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アデリィナ

コメディっぽいのを書いていたら唐突にシリアスっぽいものが書きたくなってしまいました。

多分オチは予想どおりのものです。

…悔しい…!許さない…!!


それが私の彼らに向けた最後の思考だった。


私はレザルド侯爵家の長女であり、王太子の婚約者でもあった。

王太子が十歳、私が九歳の歳に婚約が成立し以来 八年間将来の王妃として必要な知識や作法を学び努力してきた。

広い視野を持ち公正で清廉であれと言われ、私欲に溺れることなく慈悲深く、国のため民の為に生きよと教えられてきた。

王太子セドリック様には、焦がれる様な恋情は抱いてはいなかったが、幼い頃からお側にいた事もあり親しみと情は持っていた。

それはセドリック様も同じ様に感じられていたように思う。

このまま婚姻を結び、王と王妃となって国を支えて行くのだと。

それがいったい何故、このような状況になってしまったのか。




始まりは一年前。

一人の少女が王立学園に編入してきた。

彼女はセントレア子爵家の庶子で市井にて母と共に暮らしていた。

しかし、過日 子爵家の夫人が急逝され正式に新しい子爵家夫人として母子共々迎え入れられたのだった。

セントレア子爵家令嬢ーーユリアーナはハチミツ色のふんわりとした髪と綺麗な空色の瞳の可憐な少女だった。

儚げな容姿に反して、物怖じしない飾らない言葉は、セドリック様やそのご友人達の興味を引き 親しくなるのにそれほど時間はかからなかった。

やがてセドリック様やご友人達のユリアーナに向ける眼差しには間違いようも無く恋情が伺えるようになっていた。

婚約者という立場の私にセドリック様とユリアーナの様子を心配する言葉もあったが、私としてはセドリック様が望むのであれば 婚約解消をしてもいいと思っていた。

王妃になるために努力はしてきたけれど、望んだ地位ではなかったから。

セドリック様の卒業の一年後になる私の学園卒業を待って婚姻を結ぶ予定であったがその前にきっと婚約は破棄されるだろうと予想していた。

けれども 事態は婚約破棄それだけではすまなかった。

何故か私がユリアーナに数々の危害を加えたり 彼女を誹謗する心無い暴言を浴びせていたと断罪されたのだ。

まったく身に覚えのない事だった。

私の弁明は少しも聞きいれてもらえず、只々悪し様に罵られ牢に繋がれた。

私は混乱していたけれど、それでもきっと冤罪は晴れる、家に、家族の元へ帰れると思っていた。

でも その希望は打ち砕かれてしまった。


セドリック様がユリアーナと友人達を伴い牢に居る私へ面会に訪れた。


「アデリィナ、レザルド侯爵家は 隣国と不当な交流を持ち我国に害をなそうとしていた事が発覚した。よって、国家反逆罪として一族の処刑が決定した」


セドリック様に告げられた事はあり得ない話だった。

「そんな馬鹿な…!何かの間違いです!どうぞもう一度お調べ下さい!」


けれど 続けて告げられたのは絶望。

「すでに侯爵…いや元侯爵夫妻と嫡男の処刑は執行された。後はお前だけだ」


「そんな…なぜ?そんなこと…うそ……お父様、お母様…お兄様…」


私は呆然とセドリック様達を見上げる。

その時セドリック様の背後でユリアーナの口角がニンマリと歪むのが見えた。



信じられない報せに茫然自失の私の前に、いつの間にかユリアーナが一人立っていた。

いつもの可憐な庇護欲を誘うような雰囲気は無く、嘲るような目で牢の床に座り込む私を見下ろしていた。


「うふふ、かつて社交界一の美姫と謳われたアデリィナ様が今はすっかり窶れちゃって、お気の毒」

楽しそうに話すユリアーナに視線を向けた。


「レザルド家の所領は我が家が引き継いだわ。王妃の座も頂くわね。私の踏台になってくれてありがとう。貴女のお兄様のリカルド様が私に落ちてくれてたら侯爵家の断絶までさせなかったんだけど イベントこなしても好感度上がらなかったのよねー。それから貴女の従者のカイル。彼も落ちなかったの。なんでかしら?本当ならセドリックや、ディーン、アレックス、リカルドにカイルで逆ハーにしたかったんだけどね」


カイル…私の護衛騎士にして私の乳兄妹。漆黒の髪と黒い瞳の私の……。

思わずユリアーナに尋ねる。


「カイルは、彼はどうしているのですか?」


カイルは我がレザルド侯爵家に仕えてはいても一族では無い。だから連座で捕縛されているはずは無いから、無事だと思うのだけど。

けれどユリアーナから溢れる言葉は、


「カイルは昨日死んだわ」


「…!!なぜ!なぜです?カイルは我一族の者ではありません!この度の罪には関係無いではないですか?!」


「だってぇ 貴女を牢から連れ出そうとしたんだもの。だから衛兵にね斬られちゃったの。あーあ、残念。好きなキャラクターだったのに。でも流石の強さだったわ。数十人を相手取っての大立ち回り、最後に良いもの見せてくれてありがとうって感じ」


ユリアーナがカイルの死を軽い娯楽のように話す。

私は、これ迄言われなき冤罪と我家の悲運にただ諦観していた。

けれども今、私の胸中は、生まれて初めて感じる強い怒りと激しい憎しみにいっぱいになった。


「わぁ、怖い顔。でも今迄の澄ました顔よりよっぽどいいわ。最後まで私を愉しませてちょうだい。貴女の処刑は明日よ。最後の夜を有意義に過ごしてね。おやすみなさい。じゃね〜」


楽しそうに手を振りユリアーナは上階への階段を駆け登って行った。


私は、最後の夜に亡くなった家族と従者へ祈りを捧げる。


「お父様、お母様、お兄様……カイル…どうか安らかに。

私にセドリック様のお心を向かせる事が出来ていたら こんなことにならなかったのでしょうか?不甲斐ない娘で申し訳ありません。

来世では、皆様どうか穏やかな生を歩まれます様に」


民間伝承にある生れ変わりの話。

辛く貧しい生活を余儀なくされた人達が今世の不運を諦め せめてこの辛い生の後には幸せが待っているとかすかな希望を繋ぐ おとぎ話の様な信仰。

私は信じる、そのおとぎ話を。

だから私は切に願う。

理不尽に命を奪われた皆には、来世の幸せを。

でも、私には……それよりも願うものがある。

私は死して魂魄が自由になったなら 必ず彼等のもとへ行くわ。そして……。


明けて翌日。

処刑場へ引き出された私。

私は、私達を陥れた彼等の前を通る。

その時聞こえる無邪気な声。

「ねえ、アデリィナ様が最後に見るのが地面なんて可哀想だわ。今日はこんなに良いお天気なんだもの。お空を見る方がいいと思うの」


その言葉にセドリック様とその側近の友人達の顔色が変わる。

そして何か恐ろしいものを見る眼差しをユリアーナに向けた。

美しい青空を見てという事は断頭台で降りてくる刃を見ながら死ねという事。

今更ユリアーナの無邪気を装った残虐性に気づいても遅い。

貴方方はその女ユリアーナを次代の王妃に選んだのだから。


「最後まで私へのお心配り、ありがとうございます」

私は、優雅に淑女の礼をし、断頭台に登った。

本来、目隠しをしてうつ伏せに首を差し出すのだが、次期王妃ユリアーナの命により

空を仰ぎ見るよう仰向けになる。


青い空。その女ユリアーナの瞳の色。

青い空は嫌い。

私は決して忘れない。この悔しさを。

死んでも忘れるものか。

許さない…!貴方達を!

大きな刃が落とされ私の首は身体から離れる。

まだ残っている僅かな意識で夜空を思い出す。

私が好きなのは夜の空。

夜の空の瞳の…………。


読んで下さりありがとうございました。

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