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モルクス村到着ー!

 馬車は順調に進み、モルクス村の門がしっかりと見えるが、門の横からずっと木の柵が張られている。どうやら村を囲っているようだ。そして、その門の横に槍を持った人が二人いることがわかる。


「物々しいわねぇ。結構魔物の被害が多いのかしら」

「どうだろうね。初見の魔物だとうれしいけど」


 魔物は大体が人に恐れられているにも関わらず、魔物を食料としてみている二人にとっては、恐れよりも別の感情が発生するようで、少しずれた事をいっている。


「こんにちは」

「おう、旅人か。初めてみる顔だな」

「えぇ。少し前から旅を始めましたので。ミィルと申します。こちらはデューク。予定はわかりませんが、二週間ほど滞在したいので、よろしくお願いします」

「デュークです。よろしくお願いします」


 ミィルが馬車から降りて、門を守っているであろう守衛に丁寧にあいさつをする。デュークは御者から降りることはせず、そのままではあるが。

 だが、デュークは表面は凪いでいるように見えて、人の気配や家屋、村の雰囲気をつぶさに観察していたりする。


「結構滞在するんだな。この村には宿なぞないから、いつも村長か、長老の家に泊まってもらってるがそれで大丈夫か?」

「はい、大変ありがたいです。恐れ入りますが案内をお願いしても?」

「ああ、ちょっとまってくれ。ここを離れるわけにはいかんからな。そうそう、今村長が領主様の所に行ってていないんだが、奥様がいるから心配せんでいい。…おーい、ダニー!」


 確かに、魔物がいつくるかわからない状況では、安易に門を離れられないのだろう。デュークほどの探知能力は、一般的ではないどころか、本来であれば王宮に居るべき能力だ。

 衛兵は村長が居ない事などを説明しながらきょろきょろと見回すと、少し離れた場所にいた少年を呼んだ。年の頃は十歳位だろうか。そのダニーと呼ばれた少年は、背中に刈り取ったであろう穀物を背負ったままこちらへと来た。


「お客? 旅人?」

「旅人だ。村長の家まで案内してくれ」

「はいはい。あとでお駄賃くれよな」

「ったく、ちゃっかりしてる…」

「へへっ…で、この二人?」

「ミィルとデュークです。よろしくね」

「オレはダニーよろしくな」


 簡単に挨拶をして、ダニーはデュークの隣に座る。この方が案内がしやすいからだろう。ミィルは馬車の中で何やら作業をしているようだが。


「あんたたちはどこから来たんだ?」

「ケーシュから。その前はダボイ」

「へぇ。ダボイにも行ったのか。じゃああれはもちろん食ったよな? モルモルの丸焼き」

「……」


 モルモルの丸焼き。そう、虫の丸焼きのことだ。この村に来る直前にしていた話題が出るなど思ってもいなかったのだろう。デュークは思わず沈黙した。


「うくくくく…あれは結構ショックだよなー。うちの村にも珍味で大好物だっていう奴いるけどさぁ、と、そのさきの藁山の手前を右な」

「了解。ダニーも食べたのか?」

「いや、あれ結構いい値段するんだよ。だから家じゃ手が出ない」

「そう、か。ダボイでは普通に食卓に並ぶほどだったんだけどな」


 その土地の物が、遠く離れた場所では高値になるのは仕方のない事だろう。輸送費や保存に手を焼くのだから。ダボイからモルクス村までは、山を迂回しなければならず、直線距離では近いものの、実際に移動する距離が遠い為に値段が跳ね上がるのだろう。

 この村はそう広くはない為、そんな話をしているうちに村長の家に着いた。


「ここが村長の家。じゃあな」

「ああ、少し待て。ミィル姉?」

「はいはい、お待たせ。ダニー君案内ありあとうね。これどうぞ、食べてみて」

「え? 何これ?」


 馬車の御者席側のカーテンから現れたミィルがダニーへと渡したもの。澄んだガラスの椀に盛られた白い塊は…冷や菓子だ。


「まぁ、食べてみろ」

「うん。いただきまーす」


 そういって、受け取ったスプーンでそれをすくって口へと運ぶ。と、途端にダニーの顔がびっくりしたような顔になり、次の瞬間には笑顔になる。


「なにこれ、すっげーうまい!」

「案内してくれたお礼。ありがとう」

「いや、それはいいけど…これって何? 何処で買えるんだ?」


 ダニーはきらきらとした顔で、ミィルに詰め寄る勢いでそう聞く。ミィルはうれしそうに笑うだけだが、デュークがそれに答えた。


「まだ売り出していないな。旅の途中で手に入れた食材で作った物だから」

「え、なにそれ、すげー! こんな美味い物作れるのか!」

「喜んでもらえてよかったわ~作り手冥利に尽きるっていうか」

「すげー! ねぇちゃんが作ったのか!」


 大層喜んで気に入ったようで、ぺろりと平らげたダニーに、ミィルは滞在中、レストランを開くから食べに来るといいと宣伝をし、別れた。


「うふふ。まずはお客さんゲットだわぁ」

「そうだね。でもよく聞いてたね。あれを出してくるとは思わなかった」

「美味しいのは美味しいのよね。見た目がちょっとアレなだけで。材料をダニー君に教えたらどんな顔するかしらね?」


 意地悪そうな顔で笑うミィルだが…先ほどの氷菓子は、ダボイで取れたあの虫―――モルモルの身と、メェメェの乳を混ぜて凍らせたものだ。ダボイでは焼いたものをそのまま口にしていたが、その外殻をはずし、クリーミーな身だけを使い、氷菓子としたのだ。

 このように使えば、もっと使い道も広がるし、販路も広がるという考えもあるようだが。


 ともかくとして、ミィルは村長の家のドアを叩く。出てきた壮齢の女性に、馬車を停める場所を案内してもらい、馬車を停めた後で家へと上がった。

 馬車を停める所もだが、家は木造一階建てでありながら、広く作られている。村の会合にも使われるのだろうか?入り口は土間になっているが、奥に入れば地面が板張りの床になっている。


「土足のままどうぞ」

「はい、失礼します」

「失礼します」


 壮齢の女性にある部屋へと案内された。大きいテーブルに椅子が配置されている部屋だ。


「こちらでちょっとまっててね」

「はい」


 返事をすれば、ぱたぱたと慌てたように出て行ってしまった。小さな村だからか、手伝いはいないのだろう。

 デュークも、気配からこの家にいるのはあの壮齢の女性のみだと分かっているようで、ミィルに伝えている。


 程なくして、お茶と菓子を持って戻ってきた。

 

「ようこそモルクス村へ。今村長の夫が不在で申し訳ないわ。私はナシュよ。何もないところだけど、ゆっくりしていってね」


 お茶と菓子を出してそう言ったのは、村長の奥さんだったようだ。ふっくらとしたふくよかな顔で、にこにことする顔はとても人好きのする顔であろう。子供も居るらしいのだが、この時間は村の作物の収穫の手伝いに行っているのだとか。

 そうして、二人はそれぞれ名前を言い、会話を続ける。


「お世話になります。こちらこそ、そんな時に来てしまい申し訳ないです」

「いえいえ、そんな。こんな小さな村ではいつもの事ですよ。いつもなら今日か明日にでも戻ってくるのですが」


 その言葉にデュークが小首をかしげた。

 そう、あの途中で出会った壮齢の男性が村長だったのではと気がついた。見た目だけで判断になるが、歳も同じくらいのようだし。


「モルクス村は、商人や旅人は結構来ますか?」

「そうねぇ、月に一度、行商に来るわね。旅人はその時にもよるけれど、そんなには多くないわ。主要街道ではないですから」


 来ても年に数回かしら。その言葉に、あの男性が村長の可能性が上がる。

 あの街道の魔物事情をよく知っている事と、二人に魔物が出ると注意をしてくれたことからも、その事が窺える。


「もしかしたら、村長とお会いしたかもしれませんね」

「デューク?」

「ほら、ケッチャーの事を教えてくれた…」

「ああ、なるほど。言われてみれば」


 二人でそんな話をしていると、村長の奥さん―――ナシュは、少し心配そうな表情をする。


「あの人は元気でしたか?怪我とかしてませんでしたか?」

「えぇ、どこも大丈夫でしたよ。明日にはお戻りになるのではないでしょうか」


 そのあと、魔物を狩る事から、少し街道で待ってもらった事などを話せば、安心したようだ。

 そうして、この村の事、商店はあるのか、生活様式などを聞く。この村は百数十人未満で、家屋数は一五だそうで。村の周囲が木の柵で囲われているが、畑も囲われているのは、やはり魔物により畑を荒らされる事を防ぐためだろう。

 商店はなく、月に約一度来る商隊がその役目をしているのだそうだ。貨幣はなく、商隊でさえ、穀物や肉などを代金替わりにしているようだ。また、物々交換のほかに、物品を貨幣に交換もしてもらえるようで、全く貨幣を扱わない訳ではないようだ。

 特産品といったものはないものの、森がそばにあることから、薪も取れるし、気候も温暖な事から穀物や野菜、家畜なども手広く生産しているようだ。


 ある程度話を聞くと、部屋の準備をしてくると言って、ナシュは席を立った。


「ここは食料に不自由はしてないみたいね。生産の脅威としての方が強いかしらね」

「そうだね。門を守っていたのはこの村の人かな? それなら自警もちゃんとできてるみたいだね。もう少し見ないと分からないけど、簡易にできる所がないか調べるよ」

「それはいいけど、デュークの力量で判断しないでよ~?」

「う…わかってはいるんだけど、ね」


 二人はただ移動レストランを開くだけではなく、こういった対魔物の知識なども教えて回っていたりする。二人が魔物を狩る上で、学んだ知識を伝授しているに過ぎないのだが。ただ、デュークの力量が一般とは違い、大変抜きん出ているため、教えた事が実行できないという事がよくあるのが難点か。


「調味料とかはどうなのかなー?海から遠いけど…塩はあるかしら」

「どうだろうね。商隊は来てるみたいだしあるんじゃないかな」

「そういえば、レストラン開いていいか聞いてないわ」

「村長が来てからでもいいけど…でも食事作る時に台所に立つんだろう?」

「そうね、その時に少し話すわ。村長が戻ったらまた話せばいいわよね」


 そんな予定を話していると、ナシュが戻ってきたが、やはり一人という事でやるべき事があるのだろう。幾分申し訳なさそうな表情で、ナシュは口を開く。


「お客様の相手もしないで申し訳ないんだけど、食事もそろそろ準備しないと…」

「あ、お手伝いします。力仕事があればデュークを使って構いませんから!」

「そうかい? でも、そうはいってもお客様にそんな事は」

「大丈夫です。と、いうか、この地方の料理方法を知りたいので、お願いします」


 ミィルがそう言うと、ナシュは笑って手伝ってもらう事にしたようだ。けれど、ナシュは力仕事に関して困っているようで、ミィルは助け舟をだす為に、口を開く。


「…ここは風呂ありますか?」

「え? えぇ、あります」

「まだでしたら、水を汲んできますが」


 この時代では、王宮以外は水路などないため、水を汲む必要がある。家に井戸があればまだいいほうで、川まで汲みに行く事がほとんどだ。


「そんな重労働をさせるわけにはいかないよ」

「大丈夫ですって。力だけが取り得ですので」

「…ミィル姉…」


 この言い分に、デュークはがっくりとしている。力以外にも、魔法も規格外なのだが…。


「くすくす…じゃあ、お願いしようかしら」

「はい、お任せください」


 ミィルとデュークはナシュに案内され、井戸の場所や風呂に使う川の場所を、まず案内された。そうして、ミィルは晩御飯作りの手伝い、デュークはお風呂の用意と、それぞれ作業をする。

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