「婚約破棄す「言わせませんわ!」 婚約破棄されそうになったので右手が唸りましたの
巷で流行りの婚約破棄を、思いつきのままに私が書いたらこうなりました。後半蛇足だったかな~と思いながらも書き上げました。
ちょっと長いと思いますがよろしければどうぞ。
ちょっと名前を修正しました
「ルーテシア!貴様との婚約を破棄す「言わせませんわ!」
パーティー会場である広間にに盛大なビンタの音が響き渡った。
突然のこと失礼しました。 私はルーテシア=リシア=グレイテシア。
グレイテシア侯爵家に生まれた侯爵令嬢でございます。
今私がいるのは王立学校卒業パーティーの会場。
そしてその中心部で起きた茶番。
所謂婚約破棄現場ですね。
一応平手打ちして止めたので未遂ですが、これはもう止まらないかもしれませんわね。
慈悲として一度目は止めましたが正式に宣言したらもう――庇い切れませんわね。
そして平手打ちがヒットしたのは顎下。
頬を打つつもりでしたが相手が避けようとした為ズレてしまいましたわ。 ズレなければ頬を叩いてしまいたかったのですがまだまだ未熟でしたわね。
お恥ずかしい。
そして顎下を叩かれて尻もちを着いたのは私の婚約者であらせられるセオドア=フォン=パトリシア。
パトリシア王国第一王子様なのですが……、衆人環視の前で何をしようとしているのかちゃんとわかっているのかしらね。
「セオドア様!? 大丈夫ですか! 酷いわ! こんなことするなんて!」
「酷い? とんでもないですわね、過ちを犯そうとしていたのを無理矢理でしたがお止めしただけの事よ」
脳を揺さぶられた性で立てないセオドアに駆け寄るのは、ネトリーナ=ネトリ=グレイテシア。
私の腹違いの妹ですわ。彼女が正妻、私が側室の子。最初に側室の母が私を産み、その11ヶ月後に彼女が生まれたそうです。ですが私の母は病弱だったらしく、私を産んで3年後に幼かった私を残し、病に倒れ息を引き取ったと聞かされてます。
それからは針のむしろでしたわね。後ろ盾となる母もなく、母の実家も私の方には見向きもしない。
唯一の後ろ盾となりうる父でさえ、正妻腹の娘である彼女の方が可愛いようで、私なんかは二の次ですわね。
唯一の心の拠り所はお母様の形見の品々のみ。
そして転機が訪れたのは6歳の時、パトリシア王家からもたらされた婚約話だった。
最初は妹に話が行くかと思ったら父は私を婚約者にと私を押しました。
今まで殆ど見向きもしなかったのに……、ええ最初はお父様は私も愛しているのだと、そう思っていました……。
――ですが、蓋を開けてみればとんだ拷問でしたわね。
婚約が決まり、直ぐ様王城に連れてかれたかと思えば来る日も来る日も王妃教育の毎日。
当然その教育は厳しい物があり、そこらの貴族子女が優雅に過ごしている傍ら、私は厳しい教育の日々、マナーはもちろん経済、外交、戦術、語学に魔術に護身術、さらにはなんで王妃教育なのに野営まであり、王妃に必要なありとあらゆる事を教えこまれました。
当然6歳の女の子が耐えられる訳もなく、最初のうちは毎夜枕を濡らす日々でしたわ。
帰りたいと願っても帰れる訳もなく、父からもらった手紙には戻れば放逐すると書いてありました。
言ってしまえば王妃になる以外の価値はお前にはないと言わてるようなものです。
結果、3年も過ごせば慣れると言うものなのでしょうね。
9歳になった頃にはもう泣くことは無くなりましたね。
繰り返される王妃教育の結果、私の実力は王室でも徐々に認められるようになりました。
そのお陰で婚約者である10歳の第一王子との初顔合わせもできたのですが、第一声が……。
「――こんな子が僕の婚約者なの?」
一瞬、厳しい王妃教育で作られた鉄壁のマスクが砕けそうになりましたわ。ですが微笑みを崩すこと無くその場を乗り切ることが出来ました。
しかし周りの人達はその発言に凍りついてましたね。私も「私の3年帰せやこら」っと、思わず怒りたくなりましたわ。
そしてこの王子、セオドア様と出会ってから暫くして、婚約披露パーティーが開かれました。
その際にセオドア様と踊ったのですけど、一度踊っただけでその後は別の女性と踊ってばかりでしたね。
私? 私は各国から訪れた方々への挨拶回りで忙しかったですわ。
なのにあの王子、全然仕事しないで綺麗な女性と踊り回り、挙句の果てには妹と何度も踊って手の甲にキスまでしてやがりましたわ。
いけませんね、思い出したらつい口調が……、その後13歳になって全ての貴族が通うパトリシア王立学園に入学することになりました。
その際に私に下されたのは、学院では常に貴族の模範たれ、常に時期王妃らしくあれ、そして学生の模範たれとの言葉と、婚約者の証たる首飾り。
そしていざ入学してみたところそこには妹の姿もありました。
そこからは正直忙しい日々でした。入学して直ぐに学院の生徒会入りし、学園内での運営に携わることになりましたわ。
さらに学園内では時期王妃として、貴族子女達への見本となるように振る舞い、時に愛想も振りまきながら勉学、人脈作り等々動きまわってましたわ。
生徒会も1年目はまだ先輩たちがいたからよかったですわ、ですが翌年になるとあの第一王子、セオドア様が会長に就任、そして私も慣例にそって副会長になりました。
そこからはシャレにならない忙しさでした。この王子本当に仕事しないの!
挙句の果てには妹と逢引したりと、正直婚約者をなんだと思っているのかと説教したくなりましたわ。
そして逢引だけならまだしも、この王子とその取り巻き、公爵子息や伯爵子息がこぞって妹にぞっこん、学園内で問題行動を起こしておりましたわ。
その度に私が動いて諫め、尻拭いまですることに。
ですが、私の度重なる諌言を無視し聞き流しあの妹の言葉ばかりに耳を傾ける。
お陰で仕事は増える一方、あの王妃教育がなかったら今頃倒れてましたわね。
そして今日、卒業式を迎えたこの日に、この王子は他国の方の目がある中で自国の恥を晒すような真似をしようとしてくれました。
「くっ、今までは一応婚約者ということで大目に見ていたが、貴様! こんなことして許されると思っているのか! 不敬罪並びに反逆罪で一族郎党皆殺しに」
「――残念ですがこれは陛下直々に許可されていることですわ、書状もこちらにございます」
アホな婚約者の目の前にしっかりと陛下からもらった書状を見せつけます。
そこには学院内における行動の許可が書かれておりました、その中には第一王子、並びに貴族の模範足り得ない行動をしているものを正そうとする際にはいかなることも罪には問わぬと。
「そして加えて申し上げるなら一族郎党皆殺しの場合、そこにいる妹も含まれますのであしからず、第一この婚約はそもそも親同士、しかも陛下が決めたこと、私達にどうこうする権限はございません」
しっかり正論を突きつけてやる。ぐぬぬと言いたそうな顔をしてらっしゃいますが、何がぐぬぬだと言いたいところですわね。
「さて、無駄だと思いますが一応なぜこんなことをしようと思ったのかお聞きしておきましょうか」
扇を広げて、口元を隠しながら威圧するように言ってみた、威圧するのは現王妃様直伝の交渉術。
王妃たるもの威厳と同時に畏怖も持ち合わせなければなりません。
貴族社会って舐められたらおしまいですからね。
「決まっているだろう!お前がネトリーナやその周りを散々虐めてきたからだろうが!」
「はて? 私には身に覚えがありませんが?」
「嘘です! 私はルーテシア様に虐めを受けました! ノートを破られたり、水をかけられたり、服を破かれたり、罵声を浴びせられたり……、挙句の果てにはこの間のパーティーで階段から突き落とされたり!」
ネトリーナはそう言って私を批難しようとしますが、見に覚えのないことばかりですわね……でも罵声というのはマナー違反等の注意のことですかしらね?
「ネトリーナもこう証言している、貴様の悪行は明白だ!」
そんなドヤ顔で証言があると言っても本人だけじゃないですか、それは証言とは言いません、むしろ狂言でしょうか?
「はぁ、呆れて物が言えませんわね、証言が本人だけなのと、そこまで言うのなら肝心の物的証拠はございますのよね!」
「当然だ!破られた制服もちゃんとある!」
胸を張って言っておりますが、それは私がやった証拠にはなりえませんわ。
一部の生徒がざわついておりますが、反応が私への批判とそれは無理があるだろう半々に分かれている感じでしょうね。まあ、これを出して私がやったと主張するのは無理があるもの、ちゃんと物事を考えられる人達はこんなことに引っかかりはしないでしょうね。
一応、考えられる人達の顔を覚えておきましょう、私これでも記憶力はいいのですよ。
「はぁ、それのどこに物的証拠能力があるのですか?」
「れっきとした証拠だ! 言い逃れするな!」
「はぁ、それが破れているのは事実ですが、どこに私がやったという証拠になるので?」
「うるさい!証拠は上がっているんだ!」
はぁ、これはもう庇いきれませんかね、今までの3年間なんとかまともな王族に矯正することはできないかとあの手この手と、手を打って参りましたがそのどれもがそこに立っている妹の甘言で水泡に帰しました。正直疲れたと言っていいと思うのです。
「ルーテシアお姉さま、罪をお認めください!そうすればきっとセオドア様も寛大な処置を取ってくださいます!」
涙目で悲劇のヒロインを気取っている妹はそう言うが、そもそもの原因は貴方でしょうに! っと、大声で叫びたいところですわ。
「よせ、こんな悪徳令嬢に情けは無用だ、それに何度も俺に小言を言っては気分を害してくれたこいつに慈悲はない、俺が王位を継いだ暁には即刻処刑してくれる!」
妹を腕で制してそんな風に言ってくるが、その一言で私の方の慈悲が無くなりましたわね。
今までは一応こんなのでも婚約者、いつかはまともになってくれるのではと、心を鋼の様にして耐えてきましたがもう無理でしょうね……、婚約を破棄すれば私には帰る家も家族もおりませんがもう構いません。
婚約者をやめさせてもらいましょう。それに一応学院を卒業はしたので意外と国外でもなんとかなるかもしれませんし。
私はため息をついてから、目の前の愚か者に鉄槌を振り下ろすことにしました。
「今更後悔しても遅い! 俺はネトリーナを愛しているのだ! 貴様の様な可愛げの無い物より可愛げのあって俺を愛してくれるネトリーナの方が何倍も貴様より俺の嫁にふさわしいのだ!」
「ため息をついたのは貴方があまりにも愚かでもうどうしようもないと判断したからですわ、殿下は先ほどそれが証拠だとおっしゃいましたが他の虐めとやらも証拠や証人、並びにいつ頃行われたのか教えていただけますか?」
「ふん! その汚らわしい耳でよく聞くといい」
そう言って王子は次々と証人、並びに虐めが行われていたとされる日時を宣言していきますわ、よくもまあこんなに人達を揃えたもんね20人ぐらいいる、けれども現れたのはどれもこれも素行の悪い問題児ばかり。
「以上が証人だ! さぁ、さっさと己の悪事を認めてその婚約者の証たる首飾りをネトリーナに明け渡せ!そして貴様との婚約も破棄だ!」
「ふぅ、全く愚かしい事この上ないですね」
「何が愚かしいことこの上ないだ!これ以上しらを切るならこの場で切り捨ててくれる!」
そう言って腰に携えた剣を抜こうとする愚か者に私は軽蔑と侮蔑の表情で見つめながら。
「そちらが私を罪人にしようと証人を用意したのなら、こちらはそれよりも確実な物的証拠をお出ししましょう」
そう言った瞬間当たりがざわついた、まあそうですわよね、普通ならこんな時に物証が用意できるなんてまず無いですもの、事前に向こうの動きを知っていて用意していない限りは。
言っておきますと一応事前にあの馬鹿王子が何かしようとしているのはわかっていたけど選りにも選ってこんなアホなことをするとは……、これ以上救いようがありませんわね。
「私が証拠として提出するのはこの首飾りですわ」
私の首から下げられた首飾りを軽く持って示す。
「はん、その婚約者の首飾りが何だというのだ」
「全く、本当に勉強してなさらないのですね、この首飾りの事を知っているならこんな馬鹿なことはしでかさなかったでしょうに」
「一体その首飾りが何だというのだ? ただの婚約の証だろうに」
訝しげな目で見ていますが、この首飾りには重大な意味と効果があるのだと。
「はぁ、この首飾りはただの首飾りではありません! 実のところこれはマジックアイテムですのよ、常に周囲の様子を記録し、着けたものの行動を監視するいわば首輪ですわね、当然身につけたものは常に王家に監視され行動にやましい事、貴族にあるまじき行動をすれば罰が下ります。そしてこの首飾りから得られた映像は王城に保存されております」
私が首飾りの話をし始めると私を避難していた方々は一斉に表情が青くなりましたわ。
いい気味ですことね、当然いまこの光景も記録されております。
言ってしまえば私の行動は常に把握され、一言一句すべて報告される。それ故に彼らが言ったようなことが出来るわけがないのです。
しかもこの首飾りは私では外すことができません、そのせいで監視はお風呂だろうとベッドの中だろうと緩むことはない。
私に心やすまる安息はありませんでしたわ。
ちなみにこの首飾りの証拠能力に関しては王家が責任をもって保証してくださってますので何の問題もありません。
陛下や王妃様からも書状を頂いておりますのでまさに鬼に金棒ですわ、なんせこの首飾り自体にも映像を再生する機能がございますもの。
「当然、先ほどの証言も全て記録されておりますので後ほど何らかの沙汰が下るでしょうね、少なくとも証言を偽った偽証罪は確実ですわ」
そうきっちり宣言すると証人としてここに来ていた問題児たちは全員顔面蒼白を通り越して真っ白になっていきましたわね。
さて、残った王子と愚妹にもしっかりと現実を教えてあげないといけませんわね。
「さてセオドア様、先ほど王位を継いだ暁にはとおっしゃいましたが今の貴方で本当に王位が継げると思っていらっしゃるのですか?」
「な、なに?」
青ざめた顔のままこちらを見下ろす姿はなんとも見っともないですわね。
「貴方はこの学園で何をしていらっしゃいましたかね? そして考えたことはありませんでしたか? どうして二年生になってなんの決議も無しに貴方が会長になったのかと」
「それは俺が第一王子で一番偉いから」
「――違います、そんな訳がないでしょうに、この学園の自治は生徒会が管理しています、当然生徒会長ともなればそれ相応に能力が求められます。
そこに王族だからと言ってはいそうですかとなれるわけもなし。
貴方が生徒会長になれたのはこれが王族の試験だからです」
「はっ?」
私の説明を聞いておマヌケな顔を晒す。王族としては絶対にしてはいけない顔のはずなんですがね。
「試験は学園に入った所から当然始まっています、学業、素行、生徒会での仕事ぶりに人脈作り、そして生徒会主導で企画されるイベント、ありとあらゆることが審査対象になります。そしてその結果次第で次の王が決まると言っても過言ではありません」
「そんな事聞いてないぞ!」
「ちゃんと王族としての勉強をしていたなら誰もが知っていることですわよ、そして貴方はこの3年間何をしていたでしょうね……」
今になって、自分の行動を振り返っても遅いですわよ。さて次は、人の婚約者に手を出した痴れ者、愚妹であるネトリーナにもしっかり言って置かなければいけませんね、なんせ私の後に王家に嫁ぐのだからちゃんと教えてあげないといけませんわね。
私がそちらに顔を向けると「ヒッ」っと悲鳴のような声を出して後ずさろうとする。
「さて、貴方にも色々言いたいことはあるけど、この王子と婚約して王家に入るのだから王妃教育がどんなものか教えてあげるわ」
それから王妃教育における厳しいレッスン内容を説明してあげたら血の気が引いていったわね。
そして最後にこの首飾りに関しても教えてあげたわ。
「この後貴方が殿下と婚約したらおそらくこの首飾りが着けられるでしょうね、常に監視されるから万が一サボろうなんてしたら確実に罰が下るわ、分かりやすい所だと首飾りから一瞬電流が流れたりね」
そしてそんな所に後方の扉が開かれ、そこから現れたのは陛下だった。
「ち、父上!?」
「お前、とんでもないことをしてくれたな……」
王子の所まで怒りを露わにしながら陛下はこちらに歩いてくる。
「久しいなルーテシア嬢」
「お久しぶりにございます陛下、このような自体になってしまいまして申し訳ございません、全ては私が至らないばかりに……」
「いやそちらに責はない、有るとすればこの愚か者だろう」
怒気を放って王子を睨みつける陛下の姿は一瞬オーガのようにも見えましたわね。
そしてそれに対して怯えながらも弁明しようとする王子。正直なにを弁明しようというのか……。
「ち、父上、今回のことについてはそこの女が悪いのです」
「ほう、ルーテシア嬢のどこに非があるというのか? 言っておくが貴様らが発言したことに関して確認を取ったがルーテシア嬢は一度もそのような事はしていないぞ」
「そ、それは……ですが」
「くどい! それに学園での貴様とネトリーナ公爵令嬢の行動報告はすでに受けている! まったく呆れて物が言えない報告のオンパレードだったぞ! ルーテシア嬢がいなければ今頃学園の機能は麻痺していた! それだけに飽きたらず、そこのネトリーナ嬢に現を抜かし学業を疎かにし素行の悪い生徒との付き合い、王族らしからぬ行いに言動、そして先ほどのルーテシア嬢への言動を加味すれば、本来であれば廃摘、いや王籍末梢の後の追放刑を言い渡してもおかしくないのだぞ!」
そして陛下はこちらを向いてその膝を折り頭を垂れました。
「ルーテシア嬢、いままでこの愚か者を支えてくれて感謝する。そしてこの馬鹿を甘やかしてしまい、貴女に多大な苦労を強いてしまった、すまなかった……」
「陛下、お顔をお上げください、王たるものがそのように安々と頭を下げてはなりません」
「いや、これは下げねばならぬのだ、ただでさえこの馬鹿の教育を失敗したのはこちらなのだ、そしてこの馬鹿のために貴女の10年と言う月日を奪ったのだ、謝罪してもし足りない非がこちらには有るのだ」
「……分かりました、陛下の謝罪をお受けいたします、ですから顔を上げてください」
「すまない、このお詫びは必ず」
「しかしこうなってしまっては私はもう嫁ぐわけにはまいりませんわね……」
「惜しいが、こうなっては仕方あるまいな、セオドア!貴様の望み通りルーテシア嬢との婚約は破棄してやろう、そしてそこのネトリーナ侯爵令嬢との婚約を認める」
「ち、父上」一瞬笑顔になるバカ王子だがその後直ぐに陛下は。
「ただし、貴様にはこれからみっちり王族としての教育を受けてもらう、今まで甘やかしていたがこれからは逃げられぬとしれ! それからそこのネトリーナ嬢!」
「は、はい!」
「貴女にはルーテシア嬢が8年掛けて身につけた王妃教育を三年で身につけてもらう、言っておくが今更愛していない、婚約などできませんなどと言えると思わん事だ! ましてや他に男を侍らせるなどという事ができると思うなよ、まったく、ルーテシア嬢がいなければ将来を期待されていた一部の者達まで危なかったな……」
「そ、それはどういう……」
そう、私はこの愚妹の回りにいる者達の内で、愚妹に出会う前までは優秀と言われ将来を期待されていた者たちを正気に戻して愚妹から遠ざけることに成功していたのだ。
――そう、このお母様の手袋をを使って。
あの妹はどうも無自覚で魅了の力を使っているようなのだ。そしてそれは何度も出会う内に強くなっていくのだ。
ある時に廊下でぶつかって来た生徒がいたのだが、謝りもせずに走りぬけようとしたので、学院にいるものとしては余りにも相応しくない、風紀を乱す行為として平手打ちで罰したのだがその後の様子が余りにも違うので少々調べてもらったのです。
そして判明したのが愚妹の魅了と、お母様の形見の手袋の力、いわゆる破邪と呼ばれる力が込められた手袋だったんですよねこれ。
それからは情報を集め、優秀な生徒は妹から隔離する仕事が追加されたのだ。
そして私がしたのは公爵子息や伯爵子息、宰相子息などしっかりと教育され、次代にと期待されている優秀な方達を正気に戻していったのだ。
――そう、この手袋をはめてビンタすることで!
学園内で何度この右手が唸ったか……、あのアホ王子にも何度か叩いて払ったのだけど、どうにもならなかった……。
軽度ならなんとかなったのですけど。
それにしてもあの愚妹、時折好感度とかイベントとか悪役令嬢のくせにとか、目指せ逆ハーエンドと訳のわからないことを言っていましたがあれは何なのでしょうかね?
そして詳細を知った愚妹は豹変してこちらに襲いかかってきた。
「お前の仕業かぁぁぁぁぁ! 私のハーレムを邪魔したのは!」
そう言って掴みかかろうとしてきたのだ。考え事をしていて反応が遅れてしまったのは私が未熟ゆえだろう。
(油断した……、ちょっと気を抜きすぎたかな)
しかし厳しい王妃教育の賜物か、私の体は掴みかかろうとしたネトリーナに対して左手が反応していた。
とっさにネトリーナの頬をを左手でビンタして弾き飛ばしたのだ!
しかし、それでも復讐の炎でも瞳に宿したのか直ぐ様襲いかかろうとしたのです……、ですが直ぐ様、間に入って彼女を取り押さえてくださった方がいました。
「貴様、今彼女に何をしようとした!」
「ヒッ、痛い痛い痛い!は、離しなさい!」
「衛兵!すぐに王子とこのバカ共を拘束して別室に連れて行け!」
組み敷かれて床に額を打ち付けるネトリーナ、そして衛兵を呼びつけてバカ共を纏めて連行させるる王様。
そしてネトリーナの姿をみて呆然とすしたまま連行される第一王子。
「ルーテシア嬢、怪我はないか?」
「はい陛下、こちらの御方のお陰で私には傷ひとつありませんわ」
先ほどネトリーナを取り押さえてくれた方を見る。
「そうか……、ルーテシア嬢を守っていただき感謝する、そなたは確か隣国からの留学生であったな」
「ハ、過分なお言葉、痛み入ります」
膝を付いて最敬礼とされる挨拶で返す留学生、確かあの人は……。
思い出そうとする時に陛下から声が掛かる。
「ルーテシア嬢には迷惑の掛け通しだな、この程度の事で詫びになるかわからぬが儂の力で出来ることならそなたの望みを叶えさせて欲しい」
「……少しだけ考えさせてもらっても宜しいですか?」
「ああ、構わぬよ。ではその間に先ほどルーテシア嬢を守っていただいたそなたにも何か礼をしたいところじゃが何かあるか?」
「ハ、それでは……」
陛下と彼が小声で話している内に考えないと……。
それにしても陛下はああ言ってくださるけど、望みね~……、今までずっと王妃になることだけ、それ以外の道は全て閉ざされてきた人生だったからどうしたものかしら。
とりあえず今後何が必要かとかそう言う所でしょうか……、まず現時点での事を踏まえると……。
まず婚約破棄されたから家には帰れないでしょうね、それに例え帰れたとしてもそこにいるのはあの父と継母、まともな待遇は期待できないでしょうね。
それにあの継母の事も考えれば確実に逆恨みしてくるでしょうし、そうなるとやっぱり家に帰る選択肢はない、むしろこちらとは完全に縁を切ってもらったほうが気楽でいいですわね。
それからもう貴族ではなくなるのですからここはやっぱりお金ですかね? 国外に出るつもりですから馬も一頭欲しいですし……。
それにしても必要のない教育だと思いましたが野営訓練のお陰で外で野宿するのも苦にならないのは感謝ですわね。
纏めると家との離縁、そして二度と私に関わらせないようにさせて、後はお金と馬……。
――それと後はアレにしましょう、今まで私が溜めてた鬱憤を倍にして返してあげましょう。
「陛下、私の望みが決まりましたわ」
「うむ、儂の力で叶えられるならばいかなる望みも叶えようぞ」
「では陛下、私の願いは3つございます」
「3つか、それはどのような願いじゃ?」
私は指を三つ立てて願った。
「一つはお金、私がこれまで担ってきた次期王妃として行ってきた様様な仕事に対する賃金を頂きたく思います。」
そう、次期王妃としての教育の中には様様な書類仕事、外交、内政における仕事と多岐にわたっていた。
ついでにそこのセオ……バカ王子が本来やるべき仕事までやっていたので仕事量は下手な文官より多かったのよね。
まあお陰で文官の方たちには一目置かれるようになりましたけど、今思えばよく体壊さなかったなと思いますわ。
「うむ、それはむしろこちらから申し出るつもりじゃった、次期王妃であったからこそ今まで賃金の話しは無かったが次期王妃でなくなった今なら当然の権利じゃ、そなたは今までもしっかりと結果を出しておるから楽しみにしておると良いぞ」
「では2つ目の願いですが、私の、グレイテシア家との縁を完全に切っていただきたく思います」
「……よいのか?」
「はい、この手紙にもあるとおりです。今後彼らが私に手出しできないようにお願い致しとうございます」
陛下は手紙の内容を見て悲しそうな顔をしてらっしゃいますがあの家に未練など無いし、私の家族は亡き母ただ一人だけですわ。
「分かった、そちの望み通りにしよう、手続き等はこちらで行うので安心めされよ」
「ありがとうございます、そして最後に3つ目の願いですが……これは少々不敬になるのですが発言をお許しくださいますか?」
「許可する、願いを叶えるといったのだから今更だ、儂の力で叶うならば……じゃが、一体どのような願いじゃ?」
「では、少々お耳を拝借させていただきます。それはですね……」
そうして陛下に耳打ちをして願いを伝えた。
すると陛下の顔が悪代官の様な笑みを浮かべ、そこから笑顔となった。どうやら陛下も色々思うことが合ったのでしょうね。
「うむ、その願いは絶対に叶えねばなるまいな……」
この後、少々ごたごたしたものの卒業パーティーは無事終了しました。
パーティーの最中では正気に戻した方たちの婚約者の方たちからの感謝の言葉をもらったりと色々ございましたが、一番印象が残ったのは戦友たるほかの生徒会役員の皆様でしたね。
過ぎてしまえばあの忙しい日々も少しは良い思い出になるのでしょうか……。
さて、時間は進んで今までの賃金ももらい、家との縁も切れ、漸く首飾りも外されて自由の身に。
王様からもらったお金は庶民として生活するなら正直多すぎるぐらいです。
それこそ贅沢をあんまりしなければ一生暮らしていけるぐらいには……。
まあそんな事はさておき、国外に出てしばらくした所でまあ予想通りといいますかなんといいますか……、物語でよくあるお決まりをちゃんと守る辺り、お約束といえばいいのでしょうかね?
「恨みはないが、死んでもらう……」
真っ昼間なのに黒ずくめな黒装束の人達がざっと5人、剣やナイフをもって襲いかかってきます。
「ふぅ、この程度で私を殺せると思うなんてほんとおバカさんね……」
愛用の扇を取り出して構えます。これでも騎士団でもしごかれたのでこの程度ならどうとでもなるんですよね。
え? なんで王妃教育にそんなものが含まれてるかって? 当然、いざというときに王の盾となれるようにですわ! ちなみにこの扇、鉄扇なんですよ。
けれどその後に背後から現れた3人の黒ずくめの捨て身の特攻に少々不利に、そして倒そうとしたら腕一本と覚悟したんですが。
「全く、一人で行くなんて不用心すぎるな」
っと、突如飛び蹴りと反動を利用して二人叩き伏せる乱入者が、お陰で突っ込んでくる形になった黒装束を無傷で叩き伏せることに成功。
乱入者の方をみると、どういう訳かあの時愚妹を取り押さえた留学生さん、これから帰国なのかしら?
「それにしても、こんな真っ昼間から暗殺者とはずいぶん恨まれているんじゃないか?」
「そのようですわね、まあ、逆恨みもいい所ですが……」
そんな挨拶もつかの間背後から起き上がって来る暗殺者さん。
そして一瞬でそいつらを気絶させる元留学生さん、けどさっきと見た目が全然違います。
フサフサの尻尾に、鋭い牙、長い口に尖った大きな耳、そして獲物を狙うような鋭い目。
狼の顔をした、青年に早変わりです。
「あらこわい、食べられてしまいそうですわね」
「お望みとあらば噛みましょうか?」
「素敵なお誘いですが、このようなところではちょっと……」
「それは残念、ところでどこに行くか決まってなければ私と一緒に……、いや、かたっ苦しく言うのも変か、ここはもう学校では無いんだ、女の一人旅は何かと危ない、俺と一緒こっちの国に行かないか?」
狼の彼はそう言って手を差し出す、それも面白いかなとは思いつつもちょっとな~と思い。
「嫌です、ですが道中を一緒に行くのは構いませんわ」
そう言って握り返した。
「なら、道中は退屈しないで済みそうだな……」
「それはそれは、お手柔らかに……ふふ」
その後、気絶させた暗殺者全員を剥いて自殺防止させてから詰め所に突き出し、旅路に就くのでした。
その道中で気になったことを聞いてみた。
「そう言えば貴方は陛下にあの時何を願ったの?」
と、聞いてみると。
「ああ、あれか? それは今の状況だな」
「はっ?」
「あの時、もしルーテシアが国外に出るとしたらその時は口説く事をお許し下さいってな」
「もったいない事願うのね、他にもいい願いあったと思うけど……、それになんで私なんか? 何か接点あったかしら?」
「なんだ覚えてなかったの? 俺にとっては最高にしびれる出会いだったのにな!」
「し、しびれる出会い?」
「廊下を走っていた時にこう、バチーンッていい音響かせて引っ叩いてくれたからな」
「え? それいつの話? 悪いんだけど学園にいた時はあの女のせいで何人も叩いてたから……」
「多分、一番最初じゃないかな? あの後から色んな所でルーテシアがアホどもを叩きまくってたからな……、もしあの時ルーテシアに叩かれてなかったら今頃あの馬鹿の仲間入りか……、考えるだけでぞっとするな」
彼はそう言って身を震わせていた。
「あ~、あの時の……、けどそれで痺れるって……物好きな人ね」
「そう言うルーテシアは最後何願ったんだ?」
「あ~あれね。あれは私なりの二人への復讐件試験よ。」
「復讐は分かるが試験ってなんだよ?」
私はそれに対してちょっと悪魔の様な微笑みを浮かべながら。
「私が首にしてた首飾りがあったでしょう、あれを馬鹿二人につけさせたのよ。」
「あ~あれな、けど二人につけさせてなんでそれが復讐と試験に?」
「簡単よ、どちらかが何かしらミスしたりしでかしたら連帯責任でお仕置きが行くようにお願いしたのよ、甘やかされて育った二人にそんな事したらどうなるか……、今頃いい声で泣き叫んでいるでしょうね、相手の失敗が自分に飛んでくるのに対してどこまでお二人の愛が持つかしらね」
「うわ、いい性格してるよまったく……まさに悪役令嬢って言った感じだな」
「ふふ、褒め言葉として受け取っておきましょう、ですがもう私は令嬢ではないの、ただの旅人ですわ。それにもし二人の愛が続いて教育が終わったのなら陛下も二人をお認めになるでしょうね……、まあ、ありえませんでしょうけどね」
「確かに、あの甘ったれ王子じゃそうなるのは確実か……本気で心いれかえるか、完全に別人になるようなことでもない限りはな……」
その後のルーテシアがどうなったのかはまた別の話しですが、もしかしたら狼さんのお国で幸せに暮らしたかもしれませんし、冒険者として身を立てたかもしれません、もしかしたらどこかの国の王子様に見初められてしまうかもしれません。
ただ確実にわかっているのは、ルーテシアがいなくなった後、王城付近では毎日のように王子と婚約者さんの悲鳴がよく聞こえてきたとか。
「キャアアアアアアアアアアァァァァァァァ」
「ぬわああああああああああああああああああああああ」
今日もお城では二人の悲鳴が木霊する……。
おしまい
ちなみにネトリーナは転生者です、この世界が乙女ゲームと思った電波系。
王子と婚約させられた後はスケジュールミッチミチのスパルタ王妃教育と馬鹿王子の連帯責任でのお仕置きに肉体も精神もすり減らしていく。
ちなみに両親の方に、何の処罰も言ってないと思われるかもしれませんが、もしネトリーナが王妃教育から逃げたしたり婚約破棄しようものなら貴族籍剥奪からお家取り潰しの上での僻地での開拓刑に処されます。
なので両親はいつネトリーナが帰ってくるんじゃないかと恐怖に苛まれながら生活しているわけです。
追記 狼さんがいった、「お望みとあらば噛みましょうか?」とは、獣人である彼らにとって婚約どころか結婚の申し込みでもあります。
己がキバを捧げ、相手に自分の跡を付けて自らの伴侶とする意味が込められた行為ですね。
ご意見ご感想お待ちしております。