予言(「硝子の悪魔」シーン6)
「水浪は、じゅうよんだいめで、ほろびるでしょう」
それが、彼女の最大の予言。破滅の神託だった。
「うんめいのはんぎゃくじが、そのときかならず水浪のいえをおとずれ、わたくしたちのまつえいをほろぼす。そのつよいひかりで。かくりされたやみにすまう、わたくしたちの、くりかえすみらいを、おわらせるのです」
類まれな神通力を持ち、京に棲む鬼から一族を護る為、守の手を借りて、枯れススキで作った松明を掲げ、水浪を比叡の山へ導いたという伝説が残る初代・水浪袾音。平安時代の終わり、末法の世を生きた彼女は、それから千年、袾音の名前が受け継がれてゆくこと、そして、水浪が俗世から隔離され腐敗していく事を、知っていたのだろうか。
初代袾音について秋が窺い知ることができるのはただ一つ。その終末の予言の事だけ。繰り返す闇から、滅びの闇へと葬られる、とっくに寿命の切れた家の終わりを指し示した言葉だけ。それを、圧倒的な神通力の神子が紡いだということだけだ。
(本当のことだよ。きっと)
秋は想う。時の流れに掻き消されずに、永いこと摂政と神官に言い伝えられてきた予言だ。
当たる確率は、きっと高い。
それに昨夜、健人に会ったら、彼は秋に青い顔をして、自分だけが袾音様のこの予言めいた言葉を聞いてしまったと言ってきた。
『水浪は、既に終わり始めている・・・・・』
と。