ユリアーナ
これはあたしのための世界。
だってあたしはヒロインなんだもの。
小さい時から なぁんか違和感?があったのよね。
自分の名前、顔、父と母の顔。それから子爵である父の愛人の母と婚外子のあたしの立場。
あたし達母子の事を近所の人達は、結構あからさまに虐めてくれた。
「ふしだらな女」とか「相手が貴族だからってお高くとまりやがって」とかの陰口は序の口。家の前を汚物で汚すのはホント止めてよね。掃除はあたしがするハメになるんだから。
あれ?これ あの乙女ゲームの世界じゃない?
お父様の正妻が急死して、その後妻として母と婚外子のあたしが、子爵家に入って気がついた。
まず、あたしの名前、ユリアーナ・セントレア。(今迄は、母の姓を名乗ってた)
次に容姿。ふわふわのハニーブロンドに澄んだ青い空のような瞳。綺麗と言うより可愛いって感じかな。スタイルは悪くないけどモデル型と言うよりアイドル系?
うん、間違いない。あの乙女ゲームだ。スチルのイラストそっくりだもの。
題名は忘れた。あんまり思い入れが無かったのよ このゲーム。
だってヌルい設定だったんだもの。
断罪はヌルいし、逆ハーも無いなんて今どき考えられない。
唯一の救いは、グラフィックが良かったことかな。キャラクターのイラストはかなり好みだった。あ、モチロン、声もね。
どうせならあたしのお気に入りのあの乙女ゲームの方が良かったんだけど。
まあいいわ。
あたしがヒロインなのは間違いないんだから。
さぁて、誰のルートに行こうかな?
王道の王太子ルートは外せないわね。
一ヶ月後にゲームの舞台になる学園に転入するまでしっかり磨いておかなくちゃ!
ああ、楽しみ!
やった!セドリック様を攻略したわ。
ディーンもアレクも攻略済みだし、逆ハーもいけるんじゃ無い?
それにしてもゲームではなかなか落ちてくれなかったセドリック様だけどこの世界では以外とチョロかった。
それと反対にゲームでは簡単に落とせてたリカルドとカイルが全然攻略出来ない。
それとい言うのもあの、悪役令嬢が全然仕事しないからだわ、まったく。
このままじゃクライマックスの断罪の場面が無くなるじゃないの。
しょうがないわね、自分でやるしかないか。ちょっと面倒くさいけど、ちゃんと断罪の場を作らなきゃね。
あたしがセッセと自作自演の被害者を演じてる間に、お父様も何やら暗躍してたみたい。
アデリィナの断罪と一緒にアデリィナの実家のレザルド侯爵家が国家反逆罪で断絶、なんて事になってた。
ゲームでは、お父様、全然出てこなかったけど、結構野望の人だったのね。
レザルド侯爵家の領地をもらって我セントレア家は子爵から一気に侯爵家になるらしい。
レザルド家は、全員処刑になるんだって。
アデリィナは、いいけどリカルドの処刑はもったいないなぁ。結構好きなキャラだったのに。
処刑の前日、牢の中のアデリィナを見に行った。
窶れてはいたけど 取り乱した様子もなくて、やっぱり気にくわない女。
そんなすました顔もセドリックに家族の処刑を知らされたら、かなりびっくりした顔してちょっとは面白かったけど、思ってたほど反応が少ないのが不満。
だから あたしはとっておきの情報を教えてあげた。
「カイルは昨日死んだわ」
「…!!なぜ!なぜです?カイルは我一族の者ではありません!この度の罪には関係無いではないですか?!」
「だってぇ 貴女を牢から連れ出そうとしたんだもの。だから衛兵にね斬られちゃったの。あーあ、残念。好きなキャラクターだったのに。でも流石の強さだったわ。数十人を相手取っての大立ち回り、最後に良いもの見せてくれてありがとうって感じ」
そうそう。その顔が見たかったのよね。
憎しみに歪んだ顔、悔しそうなその顔が。
後は恐怖に泣き喚く顔を見せてちょうだい。
翌日の処刑当日。
つまんないの、泣き喚くアデリィナは見られなかった。
それならこれはどうかしら?
「ねえ、アデリィナ様が最後に見るのが地面なんて可哀想だわ。今日はこんなに良いお天気なんだもの。お空を見る方がいいと思うの」
そんなに強気なら自分の首が切り落とされる処を見ながら死ねば?
「最後まで私へのお心配り、ありがとうございます」
気取った挨拶をして断頭台に上がって、あっさり首を斬られた。
ホントあっけない最後で物足りなかったけど、まあいいわ。
もともと ぬる目の乙女ゲームが、こんなに面白い展開になったんだから。
ちょっとやり過ぎの感もあるけど、ヒロインだから良いわよね。
さ、後はセドリック様と結婚してこの国の王妃になるだけだわ。