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幻を身に纏う

「お久しぶりです。けれど…どうしてここに?」


 ミィルがそう言うのも、無理はないだろう。先ほど、率いる商隊で一番大きい物と言っていたのだ。いくら商会が同じだとしても、モルクス村で会った、馬車一台だけで移動販売をしていたこの商人がいるとは思わない。


「たまたま商会に居た時だったので。それで、今回は荷物を多くする必要があるのだといって…協力要請されて…それに」


 実は、商会のボスが、爺さんで。そう言って困った様に笑う。二人を逃がす為に必要なのだと言われて、慌ててこちらへと来たのだとか。


「けれど…一体どうして逃げる様な事が…?」

「誤解というか、手違いというか…ギルドが尽力してくれるという事なので、解決まで少し街を離れる事になりまして」


 商業ギルドが、どこまで説明したか分からない。また、その商会のボスである、お爺さんが、どう言ったのかも分からない為、言葉を濁してそう言うしかない。

 それを分かっているのか、それとも商人だからか。深くは聞かず、どう合流するかを話し始めた。


「今、そちらの街道から来たと思いますが…その街道を使って、門まで行きます。最後尾を走る、私が動かしている馬車の後ろに、入ってください。ここから出る時には木が邪魔して見えませんし、二列で走りますから、他の馬車で反対側からは見え難いでしょう。合流した後で、他の馬車がスピードを落として、列の真ん中になる様に隊列を変更していきますが、私の馬車に着いて来て頂ければ大丈夫ですから」

「わかりました。ありがとうございます」


 ミィルがそう答えると、デュークが困った様な呻きを上げる。どうしたのかと、皆の視線がデュークへと集まると、デュークは、ああ。と呟いて笑う。


「御者をするのに、見た目をごまかす為に髪でも染めた方が―――」

「駄目よ」

「…ミィル姉?」


 間髪入れずにそう言ったミィルの目が…空を泳ぐ。ふらふらと視線が定まらないが…デュークはふと頭を下げ…膝を折る。


「分かった。染めないから、幻術、お願いしても?」

「…それならいいわ」


 言いながらミィルの前に跪くと、そのデュークの頭に、ミィルの目線が固定された。そして…ミィルは腰のベルトの内側を探り、小さな、小指ほどのビンを取り出すと、その封を開ける。

 そうして、その瓶を、デュークの垂れた頭の上で逆さにし、中身を零すと同時に、言葉を発した。


「散。現の世と幻の世と。繋げ、結べ、…現せ」


 最初の一言で、水は霧状になった。そして続けられるその声は、まるで歌う様で、耳に、心地いい。けれど…言い終わった瞬間、デュークが、一瞬で変化した。髪は銀髪から黄緑色へ、しかも髪質まで変わっている。少し癖のある感じの髪が、ストレートヘアに。そして、長さも少し伸びて、肩に着く位だ。


「…本当はソレ、あんまり使いたくないんだけど」


 特殊な術を使う際の、媒体になるその水は…聖水だ。入手方法が特殊すぎるソレは、気が付くと、いつの間にかミィルの手に握られているという、なんとも不思議な物。使い方も不明な物だったが、それを使わざるを得ない状況になると、勝手にわき出て来る知識。

 と、なんとも不思議な、ソレ。様々な使い道があるのだが、いつ入手出来るのか分からない為、デュークとしては出来ればとっておきたいらしい。


「まだあるわ」

「……そういう問題じゃない」

「だって、駄目なんだもの。デュークが、分からなくなるから」

「…そんなの、聞いてないけど」

「一回、染めた事あったでしょう。あの時、困ったのよ。本当に」


 顔が変わる訳ではない為、それで分からなくなるような物なのかと、首を傾げざるを得ないのだが、デュークは肩をすくめるだけで。


「お待たせしました。では、お願いしますね」


 二人は、話は終わったとばかりに、商人へとそう言うが…商人も、ギルドマスターも、呆然としていて。


「どうしました?」

「え、や…そ、その…そんな魔法、見た事がなくて」

「あぁ…まぁそうでしょうね。魔法を使うより、髪を染めたり、ウィッグを被る方が早いし簡単ですからねぇ」

「そう、ですけど…」

「とにかく、行きましょうか。街から出てからゆっくりしましょう」


 そう言われては、拒否できるはずもなく。商人は慌てて、入って来たドアから出て行く。


「…流石ですね。話には聞いていましたが」

「どうも、お世話になりました。まだ…お手を煩わせますが」


 二人が呆然としていた理由は別だったが、ミィルがそう言って、頭を下げれば…商業ギルドマスターは慌てて取り繕う。…強引に話を切り上げたのだが、それに気が付いているのか。

 ともあれ、二人とも馬車へと乗り込み、倉庫から出る。そうして…隊列に加わり、無事街から出る事に成功したのだった。

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