side アラン
遂にアラン登場です。
僕はアラン・マンテスト。伯爵家の嫡男だ。
いや、嫡男だった、だ。
今はもう違う。
僕は全てを持っていた。
家柄は伯爵家とそこまで高くないものの父は陛下の覚えもよく、僕自身卒業後は2つ歳上の王太子イルヴェルト殿下の側近候補として王城で学ぶことになっていたのだ。
だが、あの日の出来事のせいで廃嫡され、そして王太子殿下の側近という立場もなくしてしまった。
あの日、いつものようにアリアナと別れて帰ろうとした時、通りかかった教室の中から泣き声が聞こえてきた。何かあったのかと覗くと、そこにはフワフワとしたピンク色の髪で、少しタレ目のとても可愛らしい令嬢がいた。
その子は茶色のタレ目からポロポロと涙を溢し破かれた教科書を抱きしめていた。
話を聞くと破られていたと。だけど、自分が入って来る前に教室から去って行くアリアナの姿を見たと言う。
はっきり言ってそれはあり得ないと思った。
アリアナほど、優しく思いやりのある令嬢はいないからだ。だが、彼女はここのところ毎日用事があると僕と一緒に帰ることがなくなった。実際教室で分かれてからは何をしているのか全く知らないのだ。
僕自身アリアナと分かれた後は図書館に行って授業の予習復習や領地の経営のノウハウの勉強をしていたので、アリアナも似たような事をしているのだろうと思っていたのだ。
だから、この話を聞いて、僕の知らない間のアリアナの行動にほんの少し疑問を持っても仕方ないだろう。別に泣いている令嬢、リーザの泣き顔がとても可愛かったから絆されたというわけではない。ないったらない!ドキドキしてなんかないぞ!
ゴホンッ
とりあえず、その後は時々リーザと会って話をした。その時に落書きされたり破られた教科書を見せられたりした。その時には必ずアリアナの後ろ姿を見たり、すれ違ったと聞いて少し疑問に思いつつも僕はアリアナを疑い始め、そのうちすっかりアリアナを犯人だと思い込んだのだった。
今思えばなぜあんなに簡単に信じてしまったんだろうと疑問に思える。なぜならそこに何一つ証拠はなかったのだから。
そしてそんな事をされているというのに、アリアナの事を責めることもなく、いや、身分の差から責めることもできなかったのが本当だけど、1人で耐えているリーザにどんどん惹かれていった。
その頃には一緒に過ごすことのないアリアナよりも、可愛らしく僕の事を頼って来るリーザを可愛いと思い少しずつ惹かれていっていた。
そして殆んどの時間一緒に過ごすようになるのは仕方なかったと思わないか?
リーザと一緒に過ごすのは楽しかった。僕を頼り、僕に甘え、時には伯爵家嫡男として、殿下の側近候補として忙しい僕の事を心配してくれるリーザを愛おしいと思った。
それが全て偽りだったなんて。
あんな大勢の前で、ましてや国王陛下方の前で大恥をかかされるなんて!
アリアナだって、折角僕がもう一度婚約しようと言ったのに!
きっと僕に隠れてもともと2人はそういう関係だったんだ。
僕を騙したリーザも許せないが、僕がいながら殿下と関係を持っていたアリアナがもっと許せない!
このお礼はきっとさせもらう!
こうして思い込みと検討違いの恨みを持ってしまった僕は、益々自分の立場を悪くしていっているのに全く気づいていなかった。
気づいた時は伯爵家嫡男という立場どころか、本当に全てを失ってしまうのだ。
アランいい人で終わりたかったのになぁ。なんか悪役にどんどんなっていく。