆い被さるようにしてこちらを見ていた。
「あぁ……? なんだ月夜……トイレか?」
廊下で寝ているため、俺がトイレの扉前を塞いでいるのだ。もしそうなら、急いで退かなければならない。
「違いますよ。本当先輩はデリカシーがないですねぇ、気をつけた方がいいですよ?」
「余計なお世話だよ……ならなんの用だぁ?」
「人様の家だからか、少し眠れなくてですねぇ……だからせっかくなんで一緒にお話ししましょ、先輩」
「寝る」
「まあまあ、そう言わず」
ごそごそと月夜は俺の横から布団にへと侵入してきた。布団に入ってくる月夜。
だが月夜が入ってきた所為で、布団の気温は上昇、俺は仕方なく布団から出た。
「暑い引っ付くなよ」
6月の前半といっても、もう既に夏の幕開けが近くとばかりに、夜でも蒸し暑さを感じてしまう。
こいつは一体……どこまで俺をおちょくれば気が済むのだろうか。
そんな俺の非難の目も通用せず、逆に月夜の方も恨めしげに俺を見ていた。今度はなんだ……?
「先輩、こんな可愛い後輩を避けるとか正気ですか? 男性の方の方が好きだったんですか? まさかのクライムさんルート狙いなんですか?」
「違ぇよ。高校生なんかと寝て変な噂が立ったら洒落にならないから言ってるんだ」
「相も変わらず逃げ腰ですねぇ。そのままだと、いつまで立っても私の好感度は上がりませんよ?」
この野郎……今すぐにでもアパートからたたき出してやろうか……?
「冗談ですよ冗談。可愛い後輩のちょっとした悪ふざけですよ。それはそうと先輩、リリィちゃんはなんで、あんなことを言い出したんでしょうね?」
「ん?」
「ほら、『夢を見つけたい』て言ってたあれですよ」
「ああ、あれか? 大方あのクレームて子の影響じゃねぇか。夢とか言ってたし、他人の物が欲しくなったんだろうよ」
リリィは欲しがる物の範囲は広くなくとも、欲深さは相当なものがある。
今は食欲と睡眠欲でそれを満たしてはいるが、それが他の物に向いたときのことを考えると恐ろしい。
どうか、今のままの可愛いリリィでいてほしいものだ。
「それだけですかね?」
だが月夜は俺のその答えに満足していないのか、布団に包まり小首をかしげている。
「それ以外あるかよ? 俺には心当たりなんてないぞ」
「そうですねぇ、まあそれも含めて明日には分かりますか」
「そうだよ。だから早く寝ろ」
「はーい、分かりましたよ」
そう言って立ち上がり、月夜は部屋にへと戻っていく。て、待て。
「俺の布団は置いてけよ」
月夜は今だ俺の布団を包まっており、そのまま持ち去ろうとしていたのだ。
「言ったじゃないですか先輩。眠れないですよ、だから先輩の布団さえあればきっと安心して寝れるはずです。間違いありません」
「いや、その理屈はおかしい」
「なら先輩が一緒に寝てくれます?」
「却下だ」
「ならこの布団先輩は貰っていきますねぇ。それにさっき、先輩も暑いて言ってたじゃないですか。なら大丈夫ですってば、風邪なんて引きませんてばよ」
そして『おやすみなさい』の言葉を最後に、月夜は今度こそ部屋の中にへと入っていってしまった。
「たく……なんだったんだ?」
月夜と話してすっかりと目が冴えてしまった。
だがそれでも、布団をなくした敷物の上に、俺は倒れ込む。
眠っておかなければカッチェラたちの体力に到底着いていけないのだ。
そう思い、俺は目をつるり、意識を離していく。
そうだ──いい調子だ──このまま眠りに、
「つ、ツルギ……! ツルギっ!」
「あがっ?」
再び眠りにつけそうだったのに今度は誰だ!
俺が急いで目を開けると、ズボンの端を握って足をジタバタさせるカッチェラがいた。
顔は何故か半泣きである。
「漏れるっ、漏れるのじゃっ!」
どうやら調子に乗って飲んだ大量のスープが、今頃になって効いてきたらしい。
本当、俺は一体いつ眠れるのだろか……。




