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旅の軌跡

 契約書を取り交わし、他にもいくつかあった品物も、ミィルは聞いて。香草に関しては、他の物は売りには出していないけれど、家庭料理で使われていたという事で保留にし、木の実に関しては、料理も流通もしていないが、道中で見た事があるという事だった為、こちらも売りに出す事になった。

 ただ、名前をどうしようかという問題が発生した。いくら、香草と木の実との違いがあるとはいえ、木の実にもモルクスと付けてしまっては混乱が生じるからだ。


「木に名前があればいいのですけれど…あの時一緒に行ったのはガッシュさんとコウさんだったわね。どちらか分かるかしら」


 ミィルがそう言うと、まだいたコウは分からないと言って首を振る。コウは村の外に出た回数がほとんどないという事情もあるとは思うが、木の存在自体気が付かなかったと言っていたし、仕方ないだろう。


「ガッシュさんは存在自体は知ってそうだったけど、どうだろうね。明日にでも聞いてみたら?」

「そうね。それでも分からないなら、近くだし、一度確認してもらうのも手かしら」


 それでも分からなければ、適当に名前を付けるか、村長の名前を拝借するか、という会話が成される。いつの世でも、第一発見者の名前が使われたりするからだ。とはいえ、発見したのはミィルなのだが、それは辞退したミィルだった。

 それはそうだろう。この二人の名前を付けるという事になったら、それこそいろんな物が二人の名前になってしまうからだ。



 そうして、それらの話が一段落すると、商人達から様々な質問が飛ぶ。どこ出身なのかや、どんな場所に行ったのかという話が主だ。


「首都カルミラ出身ですか。私はまだ若輩者なので、行った事が無いのですが…噂はよく耳にします。神に愛された土地だとか、守護神が現れたとか」

「神に愛されたというのは、確かにわかりますね。魔物の被害はありますけれど、気候は温暖ですし、災害は発生しませんから。でも…守護神、ですか?」

「ええ。なんでも…五年、いや十年かな? それ位前に、漆黒の瞳と髪を持った若者が、誰も倒せなかった魔王を倒したのだとか」

「…あぁ、ありましたね、そんな事。でも、守護神と言われてるとは。カルミラでは、英雄扱いでしたから…まぁ、同じ事かな」


 苦笑を零してそう言うのは、デュークだ。場所が違えば、その人物を称える言葉が変わるのは、仕方のない事か。


「でも、黒目黒髪も、多くはないですけどそれなりに居ますからねぇ…カルミラでは、ちょっとしたブーム、というか…偽者が街に出没して問題になってましたよ」

「そんな事があったんですね」


 困った様に笑いながら、ミィルが裏事情を言えば、商人たちはけらけらと笑う。商人にも一人二人、一見黒髪に見える茶髪の人がいて、俺も偽者になってみるかなんて笑う。

 それに対して、首都カルミラでは、条例が出された事をミィルは言う。その名を騙って人を騙せば、魔王の巣に放り込むという、なんとも怖い条例だ。とはいえ、そういう手におえない魔物の討伐に、その英雄が駆り出されるのも事実なので、英雄だというならそれ位出来るだろう、してみろという事のようだ。


「そ、それは…ちょっと」

「その条例が出されてからは、ぴったりといなくなりましたけれどね。偽者は」

「でも、その…騙さなくても、見た目で判断されて冤罪、とかは」

「流石にそれはありませんよ。本人が違うと言えばいいだけですから」

「その守護神…あー英雄? が、魔物を狩りたくなくて、違うと言うとかは」

「あ。それは…どうなんでしょうね?」

「流石に、ギルドとか…当人を全く知らないという事もないでしょうし、問題ないんじゃないかな。偽者か本者かの判断を、毎回上層部がひっぱりだされるのが問題だった訳だし」


 デュークがそう言うと、一同なるほどと納得した。そうして、次に話題に上がるのは…何処の街や村に行ったのかの話だ。

 地図があればいいのだけれど。と、前置きして、都市の名前を上げて行く。都市の周りの村々にも行っている事も、もちろん言ってからだ。


「へぇ…首都カルミラから出て、東か」

「ええ。まずは熱砂の都シュミットへ向かおうと思っていまして。近くの街を経由して…今このモルクス村にいるわけです」

「ふむ。しかし、なんだってここに? 距離を考えれば、遠回りになるだろうに」

「それは、全ての街や村を経由するつもりだからですよ」


 そう言うと、商隊の面々は互いに顔を見合わせて、分からないと困惑している。そんな様子を見ながら、デュークは苦笑を零す。


「ミィル姉は、その土地全ての…家庭料理を知りたいんです。だから、どんな小さな所でも、手間でも、経由するんですよ」

「けど、目的地に早く着いた方がいいんじゃないのか?」

「行きそびれたと戻る手間を考えれば、これはこれでいいんですよ。急ぐ旅でもないですしね」


 今はまだ食料が不足してはいるものの、他の物で金品にし、食料を手に入れられているであろうその土地。せっぱつまっている状態ならば、流石にすぐにでも直行したのだろうが、そういう状況ではない事から、ミィルの都合を優先させたのだと説明すれば、不承不承納得する。

 そこからは、経由した街や村での話に花が咲く。どんな魔物を料理したのか、新しい食材はあったのか等だ。


「おそらく、村ではなく領地名でやりとりされるでしょうから…ケーシュでは薬を製作してましたし、ダボイでは氷菓子の一種がそのうち流通するかと」

「薬に氷菓子か。うちでは取り扱わない可能性があるなぁ」

「薬はまだしも、氷菓子は保存庫が必要ですからね。少量だと仕入れの値段が上がってしまいますし…商会などでまとめて仕入れられれば別でしょうけれど」

「そこら辺は、まぁ…うちの頭が決める事だからな。一応、こういう物が出回る可能性があると言ってはみるけど」


 新しい商品は、人気がでなければ別ではあるが、総じて品薄になりやすい。だから、そうなる前に確保出来るならば儲けが増える訳で。良い情報を貰ったと、商人は大喜びだ。

 そんなこんなで、夜が更けて行き…まだまだ聞きたい事があったようではあるが、休む為に解散となった。


「…悪い人でなくてよかったわ」


 ベッドへと入って、ミィルがそう呟く。それにデュークがそうだねと相槌を打つ。商人は、どうしても儲けを重視する為に、契約書を作成しないという場合もある。この小さな村では、そういう事もあるかとおもったが…小さいからこそ、気心が知れているのか、他の要因か。それとも、その商会がまっとうな商売を心掛けているからか。

 商売の機会をうかがう事はあっても、それに見合った他の情報も、二人にもたらした。


「バリュリア領では殆ど名前だけで通用する商会だとは思わなかったけど」

「まだ若いから…見習いというか、力を付ける為に、という事かもしれないわね。大きな商隊になってしまうと、護衛もたくさん必要だし、そうすると護衛を雇う為の目も必要になるもの」

「確かに。護衛を雇ったつもりが、ごろつきとつながってました、なんてことになったら目も当てられないしね」

「ギルドもちゃんとしてるんだけどねぇ。でも、ギルドの目を逃れて、冒険者の風体で話しかける、なんてこともあるもの」


 ミィルがそう言えば、デュークは、ふっ、と笑う。


「それを見抜く事が出来なければ、痛手を負う訳だけど…ちょっと、心配かな」

「私達がどうこうしてあげられる事じゃないわ。…今は、まだ」

「そうだね」


 実際、二人の名前はいろんな方面で絶大だ。けれど、だからこそ慎重になる。影響力が大きい為、自身の名を使う事を許してしまってもいい。けれど、それを悪用されないと言う信用を、まだ築けていないのも事実で。


「また別の村で会うかも知れないし、都市で会う可能性もあるわ。だから、急がなくていい。それに、商会も教育とかしてるでしょうしね」

「それもそうだね」


 そう言って、二人はこの会話を終わりにする。互いにおやすみと言って、眠りについた。

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