周りの目に気を配りましょう!?
「久しぶりだね。伝令に聞いてたけど、本当にアンタ達だったんだね」
襲来するであろう方角へと走りながら―――とはいえ、デュークしか気配が掴めていない為、先頭をデュークが先導しているのだが、そんな会話をしている。
一緒に移動しているのは、デューク、コールーの他に、二人だ。普通ならば、四人で三十匹ものケッチャーの相手はできないのだが、今回に限って言えば、多すぎるのもデュークの邪魔になる為、この人員の様である。
「郷に帰る時に、場所を教えてくれないものだから、余計時間が掛かりました。わかっていればすぐにでも来たんですが」
「世界中旅するってんだから、遅かれ早かれ来るだろうってね。こっちもいつ来るかって楽しみにしてたんだよ、これでも」
そう言って、コロコロと笑う様子は、別れた時と全く変わらないようで、デュークも嬉しそうだ。
だが…前を走る二人は会話をしながらでも余裕があるが、後ろを着いて来ている二人は、置いて行かれないように必死なようで険しい顔をしている。やはり、訓練の差もあるが、実践を積んだ恐怖による備えとも言うべきか。
「お前たち、常にこいつの前に出るんじゃないよ。魔法ですっぱりヤられるからね」
『はい!』
「何を脅かしてるんですか。…否定はしませんけど」
「あははっ! ちょっとは否定してよ! でもアンタ、多少は訓練したんじゃないのかい?」
「しましたけど、疲れるんですよ。だからよっぽどじゃない限りはやりません」
そう、デュークの魔法は、単体に作用するもの以外は周りの人間を考慮せずに発動し、巻き込んでしまったり、魔物と人との区別がつけられなかったりと、悪い事ばかりだ。
だから、範囲を前方のみとすることで、なんとか仲間に被害がでないようにしているのだ。
「ここらへんでいいかな。広いし」
そんな会話をしていると、あっという間に到着した。そこは一面畑であり、ちょうどいい事に、作物を収穫したばかりのようで、刈り取った後の根が掘り返され、山と積まれている他は、更地のような状態だ。
「畑に血とか落ちても大丈夫ですか?」
「見た目の問題だけじゃないかい? ちょっとほっくりかえして土に混ぜちまえばわからないだろう?」
「じゃあ…ここら辺にいてください。取りこぼした物があれば、弓で対処してください」
そう言って、デュークは今皆が立っている畑の農道を示した。コールーも、飛来する者の気配をとらえたのか、来るであろう方角を見ている。
「アンタはどうするんだい?」
「あそこで対します」
デュークがそう言って指し示したのは、向かい側の農道だ。魔物が向かって来る方角に近い場所である。コールーと、他二人はデュークに守られるように、いや、ある意味デュークを生贄にするかのような配置だ。この場合生贄たる本人が行くというのだから、守られていると言った方が的確だが。
「あ。もし弓で攻撃する時は、できたら頭、狙ってくださいね。じゃないと姉さんにしかられる」
「はいはい、分かってますよ。何度やったと思ってんだい。さっさと行きな」
コールーが、シッシッと追いやるように手を振ると、デュークは苦笑を零して、農道を走って行く。それを見ながら、コールーは、『若いっていいねぇ』などと、のんきな事を言っている。
そのコールーに、着いてきたうちの一人が質問した。
「あの、どういうことですか。頭を狙うって」
「そのままの意味だよ。別に一撃で倒せっていう意味じゃないが…体に傷をつけるなって事さ。まぁ、後で十分わかるから、言われたとおりにしときな。それより準備しな。後五分もすれば来るよ」
「はい」
コールーがそう答えるが、納得かないのか、二人とも困惑したような顔をしながらも、互いに邪魔にならない位置へと移動し、弓の調子を見たりしはじめる。
「ま、できるかどうかは別問題だけど」
コールーは、囁くようにぽつりとこぼす。その呟きは、少し離れた距離に移動してしまった二人には、届かなかったようだ。
一方、残されたミィルはといえば。ガッシュと歓談していた。どうやら魔石を付与した所を褒められている様で。
「やっぱ、ミィルはすごいよ。神父が仕事を手伝ってほしいと言うだけはあるよな」
「あら。そうだったんですか? 初耳です」
「あの神父は、個人の意見を尊重する人だったからな。ミィルが言い出さない限りは、何も言わないだろ」
「…それもそうですね」
ちなみに、魔石生成や魔石の付与は、主に魔封じの系統魔法なので、聖職者が統括している。とはいえ、聖職者にならなくても教えを請う事は可能である。
にこにこと、ガッシュとミィルで会話をしている周りに、村長の息子たちがいるのだが、何故か呆然とミィルを眺めている。あのラフィを溺愛いているダンでさえもだ。そうなっている原因を分かっているガッシュは、ただ苦笑するしかない。
そうなった原因は、先ほどデュークに行った、一連の事だ。想像してみてほしい。いくら姉弟だと聞いていても、美男美女が、額にキスするような体制―――しかも、その体制は、目の前に胸元が来るのだ。際どい服装ではないし、旅服であるから、しっかりとしているのだが…いかんせん刺激が強すぎたらしい。
女性陣も、僅かに顔を赤くしている程だ。どちらも、本心は『うらやましい』のだろうが。
「あの、ミィルさん。さっきの、は…何をしていたんだい?」
そう聞いてきたのは、ナシュだ。流石に若者よりは歳の功か、意外と立ち直りは早かったようだ。けれど、質問の内容が、あまりにも抽象的すぎて、ミィルは首をかしげた。
「さっきの?」
「デュークさんに、いろいろと」
「魔石を外して、気を付与して、それをデュークの力になるように着けました」
「額に口づけたのは…?」
「口づけ? …ああ、あれは、私が未熟なので…気を放出して、魔石を生成しなければいけないのですが、口から放出する方が楽に出来るのでそうしているだけですよ」
それが何か? と、いうように小首を傾げれば、ナシュは沈黙してしまったようだ。…ガッシュだけ、肩を震わせて笑っているが。だが、我慢できなかったのだろう、盛大に笑い出した。
「っふ、あははははっ! そうか、ミィルはまだその方法なのか。そりゃ刺激が強いなっ!」
「えぇ? ちょっと、ガッシュさんどういう事ですか」
「くくくっ…いや、ミィル達が住んでた所は、大きい街だったからな。修業者がそうしている事にも見慣れてるが、ここは小さいだろ。しかも常駐してる訳じゃない。だから、要請を受けて来るような神父は、上位者だ。だからあのやり方を見たことがない」
ガッシュがにやにやとしながらも、そう説明をするが、ミィルはそれがどうかしたのかと、いまいちピンとこないようだ。
「なにか問題でもあるんですか? きちんと生成は出来ていますし、問題ないと」
「あー問題はそっちじゃない。よく考えてみろよ。傍から見たら、カップルがデコチューしてるって状況だぜ?」
「…弟ですよ?」
「いやだってお前ら無駄に綺麗なんだよ。俺は何度も見てるし、いろいろ知ってるからそうでもないけどよ」
ガッシュは上手く説明したが、ミィルはやはり、デュークを弟としてしか|
見ていない(・・・・・)事と、また、あの時は緊急を要する事な訳で、納得できないようだが。
「今後気を付けます。緊急の時は別ですが」
「そうしてくれ。悪い事じゃないし、しょうがないんだけどな。場所が悪かった」
「んー…いっそのこと、恋人とか夫婦だと言った方がいいんでしょうかねぇ」
「…やめてくれ。夢も希望もなくなる」
ガッシュはそう言って頭を抱えてしまった。夢も希望も、とはどういう事なのか。
「もしかしてガッシュさん…コールーさんという伴侶がいながら」
「ちがう! お前らみたいに綺麗なモン同士が夫婦とか、綺麗なモンには綺麗な伴侶じゃないとって思っちまうじゃねぇか」
「なるほど」
どうやら、自分の容姿に自信がない人でも、綺麗な人と結婚している人は、ごまんといるだろう。それでも、心の中でやはり見た目を気にしている物で。そういった人たちの希望を砕いてしまう、ということのようだ。
「難しいですわねぇ」
なんとも的外れな感想をこぼして、ため息をついたミィルだった。
ガッシュとコールーは、ミィルとデュークの関係を正確に知っている。それでも、姉弟として居た方が何かとうまく回る為、そう認識して欲しいと頼まれた為、その時から二人にとってはミィルとデュークは姉弟なのだ。
それはさておき。
そのあとは、ガッシュがバスケットに気が付き、興味を持った事から、女三人で作った簡単に摘まめるサンドイッチや肉料理、果物、飲み物等をバスケットから取り出した。
「そうだ、ミィル。後でお前らの馬車に集合な。話も聞きてぇし」
「あ、はい。それは構いませんけれど」
ガッシュの言い分に、ミィルはそれだけ返し、次々と料理を並べていく。
小さいテーブルに彩りがとても綺麗で、目を引く料理が並べられると、呆然としていた面々に表情が戻ってきた。
「すっげー旨そう! …けど、いいのかな。魔物が来てるって、さっき…」
そんな、喜びと不安、相反する事を言ったのは、コウだ。その不安は、一家に伝染し、皆不安そうな顔をした。だけれど、案の定と言うべきか、ガッシュとミィルはのんきなもので、ガッシュは早速料理に手を出している。
薄切り肉を、こんがりぱりぱりに焼いた物だ。ひとつひとつ、葉っぱの上に乗せられ、赤いソースが上にかかっている。
「ん、やっぱうめぇな!食材は違うが、タタン焼きだろ、これ」
「えぇ。簡単にできますし、美味しいですからね」
「コールーも作ってくれっけど、こうならないんだよな。旨いけどよ」
「うふふ…コールーさんにも後で伝授しておきます」
「おぅ、頼むわ。魔物に関しては、デュークが魔石持ちで行ってるから、心配するだけ無駄だ。安心して食っとけ」
ガッシュがそんな事を言ったものの、やはり気になる物だろう。いつもは上手く力を合わせて撃退しても、多少の怪我人は出るのだから。
だが、そんな雰囲気を見事にぶち壊したのは、ミィルの一言だった。
「害のない魔物だったら、反対に困るのよね。ぜひともケッチャーをお土産にしてもらわないと」
さて、目的の位置へと着いたデュークだが。腰の剣を抜き、地面へと突き刺すように立てると、ぽつりとワードを呟いた。
「第四の門開放―――我願う、力を」
デュークが今言ったワードは、ミィルにつけてもらったあの魔石で、気の底上げをする為の物。気の総量が百である所を、二百にするような物、といえば分かりやすいだろうか。
失った分を補充する事なら、ワードは必要なく、勝手に行われる。だが、今から対する魔物の数が多い為、一度の魔法詠唱だけでは魔力が足りず、全て屠れない可能性がある。
取りこぼしたとしても、魔石で気はすぐに回復する為、再詠唱はできるが、その僅かな間でも、こちらへ攻撃してこないとは限らない。鳥類の滑空速度はかなりの速さなのだから。
デュークは魔石が機能すると、獲物が来る方角へ視線を向けた。この村の周りは木が生い茂っているにも関わらず、居住区と畑とで分かれている為、畑の部分は木が無く、上空が開いている。気配からして、畑の上空を通る事が予想できた。それが今回は幸いだ。
獲物を視認できるし、何より、この村に来る時の様に、頭上で魔法を発動する必要もない。
「そろそろか…」
気配は、相手を視認できるであろう距離まで近づいている。デュークはその方角をじっと見て、その飛来する魔物がなんなのか、観察しているようだ。そして、デュークの瞳に写った魔物は…
「ははっ! これはいい」
その魔物は、ケッチャーだった。デュークは好物の食べ物が大量に確保できることを喜んだのか、満面の笑みだ。だが、すぐに気持ちを切り替えたようで、表情が引き締まる。
「大気よ、我意のままに刃となれ」
獲物が目標位置へ入ったのだろう、デュークはワードを放った。すると、あの時と同様に、空を飛ぶ黒いケッチャーの体が、一斉に落下した。
「さすが、ミィル姉。魔石の気だけで足りたか」
どうやら、デューク自身の気を使わずに、三十羽余りのケッチャーを狩る事が出来たようだ。
デュークはその事に満足したような表情で、少し離れた場所に落ちたケッチャーの死体を回収するために動きだす。
ちょっと所で無く、盛大にカッ飛ばして書いてるので、後々話の辻褄が合わなくなりそうな、今日この頃orz
仕事時間落ち着いたらどうにかします。