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Backstab?

初積雪です。

おおよそ5分程だろうか、そこでようやく頬ずりをやめたネーナは、それでもなお不気味な笑みを浮かべつつ名残惜しそうにウォールの鎧から離れた。


「ふひぃ……最高…………んふふ……ふへっ……」

(……満足、なさいましたか?)

「そんなのこんなすごいもんを見て触ることまで出来たら満足するに決まってるだろ……んひっ」


五分にもわたる頬ずりで少しは落ち着いたものの、まだまだ興奮が抑えられないのか気味の悪い笑みがまだネーナの顔に張り付いていた。


(それは何より……それでは、魔導防壁シェルタ―を解除した後、周囲の偵察および制圧、あわよくば内包魔力の回収の為、私の残りの内包魔力の全てを用いて引き続き『ウォール』の制作を行います……設定は以前のままでよろしいですね?)

「ああ、任せるよ、ふひっ…………ん?引き続き?」


未だ冷めやらぬ興奮の中、ネーナはろくに話も聞かずにそんな生返事を返す……すると、またもや空中に先ほどと同じ、しかし4つの光が走った。


先ほどよりは大体10秒くらい余計に時間がかかったものの、みるみるうちに四体の人の形が模られていき、四体の『ウォール』が地響きをあたりに響かせながら地面に降り立ち、ネーナの前に跪いた。


目の前で起きた出来事に興奮が高まりすぎてしまったのか、もはや一周して冷静になったネーナは、


「…………壮観だな……そういえばメム、さっき言った偵察や制圧っていうのはまだ分かるんだが……内包魔力の回収がなんとかってどういう事なんだ?」


先ほどのメムの言葉にあった、あまり聞きなれない「内包魔力の回収」という言葉について質問してみた。


(回答します。そもそも内包魔力、オドとは、先ほども説明いたしましたように地球上のすべての生物が生まれながらに持っている魔力です。そしてオドは、同量の大源魔力、マナと比べ非常に高濃度な魔力のため、長らく我が社はマナからオドのエネルギー転換を画策してきました……。

しかし、この内包魔力は、対象の死亡とともに急速に、遅くてもおよそ10秒程で全てマナへと発散する上、回収に成功したとしても非生物の中では魔力としての性質が失われ、生物に移譲しようものなら一瞬の内にオド同士の干渉によって身体を構成する物質が全てマナへと分解されるため、長らくの間我がKM社は……)

「ストップ、ストップ! ……あとどれぐらいかかる。」

(開発までの歴史、私に使われている技術についての解説、内包魔力の認識書換を発見したウルス兄弟の研究についての解説など6項目がありますので……およそ1時間程かと)


またもや決壊したダムのように次から次へと溢れ出る言葉の羅列を遮ったネーナは、当たり前のようにそんなとんでもない事を言い放ったメムに「これから先こんなのとずっと付き合わなきゃいけないのか……」と呟き、


「…………なるべく短くまとめてくれ」

(……私は、魔導核兵またはネーナさまに殺傷された生物からオドを直接、あるいは魔導核兵を介して回収が可能です。回収されたオドは私の魔導回路の拡張、ネーナ様のボディの強化、AoMのさらに複雑な魔導核兵の開発に充てられます)


メムはそう答えた。…………答えるまでの妙な間に小さく(……チッ)と舌打ちのような物が聞こえたのは気のせいだと信じたい。


「そうなのか……でも、こんなひょろい身体で動物なんか殺せるのか? 魔導核兵にしてもこんなに図体がでかい上すっとろいし……」

(それに関しましてはご安心を、私にいい考えがございます……)


メムがそう言うと、跪いていたウォールの内2体がおもむろに立ち上がり、ネーナのすぐ隣までのそのそと歩み寄ると、ネーナの両隣で止まった。


「いい考え……? ん? 何だ?」


すると、突然両隣に立っていたウォールがさっきまでの鈍さが嘘のように機敏に手を伸ばし、ネーナの腕を片方ずつ掴んだかと思うと、


「うわっ! おい! 離せ! ……何で言うこと聞かないんだこいつら!? メムか!? 何か気に入らなかったんだったら謝る! だから話してくれ! 離せ! はなせえええええええぇぇ……………………」


メムとネーナを捕まえたウォール2体はじたばたと暴れるネーナを無視しながら森に向かって歩いて行き、残りの3体のウォールものそのそとそれについて行った。その時のネーナの様子はさながら連行される宇宙人のようであったという。


***


「……なあ、メム、その『いい考え』とやらをさ、な? そろそろ説明してくれるか? 別に俺を殺したいわけじゃないんだろ? ……そうだよな?」


結局あまりにも暴れすぎるために途中で軽く締められ気絶させられたネーナが目を覚ますと、先ほどまであった大きな石の柱や石碑などは影も形もなく、代わりに目に入るのは雪を被った木々、茂みだけ……そして、異様に視界が低いな? と思い首を下に向けると、サク、と顎が雪に触れた。

……どうやら、今の自分は首の上だけを残して埋められているらしい。


(大変申し訳ありません、ネーナ様。もしネーナ様がこの考えをお聞きになったらきっと反対なされるかと思いまして……)

「ああもちろんだよクソが! こんな目に合うなら最初からウォールなんかに頼らずに自力で罠でも作って地道にやってやるわ! 次は何だ!? 犬にでも食われろってか!?」

(……近からず、遠からず、でございますね。ネーナ様には『生餌になって頂きます』)

「……は? それってどういう……」


ウオォ―――――ン……


ネーナの疑問を遮るかのように、そんなオオカミの遠吠えのような、しかしオオカミにしては低すぎる鳴き声が、そう遠くない所から聞こえてきた。


(おお、これはこれは……重畳、重畳……流石でございます、ネーナ様)


そんな気の抜けたことを平然と、嬉しそうな声音で話すメムに対し、


「なぁにが重畳だこの野郎! さっさと俺をここから出せ! ていうか作ったウォールたちはどこに……」


ネーナの言葉はそこで途切れた。

ネーナの眼前に現れたのは、雪のように真っ白な体毛に覆われた体躯、視線だけでそこらの人間などひとたまりもないような眼、そびえ立つ城壁すらも削り取れそうな牙と爪……

ネーナの知る所の「オオカミ」とそっくりな生物が1体、2体と数を増やしながら次々茂みから現れ……最終的には6体のオオカミのような生物がネーナの周りを囲むように立った。これらのオオカミ? が通常の物と異なる点があるとするならば……


……その一体一体の大きさが、二本足で立ちあがっていないにも関わらず大人ほどもある、と言うところだろうか。


(おお! 感応種ではありませんか! 大きな反応だとは思いましたが……やりましたねネーナ様!)

「やりましたね! じゃないから! そもそも感応種がなんなのか知らないし興味もないから! そんなことよりさっさとウォールでもなんでも使って掘り出してくれ! 早く!」

(えー、感応種とは通常の生物と比べ体内のオドを管理する器官が大きく発達したものであり……)

「興味ないっつってんだろうがあああああああああ!」


そんな漫才を繰り広げている――傍目には独り言のようにしか見えないが――ネーナとメムを無視し、オオカミ……感応種たちはネーナの周りをぐるぐると歩き、危険が無いか確認しているようだった。

ネーナ……やたらと騒がしいが、とてつもなく濃い魔力を感じる妙な獲物の周りに何も罠の類がないことを確認すると、感応種達は互いに視線で示し合わせ、6匹の内の3匹が一斉にネーナ目がけて飛び掛かった。


「ひぃっ…………!?」


この後に来るであろう痛み、それと死を覚悟したネーナはぎゅっと目をつむり…………


ガオン、と重い音が響き渡ったのと、いつまでも痛みが来ないことに気が付き、そっ……と目を開けると、目に飛び込んできたのは、何故かはるか上空まで飛び上がっている3匹の感応種と……




―――――壁が、聳え立っていた。

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