直継、シロエとの思い出を語る
副官祭にどうしても参加したくて書いてみました。
「直継さん、教えていただきたいことがあるのですが……」
めずらしい組み合わせである。
記録の地平線はまだ人数の少ない、規模で言えば中堅というにも満たないギルドであるが、何か活動をする際には年長組と年少組に別れることが多い。元来面倒見の良かった直継は、戦闘訓練や買い出し等で頻繁に年少組と交流を持っている方ではあったが、ミノリからそんなお願いをしてくるのは初めての事であった。
もちろんこうして頼られるのは悪い気がするものではないが、このかわいい後輩が折り入って聞きたい事というのは大体想像がつく。
「シロのことかい?」
ミノリの顔が紅潮する。
「あの、違うんです! いえ、違わない、違わないんですけど、そうじゃなくて、そういうのではなくて!……なんていうか、シロエさんと直継さんはいつでもお互いの事を本当に信頼しあってて、どうしたらそんな風になれるのかって、いや、別にうらやましいとかそういうのではなくってですね! 私もそんな風に、シロエさんに信頼されて支えになれればなって……」
銚子の時といい天秤祭の時といい、この少女は人並み以上の働きをしていたし、シロエもそれを嬉しそうに話していた。最近では多忙なシロエに代わって書類仕事や資料整理をこなすことも増えている。
(十分信頼もされてれば支えになってると思うけどなぁ)
頭では考えても口には出さない。自分で気がつかなくては、他人になんと言われても結局気休めにしかならないことは直継もわかる。
「よーし、わかった! それじゃあ今まで誰にも話したことがない、俺とシロの友情物語を話してやる祭りだぜ!」
◆
俺がシロに初めて出会ったのは、どこかの大手ギルドのレイド祭りに助っ人を頼まれたときだった。今でこそ他人と冗談を言い合ったりなんて事もするように‥‥いや、今でも普段はムッツリしてて何考えてるかわかんない祭りか。
(そんなことありません! シロエさんは気さくで優しくていい人で……!)
ごめんごめん、そうだな。
知り合って色々話すようになると結構面白いやつなんだけど、なかなかそれが伝わらないんだよな。
当時はそれに加えてコミュ嫌いをこじらせちまっててな。ろくに雑談に加わりもしないし、誰とも絡もうとしないし、正直付与術師は絶対数が少ないから今回の奴はただの数あわせかなーなんて思ってたわけよ。
それがいざ戦闘が始まると、あとからあとからこっちに指示飛ばしてきて、それがまたどれも的確祭りなわけだ。寄せ集めの俺たちのパーティーがその日のMVPボーナスまで頂いちまったんだから、全力管制戦闘ここに完成せんとす! ‥‥というわけだ。まだまだペーペーのペーパー守護騎士だった俺と比べて、完全に一流プレイヤーの仲間入りをしていたと思う。。
しかもあとで聞いたら俺より2つも下の高校生で、自分で色々と調べた結果をまとめて攻略サイトの運営までしてるって言うんだから驚きもひとしお祭りだったわけだ。
(それで、そこから仲良くなられたんですか?)
いやまだだ。その時はお互いにフレンド登録はしたけど、その後特に連絡を取り合うわけでもなかったんだ。シロはともかく俺は普通にフレンドもいればギルドにも所属してたしな。
ただやっぱりその若き参謀の事はきになってて、運営してる攻略サイトを見に行ったりはしてたんだけど、そこで実に興味深い記事を見つけたんだ。
(興味深い‥‥ですか?)
ああ。とても興味深い。
ミノリちゃん、エルダーテイル時代の視点の位置って覚えてるかい?
(視点の位置というと、キャラクターを上から見下ろすような感じでしたよね)
そう。普段はそれで自分と自分の周りを把握することができたんだけど、これが壁際に追い詰められたときなんかはそうは行かないんだ。カメラが急に極端にキャラクター寄りになったり、いきなり逆向いたり、下から見上げるような視点になったりな。
多分敵に追い詰められて視野狭窄に陥ったりするなんて状況を表現したりしてるんじゃないかなと思うんだけど、ピンチの時にこうなると結構あせって操作をミスったりしちゃうわけだ。
で、その記事っていうのがその視点移動の考察だったわけだ。どんな形状の壁にどんな角度でどれだけ近づくとどんな方向にカメラが向くか、なんてのがそりゃ細かく書かれていたんだよ。俺が視野狭窄の表現だと思って諦めていた視点移動を逆に有効活用できないか、なんて実験までしてたんだ。
それを読んで俺は思ったわけだ。「この仕組みを完璧に身に付ければ、女の子たちのおパンツがのぞき放題祭りだ」ってな!
まてまて、小太刀をしまいなさい。いくらここが戦闘行為禁止区域でないとはいってもいきなり刃物はいけない、え、ちみっこがいいって言ってた? ダメダメ、そんな乱暴を真似してはいけない祭りだぜ。ここからが話の佳境なんだから。
シロのその考察記事を徹底的に読み込んで、いついかなるときでも自由に視点を移動することができるようになった俺は、ついにとあるレイドイベントの時、計画を実行に移すことに決めたわけだ。ターゲットは同じパーティーのやたら露出度の高い装備の盗剣士。その時偶然にもシロが同じパーティーにいたんだ。
前回よりもさらに磨きのかかったシロの全力管制戦闘。俺も以前の紙守護騎士のころとは違う、一連の視点移動の修行で培った操作技術で俺たちのパーティーは前回にもまして好調にイベントを進めていた。
そしてレイドボスの最後の一撃を受け止め、盗剣士が背後から飛び出しとどめの一撃を叩き込むその瞬間、俺は自キャラの位置を半ドット壁際に寄せ通常の見下ろし始点から、見上げ視点に視点変更し、スクリーンショットのボタンを押そうとした瞬間、突如俺の部屋に入ってきたねーちゃん‥‥姉貴がこういったんだ
「なおつぐー! ご飯だっていってるでしょ! あーあー、またそんな女の子のパンツ見るようなゲームやって、かあさんに言いつけるわよ」
‥‥ってな。
姉貴の馬鹿でかい声はマイクを通してターゲットの盗剣士にも聞こえちまって、またそいつがでかい声で「えー! 君、私のキャラのパンツ盗撮したの!?」なんていうもんだからその時の攻略メンバー全体に聞こえちまって、ああ、俺のエルダーテイルはここで終わるーなんて思ったわけよ。
その時詰め寄ってきた盗剣士を押しのけててシロのやつがこう言ったんだ。
「やっぱり! 後ろから見ていてもしかしたらって思ってたんですよ! 直継さんもしかして障害物との距離を計算して意図的に視点移動を起こして戦闘を有利にしていてるんじゃないかって! 僕も最近視点移動について色々実験と考察をしていたんですけど、なかなか実戦で自在に動かすようにはなれなかったんですよ。守護騎士としていかなる状況でも冷静な行動ができるだけじゃなくて、本来不利なはずの機能を有効活用するだなんてすごいや!」
ってね。
◆
語りを終えた直継は、手元のお茶を一口飲んで喉を潤した。
「あの無口な腹黒メガネが興奮してしゃべってる! なんて話になっておパンツの件はうやむやになったおかげで、俺はこうしてまだエルダーテイルを続けているってわけだ」
目の前に座るミノリはやや顔をうつむけ、その表情は読み取れない。ペンを持つ手はやや震えている。
「まーようするに何が言いたかったかというと、おパンツは無理やり見てはいけない祭りということだな!」
話の締めを待っていたかのように、直継の眼前に突如小さな影があらわれ、その顔面に膝を叩き込む。
「バカ継‥‥貴様最低だ最低だとは思っていたが、いたいけな中学生女子に対して白昼堂々とセクハラかますとは落ちるとこまで落ちたな! そこに直れ! 私が引導をくれてやる!」
「うわっ! まて、まてちみっこ!」
「ちみっこゆーな!」
「こんなところで本身はよせ! ダメ! アサシネイトはダメ! 絶対! てゆーかお前いつから聞いてたんだ!」
「うるさい! その息の根、今ここで止めなくては!」
「わかりました!」
顔を上げたミノリがそのままの勢いで立ち上がる。その目はキラキラと輝き、こぶしは固く握られている。勢いに圧倒されたアカツキの小太刀は軌道をそれ、直継の前髪を数センチ切り落とすにとどまる。
「信頼とは得ようとして得るのではない! 自らを磨き、スキルを身に付けることによって相手に感じてもらえということですね! 直継さんはそれを私にもわかりやすくするためにパンツにかけて話をしてくださったんですね」
「そうなのか!?」
「すばらしい! そこまで分かればもう俺が教えることはない。ミノリちゃん、君はおパンツ皆伝だ! 今後も精進したまえ!」
「はい! ありがとうございます直継師匠!」
「ちょっとまて、本当にいいのか!? 大体パンツ皆伝ってなんだ!?」
困惑するアカツキを一人共有スペースに残し、今日もアキバの日は暮れる。
厨房からは夕餉の支度のよい香りが漂ってきた。
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