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アデリィナ/アデラィード

薄幸の美少女だったはずのアデリィナのイメージがちょっと崩れます。


謂れなき罪で家族共々処刑された私は、死んだら悪霊になる事は間違いないと思っていた。

そしたら私達をこんな目に合わせた彼等を祟りに行こうと固く誓った。


なのに、誓いは果たされずまた・・生まれ変わってしまった。


私には前世とその一つ前の前世の二つの記憶がある。

今世の前の人生は、あんな最後を迎えたけれど、その前の人生は平凡な高校生だった。

成績と容姿はそこそこ、人よりちょっとだけ良い運動神経を持った、本とゲームを愛する普通の女子高生。

どうして死んだのかは憶えていないけど気がついたら幼女になっていた。


幸い本とゲームを嗜んでいたお陰でさしたる問題も無く新しい生を受け入れる事が出来た。

環境を見てみると、どうやら私は侯爵令嬢。

容姿端麗な父母と二歳年上の兄、それから私の乳兄弟の男の子。

レザルド侯爵家長女アディリナ。それが私だった。

なんとなく違和感のようなものを感じていたけど、ここは中世西洋風な世界だから前世生粋の日本人であったがゆえの事だろうと思っていた。


「アデリィナ、来週王妃様のお茶会に出席するわよ」


と母から告げられ初めての王宮訪問にワクワクしたのは今でも憶えている。

その茶会で王子セドリック様とその友人のディーン様とアレックス様にお会いした時の衝撃と共に。


セドリック、ディーン、アレックス、そして兄のリカルド、乳兄弟のカイルを加えるとあのゲーム、題名は忘れてしまったけど確か乙女ゲームだったはず。

そして私の役割といえば王子ルート、兄リカルドそしてカイルのルートで邪魔をする悪役令嬢にして王子の婚約者だった。

ディーンとアレックスにはそれぞれ婚約者がいて、その二人のルートでは彼女らが悪役令嬢となってたはず。

断罪も過激なものではなく、せいぜいが婚約破棄と田舎で謹慎程度だった。

とはいえ身内?の三人が攻略対象者なのだから、私のヒロインとの接近率が高いのは間違いない。

けれど今からアレコレ考えていてもどうにもならない。ゲーム通りの展開をするのか、ヒロインが誰を選ぶのかも、そもそもヒロインが存在するのかも不明なのだから。



私が九歳セドリック王子が十歳の時ゲームと同じく婚約した。


「お嬢のようなお転婆が、王妃様になんかなれるのか?」

遠慮のない乳兄弟(この頃従者兼護衛になっていた)カイルが心配するが私もまったく同意見。

これまでの私といえば、庭を駆け回り、池で水遊びをしたり、木登りしたり、(さすがにカイルに怒られた)とおよそ令嬢らしくない行動をしていた。

テレビもない娯楽らしいものも無いこの世界で他に何の楽しみがあると?

それに子供は身体全体で遊んだ方が成長にも良いと思う。ダンスの練習だけでは物足りない。前世では剣道部(弱小だけど)に所属していたことでもあるし、いっそ剣術を学んでみたいのだけど それは家族全員に反対された。

いざという時の護身術として身につけていた方が良いように思うので納得できない。


まあ、そんな私であるからセドリック様の婚約者としての立場に本人含め家族が不安に思ったのも無理ないことだった。

が、予想に反して王妃教育は順調だった。

前世知識と柔軟な脳で難なく会得でき、十二歳からはセドリック様と共に陛下の執務のお手伝いをさせて貰えるようになった。


この頃セドリック様との関係が微妙になり、なぜかわけのわからない暴言を吐かれることもあった。

思春期の反抗期かな?と思い、何とか怒りを誤魔化して曖昧に微笑んでみせるとさらに激昂して走り去る。

背後から

「アイツ、こっそりシメとくか、お嬢?」

と物騒なことをいうカイル。


その後セドリック様の母である王妃様が病で亡くなられたこともあってか、セドリック様も徐々に落ち着かれ、私達の関係も穏やかなものになった。

恋情と言うより、親愛の情で結ばれた関係でこのまま婚姻に至るのだろうと思っていた。

彼女ユリアーナが現れるまでは。


「あの女、坊ちゃん三人組みをせっせと誑かしてるな。その上リカルド様と俺にまでコナかけてきやがる」

カイルが嫌そうに言う。


「いったい彼女は誰のルートにしようと思ってるのかしら?このゲームには逆ハールートは無かったはずだけど」


「何にせよ、チョロい坊ちゃん達だぜ。あんな見え見えの手管で簡単に落ちるとはな」


この頃になるとユリアーナは転生者であると確信していたが、迂闊な接触は避けていた。

シナリオどおりヒロインを苛める悪役令嬢を演じるつもりは無かったから。


なのに、私がユリアーナを害していると噂が流れ始めていた。


「お嬢、この胸糞悪い噂をどうにかしなくていいのか?」

「いいわ、ほっといて」

「婚約者を奪われそうになって嫉妬に狂った令嬢なんて言われるぞ」

「嫉妬は全然無いんだけど。婚約が解消されるなら、それでもいいわ」

「何言って…何年も王妃になるための教育を受けてきたのを無駄にするのか?」

「無駄にはならないわ。王妃でなくても役に立てる事はできるし。もしセドリック様が彼女を傍に置きたいと言うなら、私は身を引くわ」

「お嬢…人が良すぎるにも程があるぜ。そんな事になったら噂のネタにされて、お嬢の評判に傷がつく」


カイルの心配をよそに、私はむしろそれを願っていた。

ユリアーナを害したとして(何もしていないけど)婚約破棄されて田舎で謹慎。

そして私の評価が落ちたなら、その後結婚相手を探すのが難しくなるのでは無いだろうか?

そうしたら もしかして何処にも行き場のなくなった私はずっとカイルと一緒にいられるのでは無いだろうか?


そんな甘い夢を見ていた、愚かな私。




こんな展開は知らない。


私だけが追放されていたはずだった。

なぜ、家族まで処刑されるのか?しかも明らかな濡れ衣で。


私は、ゲームを信じすぎていた。

攻略対象者がいてヒロインがいて悪役令嬢わたしいる。

だからきっと私のラストは追放だと思い込んでいた。

ここは現実なのに。


そして転生ヒロインのユリアーナ。

彼女の自分に都合のいいゲーム脳と残虐性を見誤っていた。

それから彼女の周りに溢れていた悪意と野望にも。


その結果が一族とカイルの死。


私の濡れ衣が冤罪を我家にもたらすきっかけを作ってしまった。

何よりセドリック様の心をつなぎとめていられれば、きっと結果は違っていただろう。

その事はとても済まなく思う。

私ができるのは皆んなの来世の平穏な生を願う事だけだ。

きっとみんな生まれ変われると信じている。

だって私という実例があるのだから。

信じたい。


処刑前夜に訪れたユリアーナ。

確かに私は手を打たず、傍観していただけだった。

でも、こんな仕打ちを受ける謂れはない!

だから決して許しはしない!

絶対に祟ってやるから!


そう思っていたのにまた転生。


父母が誰か知って愕然とした。

セドリック様とユリアーナが私の親?悪い冗談としか思えない。


でも、身近にいるなら復讐するチャンスがあるはずだ。

まだ幼すぎる身体では何もできないが、時を待ちながら二人の様子を観察する事にした。


二人の関係は完全に冷え切っていた。

あれ程ユリアーナしか目に入っていなかったセドリック様は、今は本来の冷静さを取り戻したようだ。今更遅いけれども。


そして、ユリアーナといえばお金を湯水の如く使って自身を着飾り、喜々として夜会や茶会に参加していた。

セドリック様は、それを強く諫める事もできず、国政も利権を漁る者達にいいようにされているようだ。


何をしているのよ!

貴方は、王となるための教育を受けたじゃないの!

このままだとますます国が乱れる事になるわ。

いい加減シャッキリして欲しい。


「おとうさま、おうさまってどんな おしごとをしているんですか?」


セドリック様は答える事ができなかった。

それでも、やっと目が覚めたような表情を見せ、執務に戻っていった。

そう、ちゃんと仕事をして下さい。三歳になってない娘に愚痴をこぼしてないで。

セドリック様は私が乳児だった頃からよく私の傍に来ていた。そして何もわからない赤ん坊に懺悔や愚痴をこぼしていたのだ。

何処にもはけ口が無いからって、赤ん坊わたしを告解の僧侶代わりにしないで欲しい。

おかげで寝ながらにして国の情勢を知る事ができたけど、情操教育には全くよろしくなかった。

セドリック様が部屋から出て行った後はため息がでたものだ。赤ん坊のため息、我ながら不気味すぎる。


ともあれ、やっとセドリック様も前向きになってくれた。


一方ユリアーナの方はほとんど私に接触しないので詳しくは分からなかったが、乳母や侍女が時折赤ん坊わたしの前でこぼす愚痴から推察するにかなり好き勝手に振る舞っているようだった。




私が六歳になった春、庭にある枝振りの良い樹の前で侯爵令嬢ぜんせを思い出していた時、背後から躊躇いがちに呼ばれた。


「…お嬢……?」


かつて私をそう呼ぶ人がいた。

振り向くとそこにいたのは私と同い年くらいの黒髪黒い眼の少年だった。

その顔には覚えがなかった。でも、表情が、立ち姿が、あの人を思い起こさせる。

その夜の空の瞳が。


「…!…お嬢…!……お嬢、なんだな?」


少年は震える声で確認するや私をギュッと抱きしめてきた。

え?まさか…!


「カ、イル…?」


どうしてここに居るの?

カイルも生まれ変わったっていうこと?

「生まれ変わりのことは前にお嬢から聞かされてたからな。だから、俺は死ぬ時にお嬢の傍に生まれ変わりたいと願った」


気付いたら、ディーン様の子供として生まれていたと。


「でも、ディーン様にはあんまり似てないようね」

「幸いにもお袋に似たようだ。あの男に似ていたら俺は、国中の鏡を叩き割ってたところだった」

ディーン様の子供として生まれたカイルは何度も殺意を抱いたけど、成長して王宮に出入りできるようになったら、セドリック様やユリアーナに接近できる。

「それ迄の我慢だ、てな」

そして今日、初めて王宮に訪れたのだとか。


あの阿呆ディーンに庭で待ってろと言われてここに来たんだが、ここでお嬢に会えるとは思わなかった」

私の容姿は前世アディリナとそっくりだからすぐにわかったのだろう。


「いや。俺がお嬢に気がついたのは、この樹を見上げる顔を見たからだな。お嬢、この樹を登ってあそこの枝の上に座りたいと思ってたろ?」

ニヤリと笑ってカイルリオンが言う。

さすが乳兄妹、バレていた。


その後、ディーン様に正式にリオンを紹介され、私はリオンを私の従者にして欲しいとお願いした。

それから以前のように私の背後にリオンカイルが控えることになった。


リオンが来てからユリアーナの現状がよく分かるようになった。


あの女ユリアーナの侍女をしている中に訳ありの女がいるんだよ。王妃の侍女として王宮に上がったはずの妹がいつの間にかケネリス侯爵家の使用人になってた。で、家に帰されたときには壊れてたそうだ。…あの変態のロリコン野郎が!」


その侍女を通して様々なことがわかった。

ユリアーナの周囲は私欲と野望を持った輩が賄賂を携えて群がっていること。

王妃の特権を与えられた者達はあちこちで横暴な振る舞いをしているらしい。

夜会でのユリアーナの奔放な振る舞いが良識のある貴族の眉を顰めさせていること。



王妃ユリアーナが、妊娠した。


そんな知らせを受けてさすがに驚愕した。

仮にも王妃が不義の子を宿すとは。

「それだけじゃない。お嬢をケネリス侯爵へんたいやろうに嫁にやる話をしてたんだと」

ユリアーナは、産む気なんだわ。だとするとお父様セドリックが危ない。

すぐに知らせなくては。



「お父様、私はケネリス侯爵様の処にお嫁入りするのですか?」

「そんな事は絶対にないよ。アデラは、他家にお嫁に行く事は無いんだ、この国の女王様になるんだからね」

「でも、お母様が…お腹に赤ちゃんができたから私はもう要らないと……だからケネリス侯爵様と結婚しろと仰ったの」


驚愕の表情を隠せなかったセドリック様だが私を部屋まで送っているうちに決意を固めたらしい。反撃のための。


「お嬢は相変わらずお人好しだなぁ。俺にはあいつが暗殺されようがどうでもいいんだがな。いや、むしろ自分の手で始末したい」

「そういう訳にはいかないわ。今、王に何かあったらますます国が混乱してしまうもの。

だから、ディーン様にもアレックス様にも手を出してはダメよ」

少々不満げなリオンに念のため釘を刺しておく。




「お嬢、俺の肩の上に乗れ。立ってな」

唐突にリオンに言われて首を傾げるが、

「いいから、昔よくやってたろ。俺の肩を足台にして庭の木の実を採ったり、枝によじ登ったり」

ワケが分からないままにリオンの肩に乗り、暫く物陰に隠れているとユリアーナが現れた。

夜会用の派手なドレスを身に纏い歩く姿は得意げだ。


「お嬢、奴の名をよべ」

リオンが小声で話しかけてきた。


私はリオンの肩の上からユリアーナを見下ろして声をかけた

「…ユリアーナ様……」


私の顔を凝視したユリアーナは声もなく驚愕していた。

「……!!…」


その瞬間リオンがユリアーナの腰を強く押した。


階段を転げ落ちていくユリアーナを見下ろしながら、リオンが呟いた。

「このまま死んじまえばいいのに」


ユリアーナは死ななかった。赤ん坊は流れたけれど。

私の幽霊に突き落とされたと訴えたけど、セドリック様には冷たくあしらわれたそうだ。


その後は例の侍女の協力を得て怪奇現象を演出してユリアーナにささやかな意趣返しを繰り返した。


日々憔悴していくユリアーナにさらなる追い討ちとなった、父親のセントレア侯爵の捕縛。

国王の暗殺の企ても証拠が見つかった。

これによりケネリス侯爵を主犯として、何人かの貴族が処刑された。

ケネリス侯爵は、十一年前のレザルド侯爵家の国家反逆罪を捏造した事も新たに判明した。

この事は公表されレザルド家の名誉は回復された。


「はっ、皆んな処刑しておいて。…今更」

リオンが吐き捨てるように言うが、それでもお父様お母様お兄様の名誉が取り戻せたのは良かった。


多数の貴族の捕縛と断罪、綱紀粛正がひと段落したある日、セントレア侯爵家が、火災により焼失。

侯爵夫妻は逃げ遅れて、焼死。折悪しく、その日は一族の集まりがあったとかで一族のほとんどが死亡したと報告があった。


「王妃の実家を処刑できないから火災による死亡として、刑を執行したんだろうな」


「そうね。悪戯に民衆を混乱させたくはないもの。国力が弱まっている今 他国に付け入る隙も作りたくないし。こうするしかなかったんでしょうね」



ユリアーナが終の住処となる北の塔に出発する前日、私は 彼女に会いに行った。

ユリアーナとアデラィードとして会うのはいつ以来だろう?

顔を合わせた事があっただろうか?


「お母様、お久しぶりでございます」

優雅に淑女の礼をしてゆっくり顔を上げる。


「……お、お前は!」


「アデラィードです。お母様」

私は、ほんの少しだけ微笑んでみせた。


「……うあぁぁ…!アデリィナァァ!!」

ユリアーナが奇声を発しながら、突進してきて私の首を絞めた。

とっさにリオンがユリアーナの身体に体当たりをして私を救ってくれたが、咳き込みが止まらない。


「ひどいですわ、お母様。また・・私を殺すのですか?」

そう言ってやれば、ユリアーナは呆けた顔で私を見る。


「…えっ……何を言って…?」


「ユリアーナ様、私が最後に見たのは青い空と落ちてくる断頭台の刃でしたわ」

そしてにっこり笑って言う。


「ユリアーナ様、私を産んで下さってありがとうございます」

これは本心。私や家族を処刑した事は決して許せないけれど、此の世に生み出してくれたおかげでリオンカイルに再会できた。


「……ひぃ!い、いや!来ないで!来ないでよ!!……あああああぁぁぁ!!!!」


大きな悲鳴を上げたユリアーナは、焦点の合っていない目で私の方を見て、何かブツブツと呟き出した。

ここ、暫くの精神的負荷が一気に崩壊へ傾いたようだ。


「ユリアーナ様、ここにはリセットもセーブも無いのですよ。ここはゲームではない現実なのです」

最後にユリアーナに話してみたが聞こえていないようだった。


錯乱したユリアーナの部屋を出ると、協力者の侍女が静かに佇んでいた。

彼女は北の塔にもついていくという。




それから二ヶ月後ユリアーナの死をセドリック様から知らされた。

病死だったと言うが何か隠しているのは明白だった。


セドリック様が去った後 背後のリオンに尋ねると予想どおりの答えが返ってきた。

「あの女だけはこの手で留めを刺したかったんだ」

もう済んでしまったことだ。これ以上ユリアーナのことは考えたくない。



十二歳なった時 前世と同じように政務の仕事を手伝わせてもらえることになった。

いずれ私は、将来この国の女王になるのだろう。

前々世の平凡な境遇とは真逆な人生になりそうだが、前世と今世の教育の賜物で何とか務められそうだ。リオンもいるし。


心配なのはセドリック様だ。

ほとんど休む事なく政務をこなしているが、ここ数日顔色が一段と悪い。

そろそろ休ませないと過労死してしまう。


「お父様、お顔色がすぐれませんわ。ずっとお休みを取られていらっしゃらないではないですか。今ある案件は明日以降でも充分なものばかりです。どうか今日はもうお休みください」


「む、そう、だな。実は昨日から少々頭が重くてね。では、今日はこれで休む事にするよ」


そう答え、椅子から立ち上がって背伸びをした瞬間、セドリック様は崩れるように倒れてしまった。

「お父様!どうなさったの?お父様!」


そのまま意識を失ったセドリック様が目を覚ましたのは五日後の事だった。

意識を取り戻すのも難しいとの侍医の診断だったので、それは奇蹟のようなものだった。

動く事も話す事もできない様子ながら目だけははっきりしているように思ったので話しかけてみた。


「お父様?お分かりになりますか?」


私を見ようと必死に目を動かすセドリック様。


「……」

セドリック様の頭に触れ、少し横に向けた。


「お父様。もし私の言うことがお分かりでしたら目を閉じていただけませんか?」


セドリック様の瞼が閉じられた。


「では、侍医の説明もおわかりですね?」


セドリック様は、もう一度目を瞑る。


「残念ですが、回復の見込みはありません」


わかっている、というように目を閉じる。


「セドリック様」

私はお父様ではなく名を呼んだ。


名を呼ばれ、はっと目を開ける。


「セドリック様。女性としては、愛していただけませんでしたが、娘として愛しんでくださりありがとうございました。……お父様」


セドリック様は目を見開き私を見ると涙を溢れさせた。

私は、セドリック様の動かない右手を握り微笑んだ。


貴方にされた仕打ちは簡単に許せる事ではない。

でも、貴方がどれほど後悔していたか知っている。

荒れた国を戻そうと寝る間も惜しんで働いていたのも知っている。

だから、もういい。

私は貴方に殺されたけど新たな生を得てここにいる。

だからもうその罪の意識から解放されてもいいと思う。


ふいに背後にいたリオンが、私を抱きしめた。


「お嬢。もういいだろ?別れの挨拶は」


「…そうね……セドリック様。御前失礼致しますわ」

礼をし部屋から出ようとすると 私の腰に手を添えたリオンが振り向いて、セドリック様に告げた。


「今度はお嬢から離れない。ずっと俺が守るからアンタは安心して逝ってくれ」


きっとこの言葉でリオンが誰なのかセドリック様は理解したのだろう。



二日後にお父様は逝去された。



国葬が執り行われた日は青空がとても美しかった。



読んでいただきありがとうございます。

あと一話で完結です。

最後はカイル\リオンです。

なぜ’お嬢’呼びなのかも書くつもりです。

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