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予想外の出来事

 自警団の小屋から出て来た人物は、デュークとミィルがよく見知った人だった。


「―――まさか、ガッシュさん?」

「ん? おお、元気そうだな、デューク」


 随分と体格が大きく、体中筋肉で出来ていそうなゴツい男だ。漆黒の瞳と髪で、短く切りそろえた髪を、ワザと上に逆立てている。肌は焼けて褐色、そしてやはりというか、所々傷跡がある。

 一見して怖い印象を与えるが、笑顔で会話をしている雰囲気から、柔和な印象をも与える、不思議な男だ。


「えぇ、ガッシュさんもお元気そうでなによりです」

「二人とも知り合いか。なら紹介はいらないな」

「積もる話はあるがな。まぁそれはいい。どうせ長く滞在するんだろ」


 ガッシュ。この人は、デュークがギルドで稼いでいる時に何度かチームを組んだ人だ。そして、ミィルと一緒に旅に出る事を伝えた一人だ。

 カフェで修業をしている時に、ガッシュも年が年だから身を固める事と、故郷へ戻る事を伝えに、カフェへわざわざ食べに来てくれたのだ。その際、別れの挨拶を済ませた。身を固める相手も、常にチームを組んでいたコールーだったはずだ。


「で、俺に会いに来たって訳じゃなさそうだな。何か用か?」

「ここにガッシュさんが居ると知ってれば会いに来てましたけど。ここに来る道中で摘んだ果実に覚えがないかと思いまして」

「ふむ、見せてみろ。にしても、本当にそういう生活してんだなぁ」

「これです。まだこの生活がうまくいってるかどうかわかりませんけど」


 袋の中から取り出して見せると、ガッシュは『ここじゃなんだから』と、小屋の中へと促した。それに従い入れば、中には小さなテーブルとイスがあり、壁一面には様々な武器が並べられている。なるほど、小さいながらも、自警団の詰所というべき室内だ。

 コウとジウは、その珍しい果実が気になるのか、それとも二人がどういった関係なのか気になるのか、同じようにテーブルへとついた。ダンは何やら木箱を開けて、何か探っているようだ。広くない部屋の為、テーブルに着いていなくとも、話は聞こえるだろうが。


「こいつはピーカンだな。聞いただろ」

「えぇ。何か意味ありげな事も言われましたけど」

「ははっ、まぁそれは後で教える。で、こいつは…多分レン、だな。確か害虫避けとして使われてる」


 レン、というものは、皮が白く、物凄く酸っぱくて、そのままでは食べられなかったものだ。やはり食用では使われていないようで、食品として並ばずに、加工した物が売られるようだ。ただ、やはりこの村では見たことが無く、どちらかというと、もっと南の方の国で見たのだとか。その説明を聞いて、デュークはなるほどと相槌を打っている。

 次に、ピンク色の実を手に取ったが、しげしげと見ている。


「へぇ・・・この辺りでも取れるのか。こいつはずっと南の方で生ってる」

「そうなんですか? でも、王都では見ませんでしたよ」

「そりゃ、悪くなりやすいからだ。王宮なら別かもしれんが、店先に置いて置くだけで、どんどん悪くなるからな」


 確かに、果実が柔らかく、この僅かな時間だけでもぐずぐずになっている。保冷庫に入れていれば別なのだろうが、それで運送するならばコストが掛かりすぎ、一般には買えない値段になってしまうということだろう。

 その理由にデュークは納得した所で、ダンが木刀を持ってきた。どうやら先ほど探っていた物は、木刀だったようだ。箱の中をみれば、さまざまな大きさの木刀が納められており、同じ大きさの物を用意していたようだ。


「じゃ、始めようぜ」

「あ、あぁ」

「なんだ、手合せするのか? …なんでソレ・・つけてるのかと思ったら、そういう事か」


 ガッシュの言葉に、デュークは苦笑するしかない。一緒にチームを組む時に、デュークはその特性を話し、こうも言っている。


 ―――戦闘中は、近寄るな。と―――


「よかったな、ダン。本気で手合わせしてもらえるぞ」

「どういう事だ?」

「くくくっ…手合せした実力が、こいつの実力だと思わんことだな。今は魔法のブーストがない状態だからな」

「魔法の…能力アップブーストって事か?」


 ガッシュはその問いには答えずに、ただ楽しそうに笑うだけだ。ダンを始め、コウも、ジウも首をかしげている。

 四人とも小屋からでると、ダンとデュークがそれぞれ木刀を持ち、柵で囲まれているが、十分な広さがある場所へ向かう。コウとジウは、ガッシュからよく見ておけと言われ、柵の傍に三人で並んだ。


「怪我する訳にはいかないから…剣を落とした方が負けってことでいいか?」

「…いいですよ。よろしくお願いします」

「ガッシュさん、合図を頼むよ」

「……合図、ねぇ。まぁ任せとけ」


 ルールを決めると、二人は構えを取った。ダンは切っ先をデュークの方へ向けるようにし、デュークは木刀を肩より上にあげ、耳の横に握り手を持って来るような構え方だ。


「では、始めっ!」


 そう合図がされるなり、カンッ、と、木のぶつかる音がし…あっという間にダンの木刀が叩き落とされていた。


『…え』

「あ、やっぱな。ソレで抑えててもその技量だもんなぁ」


 ガッシュはやはり分かっていたようで、ニヤニヤとしながらそんな事を言っている。デュークは苦笑いをするしかない。

 ダンに至っては、強い力で握っていたにも関わらず、簡単に落とした事と、木刀を握っていた手が、木刀から伝わった衝撃でしびれにも似たような感覚があるようで、手をじっと見ている。どんな早業かと思うだろうが、デュークはただ一歩踏み出すと同時に、木刀を振り下ろしたに過ぎない。

 それでも、ただ木刀を叩いただけで、強く握っていた木刀が簡単に落ちるはずはないのだが、正眼に構えた切っ先を強く叩かれれば、梃の原理も働く為、この結果だ。


「そいつに木刀落とさせたかったら、合図なんてしたら駄目だろう」

「合図なしでも変わりませんけどね」

「ルール自体が温いか。まぁしょうがないけどな」


 ある程度の打ち身位は許容して、降参する方法であれば、まだいくらかマシであろう。それでも、魔物を一瞬の内に屠れる程の実力があるデューク相手では、難しい事ではある。


「あんな手合せじゃあ、なんの参考にもならないな。どれ、俺が相手してやろう。殺す気で来てもいいぜ? 俺もそうする」

「ガッシュさん? 本気ですか」

「まだまだ若造には負けねぇぜ!」

「そんなに歳いってないくせに…」


 おもわずデュークはジト目をして、ガッシュを見ている。ガッシュは、別れる前に、二十八だと言っていたのだが、誕生日がいつなのかわからない。

 外野になってしまった三兄弟だが、それぞれ先程のデュークの動きに興奮しているようで、あーだこーだと話していたりする。木刀を握ったガッシュが広場へと入ると、


「お前ら、よく見ておけよ! 日常的に魔物に対する者同士の手合せなんぞ滅多に見れないからな」


 と声を張り上げて言う。よくよくみれば、自警団の人らしき人や、村人等が数人柵の周りに集まっている。


「あの三人はな、やっぱ村長の息子だろ。魔物が出ても、前線―――実際に対する事はないんだ。主に自警団が動いてるってのもあるけどよ。幸い、コールーが気配読みがうまいしな」

「コールーさんにも会いたいですね。お元気ですか?」

「ああ、元気だぜ。…まぁ、そんな訳で、ふいに魔物が出た時にヤられかねない。それを取り除いてやる事が…俺の仕事だ」


 そういって木刀を構えたダンの目には、本気だと取れるほどの闘気が見て取れる。デュークはその目を見て、表情を引き締めた。そして、息を一つついて整えると、す…と、緩やかに木刀を正眼に構えた。

 じりじりと互いに間合いを取っていると、デュークが動いた。一歩踏み出し、木刀を正眼から横に振るう。それは簡単にガッシュの木刀に受け払われたが、その勢いを活かして右横に跳ぶと、右足でガッシュの背後へ回り込んだ。だが、体制が横向きになっており、左手側にガッシュがいる状態だ。このままでは右手で握った木刀による攻撃などできないが、左手でガッシュの肩を掴むと、そのまま引き倒そうとした。

 だが、それで簡単倒れるようなガッシュではない。体を捻りながら身体を左に回転させ、その勢いのまま木刀を振るった。狙いはガッシュの肩を掴んでいたデュークの左腕だ。しかし、デュークもガッシュの体が流れる様に、引き倒そうとした力に抵抗を見せない事に気づいた瞬間に、その手を離し己の体を後ろへと引いていた。


「…やっぱ、そうこなくちゃな」

「倒れると思ったんですけど。もしくは抵抗するかと」

「ははっ! 力は利用したモン勝ちだろ」


 互いに間合いを取り、体制を立て直しながら、そんな軽口をたたいて見せる。そうして、今度はガッシュから攻撃を仕掛けてきた。

 一歩で、デュークの懐に飛び込む程の脚力があり、一気に間合いを詰めると同時に、鋭い突きを繰り出した。それをデュークは木刀で左へ払うと、返す様に右へと木刀を凪ぐ。接近していたガッシュの体に当るかと思ったのだが、踏み込んで来た時と同様に、あっという間に後ろへと下がっていた。とはいえ、かろうじて切っ先を避けられる距離だが。

 そうして、デュークのがら空きになった頭上へと、ガッシュは木刀を振り下ろせば…ぎりぎりのタイミングでそれを木刀の根本付近で受け止めた。切っ先が右になっている事から、どうにか手だけ引き戻した事が窺える。


「今のは行けたと思ったんだがなぁ」

「そうですね。間に合わないと思いました」


 ぎりぎりと木刀を合わせながらもそんな会話をしている。どちらかというと、ガッシュの方が、今は(・・)力が強いのだろう。デュークが僅かに押されているようだ。

 だが、ふと、デュークの目が細められた。そうして、何かを探るように目が動き…


「何か…来るな」

「あ? ッ…」


 押される力を利用する、というよりは、強引に体を引く事で、ガッシュとの距離を取ることに成功したデュークだが…棒立ちになっている。その雰囲気は、さっきまでのとは違い、とても静かだ。


「どうした」

「…魔物…鳥か? 数が多い…ガッシュさん、ここら辺で三十程で群れを成してくる魔物はいますか? 多分飛来種」

「群れを成すのはケッチャー位だな。つっても、ここらへんじゃあ、多くても十匹位だぜ?」

「そうなのですか? でも、この村に来る時に、二十程来ましたけど…」

「なんだと?…無害な飛来鳥も来ることは来るが、それは大体五十~百とかだからなぁ。一応警戒しておくか。お前もソレ…と」


 ガッシュが指さしたのは、デュークの額にあるサークレットだ。だが、途中で言葉が途切れた。

 ナシュを始め、ラフィに、ミィルが来たからだ。バスケットを持って。ミィルが来た事が分かっていたのか、デュークはすぐに走りだした。


「ミィル姉、魔物が来る」

「えぇ? ちょっと、いきなりねぇ…距離は」

「十分から十五分位じゃないかな?この速度だと。無害な魔物かもしれないけど」

「そう。ちょっと頭」


 デュークはあっという間に柵を飛び越えて、ミィルの傍に行くと、現在の状況を話している。ガッシュも、自警団を呼ぶためか、どこかへと駆けて行ったが…周りにいたナシュとラフィはどうしたのかと顔を見合わせ、三兄弟はデュークとミィル達がいる場所へと歩いて来ている。

 ミィルはデュークの話を聞くと、デュークの頭を両手で挟み、自身の顔へと近づける。そうして、額にあるあの揺らめく青い石に唇を寄せ―――


「力を封じ、魔石となれ」


 ミィルは囁くように言うと、その石を唇で食んだ。すると、手合わせであれだけ激しく動いても取れなかったその石が、簡単に取れた。と、同時に、カシャンと軽い金属の音がする。サークレットが外れ、地面へと落ちたのだ。どうやら石が留め具の役割をしていたようだ。

 ミィルはデュークの頭を離すと、唇で取ったその石を手に取る。


「んー短時間の割に、結構いい生成具合ねぇ」


 しげしげと太陽に翳してそう言うが…何をやっているのかというと、その石にどれ位魔力が入っているかを見ているのだ。

 デュークは、落ちたサークレットを拾い上げ、ミィルへと渡している。


「後は任せるよ。あ、そうそう、ガッシュさん、覚えてる?さっきまでガッシュさんと手合せしてたんだよ」

「へぇ、そうなの。じゃあ挨拶しないとね。…その前に、コレ、必要?」


 コレ・・とは、先ほど取った石だ。青く、とても澄んだ色をしている。その石が必要か、とはどういうことなのか。

 それは、この石―――魔石は、失った気を補う役割があるのだ。また、魔法石では、決められた事しか出来ないが、魔石では魔法を扱える者ならば、簡単に書き換えが出来る為、長期間魔法を使う場合に重宝するのだ。

 だが、今回はその様な使い方ではない。失った気を補う為、だ。


「…数が多いから、もらってく」

「魔物の数は?」

「三十位。ケッチャーかもしれないけど、無害な魔物かもしれない」

「そう。なら、ちょっと増やすわ…そは奪う者、食らう者、無限を知る者」

「ミィル姉っ!」


 その石を胸元に当てると、その言葉を紡いだ。すると、揺らめきが…ミィルの体を包むほどだ。

 デュークは、最後のワードを聞くなり、驚いた様な顔をして叫んだ。そして、ミィルの肩を掴もうとしたが…その揺らめきに触れる事はできないのか、躊躇っている。

 躊躇うのは、この揺らめきに触れてしまえば、自身の気を吸われてしまう事を知っているからだ。


「そこまでするほどじゃない、だからもうやめてくれ」

「大丈夫よ…ん、力を封じよ」


 今度は省略されたワードが紡がれた。これは、すでに魔石となっている為、その魔石にチャージした形式になるのだ。

 デュークが驚き、”やめてくれ”と言ったのは、三つ目のワードが問題なのだ。イメージ力で多少融通は利くのだが、段階により、気を吸う量が違う。最高が、あの”無限を知る者”なのだ。ちなみに、デュークの額に着けた時と同じワードがあるとお気付きだろうか。本来であれば同じ作用なのだが、気を奪うのではなく、デュークの能力を奪うようにイメージ力のみでコントロールしているのだ。

 さて人の気だが、それぞれ総量が違う為、人によっては”無限を知る者”と口にしただけで、気絶してしまう事もあるほどだ。

 ミィルの総量は多い方だが、それでも…ミィルを守りたいデュークにとって、たまったものではないだろう。短時間とはいえ、やはりミィルの顔は元気が無い様に見える。


「胸元、開けなさい」

「…その前に中に移動しよう」

「ひゃっ…ちょ、歩けるってば。降ろしなさいよ」


 デュークは、ミィルを両手で横抱きに抱き上げミィルの苦情も、お願いも華麗にスルーして、自警団の小屋の中へと移動している。伝令に行っていたガッシュも戻ってきていて、村長一家を小屋へと移動を促している。

 デュークは小屋に入ると、椅子にミィルを座らせ、その前に回る。そうして、胸元の留め具を外し、胸元をだして、膝立ちになった。

 ミィルはにこりと笑い、その魔石を心臓の近くへと押し当て…


「かの者に守護と、加護を」


 ワードを紡ぐと、それは一瞬だけ光った。押し当てていた手を離すと、不思議なことに落ちることなく、張り付いているようだ。


「ありがとう。行ってくる」

「ケッチャーだったら、分かってるわね?」


 ミィルはうれしそうにそう言う。その表情は、先ほどよりは良くなっているようだ。その問いに、デュークは頷いて見せ、立ち上がると、胸元の留め具を付け直しながら出口へと向かう。


「ちょっと待て。今コールーが来るから、一緒に行け」

「ああ。ガッシュさんは、ここで守りを?」

「そうだ。だが、お前がいるなら、必要なさそうだけどな。それに…ミィルもいる」

「ご挨拶が遅くなりました。お久しぶりですね、元気そうでなによりです」


 ミィルはにこりと笑って、立ち上がり、軽く頭を下げた。だけれど、強引にデュークに椅子へと戻されて、ミィルは頬を膨らませている。


「お待たせ! 行くよ!」


 ドアを勢いよく開け、顔だけ覗かせてそう声をかけたのは、真っ赤な燃えるような髪色で、緩く波打つ髪の女性だ。髪は動きやすいようにだろう、一つに纏められて、背中に流れている。

 その女性こそ、ガッシュの妻となった、コールーだ。コールーは、見知った顔に笑顔で軽く頭を下げると、さっさとまた外へと行ってしまった。魔物が来るのだから、ゆっくりしていられないのだ。それを誰よりもわかっているデュークも、すぐにその後を追って出て行った。


「…数が数だが…まぁデュークがいるなら問題ないだろ」

「むしろごちそうが増えていいわぁ」

「はは、相変わらずだな、ミィルは」


 これから魔物が来るかもしれないという状況にも関わらず、何とも気の抜ける会話である。そして、忘れ去られている村長一家が憐れでもある。

いろいろ急ぎすぎて、話が破綻しそうな感じがしてきましたorz

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