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村長一家とご対面。まだ村長には会えてないけどっ!

 料理もほぼ作り終え、大体出来上がった頃、にぎやかな人の声がした。どうやら、手伝いに出ていた子供たちが帰ってきたようで、ナシュが料理の手を止め、二人を連れて行く。

 台所から、すぐ隣へと連れていかれたのだが、ここはこの家の食卓だろう。ミィルやデュークと同年代もしくは年上であろう、男女が四人いた。男三人の女一人だ。皆手拭いで汗をぬぐっている。


「みんな、お客さんだよ。二週間ほど滞在するそうだから、頼むよ」

「よろしくお願いします。ミィルです」

「デュークです」


 ぺこりと頭を下げてそういえば、一番体格がよく、大柄で、日に焼けた男が破顔する。


「おう、よろしくな。俺はダンって言う。こいつは俺の妻でラフィ。そっちの短髪のが弟のコウ、髪結わいてるのが末っ子のジウだ」


 ナシュもそうだが、妻のラフィを除いて皆亜麻色の髪をしている。ダンも短髪だが、弟二人は体格が僅かに細い。日に焼け、まだ幼さが見える瞳をしている。

 ダンの妻であるラフィも、綺麗に日焼けしており、髪は黒いが僅かに緑がかっているようだ。農作業をするためか、化粧はしていないようだが、健康的に日に焼けた肌はとても綺麗だ。そんなラフィも、デュークを見るなり目を驚きに見開いた。


「こっちは大体終わったから、二人はここで休んでいてちょうだい。今お茶持ってくるから」

「ありがとうございます。でも、ちょっと…デューク」

「分かってる」


 ナシュの言葉に、ミィルとデュークは目で会話する。とはいえ、いつもの事で互いにわかっている事なのだが。

 デュークは返事をすると、すぐさまドアから出て行ってしまう。


「どうかしたのかい?」

「グラスを用意しに行きましょう?」

「それは、構わないよ。でも」


 ナシュはただ困惑するばかりで、その部屋にいた四人も同様だ。それでも、ミィルににっこりと微笑まれては、その美しさに目を奪われて呆然とする男たち。ナシュはその微笑みに魂を抜かれたかのように、言われるままに台所へと移動した。

 台所からグラスを人数分持ってくると、デュークもちょうど戻ってきた。その手にはガラス製の容器がある。その容器を…ピンク色の液体が満たしていた。冷えているのか、ガラス容器の周りは白く露がついている。


「それは?」

「この村にくる途中の森で手に入れた果実を摩り下ろしたものです。なんの果実なのかわからないのですが、ご存じないですか?」

「知らないねぇ・・・実を見てみない事には」


 その言葉にその通りだと苦笑をこぼし、デュークは用意されていたグラスに注いで行く。ミィルが果実の特徴を話して聞いてみるが、やはり知らないようで、ほかの者たちも、同様に首を振る。

 二人は、森まで馬車で一日以上移動することと、魔物の住処になっていること、また森の奥にしかなかった事から、極限られたあの場所にしかないものなのかもしれないと考えたようだ。


「お口に合うかわかりませんが…どうぞ」


 人数分注ぎ、二人とも席に着けば、ミィルとデュークの二人は別として、全員が恐る恐る口にする。けれど、口にした次の瞬間には、驚きに目が見開かれ、ごくごくと飲み干す者と、グラスから口を離してしげしげとそのグラスを見る者と、反応は様々だ。


「すごく甘くておいしいですね」


 思わずといった風にそう言ったのは、ラフィだ。やはり女性は甘いものに目がないのは共通事項のようだ。

 とはいえ、男性陣も飲み干している事から、気に入ったようではあるが。


「これはどこで採れたんだ?」

「村にくる途中の森の中で見つけました」

「俺たちは村から出ないからなぁ。親父とか、後は…よく村の外に行く自警団の連中なら知ってるかもしれないな」


 ダンが果実について気になるようで、ミィルへと質問をした。ミィルがそれに答えると、村人で分かりそうな人に見当をつけたようだ。ただし、ダンはその人たちで分からなければお手上げだと言って、笑ったが。

 デュークは空いたグラスにお代わりを注ぎ、自身もゆっくりとそのジュースを味わう。果実だけを食べた時よりも、甘みが感じられない事から、冷たく冷やす、または液状になると甘みが感じられなくなるのかもしれないと思ったようだ。

 後で、この感想をミィルに伝えると、いろいろと調味料が加えられて、より美味しい飲み物へと変わるのだが、それはまた別の話。


 ナシュだけの時より人数が増えると、それだけ話題や聞きたいことなどが増えて、二人は質問攻めに会う。

 まず、二人の関係。これはナシュにも言った事なので割愛するとして…弟二人はミィルの旦那や恋人がいるのかが気になるようで。


「あ、あの、ミィルさんは、お付き合いしてる人とかいますか?」

「え? うふふ…いたら弟とこんな生活できませんよ」


 ミィルは、にっこりと笑ってそう言う。それを聞いたコウとジウは大変喜びがあふれたような顔になるが、デュークはあきれたような、憐れむような、そんな顔になる。


「でも、世界中の料理が私を呼んでるので、旦那はもちろん、恋人もいらないんですけどね」

「……」


 天使や女神も裸足で逃げ出すんじゃないかという位の美しい微笑みで、二人の心を木端微塵に破壊してしまう、ミィルである。

 ナシュは、二人の子が意図した質問の意味を分かっており、苦笑いをすると席を立った。食事の仕上げをするのだろう。デュークはそれを視界に入れたものの、先ほど休む様に言われていたので、そのままでいる。


「んん? 世界中の料理って?」


 ラフィさんが、ミィルの言葉から疑問を口にした。まだこの村に来た経緯や、旅の理由を話していないので、わからなくて当然だろう。


「実は、世界中の、その土地ならではの料理を勉強しながら、滞在中の村や街で、ほかの地域の食材を使ったレストランを開いているんです。ただ、村長に許可を頂いてからになりますけれど」

「へぇ。面白そうね。どうしても村の外に出ることができないから、他の地域の食べ物なんて口にできないし。都とかの料理もできるの?」

「材料さえあればできますよ。味付けだけでしたらスパイスは日持ちしますし、大量に保存してますので、どうにかなります」

「わぁ、いいわねぇ。若い頃はやっぱり都会に憧れてたから、綺麗なカフェで、ケーキとお茶を楽しみたくて」


 若い頃、なんて言っているラフィだが、まだ十分若い。ミィルは粉などの材料と、この村でも取れる茶葉があれば、今後継続してカフェでお茶気分を楽しめると考えたようだ。また、都会の雰囲気をセッティングすれば、夢を叶えることは可能だ。

 ―――――伊達に、カフェで働いていた訳じゃない。小さなカフェだったけれど、落ち着いた雰囲気があり、内装もセンスがあったその店で、いろいろと感性も磨かれている。


「後は…この村で採れる野草とか、スパイスがあれば、新たな料理も作れるんですけど…あとは特別な材料、とか。それに関しては、今はヒミツですけれど」

「まずは村長の許可を取ってから、ですね」

「料理なんて食えれば良さそうなもんだけどな」


そんな、実も蓋もないことを言ったのは、ダンだ。だが、ラフィがぴくりと反応した。


「美味しい物を好きな人に食べてもらいたいっていう乙女心がわからんヤツめ!」

「わっ! ちょ、待てって。お前の料理は旨いって! いつも言ってるだろ!」


 なんだかんだと、二人の仲はいいようだ。一見惚気のように見えるその喧嘩は、すぐにダンの一言で収まってしまう。


「…まぁ、農作業に人手がいるからね。手伝いに駆り出されて、めったに作れないんだけど」

「うふふ。一人分なら、すぐ作れる物もありますよ」

「本当? ぜひ教えてちょうだい!」

「軽い物ですので、小腹が空いた時はもちろん、お酒のおつまみにもいいですよ。手が空いた時に教えますね」


 料理の話になると、男三人はダンマリだ。先ほど台所にデュークが入った時の話が思い出される。男は台所にめったにはいらない、と。

 ただ、口は挟まないけれど、ミィルの事は気になるようで、弟二人は聞き耳を立てている。一方デュークは、ミィルのいうレシピに当りをつけ、必要な材料を思い出す。


「ミィル姉。もしかしてタタン焼き?」

「ん、そうよ。何か問題あったかしら」

「香草、どうするの。乾燥させたものならあるけど、タタン焼きでは生の物を使うじゃないか」

「ほかの物を使うわよ。乾燥させたものがあるなら風味はなんとかなるでしょう? それに、ここら辺でも採れるかもしれないし、近いものが見つかるかもしれないもの」

「ならいいけど。じゃあ明日はいつも通り周辺を探索だね」

「あ、じゃあ案内するよ!」


 聞き耳を立てていたコウが、すごい勢いでそう言うと、ふとミィルは少し考えるそぶりを見せる。


「農作業の手伝いは、大丈夫なのですか?」

「…過渡期じゃないから何とかなると思う。それに、多少この土地を知ってる人がいたほうがいいだろ」


 食べられる野草とかわかるし。続けて言われた言葉に、ミィルとデュークは顔を見合わせた。実際、収集する時は、その野草が食べられるかだけが問題であり、すでに食べられている物を収集するわけではない。

 だが、元々使われている野草があるなら、分かっていた方がいいのは確かではある。


「じゃあ、お願いしてもいいかしら?」

「ああ、任せてよ」


 ほくほくと嬉しそうなコウに対して、ジウは悔しそうである。いくら、恋人はいらないと言われたとしても、気になる子の傍にいたいと思うのは当然だろう。


 その後は、夕食を摂りながら、いろんな会話が続けられた。やはり旅で立ち寄った他の場所も気になるらしい。商隊が来るので、全くの無知と言う訳ではないのだが、全く知らない話題よりも、共通の話題のほうが盛り上がるからだろう。

 また、二人で旅をするという事は、自衛はどうしているのかという話題にもなる。デュークが剣の腕はもちろん、弓や魔法も扱える事を言えば、ちょっとしたヒーロー扱いだ。

 一応小さな村故に、魔物への対処が必要な為、男は幼少の頃から武器を持って戦える様に訓練しているそうで。大体が親から子、または自警団を努めるような強い人から教わったりしているらしい。ダンはその体つきからも分かるように、剣の腕もいいらしく、デュークへと少し手合わせをお願いしていたりする。


 食事が終われば、ミィルとデュークは先にお風呂へ入るようにと促された。ミィルが先に入ると、その間はデュークがその一家に囲まれている図になり…


「いいよなぁ。あんなキレーな姉ちゃんがいて」

「…身近すぎてあまり実感が。そういえば、ご兄弟は男性だけですか?」

「そ。兄ちゃんに嫁が来てくれたから、姉ちゃんて言えばそうだけど」

「これでも村一番の美人、なんていわれてたけど、ミィルさんには足元にも及ばないわ」


 机に突っ伏すように項垂れてしまったラフィ。ダンはそんなラフィの背中を撫でながら、


「顔だけに惚れた訳じゃねぇ!」


 と、力説していたりする。


「二人はいつもこうなんだ。こっちはいい迷惑」

「仲がいいのは、良い事ですよ」


 ジウはうんざりといった風にそう言うが、この言葉には歳相応のひがみも入っているのだろう。デュークがやんわりと諭すと、しぶしぶといった様に肯いたのは、やはり自分でも分かっているからだろうか。

 ただ、その遣り取りを見ていたダンが、そらみろとばかりに一層のろけ始めてしまい、皆苦笑してしまったのだが。



 デュークも風呂に入り、村長一家もそれぞれ入り終えた頃、次々とご近所さんがやってくる。皆風呂に入りに来たのだ。

 四家族、二十人が集まり、結構な人数だ。皆一様にリビングへと顔を出し、女性人が先に風呂へ入り、残った男性人はミィルとデュークが始めに通された部屋―――応接間でくつろいでいる。

 村長宅に旅人がいる事が珍しくないのか、二人を見ても騒いだりせずに挨拶を交わした。皆、年齢がお年寄りや壮齢という事もあるのだろうが。

 ただ、一人だけ小さな女の子がいたが、人見知りする性質なのか、母親の影に隠れてしまったが。

 そして、ご隠居といわれる、いわゆる村長のご両親もこの時に会った。村長を息子へと渡し、悠々自適な生活をしているのだとか。そして、村長をしていただけあって、ユーモアもあり、ミィルとデュークが嫌にならない程度に他の家族へ橋渡しをしてくれた。



「この村はいい村ねぇ。おおらかで」

「そうだね」


 二人は離れへと案内され、同じ部屋にベッドが四つ配される部屋に通された。二つのベッドにカバーなどが整えられ、そちらを使うようにと言われ、今はそのベッドへ横になっている。

 いつも旅人は大人数であるため、この様に四人部屋がいくつかあるのだとか。その一室をこうして使わせてもらい、明かりを消してベッドへ横になると、そんな会話をする。


「魔物の被害があるみたいだけど、今のところ何とかなってる様に見えるわね。デュークはどう?」

「この村の周囲に、少し魔物の反応があったけど…夜行性なのか、それとも害のない物なのか、見てみない事にはわからないね」

「そこら辺も含めて、明日は探索しましょうか」

「それはいいけど、コウは大丈夫かな?」

「そうねぇ、訓練はしてるみたいだけど…一応結界石を持って行くわ」


 そう、いつもの様に作戦を立て、二人は眠りへとついた。

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