side キサナ王女 〜破滅へのカウントダウン〜
イルヴェルトの執務室を追い出された後護衛を連れて街まで降りてきた。
王都の街並みはさすが大国だけあってきちんと街道も整備されあちこちで屋台の呼び込みの声が聞こえる。
活気があり、街道の脇には綺麗な花々も植えられ、街行く人々の表情もとても明るい。
ー凄いわ。我が国とはこんなにも違うのね。
それに平民のくせにわりといいものを着ているじゃない。
高級ドレスショップや宝飾店に寄りあれこれ買い漁りうさ晴らしするキサナ王女だが疲れたのでカフェに寄って休憩することにした。
出かける前のイライラも買い物をしたおかげで少し発散できた。
そうして紅茶とケーキを楽しんでいると声をかけてくる者がいた。
「失礼、キサナ王女ではありませんか?」
護衛がサッとキサナ王女を守るように動いた。
「ああ、申し訳ありません。警戒させてしまいましたね。
わたしはマンテスト伯爵家のアランと申します。
城内で何度かお姿を拝見しておりましたのでお声をかけさせて頂きました」
キサナ王女が護衛に下がるように言うと、目の前には優しく微笑むイルヴェルトとはまたタイプの違ったイケメンが立っていた。
イルヴェルトは黒髪に紫の目で細身ながらもしっかりと鍛えられた身体を持っている。
対してこのアランという男は金髪碧眼のいかにも王子様然とした優しそうな面差しのイケメン。
「まぁ、伯爵令息でいらっしゃるのね。城内ということはイルヴェルト様のお手伝いをされていらっしゃるの?それとも騎士様かしら?」
コテンと首を傾げて上目遣いで見る。
ーふふん。こうすると男は大抵わたくしのことを好きになるし、なんでも言うことを聞いてくれるのよね〜。
「いえ、先日まで学生でした。王城には父について勉学の為に行っておりました。
あの、折角ですので御一緒してもよろしいでしょうか?
それに
殿下のことでお耳に入れたいこともありますので」
最後、少し近付き小声で伝えてくる。
ちょっとドキッとしちゃったじゃないの。
殿下、ということはイルヴェルト様のことよね?何かしら?
「わかりましたわ」
一緒のテーブルにつき、護衛には少し離れてもらった。ここはテーブルとテーブルの間も離れているし護衛にさえ離れて貰えば小声での話は聞かれることもなさそう。
「それで、耳に入れたいこととは何かしら?」
「キサナ王女は殿下の婚約のことをご存知ですか?」
は?殿下の婚約?
どういうこと。イルヴェルト様が婚約したっていうのはただの噂でしょ?それともわたくしとのことかしら?
グルグルと考え込んでいると紅茶を一口飲んだアランが声をひそめて伝えてきた。
「やはりご存知ではありませんでしたか。
殿下は、実は私の元婚約者と婚約をしたのですよ」
「え、元婚約者?」
「ええ、そうです。
私の元婚約者はディアレスト侯爵令嬢のアリアナ。現在の皇太子殿下の婚約者です。
先日婚約の儀もされたと聞きましたので、まだ他国へ公式に発表こそされていませんが正式な婚約者ですよ」
どういうこと?婚約の噂は確かに流れて来たけどそれがこの人の元婚約者?
え、なんで元なの?
「あの、元婚約者とはどういうことですの?」
「はい。お恥ずかしい話なのですがアリアナとは婚約していて、学園を卒業した後結婚することになっていたのです。しかし、私の家は伯爵家。アリアナの家の侯爵家よりは格下です。
もともと殿下と私とアリアナは幼馴染だったのですが、殿下はよくキサナ王女が会いに来ておられたのでてっきりお二人は結婚されるかと私たちも思っていました。それで私たちは婚約をしたのです。しかし現在お二人の婚約のお話はまだなされておらず、ここにきてアリアナは格下の私よりまだ婚約者ないない殿下に、と。
私もキサナ王女がいらっしゃるからと伝えたのですが聞き届けてもらえず私との婚約を破棄し、更に王妃殿下にわがままを言ってほぼ無理矢理婚約者におさまったのです」
なんて図々しい女なの!
「それは酷い話ですわ!
でもどうしてそんなわがままを王妃様は許されたのかしら」
「ああ、それはアリアナの父と王妃殿下は兄妹だからです。
アリアナとイルヴェルト殿下は従兄弟なのですよ」
そんなっ!
それではわたくしはイルヴェルト様と結婚できないの?
いえ、でもそんな性悪女皇太子妃にふさわしくありませんわ。
「キサナ王女、身分で相手を選ぶような人間が将来の王妃だなんて許されません。王妃にはあなたこそがふさわしいと私も、そして勿論殿下も思っております。しかし、このままでは・・・」
「わかりました。わたくしがどうにかしますわ」
ここはイルヴェルト様のためにもわたくしが頑張らなくては!
「あの、これは私のわがままなのですが。
私はアリアナを本気で愛しているのです。ですので無事キサナ王女が殿下と婚約されましたらアリアナともう一度婚約したいと思っているのです。キサナ王女と殿下の婚約の話を耳にしたらきっと彼女はショックを受けるでしょう。そこで私がしっかりと彼女のことを慰めてもう一度元の関係を取り戻したいと」
なるほどね。では…
「それならこうしましょう」
これで邪魔な女はいなくなり私がこの国の皇太子妃になれるわ!
バカな私はまんまとこの男の嘘に騙され、破滅の道を進むのでした。




