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開店?

 やはり、この土地でしかできないメニューでなければ許可されないのか。

 二人がそう思い始めた頃。


「…許可しよう」

「! あ、ありがとうございます!」

「あれだけ美味しい料理を、私達だけ味わったのでは、な。村人にも食べさせたい」


 そういって苦笑を零す村長だった。村長のこの言葉から、作った料理が口に合った事、美味しいと感じてもらえたことがわかり、ミィルは嬉しそうに顔に笑顔を綻ばせた。

 そうして、ふとなにか思い至ったのだろう。


「すこし、裏の手ですが、料理の名前に、”モルクス”と付けるという手もありますけれど、そうしましょうか」

「ふむ。例えば?」

「ヨーク豚のモルクス風焼き、とかですかね。モルクス村の香草焼きとか」

「ミィル姉、香草にモルクスってつけてしまうのは?」

「あぁ、それもいいわね。多分あの香草、新種だろうし」

「新種だと?」

「あ、新種というか、まだ流通していないというか。この先の村にも生っている可能性もありますし、使っているものの流通させていないという可能性もありますので…」


 他にも、モルクス村と同様に、食べられると気づいていないだけ、という可能性もある。それらの事も含め、村長と細かな事を決めて行った。



「許可おりてよかったね」

「ほんと、よかったわ。明日はちょっとバタバタしちゃうけど、がんばりましょうね」


 寝る前に、そんな会話をして二人はベッドへと入った。

 村長との会話で、明日のお昼からレストランを開くことに決めたのだ。料金の設定も、この時期に村にある食材それぞれで、村長によって決められたので、助かったようだ。食事のたびに毎回交渉などをすると、それに時間を取られてしまい、他がおろそかになってしまいかねないからだ。

 ベッドに入り、各自考えているのは明日の段取りだ。ミィルは料理に取り掛かる手順を。デュークは馬車の設置とテーブルの設置に関してだ。料理をするには、馬車に入っている魔法石で稼働できるコンロや、水の設置が必要不可欠だからだ。

 何度かやっているとはいえ、やはり村の中での開業という事で、道中のように、灰や炭の跡が残ってしまう簡易コンロを作る訳にはいかないのだ。


「おやすみ、ミィル姉」

「うん、おやすみ」


 声を掛けあい、二人は眠りへとついた。




 翌朝、デュークはいつもの様にナシュの手伝いで水汲みをし、その後で馬車の鞣革袋にも水を汲み、馬車へ入れておく。また、馬車の奥に入れていたテーブルのセットを取り出しやすい位置へと移動させておく。

 ミィルは、ナシュと一緒に朝食を作りながら、空いているかまどを利用させてもらい、仕込みに時間が掛かる煮込み料理を作っている。

 朝食時には、今日から開店する事を、村長から家族全員に知らされた。すると、女性陣は友達に知らせなきゃと沸き立ち、男性陣も畑仕事を手伝っている家や、自警団になどと、それぞれ分担して知らせてこようと作戦を立てている。

 これらのやり取りをにこにこと笑みを刻みながら、ミィルは眺めている。宣伝をしてくれるというのは、大変ありがたい事である。しかもそれが、村長一家というのだから。


 朝食を終え、本格的に準備に取り掛かる。

 デュークはテーブルのセッティングを。ミィルはかまどに掛けていた鍋を、馬車まで運ぶ。


「ミィル姉、セッティング終わったけど」

「は~い。…うん、いいわ。ちょっとまってね」


 馬車内にあるキッチンへ、鍋を運び入れた所で、デュークから声がかかる。そうして、キッチンから顔をだしてみれば、十脚のテーブルが程よい広さで設置されていた。

 やはり、村長宅の庭先という事で、かなりの広さがあるために余裕があるようだ。

 ミィルは馬車から出ると、馬車を含めた中心位置に陣取り、ワードを紡ぐ。


「半径十五メートルに清浄なる領域発動」


 ワードを紡げば、僅かにひんやりとした空気が充満した。だが、それも一瞬の事で、すぐにこの村特有の穏やかな雰囲気へと変わる。


「…範囲が広い気がするけど」

「うーん、そうねぇ。明日はもう少し狭くするわ」


 通常であれば、一番外にあるテーブルから一メートル位の所までなのだが、どうやら目測を誤ったらしい。とはいえ、初めての場所であるから、これも致し方ないのだろうが。


 飲み水や、料理で使う水、手拭の準備などをし、使用した水を補充してしまえば、力仕事や細かい作業が終わったデュークは手が空く。

 手が空いたデュークは、ミィルの手伝いに回る。とはいえ、煮物のアクを取ったり、漉したりする位だ。あとは出来上がった、試食用の食事を保温機に盛っている。

 それらがひと段落すれば、まだばたばたしているミィルに変わり、メニューと金額を黒板に書いて、馬車の上に掲げておく。保温機の各料理にも、分かりやすいように記入すれば、もうそろそろ開店時間だ。


「ミィル姉、そろそろだけど、大丈夫?」

「そうね、大丈夫よ」


 ミィルがそう返すと、デュークは営業中と示す看板を、馬車に掲げたメニューの上に設置した。


「よしっと。あとはお客様が来るのを待つだけ」

「作業の合間に来るみたいだし、ちょっとお茶してゆっくり待ちましょうか」


 ミィルは馬車の中のオープンキッチンから、鍋の煮込み具合を見ながらのほほんとそう言う。すでに用意していたのだろう、カップに注がれたお茶を、苦笑を零しながら受け取ったデュークだ。


 ここで、本日のメニューを紹介しよう。


サラダ:キルキルにケッチャーの胸肉をみじん切りにし、かりっと揚げ、振りかけたもの。

スープ:コッコの骨でダシを取ったスープ。シャロの根元から芽を少し残した形状のものが広口のスープカップに入れられている。

ご飯もの:パンまたはココの種

メイン料理:

・コッコのモルクス焼き:この村周辺で取れた香草をモルクスという名前を付け、その香草と一緒に焼いたもの。香りはスパイシーな香りの中に、木のような香りが僅かにする。

・エンペラーフィッシュの姿焼き:背びれが王冠のように見える魚の腹部分に詰め物をして丸焼きにしたもの。魚体は銀色、背びれ(王冠)部分は金色をしている。ソースで宝石を描き、王冠さながらに見せている。

・ダムダムサンド:ダムダムの肉とシャロを煮て、ペースト状にしたもの。三種の味付けが有り。サンドウィッチなので、持ち帰りも可。

デザート

・ガルダンシャーベット。果物の一種で、橙色の果実を絞り、凍らせたもの。

・クリームアイス:モルモルとメェメェの乳を合わせて作った氷菓子。ただし、モルモルを利用しているのは秘密にしておくらしい。


 今日はこんな所らしい。そのうちメニューを変えて、変化を出すのが、いつものパターンだ。


 さて、村長一家の宣伝の効果はいかほどなのか。どきどきしつつ、お客様を待つ二人である。

短いですが、ちょうどいいので。

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