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絶望

「アラン?皆んなは大丈夫かしら。やっぱり戻った方が…ううん。私なんかが戻っても足手まといよね。でも、…」



暴漢に襲われ、どうにか馬車だけでもと逃げたのだが残してきた護衛が心配で自分がどこに向かっているのか全く気付いていないアリアナ。

そしてアランにしばらく話しかけるもふとアランからの返事が全くないことに気がついた。



「アラン?どうしたの?」


パシッ


そっと腕に触れたその手を鋭い痛みが走る。



痛みの走った手を胸の前で握りボー然とアランの顔を見るとそこにあるのは先程まであった優しげな顔ではなく、婚約破棄の時と同じ、いやそれ以上に冷え冷えとした眼差しだった。


「アラン、なぜ…」


「ふんっ。なぜか?そんなのもわからないのかい?」



酷く冷たい声に段々と恐怖が湧き上がってくる。そしてふといつまでも馬車が止まらないことに気がついた。


「アラン、ここはどこ?!

ねぇふざけるのはやめて!」


窓の外を見るとそこは見知らぬ場所。猛スピードで走る馬車に不安になるもアリアナにはどうしようもない。


「ふざけるだと?




ふざけているのはお前だ!!あの日せっかくもう一度婚約者にしてやろうとしたのに断りやがって!しかも殿下と婚約だと?

はんっ!どうせお前は初めから殿下目当てだったんだろ?俺が婚約破棄したのをこれ幸いに殿下に乗り換えたんだろう、この尻軽が!いつからだ?いつから殿下と通じていた?あ?」



それは聞くに耐えない言葉の羅列。さっきまで優しく自分を慰めてくれていたはずだ。いや、もともととても優しい人だった。



ーー本当に?ではこれは一体誰?こんな人知らない。こんな冷たい瞳でこんな乱暴な言葉を使って自分のことを責めるこの人は本当に自分の知っているアランなのか。


アリアナは現状が全く理解できなかった。目の前で汚い言葉を使って自分のことを貶しめるこの人のことも、今自分がどこに向かっているのかも、自分がこれからどうなるのかも………



「………お前のせいだ!お前のせいで俺は廃嫡された。ずっと、ずっと伯爵位を継ぐのを、殿下の側近になるのを目指していたのに!


なぜだ、なんでこんなことに………」



喋っているうちに段々目が血走ってきたアランに自然と身体が震えてくる。

逃げたくても猛スピードで走っている馬車からは逃げられない。目の前の人から逃げられない。



そんな馬車の中は関係なく唐突に馬車は止まった。

逃げようとするがいかんせんおっとりとしたお嬢様育ちの上ロングドレス。走るのにも逃走するのにも向いていない。案の定立ち上がったところでアランに腕を掴まれるギリギリと締め付けられる。


「逃げられるわけないだろう。


ほら降りろ!2、3日ここで身を隠したら王都を離れるぞ。残念だがこの場所はあまり知られていない。だから助けが来ると思うなよ。まぁそもそも婚約破棄の手紙を送ってるんだ。さすがの殿下だって探しにくるわけがないさ」



ーそうだった。イルヴェルト殿下には婚約破棄の手紙を書いてユーリに持って行ってもらったんだ。

もう自分のことを彼は探しにきてくれない。


ううん。そもそも彼は自分のことをなんとも思っていなかったんだ。



アランが怖かった。これから自分がどうなるのか怖かった。でもよく考えたらアランに婚約破棄され、イルヴェルト殿下にも本当には愛されていなかった、それどころかキサナ王女との仲を邪魔していた。そんな自分なんかこのまま消えてしまった方がいいかもしれない………


もともと最初の婚約破棄で自信をなくし、イルヴェルトの態度に更に不安が膨れていたところに王妃教育の中断。そしてキサナ王女からの言葉。

アリアナは逃げようという気持ちも気力も湧いてこなかった。

そしてそれをいいことにアランは伯爵家の別邸に半ば引きずるようにアリアナを連れて入った。そして二階の奥まった一室に鍵をかけて閉じ込めた。





アリアナに手紙を書かせ、上手いこと暴漢に襲われた風を装ってここまできた。この場所はあまり知られていないので当然数日いたところでバレることはないとタカをくくっていた。アリアナを置いて一度屋敷に戻りお金や荷物を持ってこようと考えていた。





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