穴だらけの策略
お粗末な計画はお粗末な末路を辿るのです
屋敷に帰ったアリアナは馬車を降りてすぐに倒れてしまった。その顔色は悪く頬には涙の跡が残っていた。
知らせを聞いてすぐに城から帰って来た父とお使いを頼んだ母も何があったのかまずは護衛に聞くことにした。
「いったい街で何があったのだ?」
「はっ!
露天商を回っている時に身なりの良い令嬢にぶつかってしまわれたのですが、どうやらその令嬢とは顔見知りのようでカフェに移動して2人で話をしておられました。
私たちはあちらの護衛と少し離れたところにおりましたので会話の内容までは聞き取れず。
しかし、その話の最中からどんどん顔色が悪くなられ心配になったので流石に声をかけようとしたところ…」
そこまで喋って少し言いづらそうにしたものの意を決したように続けた。
「そこにアラン様がいらっしゃいました。アラン様は相手の令嬢と顔見知りのようでキサナ王女と声をかけてこられ」
そこまで言ったところでガタンッと大きな音を立てて侯爵が立ち上がった。
「何!?キサナ王女だと?
それは間違い無いのか?」
「はい!間違いありません。確かにキサナ王女と声をかけてこられました。その後令嬢は立ち去り、アラン様が顔色の悪いお嬢様を心配して、馬車の手配をしてくださいました。
お茶を飲ませ優しく声をかけておられましたが馬車が来たのでアラン様は帰って行かれました」
腕を組んで眉間にしわを寄せ考え込む侯爵に心配げな視線を向けるシェリル。
しばらく何やら考え込んでいたが
「ああ、ありがとう。下がっていいぞ。
またアリアナが出かける時には頼むな」
そう言って護衛の2人を下がらせた後妻と2人アリアナの様子を見に部屋に行ったが目覚める気配もないのでそのまま仕事に戻って行った。
シェリルはアリアナの手を握り時折寝ながら流れる涙を拭ってやるのだった。
一方、城に戻った父親はまっすぐ王太子の執務室に向かった。
「殿下に取次を」
警備に声をかけ取次をしてもらい部屋に入るとそこではいつものようにイルヴェルトとギルが仕事をしていた。突然現れた宰相の険しい表情に多少驚いたものの特に顔に表すことなく静かに声をかけた。
「宰相殿、随分と険しい表情をしておられますが何かありましたか?」
一応叔父と甥の関係にあるものの片や王太子、片や宰相という身分にあり普段から堅苦しくよそよそしい喋り方をするものの、実は割と仲の良い2人だったが、宰相の表情に王太子として声をかけた。
「執務中失礼致します。至急お耳に入れたいことがありましたもので」
「ふむ。ギル」
一言告げただけだがすぐにイルヴェルトの意をくんで警護に誰も通さないよう声をかけに行った。
「叔父上、誰もこないのでいつも通りで構いませんよ」
「ああ、ではそうしよう。
キサナ王女がアリアナに接触して来た」
一拍おいて語られた内容にイルヴェルトは衝撃を受けた。
なぜ?あれだけ箝口令を敷いてアリアナのことは王女の耳に入らないようにしていた。城のものは下働きに至るまでみんなアリアナを慕っている。だから婚約のことを王女に告げるものがあるとは考えにくい。
ではどこから?
考えられるのは卒業式に参加した貴族からだ。しかし、アリアナのことはみんなが慕っていた。そして王女の横暴ぶりも有名なことだ。そのことを考えると貴族からということも百パーセントとは言えないがありえないと思う。
グルグルと考えこんでいたがその答えはあっさりと告げられた。
「おそらくアラン殿からではないかと」
は?
どこからアランが出てくるのだ?
伯爵家の嫡男とはいえ王女と伯爵家とは地位も違い、あれだけイルヴェルトにつきまとって周りに目を向けてなかった王女がアランと顔見知りとは考えられない。
アランは王女とは面識がなかったはずだが。
「それが今日街に出て…」
そうして先程護衛から聞いた話を伝えた。
「どこでアランと王女が繋がったのだ?面識はないはずだ。だがその話でいくと2人は知り合いのようではないか」
「そこがわからない。アリアナに話を聞こうにも屋敷に帰った途端倒れてしまい、まだ話を聞けてないのだ」
「なに!?アリアナが倒れただと」
慌てて立ち上がるイルヴェルトだが今はシェリルが付いていること、念のため医者を呼んだことを伝えひとまず落ち着かせた。
「しかし、こうなるとただアリアナを城から遠ざけ守るのは難しい気がするのだが」
さて困ったとこれからのことを考える宰相にギルが声をかけた。
「宰相閣下、これまでの話を聞くと王女とアランは何かしらで繋がり、王女の耳にアリアナ様との婚約話が入ったと考えられますよね。そして王女がアリアナ様に接触しあることないこと、というかないことだらけを話しアリアナ様を傷つけたと考えるのが妥当ですよね?まあこれまでの行いからアリアナ様を排除するために実は自分の方が本物の婚約者で〜とか言いそうですよね。で、邪魔者は去れとか引っ込めとか。んー?もしくは自分と婚約するはずなのに邪魔をする女がいるので助けて、とか?」
見てもいないのに素晴らしい勘の良さ。
「うむ。あり得るな。
しかしそれでアランには何の得が?」
そう考えるイルヴェルトにまたもやギルが発言する。
「あれじゃないですか?逆恨み!
自分は婚約破棄された挙句、いやした挙句か。
自分から婚約破棄したのに実は騙されてて、みんなの前で赤っ恥。さらに慌てて元の鞘に戻ろうと思ったのに自分ではなく殿下と婚約。アラン自身は殿下の側近候補から外れ、確か廃嫡されたんですよね?
家督を継ぐこともできない。あれだけの聴衆の前での出来事だ。誰にも相手にされず、見方もいず、どうにもならなくなってしまった。これも全部殿下とアリアナ様のせい!とか言いそうじゃないですか?」
ドヤとばかりに胸を張る自身の側近を胡乱な目で見ながら
「お前、よくそこまでのことを考えれるな。
というか逆恨みもなにもするならあの女にだろ?確か…子爵令嬢だったか?」
「いやいやどれだけ関心ないんですよ!男爵令嬢ですよ!モンテ元男爵令嬢!」
「ああ、そうだったか?
まぁそれはどうでもいい。
あの女に騙されたんだから恨むならその元男爵令嬢だろ?」
そう言ってギルの言ってることを心底わからないという顔をするこの国の王太子殿下。
頭はいいが自分に興味のない人間のことは考える気にもならないから側近で乳兄弟であるギルに丸投げである。
その言葉にガックリとうなだれるギル。
「ほんっとーにあなたという人は。興味のないことにもちっとは思考を働かせてくださいよ!
まあいいです。
そこが人間の不思議です。
要は騙した人間も騙された自分も悪いのですがそういう人間はすぐ人に責任をなすりつける。そして自分は不幸になっているのに周りが幸せになるなんて許せないって考える。そもそも婚約破棄しといてやっぱり婚約破棄はなしにしようと考えるような浅はかな男ですよ?
そういう男の考えは正直理解できませんししたくもありませんけどね。
そこで、アリアナ様と殿下の婚約を壊すために王女を唆したか唆されたかしたんでしょう。あの2人がどうやって出会ったのかはわかりませんけどね。
で、2人の目的は殿下とアリアナ様の婚約破棄。それはもう手を組むに決まってるでしょう。
ただ、お二人の仲が壊れたかヒビが入るかした後どうしようとしているのかまではわかりません。が、アリアナ様からは目を離さない方がいいと思いますよ。王女かアランかはわかりませんが、アリアナ様をこのままほっとくとは思えませんから」
スラスラと自身の考えを述べるギル。そんなギルをイルヴェルトも宰相も呆気にとられて見ていたが、その内容ははっきり言って不穏極まりない。
「ああ、そう言えば護衛が言っていたが明後日か?また同じカフェで待っているとか何とかアランが言っていたらしい。話の内容は全部は聞こえなかったものの、流石にアランのことはかなり警戒していたようでいつもより近くで護衛し、かなり聞き耳を立てていたらしいからな」
「ではその日に何かを起こす可能性もありますね。もしくは相談に乗ってるふりを何回か続けて油断を誘ってとか。
いや、でもアリアナ様の様子から周りが心配して目を離さなくなる可能性を考えるとその日にとっとと手を打つと考えた方が正しいか?」
この後3人で色々考えた結果、王女とアランには影をつける。勿論明後日本当にアリアナがアランと会うのならアリアナにもつける。首謀者かもしれない2人を押さえておけば何かあってもすぐに対処できると考えたのだ。勿論アリアナにも影をつけてある。
しかし、やはり簡単に騙されたアランだけあって何かをしようと計画しているにしてはお粗末なものだ。細かなことはわからないものの何かをしようとしているのはバレバレである。今になって考えると側近にならなくて正解だったと思う。
そして運命の日はやってくる。




