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和解

「こら、デューク! 何をしているの」


 果物の盛り合わせはすぐに出来たのだろう。僅かに聞こえた話と雰囲気から、デュークを叱るミィル。デュークは肩をすくめて見せるだけだけれど、ミィルが来た事で、ほっとしたギルドマスターの二人だった。


「あ、いえ、こちらも手落ちでしたので…申し訳ありません」

「いえいえ、お気になさらず。デザートとして、果物の盛り合わせをお持ちしましたので、どうぞ」


 言いながらも、お茶を新たに入れ直し、今度はミィルとデュークの二人も席に着く。

 持って来たこの果物の盛り合わせも…他の地域の物。この街では簡単には手に入らないが、それでも…この街に来るまでの間の物の中でも、イイモノだ。情報を手にしている者ならば、きっとそれを口に出来る事に歓喜するであろう。

 なにせ―――その果実は、市場に出たその瞬間になくなるという代物だからだ。それでも、値段が釣り上がらないのは…おそらく、二人の事を想う村人達のおかげだろうが。


「これは…」

「こちらがカリム、こちらがライア、こちらがダリアック、ですね」

「おお…この地でコレが食べられるとは」


 説明を聞いて、感嘆を上げたのは、やはり商業ギルドマスターだ。商品を扱うという事から、そういう情報は手にしているのだろう。


「けれど…これは?」


 そう言って、ミィルが名前を上げていなかった果物を示す。それには、くすりと笑うミィルだ。


「名無し、です。先日、この街の近くで見つけた物ですので。どうしましょうね?」

「おお…本来ならば、領主が対応すべきことなのでしょうが、どうしたものか」


 そう、そういった品物は、領主―――村であれば村長だが―――を通した方がいいのだ。確かに、見つけた者がいち早く販売する権利があるのだろうが、そこはこの二人の事。領地の首都であれば、領主、もしくは冒険者ギルドマスターへと報告し、そのどちらかが権利を得ると言う方法を取っている。

 とはいえ、主に街の外、しかも魔物も害獣も出る場所の為、ほぼ冒険者ギルドが請け負う事が主だ。街や畑で育成出来るのであれば、それは領主が統括する様になるが。


「領主が、ああですからねぇ…」

「一応、明日にでも連れて来ますよ。試作に時間が要る様でしたら、他の日に致しますが…そこで、強引にでも食べていただければ納得もするでしょう」

「そうだといいのですけれど」

「大丈夫じゃないでしょうか。だって、ほら…」


 商業ギルドマスターがそう言って、目線で示したのは、この建物の所有者である老人だ。果物を口にして、ため息を零している。―――満足そうな、ため息を。

 それをみた一同は、表情だけで笑って、お茶をしながらしばしほっとした時間を過ごす。


◇  ◆  ◇


「腕は、十分分かった。だが、何故魔物の肉を?」


 食事を終えて、片づけを済ませた後でそう言ったのは、やはり老人だ。その問いには、ギルドマスターの二人が説明をした。そして、補足としてミィルが言った言葉。


「だって、食べられる物がこんなにあふれているのに、もったいないと思いませんか?」


 と。


「しかし、この果物は…?」

「それらは、危険な地域の為に、見つけられずにいただけですね。挿し木や種等で育てば御の字で、そうでなければ…冒険者に頼む事にはなりますけれど」

「危険な地域? それは…お前達が危ないんじゃないか?」

「問題ありません」

「しかし、」

「デュークが居ますから」


 にっこりと笑ってそう言うミィルだが、デュークは呆れた様なため息をつく。


「ミィル姉だって、隠蔽魔法使えば全然気づかれないじゃないか…俺が魔物狩りしてる最中に、呑気に採集してるくせに」


 デュークがそう零すと、あははと笑うミィル。その二人の遣り取りを見て、晴れ晴れとした様な顔で、ふっと笑う老人。


「…今まですまなかった」


 そう言って、頭を下げた老人に、二人は驚いた。だが、ミィルは笑って、頭を上げる様にと言う。


「私からも。このレストランを、今まで綺麗に維持していただいてありがとうございます。銀食器だというのに、全く曇りもありませんでしたし…大切になさっている事は、十分わかります。しかし…そもそも、何故食器まで取り揃えておいでなのでしょうか」


 そう。普通は、建物を貸すのみで、食器などは各々が用意するものだ。料理に合う食器やカトラリーを使いたい料理人もいるから。


「元々、このレストランはわしがやっていたのだ。だが、歳だしな…息子夫婦は居るが、料理はとんと駄目で…仕方なく、な」

「そう、だったのですか」

「だが、料理人だったというのもあって、立地だけで貸してくれと言う、実力が伴っていない者に貸すのも嫌でな。そういうのは、若造に多いもんだから、賃料を高く設定してるのだよ」

「ああ…私達は、御眼鏡にかないましたかね?」

「そうだな。これなら安心して貸せる。これからよろしく頼む」


 そう言って、また頭を下げる老人。ミィルとデュークも、こちらこそと言って頭を下げれば…あとは契約書の取り交わしだけだ。


 けれど。


「そういえば、えーと、ガフさん、でよろしいですか?」

「あ、ああ」


 そう、今頃互いに名乗っていなかった事を想い出し、自己紹介をする。その老人は、ガフ=ミューラーと言う名前らしい。

 それはともかくとして。


「ひとつ、お願いがあるのですけれど」

「お願い?」

「ええ。これから料理を試作するのですけれど、味見をお願いできませんか?」

「味見? そんなのは自分の舌で十分だろう?」

「いえ、やはり変わった物を使いますし、その土地で合わない味付けもあるかもしれません。それに…出来たら、この街での人気料理も知りたいですし。ガフさんが料理人だったという事もありますし…あ。その、秘密にしたいという事でしたらかまいませんけれど」


 料理人は、得てして自分が考え出したレシピを秘匿したがる。それはそうだろう。誰も彼もが作れてしまえば、自分のレストランへ来てくれないから。それでも、遠慮なく聞いてしまうミィルが、図太いのか。それとも、料理教室で教えてしまっているから、麻痺しているのか。


「構わんよ。どうせ、もうわしはもう料理人として厨房へ立つこともないしな」

「ありがとうございます。では、さっそく、」

「ちょっと待って、ミィル姉」


 ミィルは料理の事になると、全ての事を後回しにしてしまう。その為、そうやってデュークが止めに入るのも、いつもの事だ。


「なによぅ」

「何、じゃないでしょう。急な事だし、材料も用意しないと。それに、まだ話は終わってないよ。街の周りで採れたものをどうするのか相談しないと」

「…それは、デュークに任せるわ。材料買って来るから」


 そう言って、呆然とするガフを連れて、ミィルはさっさとレストランを出てしまう。残されたデュークは、ため息をつくばかりで。


「…大変、ですね」

「いつもの事なので、まぁ諦めてますけど。ミィル姉の領域のものもあるのに、どうするんだろ」

「薬草系ですか。でしたら、後日でも。それに…やはり、領主がいませんと…こちらから報告でも構いませんけれど、今の領主がああですからねぇ…」


 そう商業ギルドマスターが言うと、三人とも苦笑を零す。そして、冒険者ギルドマスターがいい事を思いついたという。


「領主を連れて食べさせた後で、生息地などの詳細をお伺いしても?」

「それは構いませんが、それのどこがいい事だと?」

「周りのお客の喜び様と、実際の地図を見て、どれだけの資源があるのかの認識と、それを短期間で収集できる能力を、一遍に見せる事が出来るでしょう? 普通、それだけの事をするには、人員も必要ですし、時間も必要です。それに…危険域は、領主も知っているはずですし…そこへ行って、収集できる能力が分かれば…どんな御方に喧嘩を売ったか、分かるという物」


 冒険者ギルドマスターの言い分に、デュークは思わず笑ってしまう。


「いくらなんでも、言いすぎですよ」

「そうですか?」

「…ま、街一つ、地図上から消し去る事は簡単ですけど」

「………」


 その相反するデュークの言葉に、沈黙する事しかできない、二人のギルドマスターであった。

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