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Armed to the teeth

来ちゃった♡


ネーナ以外からの視点になります。

 

ルスタンは獲物、昔はあれくらいの馬車に乗りたいと妻にねだられたこともあったな……


 白狼雪族団団長、ルスタン・アハトワは、自らの追う馬車の帝国の商会の物であることを示す竜を象ったきらびやかな装飾と、その馬車を追う部下たちを後方から眺め、少し視線を落としてそんなことを思った。

 この男、今は盗賊に身をやつしてはいるが、かつてはそこまで力を持つ、とは言えないものイマピラル共和国ではそれなりに名のあった商人であり、気立てのいい妻と二人の娘を背負う良き父親の一人であった。


 それが今は何故こんなことをしているのか? それは10年前、共和国で起きたいくつもの出来事にある。

 新たな市場を求めたアニスアルグ帝国大商人の共和国への流入、アツルトカス連邦の成立などによる混乱、輸入品の増加による市場価格の混乱……そして、ルスタンもこれらの煽りを強く受けた一人であった。

 この混乱の中でもルスタンの運命を決めた、と言える出来事は、ルスタンが何年もかけてようやく取り付けた外国の有力貴族との大口の商談が、予定した日の3日前にアツルトカス連邦政府の成立とともにその貴族が失脚した二め白紙に戻された、という事だろう。この大混乱で生じた多額の損失をその商談で取り戻すつもりでいたルスタンは、当日取引する予定であった大量に積み上げられた酒や鎧、武器を前に、呆然と立ち尽くす他に無かった。

 これが原因となりアハトワ家は大量の借金を抱えることになる。店は畳むことになり、代々受け継がれ慣れ親しんできた家と、家財道具一式は借金の返済に充てられた。このままでは家族にまで危害が及ぶと考えたルスタンは、自らを支え続けてくれた妻になけなしの路銀を持たせて夜の内に娘たちを連れさせてアニスアルグにあるツテへと逃がし、自らも借金取りから逃れるために姿をくらませた。

 冒険者、という道も無いことは無かった。だが、ルスタンは自分の頭の中に入っているこの街と他所を繋ぐ交易路のルートとおおよその時間の情報、それと数だけはある装備を武器に盗賊へと身を落とすことにした。これには単純に生き延びるため、と言う理由だけではなく、どちらかと言えばここに至るまで何も対処を行わなかった共和国への反逆としての意味合いの方が強かった。

 元々人を扱うことには人一倍長けていたルスタンは盗賊団の中でもメキメキとその頭角を現し、いまやこの白狼盗賊団の長となり、この辺りで名を馳せるまでに成長した。


ルスタンは獲物を追い求める狼の群れのように駆ける部下達をちらと見やると、


もう、そろそろ足を洗うべきなのかも知れないな……あいつともう一度暮らせるものなら……いや、もうあいつに合わせる顔も無いか…………それでも……一度、一度顔を合わせるぐらいなら……


 と、そこまで考えるとルスタンは、丸々二日かけて追いつめた獲物だ、今はそんなことは気にしていられないと頭を振ってそんな考えを追い出して顔を上げ、部下たちに何時でも馬車を止められるように準備するよう指示を出し、最後の仕上げに入る。

 ……すると、背中に強い衝撃が走り、尻は鞍から離れ、浮遊感とともに視線が空を向いた。


 今の自分の身に何が起こったのか? ルスタンが状況を把握するためにあたりを見回すと、普通の馬の二倍の大きさはあるであろう鉄でできた巨大な軍馬と、それに跨るこれまた鉄でできた巨大な槍とカイトシールドを持つ巨大な騎士が目に映る。

 それを見たルスタンは部下に警告するため大声を出そうとするものの、ひゅう、と空気の漏れる音しか出せない事を不思議に思い、その騎士が持つ槍の指す先を目で追う。

 ――それが自らの胸の中心を貫いている、という事に気が付くと、ルスタンの意識は彼方へと消え、二度と戻って来ることは無かった。




***




 自分たちを率いてきた者の突然の死、今まで追う側だった自分たちが追われる側に変わったことにより盗賊たちに動揺が走る。しかし、盗賊団の中でも精鋭を集めた強襲部隊である彼らが次の行動に移るのにそう時間はかからなかった。


 素早く反応した何人かが騎士目がけて矢を放つ。ガンガンと騎士の鎧に弾かれ、騎士の乗る馬にも全く通じていないのを認めると、リーダーの補佐を務めていた男が腰に付けていた笛を取り出し吹き鳴らす。オオカミの遠吠えのような音が辺りに響き渡ると、騎士の背後の森の中から雪のように白いローブを纏い、先に白く輝く石の付いた小振りな杖を持った人物が3人現れ「―――、―――――!」と独特な発音で何かを唱えると駆け出し、駆ける馬と同等の速さで駆け寄り、走り続ける鉄の騎士を囲むように追従した。


 騎士がそれを認めると、騎士の持つ槍が――ルスタンを残したまま――急激に縮む。騎士はその縮んだ槍を逆手に持ち替えるとそのまま振りおろし、右側面に付けた白ローブの一人を脳天から貫く。白い雪に赤い花びらが散った。

 残された二人の白ローブはそれに欠片も動じた様子を見せず、後方に付けた白ローブは手に持った杖を黄色の石が付いた杖に持ち替え、また何事かを唱え始める。


 しかし騎士はそれを全く意にかけることなく、槍の長さを戻して馬の速度を上げ、先を走る盗賊たちに追いすがる。左側面の白ローブが馬に飛びつき阻止しようとするも、騎士は左手に持つ盾でその頭を打ち付け、またもや赤い花を咲かせた。

 白ローブが馬からずり落ち、槍の先が盗賊の最も後ろを走る男を貫くや否や、残された白ローブが何事かを唱え終え、杖の先から雷のような轟音を響かせつつ電流が迸り騎士に直撃する。

 ……しかし、槍に貫かれた死体達がその身を踊らせるように痙攣を繰り返す中、騎士は平然と盗賊を狩るために動き続ける。


 自らの身の丈ほどもある槍を片手で、しかも人間を貫いたまま振り回す筋力。伸び縮みする槍や抗魔障壁の類の付いていない金属でできた鎧を纏いながらも、電流を歯牙にもかけず平然に動き続けるその異常性。その様子を後方から見た白ローブの男は、一度拠点まで戻って今見たことを仲間へと伝えるために一度その足を止め振り返ると……



 ――後方から駆けてきたに騎の鉄の騎士の槍にその眼窩を貫かれた。




 ***




 ――……ーい


 ――おー……ちょっ……って……


「……おーいっ! ちょっと、ちょっと―! 止まってくれないか―!」


 必死に馬車を駆り、一昼夜もの間盗賊達から逃げ続けてきた帝国の女商人……アリサ・アレヒナがそんな少女の声に気が付くのには時間がかかった。

 気が付けば、先ほどまで聞こえ続けていた男たちの怒鳴り声や雷の音は鳴りやみ、聞こえるのは走る馬車のきしむ音とそれをひく馬の荒い息遣い、それと先ほどの少女の声のみ。

 ようやく諦めてくれたかと安堵し、何でこんな所で子供の声が聞こえるのかと疑問に思いつつも馬車の速度を緩める。

 延々と酷使し続けてきた馬車から降りる。ブフゥー、と一際大きく息をした2頭の馬に積荷の野菜をやり、撫でてやるとブルルと嬉しそうに震えた。

 そして、少女の声が聞こえた方向に向き直る。

 そこに居たのは、


 ――3騎の巨大な騎士と、その騎士の持つ槍に貫かれた盗賊達。


「ひっ……」


 アリサはへにゃり、と悲鳴を上げる間もなく腰を抜かし地面にへたり込む。彼女の頭の中には今までの出来事が走馬灯のように走っていた。


 ――幼いころに父に連れられて見た帝都の祭りの記憶、魔術学校を受験し、落ちたときの挫折、親元を離れて昼夜問わず勉強し、初めて自分の店を構えた時の歓喜……。


 ――ああ、せめて、せめて父さんにもう一度は会ってみたかったなぁ……


 と泣いているやら笑っているやら分からない表情でそんな事を思いながら騎士を見上げ続ける。すると、中央の騎士がおもむろに隣の騎士へ槍を渡したかと思うと、馬から降りてこちらへ歩み寄ってきた。


 ああ、これで私の人生は終わり……母さん、先立つ不孝をお許しください……などとアリサが考えていると、その騎士はアリサの目の前でしゃがみこんでその獅子の顔を模した兜を近付け、『少女の声』で


「あの……その、良かったら、でいいんですが……その……服、とか譲ってもらえませんか?」


 と告げた。


「……え?」


 もしかして自分の命は助かったのか、なぜこの巨大な騎士からさっきの少女の声がするのか、そもそもなぜそんなものを要求するのかなどアリサの脳内では色々な疑問がぐるぐると駆け廻り……


「……きゅう」

「えっ!? ちょっ、ちょっと! 大丈夫ですか!? もしもし!? もしもーし!?」


 ――限界を迎えたその意識は彼方へと飛んで行った。

風邪引いて家でやることもないので書いちゃいました。

単位こわれる

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