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掴みはOK?

 開店して、初めてのお客様は、この村に来た時に村長宅まで案内してくれたダニーの一家だった。

 どうやら、あの時の氷菓子が食べたくて家族に何度も話していたのだとか。ケッチャー料理を振舞った時も、それはもう大興奮だったと両親が苦笑していたほどだ。


「うわぁ…どれにしよう。きっとどれもおいしいよなぁ」

「試食もできますので、よろしければどうぞ」

「えっ!? いいんですか?」


 デュークが、ダニーの迷っている姿に助け舟を出せば、母親と思われる女性に驚かれる。デュークはにっこりと笑い、保温機の場所へと案内する。


「好みの物を食べていただきたいですから。癖のあるものもありますし」


 デュークがそう説明すれば、安心したのか表情が柔らかくなった。やはり文字だけでは内容が分からなかったのだろう。

 いくつか小皿に取って席へと戻り、それらの試食からメニューを決め、注文を受けた。


 ダニーの家族は、四人家族だった為に、それぞれほぼバラバラな注文となった。ダニーはやはり、クリームアイスを注文していたし、家族にも進めていたので、四つ注文となった。


 他にも、農作業の合間に来たであろう男性の五人組は、小腹が空いたときにと、料理を食べた後でお土産にダムダムサンドを購入して行ったし、奥様や、デューク目当ての女性たちは、少しお昼の時間を過ぎた頃にやってきて、いろんな料理を注文して、取り替えながらワイワイと楽しんでいたようだ。デューク目当ての若い女性たちは、色々とデュークと話をしたかったようであるが、奥様のパワーに押される形で、あまり話は出来なかったようではあるが。


「このヒレ、王冠になってるのね。この飾りのソース、何でこんなに鮮やかな赤色をだしているの?」

「こちらはカーラントをすりつぶした物を利用しています」

「カーラント? 聞きなれないわね…」

「そう、ですね。カラントという花の名前はご存じですか?あれの根をカーラントというのですが」

「え? あの花の根っこなの? 嘘~! 食べられるなんて知らなかったわ」


 一斉に、奥様達が驚いたように声を上げた。デュークはただにこにこと笑顔のまま頷くだけだ。カラントとは、真っ白で大きな五枚の花びらがつく花である。その根は食用で、真っ赤な色をしているのが特徴である。

 この村ではこのように、食べ物としての名称が知られておらず、他の箇所や用途では一般的だったりと、何故か食に関する事に対して意欲が希薄なようだ。これは、デュランコヌマンを知らなかった事から、魔物に対しても同様だと思われるのだが。


「そういえば、キャシーは料理を教えてもらったのよね? ずるいわ、一人だけ教えてもらうなんて」

「レストランが落ち着きましたら料理教室もする予定ですので、どうぞお越しください」


 僅かに怒ったような、拗ねてみせるような表情で言う奥様の一人。

 それに対してデュークが笑顔を浮かべながら、内心慌ててそう言えば、少し怒るような雰囲気をまとったその奥様も、落ち着いた雰囲気へと変わった。それにほっとして、ゆっくりと説明を始める。


「いつから開始するのか、まだメニューなどの調整が付かない為にはっきりとはわかりませんが、二~三日中には出来るかと思います。ナシュさんやラフィさんにお伝えしますし、こちらでもご案内を表示しますので」

「そうなの? 例えば、今日食べたメニューも教えてもらえるの?」

「えぇ。基本的にレストランで出すものは誰でも作れる様に作っていますので。唯でさえ特殊な素材を使いますので、私達が居なくなったら誰も作れないのでは、料理を広める事ができませんから」

「…それもそうねぇ」


 話が一段落したのだろう。そのタイミングでうまくデュークは奥様達の席から離れる。そうして、馬車のキッチンへと顔を出せば、ミィルは呆れた様に笑う。


「ほんっと、アンタは女性客キラーよねぇ」

「…逃げるタイミングを計るこっちの身にもなってよ」

「ふふ。あとは奥様達にデザートを出すだけだから、今の内にご飯にしなさい。私が見ておくわ」

「ミィル姉は?」

「私はアンタが女性たちにつかまっている間に済ませたわよ」


 ミィルはそういうと、馬車から出るべく移動した。反対に、デュークは馬車に入るべく、出入り口へ。


「サンドウィッチもらうよ」

「えぇ。作ってあるわ。スープは自分でやりなさい」


 すれ違いざまにそういうデュークに、ミィルは心得ているとばかりに返答した。いつも、営業中は軽食で食事を済ませる事が多い為、デュークが何を食べようとするか分かっていたのだろう。ミィルはすでに、それを用意していたようだ。デュークはミィルの返答に、肩をすくめておとなしく馬車に入っていった。

 馬車のオープンキッチンは、中が見える様になっているが、隠れられる場所ももちろんある。そこで休憩するのが、いつものパターンである。


「ミィルさ~ん!」

「はい?」


 ミィルが外にいると、声を掛けてきたのは、年頃の女性陣だ。デザートはもうすでに出してしまっているため、逃げるのが大変そうだと思いながら、テーブルへと行く。


「あの、デュークさんは?」

「今中でちょっとした作業をしていますよ?」

「そ、そう。あの、誰がいいとか、何か言ってませんでしたか?」

「いえ、特にそう言った話は…あ、お茶のお変わりはどうですか?」

「あ、じゃあ…お願いします」


 お茶のカップが空になっていた為、逃げる手段としてお茶のお変わりを強引に進めれば、三人で来たその女性たちは、しどろもどろにそう答えた。ミィルは『少々お待ちを』と、断り、席を離れると同時に、奥様達のテーブルを窺う。

 どうやら、奥様達のテーブルのデザートも、そろそろ運んでも良さそうだ。


 馬車の中へと入れば、デュークはもう食べ終わりそうである。


「誰がいいとか言っていたか、だって」

「ん? …何の話?」

「デュークがあの三人のお姉さんたちの誰かを気に入ったのかっていう話題」

「ないない。それはない」

「ふーん?」

「…なに、嘘でも誰がいいとか言ってほしいの?」

「そういう訳じゃないけど、毎回そうだから心配で」


 ミィルがそう言うと、デュークは何が心配なのか考えているようだ。その思案顔を見ながらも、お茶のポットに茶葉をいれて、お湯を注ぎ、カップの用意もする。

 奥様達のデザートは、シャーベットだ。それらを冷やした器に盛り付けもする。


「前の街でも言われたのよね~美人も、気立てのいい子も見向きもしないって。だから、もしかして男色じゃないかって」

「ちょっ! 誰!? そんな事言った奴は!」

「んー? 誰だったかなぁ。で、ほんとのとこどうなの?」

「そんな訳あるか! 俺はっ…」


 叫ぶように否定したデュークであったが、何か言いかけて、はたと止まってしまった。


「俺は? やっぱり男の子が好きだと気が付いてしまったとか?」

「違う」

「まぁ、どちらでも構わないけれどね。デュークはデュークなんだし」


 デザートも用意も済み、お茶を入れ終わったミィルは、それらをカウンターへ出し、一度出入り口から出ると、盆に載せて運ぶ。

 残されたデュークは、お茶を一息に飲み干し、ため息をついた。


「…伝えて、旅が出来なくなるのは、困る」


 ぼそりと呟かれたその言葉は、誰にも聞かれずに消えた。

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