策略
久し振りの投稿になります。
かなり迷宮に入り込んでしまった感があるのですが、それでもよければ読んでやってください。
結局、王城には2週間経っても行くことはなく、当然王妃教育も進まず屋敷でのんびりと過ごす日が続いている。
ここまでくるとアリアナは自分が本当にイルヴェルトと婚約したのかも夢だったのでわと不安になってきていた。
ほぼ毎日家でできる勉強をし、空いた時間で本を読んだり領地の運営の手伝いをしたり、母親とお茶をしたりして過ごしている。領地の運営も、もし婚約を破棄されたらもう2度と誰とも婚約も結婚もするつもりもなく、一生領地に引っ込んで過ごそうと思ってのことだった。
そんな日々を過ごしていたアリアナだったが、3日に一度街に出かけていた。それは日に日に表情が翳ってくるアリアナを心配した母シェリルが、気晴らしにと出かける提案をしたのだ。
勿論自分の気持ちを一生懸命隠しているアリアナにあからさまに言ったりはしない。自分の用事を頼むついでにお茶でもしてくるようにやんわりと進めているのだ。
そんな母の気持ちをアリアナも汲んで3日に一度は外出しているのだ。
そして今日は街に出かける日。
シェリルから人気の菓子店のケーキを頼まれたアリアナはケーキを買う前に露天商に立ち寄った。露天商には他国の民芸品や可愛らしい小物が並んでおり、そこの雰囲気も勿論売ってあるものも好きなのだ。
ゆっくりと露天商を回っているとトンッと肩が隣にいた人にぶつかってしまった。
「あ、ごめんなさい」
慌てて謝り顔を上げるとそこには昔からよく知るキサナ王女がいた。知っていると言っても特に関わったことがあるわけでもなく遠目で見た程度だが。それもキサナ王女の性格ゆえ、周りが2人の接触を避けていたためであるが。
「あら、こちらこそごめんなさい。夢中で見ていて人がいるのに気づかなかったわ。
あら?
あなた見たことがあるような?」
「あ、あの、人の目もありますのでこちらに」
流石に街中で自己紹介をするわけにもいかない。相手は一国のお姫様なのだから、身分がばれて何かトラブルに巻き込まれたら大変だとアリアナは慌ててカフェに移動した。
ついて行きながらニンマリと王女が笑ったことには気付かず。
場所をカフェに移して、2人は向き合っていた。勿論周りに護衛はいるが、2人の会話は聞こえない位置まで下がっている。ここでユーリでも一緒に来ていればアリアナの少し後ろで控えていたのだろうが今日に限って護衛だけを連れて街に来ていたのだ。
「あの、改めまして先程は申し訳ありませんでした。夢中で見ていて周りを見ておらず失礼をしました。
わたくしはこの国の宰相を務めておりますディアリスト侯爵の娘、アリアナと申します。
失礼ですがキサナ王女殿下でいらっしゃいますか?」
「ええ、そうです。宰相閣下のお嬢様だったのですね」
ニッコリと愛らしく笑ってみせるキサナ王女。しかし心の中ではやっとチャンスが回って来たと喜んでいたのだ。
そう、今日2人が出会ったのは偶然ではなかったのだ。アリアナとどう接触を図ろうかと動向を伺っていたらどうやら3日に一度街に出ることに気がついた。そこで偶然を装って接触しようとしたのだが、まさか初日に成功するとは思わず、あまりにうまくいったため内心では狂喜乱舞していた。
「はい。キサナ王女はこちらには外交か何かでこられたのですか?」
そんな王女の内心など知らずここで王女に失礼があってはと少し緊張しつつも会話を続けた。
「あ、いえ、今回は違うのですよ。
まだ正式に発表されたわけではないので言っていいものかわからないのですが、おそらくアリアナ様は宰相閣下から聞いてらっしゃると思いますので別に言っても大丈夫よね?」
何やらこちらに話しかけているのか質問しているのかよくわからないことを言う王女に首をかしげるアリアナ。そんなアリアナを内心で嘲笑いながら続ける。
「実は以前からお願いしていたのですがこの度やっと良い返事を頂けたのです」
ますますわからない。返事のしようもなく少し困った顔で微笑むアリアナに決定的な一言を告げる。
「イルヴェルト殿下との婚約が正式に決まりそうなのです」
ーーーーーーえ?
呆然とするアリアナにおかまいなしで嬉々として話し続ける。
「なんでもイルヴェルト殿下は先日婚約破棄された令嬢と婚約したと伺いわたくしもショックをうけこちらに飛んで来ましたのよ。でもよく聞いてみると、人前でその令嬢に恥をかかすのも忍びないとかで形だけのプロポーズをしたところ、その令嬢が婚約破棄されたその直後に殿下からのプロポーズを受けたとか。厚顔無恥とはこのことですわよね。さすがに焦ったもののどうしようもなく、それでも向こうが気づいて後で取り消してくるだろうと思ったのにそんなこともなく、とうとう婚約の儀まで交わすことになったとか。でもわたくしとの婚約のこともあってさすがにこのままではまずいと今はどう婚約を破棄するか相談中らしいですわ。その後にわたくしとの婚約を時期を見て発表するらしいのですが、いつになるやら。
あ、そうだわ。アリアナ様はその令嬢をご存知かしら?もしご存知ならそれとなくお伝えいただきたいの、殿下の想いをちゃんと汲んで身を引くようにって。このままでは殿下もお可哀想ですわ。勿論軽率な発言をした殿下はいけないと思いますの。でもそれは殿下がお優しいから。そんなお優しい殿下の想いを無下にするその令嬢がわたくしは許せませんの。
ね、お願いできますかしら?」
話の途中からアリアナの顔色はどんどん悪くなっていた。王女の言葉に返事もできずただ呆然と話を聞くことしかできない。
そして返事をする直前、タイミングを計ったかのように第三者が現れた。
「おや?キサナ王女ではありませんか?こんなところでどうされ…って、アリアナじゃないか」
聞き覚えのある声にゆっくりと顔を向けるとそこにはアリアナの元婚約者であるアランが立っていた。
「まあ、アラン様ではなくて?
先程露天商を眺めていたらこちらのアリアナ様とぶつかってしまって。これも何かの縁かとここでお茶をしていましたのよ。
あ、でもわたくしそろそろお城に帰らなくては心配をかけてしまいますわ。
それではアリアナ様、先程のお話よろしくお願いいたしますわね」
ニッコリと笑って護衛を引き連れてキサナ王女は去って行った。
その場に残ったのは真っ青になって呆然としているアリアナとアランだ。
そのアランの姿に護衛たちは警戒をしている。勿論誰もがこの男が自分たちの仕えている侯爵家のお嬢様を傷つけたと知っているからだ。
「ああ、僕は別にアリアナを傷つけようなんて思ってないから安心していいよ。
それよりアリアナ、顔色が随分と悪いけど大丈夫かい?何かあったのかい?
っと。僕なんかが君に近寄ってはいけないね。えっとどうしようか、誰か伝言して馬車を呼んでもらう?」
「あ、アラン、さま?」
呆然としたままアランの顔を見上げるアリアナ。
顔色は真っ青を通り越して真っ白になり、目は虚ろになっている。ぐらっと体が傾いたアリアナを慌ててアランが駆け寄り支える。
眉間にしわを寄せアリアナの顔を覗き込み声をかける。
「本当にどうしたんだい?今更だけどあの時君を傷つけた僕が言えることではないけど話くらいなら聞くよ?
その、せめてもの罪滅ぼしというか」
戸惑いながらもアリアナを支えて優しく声をかけるアランについにアリアナの目から涙が溢れて来た。
「あ、あ、わたくしはなんてことを。わたくしは、わたくしは…」
「アリアナ、無理に話さなくていいからお茶を飲んで少し落ち着こう。
えっと、とりあえず僕はアリアナに何かするつもりはないから。それより誰か馬車を手配して、このままでは帰れないだろうし。
ああ、やっぱり僕のことが心配なら僕の従者に馬車を呼びに行かせるから君達はそこにいるといい」
そう言って自分の従者に馬車の手配を頼むアランに護衛たちもどうしていいかわからず戸惑いながらも警戒は緩めず少し離れたところに待機することにした。
「さあこれを飲んで。ゆっくりだよ。
飲みながらでいいから少し聞いてくれるかい?
あの日は本当に悪かった。君を信じなかった自分を僕は許せないよ。もう2度と君に近寄るつもりはなかったんだけど、それでもそんな顔をしている君を放っておけない。僕では信じられないだろうし、頼りたくもないだろうけど、君は自分の中に溜め込むタイプだろう?僕でよければ聞くよ?」
優しくそっと語りかけてくれるアランに先程までのやり取りを話し始めた。
もうアリアナは限界だったのだ。自分に自信をなくし、イルヴェルトの態度や王妃教育の中断などで疑心暗鬼になっていたところにキサナ王女の言葉。誰にも言えず溜め込んでいたアリアナの心は悲鳴をあげていたのだ。
「そっか。
僕は王城への出入りを禁止されているし、実際のところは何もわからない。
でも、君が苦しんでいるのだけはわかる。
もし、もしも君が僕に助けを求めてくれるなら、これまでの償い、にまではならないかもしれないけど、僕に力になれることがあるなら頼ってくれてかまわないんだよ」
「アラン様、わたくしは…」
「アランってこれまで通り呼んでくれて構わないよ。確かに婚約は破棄したかもしれないけど幼馴染じゃないか。昔のように呼んでくれないかい?」
「あ、アラン、ありがとう。
わたくしはどうすれば良いのかしら。このままではいけないのはわかっているの。でも…」
「うん。
君の思うようにしたらいいよ。それで僕が助けになるならどんなことでも協力するから。
とりあえずさっきの今で結論を出すのは難しいと思うんだ。今日は帰ってゆっくり考えたらいいよ。
そうだな、もし、僕に出来ることがあるなら明後日、またここにおいで」
「あ、本当に?いいの?」
「ああ。僕の方こそだよ。君が僕でいいって思ってくれるならどんな協力でもするから。
ああ、馬車も来たみたいだし今日はゆっくり休んで明日しっかり考えたらいいよ。
それじゃ、また」
アランが去って行ったのを見送ってゆっくりと護衛の1人が近寄ってくる。
「お嬢様大丈夫ですか?馬車も来たようですしとりあえず屋敷に戻りましょう」
ええ、と言ってた護衛に支えられながら馬車に乗って去って行ったアリアナを先程までの柔らかい表情が嘘のように歪んだ笑みで見送るアラン。
「明後日待っているよ、アリアナ」
そう呟いた声を拾ったものは誰もいなかった。




