やっぱり魔物は食料扱いです
「うおおぉ!」
「やった!」
倒した事で、皆歓声を上げて大騒ぎだ。だが、ここは森の奥。いくらデュークが気配を読んでいるとはいえ、血の匂いを嗅ぎつけられる恐れがある。
その為、デュークは手早くガガコンの血抜きを施し、移動を提案した。
けれど、今回はデュークやガッシュは手を出さず、リーダーを決めて、村へと戻ると言う。
「来た時と同じ様に帰ればいいだろ」
デュークの言葉に、誰かがそう零す。皆同じように、そうだそうだと同意するが。
「皆さんも、少しは気配というか、察知能力があってもいいとおもうんですよね。ですので、訓練しようかなと。村で畑作業している時だって、害獣が出たりするでしょう?」
「そりゃ、そうだけどよ。アンタやコールーさんみたいにはできねぇよ」
「ガッシュさんも出来ませんけど、ああいうのをなんていうんでしょうかね、ガッシュさん」
「俺に振られてもな…」
デュークに聞かれて、困った様に頭を掻きながら、ガッシュは言う。少し考える素振りをし、上手く言えないがと前ふりをしつつ、口を開く。
「生物の息遣い、ていうのかな。動く足音とか、殺気を感じるっていうのか…それを察知するって事か。気配読みより範囲は狭いが、流石に気が付いたら襲われてた、なんてことは防げるぜ」
「狭いって…」
「害獣にしろ、魔物にしろ、狙う時にはそれなりに溜めがあるもんだ。俺達だってそうだ。見つけて、役割決めて、構えて…ってな」
その説明で、なんとなく理解した一同は、とりあえず移動を開始した。とはいえ、森に入るのが初めてという事もあり、村の位置があやふやだったため、進行方向だけはデュークが示したが。
デュークは、手を出さないとは言ったが、気配は読んでいる。もし大群に突っ込んでも、すぐに対処出来る様にだ。
そもそも何故手を出さないと言ったのか。それは自警団の強化の一環で、もしデュランコヌマン等を狩る場合、森での過ごし方として学習して貰いたいという事と、緊張感を持ってほしいという事から。
「この辺で休憩にしましょうか」
しばらく歩き、開けた場所へと出た。下草はあるものの、大きな木が何かしらの理由からか倒れており、偶然開けた場所になっていた。とはいえ、小さな苗木が見える事から、整地なり手を入れるなりしなければ、時がたてばまた周りと同じ状態になるだろうが。
デュークの声で、一同ぐったりとその場に座り込んでしまった。慣れない事と、いつ害獣が出るかとびくびくしていたせいだろう。
「…五十七の韻を現す魔石を目印に、集え。清なる水よ」
ガッシュを除く一同がぐったりとしているが、デュークはいつもの様にその魔法を口にする。ポーチから魔石を取り出したそれを掲げ持ち、魔法を口にすれば、その魔石は空中に浮くと同時に、その周りに水がまとわりつく。
これは、水場がない場合に利用する魔法で、『清水』だ。特に難しい魔法でもなく、冒険者であれば覚えている物だが、いかんせん魔石を使うと言う所が難点か。ミィルがいるからデュークには余り問題ないが、魔石の失った魔力は聖職者でなければチャージ出来ない為、扱いが難しいのだ。とはいえ、チャージで失った気が回復するまでの間に問題が発生しないともかぎらない為、デュークも滅多に使わないのだが、今回は川を探すのも手間だったのだろう。
ちなみに、その魔石を目印に発動する魔法の場合は、その魔石を表す音の数値を唱えなければならない。今回の呪文では、五十七の韻だ。同じ数の魔石もあるものの、桁数がかなり多く、被る事は稀だ。それに、反応するのはあくまでその呪文が聞こえる範囲な為、同じパーティ内で被ってないか調べておけば大抵は問題ない。…二桁、というのは、貴族や王族が持っているというのは公然の秘密だが、こればかりは仕方がない。デュークの能力を封じる為に作られる魔石が、いずれも一桁か二桁なのだから。
それはともかく。この水の塊は、手を突っ込んでも、コップを突っ込んでも、形状が変わらず安定している。そして、水は一切汚染される事もなく、常に綺麗なまま、枯れる事なく、魔石の魔力が尽きるか、解除するまでそのままだ。
デュークはその『清水』の使い方を、ガッシュに丸投げして、近くの地面から枯れ木を探す。それを土魔法で地面を露出させ、そこに置くと火をつけた。
「ちょっとこの火が消えない様に、番してくれますか?」
「あぁ、それはいいけど、何するんだ?」
「コレ、お昼ご飯にしようかと」
デュークの発言に、一同ぽかんとするばかり。先程狩ったガガコンを料理するにも、こんな場所で料理できるのかと疑いの眼差しだ。また、レストランでも食べたものの、それはもう調理されたもので、実際に狩ったその魔物が、本当にあの味なのかと訝しげな表情の者もいる。
そんな周りの反応などどこ吹く風で、腰に付けたナイフで腹を裂くと、内臓を取り出し、木の枝に刺し、塩とスパイスをふると火の回りに立てる様に刺す。身は羽を抜いて、火で焼いてから一口大に切り、これも同様に木の枝に刺して焼く。
ケッチャーの時と同様に、自警団の面々は、ただ眺めているばかり。デュークはどこ吹く風で、生えてる木の小枝を切り出して、いくつもの串を作っている。これは、食べる時に使う為に用意しているのだ。
そんなこんなで火が通り、スパイスと肉の香りが漂えば、食欲には勝てないのだろう、火の回りに集まりだす。それを見たガッシュは、呆れた様な顔をしている。
「もう焼けてますから、どうぞ」
デュークがそう言うと、一同取って、食べ始める。デュークも食べながら皆の口々に上がる感想を、ミィルに伝えようと聞き耳を立てながら、しばしの休息だ。
ガッシュはあれだけじゃ足りないと言い、デュークに害獣の位置を聞くなり狩りに行ってしまった。残された自警団の面々は、話に夢中でそれに気が付いていないのは、幸か不幸か。
話の内容は、ガガコンの目に当て、動きを止めた事が主の話題で。誰が当てたんだと言う話から始まった。
「矢を射ったのは俺だけど、偶然で」
「そうなのか? けど、俺はかすりもしなかったぜ!」
「俺なんかデュークさんに当りそうになったんだぞ。避けてくれたからよかったけど」
「俺も俺も。しっかしうまいこと避けるよな。なんで分かるんだろ」
その疑問の声に、一同デュークを見るが…当の本人は、下草から使える香草を採取していたりする。それを見た一同は、邪魔してはいけないと口をつぐんでしまう。
「ま、まぁ、あれが決め手になったのは事実じゃねぇか」
「そうだけど、とにかく当てようと思って…目に当ったのは、偶然」
「偶然でもいいんです。狙った所と、実際に当った所とで、どうしてそうなったかを考えて、今後に繋げればいいんですよ」
デュークは話自体は聞こえていたので、話に割り込んでそう言うと、一同驚いたようにデュークを見る。デュークは草を蔦で縛って纏めながら、火の元へと座ると、枝を追加して火を強めているが。
「それに、とどめを刺した魔法もよかったですよ。機を読めるというのも、パーティーを組む上でも必要ですしね」
「…そ、そうかな」
話題に上がるのは、矢での話ばかりで、幾分気落ちしていたその人物は、デュークに言われて少し照れたような顔で笑う。それからは、二人をたたえるような状況になるが…
「おう、デューク。ブッキー捕って来たぞ~」
その雰囲気をぶちこわしたのは、ガッシュのそんな声だった。