料理の事になると猪突猛進かも
「結局、収穫なしかぁ」
「………」
ミィルは宿のベッドへと腰かけるとそう口にするが、デュークはだんまりだ。先ほどの酒場での事が影響しているらしい。
宿に戻った二人は、女将に明日の朝食をお願いし、早々に休む事にした様だ。だが、椅子に座ったデュークはむっすりとした顔をしているだけで。
「んもう…先にお風呂入っちゃいなさいよ」
「…ミィル姉が先入って」
「じゃあそうするわ」
風呂は、大抵宿は大浴場だ。だけれど、大きい街という事もあり、また、そういう街の場合は部屋の値段相応に、部屋に風呂が付いている物だ。そう言う場合は、そういう部屋を選ぶのだが、これもまぁ理由がデュークが良い顔をしないという、なんとも言えない理由からだったりする。
二人とも風呂を済ませ、ベッドへと入る時になって、デュークが強引にミィルのベッドへと入り込む。
「…ちょっと、デューク」
「眠れないから」
「もう…しょうがないわね。最近はなかったのに、どうしたの」
ミィルの問いには答えず、ベッドへと入るデューク。そうしてミィルの首元に顔を埋めて、ほっと息をつくと…あっという間に眠ってしまう。
「…ちょっと、デューク? …まったくもう」
ミィルはデュークのそんな様子を見て、不安になるのはいつもの事。こんな事で、他の女性とお付き合い出来るのかと。けれど、そう考えるとちりちりとするのも…いつもの事。
本当に、この二人は鈍感すぎる。
翌朝、デュークはいつもの様に早くに起き、けれどもベッドに腰掛けたままミィルの頭をそっと撫でて。ミィルが起きるまで、ずっとその寝顔を眺めるていた。
「ん……あ、おはよ」
「おはよう」
「…なに?」
ミィルが起きても、頭を撫でるのを止めないデューク。ミィルは、どうして頭を撫でられているのか分からず、そう問えば。
「…寝癖、ついてた」
「そう…起きるから、手、離して」
ミィルがそう言うと、デュークは手を離す。そうして立ち上がると、ドアへと向かう。
「先に、食堂に行ってるから」
「分かったわ」
その遣り取りをし…デュークは部屋を出、食堂へ。ミィルは見繕いの為に、洗面所へと分かれた。
「おはようございます。姉もすぐ来るので、二人分頂いていいですか?」
「了解。今用意するから、好きな所に座って少し待っててくれ」
食堂へと着いたデュークは、カウンター内にいる男性へと声を掛けた。どうやら年齢から推測するに、女将の旦那だろう。コック服に、大きめの布で頭を覆った男だ。厳つい顔をしているが、愛想のよい表情で受け答えをする様から、それほど怖い印象がない。
空いている席に座るデューク。その食堂には、人は少数だ。やはり客層として冒険者や商人など、朝に活動する者が多いからだろう。前日ミィルが注文制と言っていた事からもうかがえる。
「はいよ、お待たせ! けど、お姉さんまだかい? 別に来てからでも問題なかったんじゃ?」
「いえ、大丈夫ですよ。すぐ来ますので」
料理が出来上がったのか、アツアツの料理が並べられる。そうしながらも、その旦那は心配そうにデュークへと声を掛ける。その心配は、デュークも分かる。けれど、ミィルの気配が部屋を出た位だった為そう言えば、困惑しながらも料理を並べる。
「お待たせ。わぁ、美味しそう!」
「…ミィル姉」
「あ。おはようございます。頂きます」
料理の事に関すると、いろんなものが抜けるのは、ミィルの平常運転だ。デュークが苦笑を零して、旦那へと軽く会釈をすれば、その旦那も美味しそうと言われた事もあってか、料理が冷めるのを嫌ってか、笑って料理場へと戻って行った。
ミィルはすでに、手を合わせていただきますと言って、食べ始めている。デュークも手を合わせてから食べ始める。
「これすごい、卵がふわっふわ。甘くて美味しい」
「こっちのスープも、きちんとダシが出てるね。これにも卵が入ってるから…卵料理が得意なのか、身近な食材なのかな?」
そう、卵料理が大半だ。卵を焼いた物、熱したスープに溶き卵を落とした物、パンにも葉物と一緒に挟んである。それらは同一の食材だが、味付けが工夫されており、皆美味しく食べられた様で、ミィルもデュークも満足そうだ。
「は~美味しかった~」
「そうだね。所で、今日はどうする?」
「そうねぇ…商業ギルドに申請したいけど…あれが結局なんなのか分からないし。商業ギルドでは情報あるかしら」
「商人に関して言えば、情報が商売を左右する場合もあるけど…それとは関係なさそうだし」
「そうねぇ…でも、その前に料理の事、聞きたい」
「はいはい。それは分かってるって」
そんなやり取りをして、カウンター内の様子を窺う。忙しいようなら話を聞くのも躊躇われるからだ。けれど、先程の旦那と思われる男性は洗い物はしているものの、特に料理を作っている様ではなかったため、食器をカウンターへと下げながら話を聞く事にした様だ。
「ああ、そのままでもいいのに」
「いえいえ。とても美味しかったです。あの、少し作り方とか聞いてもいいですか?」
「作り方っていってもなぁ。熱したフライパンに入れて、ガーっと混ぜるだけだよ」
「そうなんですか? 今度試してみます!」
そうミィルがお礼を言うと、デュークはため息をつく。料理の事になると、時々その事しか見えなくなってしまうのだ。
「済みません。俺達、いろんな地域の料理を調べて研究してるもので…ありがとうございます」
「ああ、そうだったのか? けど、なんだってそんな事を?」
「実は、」
「おい、ここにミィルとデュークという姉弟はいるか!?」
いきなり、そう大声で言われて、会話が止まった。その声がした方を見れば、革鎧を着込み、剣を配した男が居た。
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