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誘拐

あと数話で終わる、予定!

それから2日。

アリアナはあの日から塞ぎがちで食事も殆ど取らない有様だ。両親が心配しているのもこれまでのアリアナなら気を使って気丈に振る舞ったり無理にでも食事をとったりするが、今のアリアナはそんな余裕もなく、というより周りが全く目に入らない状態で、ただただ自分の殻に閉じこもっているのだった。


そしてそんなアリアナが珍しく外出すると言う。シェリルは顔色も悪く食事も殆どとっていないアリアナを心配してやめるよう声をかけたが大丈夫の一点張り。そして数人の護衛とユーリを連れて出かけたのだ。








アランはすでにカフェに来ていた。アリアナが来るのを今か今かと待っていたのだが、自分が監視されているのには全く気がついていない。うまくいけば今日にでもアリアナを攫ってしまおうとニヤニヤと下卑た笑いをもらしているのだった。


そこに護衛を連れたアリアナがやってきて慌てて優しげな表情を作り出迎えようと立ち上がった。



「やあ、こないだより顔色は良くなったね。でも少し痩せたかな?大丈夫かい?」


心配そうに顔を覗くアランに弱々しく笑ってみせた。


「アラン、大丈夫よ。心配してくれてありがとう」



2人のやり取りの後ろでユーリはヤキモキしていた。旦那様からある程度の事情と憶測を聞き、今日は警戒を怠らないよう言われているのだ。そして目の前には自分の大切な主人であるアリアナを傷付けた張本人がいる。なんなら髪をむしって顔中に引っかき傷をつけてやりたいくらいだ。

しかし、表情にはそんなことを出さずいつも通り穏やかな表情を浮かべるアリアナのことを見守っている。


そして2人は護衛とユーリから少し離れた席に着いた。



「それでアリアナ、どうするんだい?」


「ええ。

やっぱりこのままではいけないと思うの。殿下の気持ちにも気付かずキサナ王女のことも傷付けて…


ねぇアラン。色々考えたんだけど正直このままではダメだとは思ってもどうしていいのかわからないの」


そう言うアリアナに少し考えたような顔をしてこう切り出した。


「そうだね。


殿下にきちんと婚約破棄の旨伝えた方がいいだろう。ただ、今の状態でお城に行くのは賢明な判断だとは思えない。それこそ君だとキサナ王女が気づいたら余計傷付くんじゃないかな?」


「そう、よね。


本当はキサナ王女にも謝罪をした方がいいのでは、と思ったんだけどこれ以上傷付けるのは良く、ないわよね?

でもそれならどうしたら………」


「ふむ。


ではこうしたらどうだい?

手紙を書くんだよ。婚約破棄の手紙を書いて、そうだな。君の侍女にでも届けてもらうといいよ」


「ユーリに?」


「そう。彼女なら殿下もご存知だからきっと君が書いた手紙だと信じてもらえる。本当は手紙というのも失礼だとは思うけどそこはまあこないだの話からいくと結果直接会わない方が殿下も困らないんじゃないかと思うんだ」


あまりにもお粗末な内容だが考えることを放棄しているアリアナにはそんなことは関係ない。アランの言うようにその場で手紙を書いてユーリに言付けたのだ。


ユーリはかなり渋ったがどうしてもと頼まれて渋々城に向かった。


ユーリに馬車を使わせたのでアリアナはアランが送ることになった。これも全て計画のうちである。

そして帰り道暴漢に襲われ護衛が応対しているすきにアリアナを乗せた馬車を逃した。


そしてそのままその馬車は行方をくらませたのだ。








一方手紙を持ったユーリは急いでイルヴェルトの元に向かった。そしてそこには宰相とギル、キサナ王女も共にいた。


「失礼いたします。我が主人より手紙を言付かって参りました」


「ふむ。それはわざわざご苦労」


そうしてユーリを待たせて手紙を読み始めたが、その表情はどんどん険しくなっていった。


「イルヴェルト様?どうなさったのですか?」


「いや、どうも私の婚約者が婚約を破棄したいと言ってきてね。



宰相殿、これはどういうことか?」


「どうもこうも、私にもさっぱりですなぁ」


「まぁイルヴェルト様との婚約を!?

わたくしならそんなこといたしませんわ。一体何様のつもりなんでしょうね。しかもこんな紙切れ一枚で破棄を告げて来るなんてどれだけ無礼なんでしょう!


イルヴェルト様、わたく…」


「ああキサナ王女、ご心配にはおよびませんよ。これは彼女の本心ではありませんから」


「………どういうことですか?」


「彼女はどうやら元婚約者に騙されているようなのです。勿論、普段の彼女ならそんなことはないのですがどうやら彼女に嘘をついて酷く傷付けた人間がいるようでね。ここ2日の彼女の様子は随分酷いものだったようですよ。食事も睡眠もろくにとらず臥せっていたようなのですよ。




一体誰が私の大事な婚約者を傷付けたのでしょうね。

これでも私は彼女のことをとても大切に想っているのですよ。彼女を傷付けた人間を同じくらい、いやそれ以上傷付けたいと考えるくらいにはね」


そう言ってこれまで見たこともないほど冷え冷えとした瞳でキサナ王女を見つめるイルヴェルト。

見つめられた王女はガタガタと勝手に身体が震えてきて言葉が出ない。何か言おうと思ってもハクハクと空気が漏れるだけだ。



「おやおや殿下、殺気が漏れ出てますよ。


殿下は昔からうちの娘を私以上に溺愛していましたからなぁ。それこそ傷1つでもつけていたらその相手はどうなることかと。

いや、あのやつれた様子だけでも相手の命の心配をした方がいいくらいですかな」



(何?なんなの?わたくしたちのしたことはまだバレていないはず!それなのになんでこんなに冷たい瞳でこちらを見ているの!?)







ガタンッ

「失礼します!


殿下、アリアナ様が暴漢に襲われ、護衛が応対していましたがその隙に誘拐されました。犯人はアラン・マンテスト。郊外にある伯爵家の別宅に向かったと思われます。


また暴漢に話を聞いたところ」


突然入ってきた騎士は片膝をつき報告するも一拍おいてチラッとキサナ王女の方を伺った。



「キサナ王女から頼まれたと」


「なっ!

何を言っているの!?わたくしがそのようなことをするわけないじゃない。な、何と無礼なっ!


イルヴェルト様ぁ、この騎士が…ヒィッ」


イルヴェルトに助けを求めようと向かいかけたがその眼、そしてその殺気は先ほどの比ではなかった。


「キサナ王女、後ほどお話を伺います。


仮に先ほどの暴漢の証言が事実であればことは国家間の大問題となります。何と言っても襲われたのは私の婚約者ですからね」


「ちっ、違います。わたくしは知りません!


あっ!誘拐したというアランという者が暴漢も雇ったのではないですか?わ、わたくしは関係ありませんわ。


いくらイルヴェルト様でも不愉快ですわ。支度して国に帰ります」


早口に捲し立て扉に向かおうとした王女だったがサッとその前にギルが立ちふさがった。


「…っ!

無礼者っ、どきなさい!従者の分際でわたくしの邪魔をするなんて許されませんわ」


「キサナ王女、その者は私の従者です。私の命令で動いているのですよ。


ギル、私はこれからアリアナを迎えに行く。部屋に王女をお連れし、そのまま待機」


「御意」

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