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まずは村の基本的な事から学びます

 ミィルとナシュは一緒に台所へ入ると、ナシュはまず黄色いつぶつぶとしたものをさっと洗い、鍋へと入れた。そして水をひたひたになる位入れて、ふたをする。そうしてかまどにかけた。

 この黄色い粒状の物が、この村の主食だ。


「これは、ココの種ですよね?」

「そうよ。この村以外でも食べられてると思うけど」

「えぇ、一般的ですよね。このままでも美味しいけど、癖がないからなんにでも合うし」

「火加減とかわかるようなら、番をお願いしようかしら」

「はい、任せてください」


 ミィルはそう返事をしたが、つきっきりで見ていなければならないほど、手間がかかる訳ではない。それを知っているミィルだが、お客にいろいろやってもらう事に抵抗があるというナシュの心情を重視した結果だ。


「それにしても、結構な広さがある台所ですね」

「ああ、村で何かあるとこの家を使うからね。大人数の料理を作るにはこれくらいないと」


 パッと見た感じでは、広さは五メートル四方といったところか。中央に作業台があり、壁際に水桶と、かまど、食器が収納されている。床は土間になっていて、掃除の手間が省ける設計になっているようだ。とはいえ、きちんと清潔に保たれている事は、容易にわかる。


「そういえば、二週間滞在だっけ? こんな何もないところに長くいたって、なんにもならないんじゃない?」

「あ、それについては、先ほど言い忘れていたことがあって…実は、私達旅をしながら、その土地の料理方法を調べる事と、レストランを開いたりしたいのです。新しいレシピを作るので、感想をいただきたいというか。村長がお戻りになられたら許可をいただけたらなと」

「なるほど、それでかい。でも、代金がねぇ…」

「食材でももちろん大歓迎ですよ。レストランを開く上で、材料は必要ですからね」


 先ほどお茶しながら聞いた話から、貨幣を使うことは一般的ではない事から、ミィルはそう言う。これまで短い期間の旅中にも、そういった村に滞在したことがある為、そこらへんのやり取りは十分理解しているのだった。


「なら大丈夫じゃないかね」

「よかった。他の地域での料理や食材を使った料理もあるので、お口に合えばいいんですけど」

「そうなのかい? なら期待しているよ」


 ナシュの反応から、掴みはまずまずといった所だろうか。


「ところで気になってたんだけど…あんたのお連れさんの…デュークさん」

「はい?」

「すっごいイイ男だけど、あんたのコレかい?」

「違いますよ。弟です」


 ナシュは、コレと言った時に、小指を立てた。この時代では、小指を立てる=恋人を指す事になっている。

 だが、ミィルは何でもない事のように、弟だというと、ナシュは少し驚いたようだ。


「あんたもキレイだけど、似てないから、てっきり」

「よく言われます。両極端に親に似ちゃったんでしょうねぇ」


 くすくすと笑ってそういうミィルだが、なぜ施設育ちと言わないのか。それには理由があった。

 施設育ちと言うと、どうしても同情され、レストランを行う上で正確な反応がとれないからだ。店に、美味しいからまた来るのと、同情からまた来た、というのとでは、後者はミィルの意図した集客方法ではない。

 ただ純粋に、味を求め、みんなに美味しいと喜ばれる食事を。そして、魔物被害も、食糧難も、貧困もなくなればいい。その考えで、二人は動いているのだから。



「へくしゅっ、くしゅっ…」


 二人がそんな話をしていると、川へ水を汲みに行ったデュークがくしゃみをした。

 デュークは特に気にせず、川から木桶で水を汲んでいく。この村では荷車に空の木桶を乗せて川へ向かい、木桶を水で満たして戻るという方法で、風呂の水を用意するらしい。

 いつも旅の最中に水汲みをしているデュークにとって、なんの苦痛にもならない作業である。二十程あった空の木桶を全て水で満たし、荷車を引いて村長の家へと移動を開始する。

 …いくらタイヤがついているとはいえ、総重量はすごいはずであるにも関わらず、軽々といった風に引いていく。

 道中、出会った村人に、軽く挨拶としばらく村長宅にお世話になること等の会話を交わしながら、戻るデュークである。こんな小さな村ではあっても、年頃の娘というのはやはりいて、根掘り葉掘り聞かれたりもしたようだが。


 村長の家に着くと、家とは違った建物の傍へとその水を運ぶ。この村では、湯殿といって、家とは別に作られており、ご近所の何件かで共同に使っているのだとか。

 確かに、各家で川から水をくみ、沸かすという作業を行うのは重労働だし、手間がかかる為にこうなったのだろう。

 デュークは湯殿の内部へと入り、構造を確認した。内部は全て木材でしつらえていて、身体を洗う場所と、湯船とで別れている。湯船脇の壁に筒状の物があり、それが外へとつながっているようだ。外にでているその場所には、四角い桶のようなものが足付で設置されていた。そして、その一か所に穴がある。ナシュから、水を汲んだらここに流せばいいと言われた理由はこの仕組みがあったからなのだと理解したようだ。


「なるほど、一応楽なようには作られているのか」


 ぼそりとデュークは呟き、その四角い木桶に、汲んできた水をあけると、穴が開いた場所からあっという間に水が湯船へと流れていく。

 湯殿の構造を見るに、入ってすぐの場所は体を洗う場所となっていて、湯船まで距離があるために、入口から運んでいたのではかなりの手間になる所だ。


「水路がないけど、水を汲む労力くらいならなんとかなるか」


 実際に体験する事で、その労力が分かるというものだ。とはいえ、水を汲み、運ぶ作業もかなりの重労働であり、成人男性でも難儀するのだが…デュークの能力のせいで、簡単な(・・・)仕事と認識してしまったようだ。

 水を全て空けたら、今度は火を起こして沸かす作業だ。デュークであれば、本来は魔法でなんとかするところだが、郷に入っては郷に従えという事で、ちゃんと村のやり方に則って行った。

 ―――――施設と同様のやり方だったために、思案することもなく、湯を沸かすことができたようだが。

 この時代では、魔法で沸かすか、木で火を起こして沸かすかのどちらかしか方法がなかったのだから、出来て当たり前ともいえる。


 デュークが湯を沸かし終え、女性二人が和気藹々と料理をしている台所へと顔をだせば。


「お風呂の準備終わりましたよ」

「あ、ご苦労様。水運ぶの大変だったでしょう?」

「いえ、大丈夫ですよ」


 デュークが手を洗い、台所へと入ると、ナシュさんは驚いたように声を上げた。


「ちょっと、あんた」

「はい? あ、入らない方がいいですか?」

「いや、そういう訳じゃ…だけど村じゃ男はほとんど台所には来ないもんだから」

「これでも教え込まれてますから」

「そうそう、基本的な調理方法ならできるから心配いりませんよ」


 世界中旅をすると決めたとき、二人は、ある程度国による生活習慣の違いや、やってはいけない注意事項を本などで調べていた。

 台所には男が立ち入ることを禁じている地域もある。また、ある特定の木の下に立ってはいけないという物もあるからだ。

 この地域ではそのような禁止事項はなかった為、ナシュが上げた声に驚いたものの…なるほどそういう理由かと二人はほっとした。いくら事前に調べていたとはいえ、本に書かれていない事柄もあるのだ。


『入る前に聞いた方がよかったな』


 デュークはそんな事を思いつつ、会話を続けた。ミィルが自信満々に言ったことから、ナシュも安心したようである。


「二人で旅しますからね。私しか料理しないなんて、許しませんよ」

「あらあら。お姉さんがしっかりしてるわねぇ」

「ははは…刃物の扱いは慣れてますしね。味付けはまだまだですが」


 そんな会話をしつつ、この土地の調理法を会得する為、ナシュに言われるままに、食材を切ったり炒めたりを手伝う二人であった。

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