ユリアーナ 2
ブクマの数に慄いています。
読んでいただきましてありがとうございます。
今回はぬるくないざまぁになりました。
*ちょっとだけ残酷な部分がございます。
アデリィナが、死んでから一年も経ってからやっと王妃になった。
前の王様が死んで、セドリックが王位に就くのと同時に結婚式を挙げたけど、思ってたより地味な結婚式だったので 不満。
馬車に乗って王都のパレードとか無いの?
セドリックに聞いてみたら、警備の問題やあんまり派手になると民がよく思わないとか。
警備の事はわかるけど、民の感情とかは納得できない。
だって、前の世界では民衆に手を振りながら馬車に乗ってたわよ。
滅多に見られない王族なんだから、皆んな感激するんじゃない?
「国民の税を無駄に使っていると思われると、余計な火種を蒔くことにもなりかねない。だから、こういった国の式典では華美な事は避けるんだ。あとは国の主催であちこちで軽い飲食を振る舞うんだ」
ふーん、つまんないの。
豪華なドレスの私をお披露目できないなんて。
「王宮に着いたらバルコニーから民衆に姿を見せる事になるから、皆んなユリアーナの美しさに感動するよ」
そう、セドリックが言ってくれたので気分は急上昇。
お城のバルコニーから手を振ったら大歓声を浴びて超気持ち良かった。
この夜に開かれた、パーティーも最高だった。
やった!王道の王太子妃エンドよ。と言ってももう王妃になってるけど。
あのゲームでは、まだ王太子妃のはずだけど…?まぁ、いずれは王妃になるんだし、ちょっと早まっただけよね。
王妃ってつまんない。
まず自由が無い。
いつも誰かが側に居て鬱陶しいし、外出もできないなんて。
テレビもスマホも無いから、街でやってるイベントや劇とかのショーを観るくらいしか楽しみが無かったのに、それすら満足に行けない。
それから公務が面倒くさい。
特にどっかの視察とか慰問は嫌。
孤児院の慰問に着てこうと思ってたドレスは派手すぎるって、侍女にとめられた。
好きな服も着られないなんて不自由。
でも、夜会やお茶会は好き。
綺麗なドレスに豪華なアクセサリーを付けてニッコリ微笑むと皆んなため息をつくのよ。
そして皆んながあたしに声をかけて欲しそうにしてるのも快感。
なのにセドリックが、
「パーティーの度にドレスやアクセサリーを新調するのは控えてくれないか?」
なんて言う。
「どうして?一度身に付けた物は二度と使うなんて、王妃なのにそんなみっともない事出来ないわ」
「もう、私の資産は残り少ないんだ」
「?お金なら国庫にあるんじゃ無い?国庫から出せばいいじゃない。ねぇ セドリック様、この頃一緒に夜会にも出て下さらないし、私つまらないわ」
そう言えば、セドリックは溜め息を吐いて、部屋を出て行った。
何なのよ。
結婚してからセドリックは、全然あたしを褒めてくれなくなった。
もしかしてアレ?
釣った魚に餌はやらない、とかそういう男だったの?
あーあ、失敗した。別のルートにすれば良かったかも。でも、ディーンもアレクも最近見ないのよね。
そう言えばディーンは、あたし達より先に結婚したんだっけ、確か元々の婚約者と。
アレクは婚約破棄したって聞いたけど。
リカルドとカイルは死んじゃったし。
不満はいっぱいあるけど、しょうがないから我慢するか。
妊娠した。
これからしばらくはパーティーに出られない。
またあたしの楽しみが一つ減った。
「陛下と王妃様のお子様なら、きっととてもお可愛らしい事でしょうね」
そうね。
女の子だといいわね、あたしに似た。
そしたらお揃いのドレスを着てパーティーに行くの。ああ、それもいいかも。
なのに産まれた赤ん坊は
「やだ、この子アデリィナと同じ眼と髪の色だわ。顔も似てる気がする。気持ち悪い」
「アデリィナの祖母と私の祖母は双子の姉妹だったから、この子は祖母に似たのだろう」
「あーあ、初めての子だったのにこんな可愛く無い赤ちゃんでがっかり」
ホントがっかり。
でも、やっと身軽になって久しぶりにパーティーに行けるわ。
パーティーは、やっぱり楽しい。皆んながあたしと話したがっている。
「王妃様、先日南方の国で素晴らしい宝石を見つけたのですが、あまりに美しすぎて身に付ける者を選んでしまうのですよ。ですが王妃様ならお似合いになること間違いございません」
「そんなに見事な物なら一度見てみたいですわね」
「私からぜひ王妃様に献上させて戴きたく存じます」
翌日宝石を持って王宮のあたしのサロンにケネリス侯爵がやって来た。
凄く綺麗なブラックオパールをあたしにくれる代わりに侯爵は、お父様との橋渡しを頼んできた。
「そんな事で良いのかしら?私で出来る事は致しますわよ?」
「勿体無いお心遣いです。そう、ですね。先日我家のメイドが急に辞めてしまいましてね。
そこの侍女を当家で雇いたいと思うのですが?」
雇って間も無い十三、十四歳の見習いの様な侍女を見て侯爵は言った。
「あの者はまだ雇って日も浅く充分に躾が行き届いておりませんけどよろしいのですか?」
「ええ、当家のしきたりなどを覚えて貰うにはちょうど良い年頃ですので」
それからはケネリス侯爵を筆頭に色んな貴族があたしのサロンを訪れてお土産とちょっとしたお願いをしてくる様になった。
お父様や他の貴族との橋渡しや、王妃の推薦状とか、よくわからないけど署名をいっぱいしたわ。
貰ったプレゼントを身に付けてパーティーに出るとたくさんの取り巻きが口々に褒め称える。ああ、良い気分。そしてまた誰かがプレゼントを持ってサロンにやって来る。
せっかく良い気分だったのにセドリックが、水を差す。
「ユリアーナ、少しは自重してくれ。一部の貴族が君からの添状を理由にあちこちで理不尽な行いをしているんだ」
そんなの知らない。
書いた書状をどう使うかは、その人の勝手でしょ?あたしは関係無いわ。
「アデラィードにも、母親として接してほしい。乳母に預けっぱなしではないか」
アデラィード?ああ、あの女と同じプラチナブロンドに紫の目をしたあたしが産んだ赤ん坊。
「もうすぐ四歳になるのも忘れていたのだろう?君は一度もアデラにプレゼントを渡したことが無いようだな」
もう四歳になるのね。月日の経つのってあっという間だわ。
イヤだ、ぐずぐずしてたらオバさんになっちゃうわ。さっさとパーティーに行こうっと。
アデラィードを産んでからセドリックは冷たいけど、ちゃんとあたしを見てくれる人だっているんだから。
…妊娠した。
まずい、ヤバい。どうしよう。
お父様に泣きついたら流石に渋い顔をされたけど、
「いい機会かもしれないな…。お前は心配しなくてもいい。私に任せなさい」
って言ってくれたので、ひと安心。
後は、お父様にお任せしよう。
今日もサロンにケネリス侯爵が来た。
「この前譲っていただいた侍女ですがね、神経の細い娘だったのか使えなくなったのですよ」
「まぁ、今時の子はがまんが効かないのかしらね。それでは次はもう少し気の利く子を紹介するわね」
「ありがとうございます。ところで先程アデラィード王女様をお見かけしましたが、お美しくおなりになりましたね。もう、婚約者とかは決まってらっしゃるのでしょうか?」
アデラィード?今九歳?十歳だったかしら?
「いいえ、まだ婚約者はいませんわ。侯爵、アデラィードが、欲しいのですか?確か御子息が十八歳とか」
「ああ、いえ。息子ではなくて私の妻にいただきたいと思いまして。私の妻は既に他界しておりますし、何より王妃様のお子様ですから、大事に致しますよ」
ふぅん。
あたしだってもうわかってる。この男がロリコンだってことは。
そうか、アデラィードが欲しいのか。
「侯爵に望まれるなんてアデラィードは、幸せ者ですわ」
お腹の子が産まれればアデラィードは、じゃま者だし 良いかもね。
今夜の舞踏会は、ケネリス侯爵家。
これからしばらくは、パーティーに参加出来なくなるから、思いっきり着飾って楽しんでこよう!
「……ユリアーナ様……」
階段を下りようとしたあたしを誰かが呼んだ。
「……!!…」
振りむいたあたしが見たのはあの女。
あの悪役令嬢があたしを見降ろしていた。
息を飲んだ瞬間、腰の辺りをドンと押された。
目の前がグルンと回って後はもう分からなくなった。
…痛い……痛い。
眼が覚めたら身体のあちこちが痛い。
どうしたの?あたし。
「王妃様お気がつかれましたか?階段で足を滑らせて落ちてしまわれたのですよ。打撲だけで骨折は無かったのは不幸中の幸いでした。ですが…お子様は残念でございました」
あの時確かにアデリィナを見たわ。
アデリィナが、あたしを階段から突き落としたのよ。
だから、そうセドリックに言った。
「あ、あの女が、私を階段から突き落としたのです」
「あの女?」
「アデリィナよ。夜会に行こうと階段の上を通りかかった時、名を呼ばれて振り返ったら、あの女が、私を見降ろしていたのよ」
「アデリィナは、もう十一年前に死んだ。我々が処刑を見届けたではないか」
「確かにあの女だったわ。執念深くまだ、恨んでいるんだわ。忌々しい」
「怨まれても当然の事をしたと思うが?」
「…なっ…!私だけの責任じゃないわ!セドリック様も同意したじゃないのよ!」
「…そうだな。今はとても後悔しているよ。もし、私の所へアデリィナが来てくれるなら、精一杯謝罪をしたいと思うよ。
君も、少しは自分の行いを見直しては如何かな?」
「何よ!今更 自分だけ善人になろうっていうの?アンタも、アンタ達皆一緒じゃない!!」
そうよ!あたしだけ恨まれる筋合いはないわ。
処刑を決めたのも命令をしたのもセドリックなんだから、化けて出るならそっちにしてよ!
そんなあたしの願いは叶わない。
あれ以来 背後に人の気配がしたり、誰かに見られてるような気がする。
気のせいじゃないわ。
突然大きな物音がしたり、置いてた物の場所が変わっていたりもする。
ある時は実家から持ってきた宝石箱に血に染まったハンカチが入ってた。
思わず悲鳴をあげて放り投げた。
でも、片付けた侍女は、そんな物は無かったと言う。
ホントにあったのよ!
そんな事が何度かあって、王宮からしばらく離れたいってセドリックに里帰りを頼んだら、数日待つように言われた。
待ってる間にこんな事になるなんて!
「セドリック様!どういう事なのですか?父が捕縛されたなんて、何かの間違いですわよね?」
「ユリアーナ、一昨日に人身売買と盗品の売買の取り締まりをしたのだが、その場に君の父上が居たんだよ」
「な…きっと何かの間違いよ。偶々そこに居合わせただけのことでしょう?」
「いいや。犯罪の取引が行われるのが内偵されていたから、予め数人の騎士を紛れ込ませていたんだが…。彼らははっきり証言したよ。商品の、商品は人間だったのだが、オークションに積極的に加わっていたと」
「…そんな……」
「それから、ケネリス侯爵や、君のサロンによく訪れている貴族達も捕らえた。彼らは今回の件以外にも余罪があるからしっかり調べなくてはならない。ああ、それから 君が彼らから贈られた物も全て確認が必要だから、提出してくれ」
「…なんでよ?」
「盗品の、もしくは不当な手段で手に入れた物の疑いがあるからだ」
「………」
「君もしばらくは、自室で謹慎していなさい」
反論できなくて部屋に戻ったけど、どうしてこんな事になってるのよ。
あの日、アデリィナに階段から突き落とされたときからだわ。何もかもうまくいかなくなったのは。
あの女の祟りなの?
だけどこれで終わりじゃなかった。
「何ですって謀反人?どういう事?」
セドリックの言ったことに驚いて聞き返した。
「セントレア侯爵は私の暗殺を企てていた。君も知っていたんだろう?」
「知…知らないわ。あたしはそんなの聞いてない!」
「そう?なら、子供が産まれてたら、どうするつもりだったの?」
「…!」
バレていた。先日の妊娠と流産が。
「私にはまったく心当たりのない妊娠だ。当然認める筈のないその子を王の子とするためには、私の口を塞ぐしかないと、君の父上は考えた」
お父様が後は任せなさいって、こういう事だったの?
知らない。あたしはそんなつもりじゃなかったの。
「じゃあ、どういうつもりだったの?
本当なら謀反人の一族は連座で死刑だが、王妃とその実家が謀叛を企てていたなんて知られたら、国が混乱する。腹立たしいが、セントレア侯爵家の処刑はできない。主犯はケネリス侯爵という事で後日処刑を執行する事になった。
ああ、不義の子を妊娠するような王妃に居てもらっては困るんだ。君も近いうちに王宮から出て然るべき場所に移ってもらう事になっている」
そして、部屋を出て行こうとしてたセドリックが、振り返って言う。
「君の王妃という称号は取り上げないから、安心してくれ。私という愚かな王に相応しい最低な王妃だよ、君は」
それから数日後、王都のセントレア家の屋敷が火事で焼け落ちたと知らせがあった。
家族は全員焼死したと聞いた。
あたしにだってさすがに分かる。表立っての処刑が出来ないから、そういう事にしたんだって。
なら、あたしは?
あたしも殺されるの?
カタン…
『ひっ!」
小さな物音にもびくりとしてしまう。
もしかしたら、私を殺しに来たのかもしれないと思うと気が休まらない。
それに、気味の悪い怪奇現象もまだ続いていた。
「アデリィナ、満足?あたしが落ちぶれて?…何よ!文句があるなら言いなさいよ!こそこそ人を脅してないで出てきてハッキリ言え!」
明日はここを出て、幽閉される事になる場所へと向かう事を宰相になったディーンに告げられたあたしは、誰も居ない部屋の中で怒鳴った。
その時、コンコンとドアが叩かれて飛び上がるほど驚いた。
「あの…王妃様、アデラィード王女様がいらしています。一目お会い出来ないかと申されていらっしゃいます」
ああ、びっくりした。
ノックは一人だけ残ったあたしの侍女だった。
アデラィード?ほとんど会う事がなかったあたしの娘。
最後に会ったのはいつだったっけ。
「いいわ、会うわ。部屋に入れてちょうだい」
アデラィードと従者だという少年が部屋に入ってきた。
従者は黒髪黒い眼の整った顔立ちの少年だった。
「……?」
どこかで見た事があるような…ううん、気の所為ね。
「お母様、お久しぶりでございます」
俯いて淑女の礼をしたアデラィードが顔を上げた。
「……お、お前は!」
その顔は…その顔はアデリィナ!!
「アデラィードです。お母様」
アデラィードが、困った様な表情で微笑んだ。
気付いたら、あたしは娘だという少女に飛びかかって、首を絞めていたらしい。
黒髪の少年に体当たりされてアデラィードから手をはなした。
少年に支えられたアデラィードは、咳き込みながらあたしを見て言った。
「ひどいですわ、お母様。また私を殺すのですか?」
「…えっ……何を言って…?」
「ユリアーナ様、私が最後に見たのは青い空と落ちてくる断頭台の刃でしたわ」
にっこり笑ってアデラィードが言う。
「ユリアーナ様、私を産んで下さってありがとうございます」
えっ?あたしが産んだの?アデリィナを?
目障りだからセドリックに処刑させたアデリィナ……。アレをあたしが産んだ?
ヤダ、ヤダ…気持ち悪い…!アレをあたしが!?
「……ひぃ!い、いや!来ないで!来ないでよ!!……あああああぁぁぁ!!!!」
うそ、こんなのはうそ。
リセットしなきゃ、どこで間違えたんだろう?
こんなエンドは知らない。
もう一度やり直そう。
今度こそ完璧な逆ハーをするの。
「ユリアーナ様、ここにはリセットもセーブも無いのですよ。ここはゲームではない現実なのです」
アデラィード?アデリィナ?が何か喋ったけど、よく分からなかった。
「リセットしなきゃ、最初からやり直しするの」
あたしは毎日ゲームのコントローラーを捜すんだけど見つからない。
「俺が見つけてやるよ」
誰かがそう言ってくれた。
「そこの寝台の下に落ちてるようだな」
あたしは、這いつくばってベッドの下に手を伸ばした。
その途端、背中に重みを感じて首に紐が巻き付いた。
「お嬢は、もういいって言うんだけどな。俺が許せないんだよ。お前だけは俺がとどめを刺さないと気が済まないんだ」
僅かに首を動かしてその人を見る。
黒髪で黒い眼の少年を。
それがあたしが最後に見たもの。
次はセドリックにぬる目?のざまぁの予定です。