大漁♪
どんな野草や調味料をつかって調理されたものなのか、またそれらの野草で栽培出来る物は、翌日自警団の人たちに協力してもらう事等を話しながら、ゆっくりと食事を終えた。
村長が口にした事がある物もあったが、村長一家の認識をがらりと変える事に成功したミィルとデュークは、その後収穫してきた物の仕分けや解体作業をしながら、今後の事を相談していた。
「今日の反応を見る限り、結構味の好みはそれ程違いはないわね」
「そうだね。癖のある物とかは分からないけど、慣れていない味に拒否反応を示す事はないみたいでよかったよ」
「レストランのメニューはそこら辺の切り分けをしておきましょうか。試食として保温器に用意しておくのもいつも道りで」
「了解」
「それにしても…ダマスカス、ね。いい活動資金が転がっていたわね」
野草の仕分けは、デュークが採集した物のみだったので、あっという間に終わった。今はデュークが狩ってきた魔物の解体作業をしている。山となったダマスカスの鱗をデュークが一つ一つはぎ取り、肉はミィルが部位ごとに捌いて行く。
ダマスカス自体は希少種という訳ではなく、技量は必要だが倒せる魔物だ。ダマスカスの鱗は刃物を弾くため、鎧や盾の材料として使われる事。また、軽いため、その利用頻度は多く、高くはないが売りやすい素材と言える。
いくら高級な素材であっても、それを購入してくれる商人や人がいなければ、換金に手間取ってしまう。一箇所に長く留まらない生活をしているため、換金しやすい物の方が良いのだ。
「砂漠地帯が生息地であったはずだし、番で生息してるはずが集団行動していたからね。身体も大きいし、地域が違うからそうなったのか、違う個体なのか、そこら辺はちょっとわからないけど」
「でも、鱗の性質は同じなのよね?」
「そうだね。剣も弾いたし。風の魔法も駄目だね。隙間を狙えばいいんだけど初見だから難しかった。炎で全体を覆えば熱さでどうにかなるかもしれないけど、森の中だからね。それは試せなかった」
「この村だと換金は難しいかしら。商隊が来るみたいだけど、流石に全部は無理かしらね」
「一匹分だけにしておけば?残りは大きい街に行った時でもいいんじゃないかな」
そんな会話をしながら、解体作業は順調に続けられていく。
さて、翌日になると、色々と準備をしていたのか、自警団の面々が村長宅へと集まった。とはいえ、警備もしなければならない為、全員ではないのだが。
そうして、ミィルとデュークが先導し、昨日行った場所から少しそれた方向へ移動し、今回村に植える事にした野草を根っこから掘り起し、次々と収穫していく。
ミィルは、それ以外にも見つけた野草をどんどんと籠に放り込む。木の実や果実なども、デュークにより収穫されている。だが、今回は安全ばかりではなかった。
「ミィル姉、ちょっと行ってくる」
「ええ。気を付けてね」
「うん。…ガッシュさん、ちょっと」
「なんだ?」
デュークはミィルに断りを入れると、ガッシュを呼ぶ。
「魔物があっちの方向に三匹います。ちょっと行ってくるので、念のために注意していてもらえますか?」
「それはいいが、一人で行くつもりか?」
「大人数いると反対に被害を及ぼしますし。慣れてるガッシュさんとかコールーさんなら別ですが」
「まぁそうだけどな。何かあったらよべ」
ガッシュはそういうと、手を振って、さっさと行けというジェスチャーをする。デュークは軽く会釈をし、魔物の気配がする方へと移動を開始した。
デュークがその魔物を視認できるほど近寄ると、三匹で一斉に襲いかかって来た。その魔物は、身体の大きさが成人男性より一回り程大きく、頭が猿、身体が爬虫類、足が牛の様に曲がっており、蹄がある。
「ははっ! こいつはいい」
デュークはそういうと、剣を構え、その魔物の攻撃をかわしながら、確実な一撃を加えて屠って行った。
脚力が強い魔物だが、それを上回るスピードで攻撃をすれば、あっという間に討伐し終える。
「昨日のダマスカスといい、このデュランコヌマンといい…ここは随分といい場所だな」
首を切って、血抜きの為に木に吊るしながら、そんな感想を呟く。
そう、このデュランコヌマン、味はそれ程でもないが、心臓が錬金術で使える為、いい値段で取引される。メスであれば、その生殖器官がもっと高値で売れるのだが、メスは基本的に巣から出ない為、一層希少価値が付いている。今回狩ったのも、全てオスであった。
「これ、どうしようか。この村の人が知ってる可能性は低いけど…あーでも、ガッシュさんは知ってるか。ミィル姉と相談かな」
ぶつぶつと呟きながらも、あっという間に近くの木に吊り下げているデュークである。
「ミィル姉、ちょっと」
そう声をかけたデュークだが、ミィルは声のした方を向いて、ため息を零した。それは、何も見えないからだ。
「……おかえり。どうだった? って、持って来てないの?」
「今血抜き中。…デュランコヌマン三体狩ったんだけどどうしようか? ここ、もしかしたら良い、ていうか、良すぎるかも」
「それはデュークだから言えることだとは思うけど。でも、確かにそうね。ちょっと馬車まで持って行ける? ついでに、」
「わかってる」
声を潜めて二人は会話を済ませ、デュークは返事を返すと、踵を返して元来た方向へと戻って行った。
二人で相談している最中は、誰も近くにいなかったため、声を掛けられる事も、聞かれる事もなく、無事に相談する事が出来た。だが、運がいいという訳ではなく、デュークが気配を消して、魔法石でもって姿を消していたからだ。とはいえ、よーく見ればその場所がゆがんでいるように見える、中途半端な物ではあるのだが。
『この村で狩れれば、良い収入源になるんだけど、狩れない場合、ギルドが村に来てしまう。ホテルがあれば、それはそれで収入にはなるけれど…お酒も自家製のみだし…どうしたらいいかしら?』
そう、この村にとって、プラスになればいいのだ。だが、それだけの力量がこの村の自警団にあるのか分からないし、今のところは隠しておいた方がいいだろう。そのうちデュークとガッシュに自警団の技量底上げをお願いすればいいし。
そんな事を考えながらも、周辺を探り、新たな野草がないか調べるミィルであった。
村に戻り、各家の庭先に、一軒につき一種類ずつ植えてもらうよう、村長に頼む。そうして植えている間に、野草の選別や肉の解体をするのだが…今は馬車の周りに結界を施している為、一見して何も見えない。
普段ではそこまではしないのだが、用心の為である。今回狩った獲物が、高額な物になる為である。
「ねぇ、デューク。ここの自警団の能力って、どれ位だとおもう?」
「まだわからないよ。闘った所見てないし、手合せしてもいないから」
「そう言えばそうね。ガッシュさんがいるから、まぁダマスカスとかデュランコヌマンも大丈夫だとは思うけど」
「でも、商隊に売ったりしたら、それがいるって分かるだろうし…」
「それもそうねぇ。それにしても、ガッシュさん、村の周辺を探索してないのかしら。村からそんなには離れてない距離でしょう?」
「そうなんだよね。もしかしたら、自警団の強化だけしてた可能性もあるかな?」
「んー可能性としてはあるかもしれないわねぇ。確かにガッシュさんだけだと、安全に狩れるか不安かしらね。あの時はチームで協力してやってたみたいだし、村の安全を考えると、コールーさんを伴って行くのも不安だろうし」
「レストランが休みの時に、ガッシュさんに断って、何人か連れて狩りしてこようか。ただ、それらの流通とか、もし他の地域から冒険者が来た時にどうするかは、村長に聞いてみよう。もしかしたらそっとしておいてくれって言われるかもしれないし」
二人で相談していると、結局は許可を取らなければならないという所に行きついてしまう。
取り敢えず、今はデュランコヌマンを捌く事に集中する事にした二人であった。
夕食後、村長に許可を取る為、村長の書斎へと、村長、ミィル、デュークの三人で行く。
「何かいい物でもあったかね」
「はい、魔物に関してです。ダマスカスや、デュランコヌマンといった魔物は聞いたことがありますか?」
「…いや、ないな。魔物に関してはあまり詳しくなくてな」
「では、ダマスカスの鱗や、キメラの心臓は?」
「ダマスカスの鱗は聞いたことがあるが」
ダマスカスの鱗は採れる量が多く、稀少価値がある訳でもない為、村長はそれほど驚いていない。それでも、多少収入源にはなると喜んでいる様だ。
「キメラの心臓とは?」
「はい、錬金術で使われる高価な物です。血がしたたる位新鮮でないと効果が落ちるといわれ、保存庫がなければ錬金術師へ届ける前に利用価値がなくなってしまいます」
「保存庫には倒してすぐ入れなければならないのか?」
「そこまで厳密ではないのですが…そう、ですね。五~六時間位? …ミィル姉わかる?」
「大体それで合ってるわよ。新鮮であればいいのであって、目安として分かりやすく血が滴っている位といわれてるだけで。血抜きしちゃいますしね」
デュークは、ミィルに訂正され、苦笑を零した。一般に言われているのは、確かに血が滴る位とされているのだが、それは血液が心臓内部で凝固してしまうと都合が悪いからなのだ。とはいえ、新鮮であれば新鮮な方が効果が高いのは確かな事である。
村から狩りに行くとして、村に戻る位なら問題はない位の時間であるが、万全を期すならば…
「六十cm四方の保存庫があれば、その場で心臓だけ取り出して入れてしまうという方法もありますが。どちらにせよ、街まで運ぶ時にも保存庫が必要だと思いますし」
「ふむ。まあ、街へ運ぶ時は、ヨーク豚と一緒に運べばいいだろう」
「確かにそうですね。…あの、あくまで予測でしかないのですが、デュランコヌマンが生息していると知られれば、きっと冒険者が来ると思います。大丈夫でしょうか?」
懸念点を言うと、村長は少々考え込んでしまう。いくら閉鎖的な村とはいえ、冒険者がどんなものかわかっているだろう。
「少し考えたい」
「構いませんよ。まだ誰にも伝えていませんので」
村長の答えに、デュークはそう返し、念のためにとどの辺りで遭遇したか、地図にして渡した。そうして部屋を後にする。
客室へと戻り、互いのベッドへ腰掛る。
「まだちょっと野草や木の実が見きれてない気がするんだけど…明日には試作してみないと」
「取ったものは覚えてるから、休業中に探してみるよ」
そんな遣り取りをし、この日はゆっくりとした休息を取った二人である。