泣いたエルフ!! 悪いの誰だ?………
十話目です。
やっとエルフが出せた。
「このままだと、どっちも殺されるかも知れない」
クロが、小声で言った後すぐに離れる。何故と聞こうとした俺は、急いでクロの方を向こうとするが。
「すいません、急いで下さい。この後すぐ他の方も使うので」
ミントが、可愛らしい笑顔で呼んでいる。今は、その笑顔がちょっと嫌になった。
万が一の時を考え、クロの前に立ち、警戒しながらドアを通ると、広い部屋があり。中央に一人の女性が立っていた。
女性は、18~19歳程度で、白い肌と、やや紫がかった青い瞳をしていた。そして綺麗な長い金髪を後ろで縛っており、いわゆるポニーテールにしており。細長い耳が見えていた。
「エルフだ!」
興奮しながらも、警戒しながら小さく呟く。
「万が一だけど。私がが合図したら、あのエルフを押さえて。お願い」
クロが、そっと耳打ちしてくる。俺は、無言で頷く。
(頷いたのは、良いけど。出来るかな?)
相手は、小柄な体格をしていたが腰に細身の剣を差している。それに、何気無い立ち振舞いに切れがありかなりの強者だと、本能が告げている。
(でも、クロからのお願いだ。悪いけど死ぬ気で行こう……もう死んでるけど)
俺は、いつクロから合図を受けても動ける様に、準備しておく。ミントは、そんなやり取りがあるのを知らず。笑顔のまま説明を始めた。
「此所で職業を決めて貰いますね。ただ、その前に一人紹介します」
そう言うと、エルフの女性の元へ行く。
「今日、万が一の為に来てくださいました。リリア・フルトゥナさんです」
「リリア・フルトゥナだ。今日は魔法適正の際に何か合った時に備えている。私の手を煩わせる様な事はするなよ、新人」
「えっと、言葉は悪いけど良い人ですから」
ミントが、申し訳無さそうに謝る。
「いえ。気にしてませんから。其より、万が一って何がおこるんですか?」
俺は、魔法適正の万が一がクロが、心配している事だと思った。
「魔法適正の際に魔力暴走又は、禁術の仕様と適正があった際に。捕縛又は周辺住民が退避するまでの時間稼ぎを、リリア・フルトゥナさんにお願いしてるんです」
「魔力暴走って、何れ位の確率で起きるんですか?後、禁術って何ですか」
「魔力暴走事態は、滅多に起きません。起きたとしても直ぐに対処しますので、多少お怪我されるかもしれませんが。殆どが起きる前に気付きますので大丈夫です。禁術につきましては…」
「死霊使いや、暗黒魔法等だ」
ミントの話に被せる様に、リリア・フルトゥナが話し始めた。
「死霊使いや、暗黒魔法に適正有りと判断されたものは、使用の有無を調べられる。使用が無かった時は、ギルドの管理下の元。魔法封じが行われる。使用が有った又は、魔封じを断った時は、個の場で処理する」
そう言って、剣の持ち手を握る。俺は、何故クロが焦って要るのか解った。
(クロは、死霊使いだし、理由は知らないけど。俺の時に魔法を使ってる。このまま検査されれば、クロもアンデットの俺もどっちも処理されるって事か。それ、物凄く不味いじゃん!)
俺が、内心かなり慌ててるのを知らずに。ミントが、透明な水晶を持ってきた。一瞬だが、ドジッ子が発動して水晶を割らないかと本気で思ったが割る事なく。いつの間にか床から出ていた、石の上に置く。
「この水晶に手を置いて貰えば、魔力適正の検査は終了です」
俺は、手を置くさいに間違ったふりをして、落として割ろうと思ったが。水晶を囲むように薄い透明な壁が出てきた。
(なっ!……これじゃあ落とせない)
ゆっくり周囲を見ても何か変わった事をしている人物はいない。どうするか、クロを見ると。小さく口を動かす。
(合図か!)
俺は、ダッシュでリリア・フルトゥナに向かうと。その勢いのまま飛び付いた。
(あれ?思ったよりも簡単にいけた)
途中で反撃が、あると思ったが。思いの外簡単に抱き付けてしまった。このまま、抱き付いていた方が良いのか。クロの方を見ると。呆れたような、困った様な顔をしていた。
(あれ?間違えた。今じゃなかった?)
どうしようか、迷って要ると。
「キャッ!!」
下から、可愛い悲鳴が聞こえた。どうしようか現状を確認すると。
(うん。抱き付くと言うより、押し倒してるね)
現状俺は、エルフの女性を押し倒している。そして、無意識にだが、腰と頭を打たない様に頭に手を回していた。
(あっ!耳柔らかい)
つい好奇心から耳を触ってしまう。その感触は思ったよりも柔らかかった。
「コロス」
下から、物凄い殺気と共に声だけで殺せそうな程。怒りを混めた声が聞こえてきた。
俺は、急いで殺気の固まりと化した人物から離れる。殺気の固まりと化した人物は、ゆらりと立ち上がると。
「コロス、コロス、コロス」
呪詛を吐きながら、ゆっくり近付いてくる。そして、ある程度歩いた後、一瞬にして目の前から消えた。
(は……速すぎ)
何が起きたか全く解らなかったが、剣で斬り殺そうとしたのは解った。何故なら、剣を振り抜いた格好で固まっていたからだ。
俺は、どうしようか迷ったが手に持っていた物を見せた。それは、細身の剣だった。
「悪い、離れる時。身の安全の為に取っといた」
リリア・フルトゥナは、暫く剣を見てた後。奪おうとしたので取られない様に、逃げる。
「返せ! 返せ泥棒! この変態、剣を返せ!!」
「やだよ。返せば斬られるのが解ってて誰が、返すか。後変態言うな!」
暫く剣を巡っての攻防戦が有った後、突然リリア・フルトゥナが、崩れ落ちる。そして
「返してよー」
泣き出した。
「……もう死んじゃいたい…知らない男に押し倒されるし………耳まで触られた……剣まで取られるし、もうやだよ」
(キャラが変わった! どうしよ本気で泣いてる)
俺が、どうしようかオロオロしていると。クロが、そっとリリア・フルトゥナに近付く。そして優しくそっと抱き付く。
リリア・フルトゥナは、一瞬ビックリしていたが優しく頭を撫でられると、クロを抱き返した。
「ごめんなさい、私の相方が貴方を襲って。でも、彼も悪気が有った訳では無いの。ただエルフや獣人を見ると、興奮する呪いみたいなものが掛かってるの。貴女は、戸手も綺麗で可愛いから暴走してしまったの」
(いや、クロさん呪いって。まあ、呪い見たいなもんか。でも、押せえて言ったのはクロさんですよ。別に暴走した訳じゃ無いんですけど)
心の中で突っ込みを入れる。
「でも、彼奴は私の耳を……耳を触った!」
(うん、もっと触っていたい。癖になる柔らかさでした)
「うん、その事については、後で此方で殺っとくから。貴女の怒りのぶんも、チャント償わせる」
(今クロさん、やっとくが殺っとくに成ってませんか?俺、殺されるの?)
「……解った。彼奴の首は、貴女に任せた」
「任された。チャント殺っとく」
(クロさん、絶対殺っとくだし!首任せられてるし、そこ断ってよ!)
「だから、貴女も死を選ばず生きて。此所で起きた事は、この場に居る人達の秘密にするから」
「……解った」
「そう、良い子。良い子」
クロが、優しく頭を撫で続ける。その姿は、神秘的であった。ミントが、ハンカチで涙を拭いている。
(端から見てると、戸手も泣けるよな。俺は、違う意味で泣けるけど。…後、俺入れて四人しか居ない筈なのに、何で他の人の気配がするわけ)
部屋の四隅から、今まで感じなかった。気配がした、全員泣いているのか、たまに鼻を啜る音が聞こえる。
謝ろうと、声をかけようと近付くが。物凄い勢いでリリア・フルトゥナとクロに、睨まれる。
(何でクロにも睨まれるかな?)
俺は、黙って遠ざかる。
暫くそのままでいた後、ミントが喋り出す。
「あのー。今日は、その、何て言うか。後日、日を改めまして魔法適正を行いますので…」
「解った。また後で来る」
クロが、そう言って出口に向かう。俺は、剣を置いた後
「すいませんでした!」
一言謝ってから、クロの後を追った。最後までリリア・フルトゥナは、睨んでいたし。部屋の四隅から殺気が漏れていた。
「ごめん」
冒険者ギルドを出て人気の無い所まで来たとき、クロが突然謝った。
「確かに、私は押さえてと言ったけど。注意を反らしてって意味で、抱き付くとは思わなかった。これはしっかり言わなかった私が悪いごめん、謝る」
「いや、此方も確認せずに早とちりしたからな、俺も謝る、ごめん」
「ただ、押し倒した後の事は約束したし。5回ほど死んでもらう」
「五回ほどって、耳触っただけだよ!」
「エルフは、他の人との肌の接触を極端に嫌う。異性に触られただけでも、大事なのに。エルフにとって最も大事な耳を触ったんだから、五回で済むのはむしろ優しい」
「優しいって…いや普通一回で死ぬけど?」
「昔だったら、本人の許可無く耳を触った物は、エルフの秘術で、死なない様にしながら1000年位有りとあらゆる拷問をされて殺され続ける。今は、かなり軽減されて450年位に減った。それくらいするぐらい、エルフにとって耳は大事なもの」
「……俺とんでも無い事したんだな…」
改めて自分がした事の大きさが解った。
「でも、お陰で対策が取れる。だから五回」
「対策って、四隅に隠れてた人達?」
「そう、本来ならシロがエルフの注意を退いてる間に、四隅の人物に気付かれ無い様に、魔法水晶に細工する筈だったけど。予想外の事が起きて細工処じゃ無かった。あのままだと。どっち道シロが、アンデットだって張れるから、停めに入った」
「すいませんでした」
「ん。でも違う方法で誤魔化せる準備ができるから、大丈夫」
「なら、良かった。……あれ?クロさん。何で剣を抜いてるの?」
咄嗟にさん付けで呼ぶ。クロは、剣を何回か素振りした後
「約束だから、五回殺る。……動くと痛いよ」
「イヤァァッーーー」
「五月蝿い、人が来る」
そう言いながらクロは、剣を振るった。俺は、もう二度エルフの耳を触らない事を誓いながら何度も殺された。
「クロ、絶対に五回以上やったよね」
「つい、シロだからね」
夜になった街を、変な事を言いながら歩く二人組を見た人達は、遠巻きに。
「噂の変態と女神が歩いてる」
と、指を差していた。
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