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猫に与ふは小判より指輪

作者: 稲干し屋

『新年開けてもう二週間とか、時が経つのってほんと早いよなぁ…』

まるで漫画に出てくるみたいなピラミッド型に積み上げられた蜜柑の、てっぺんにあるひとつを手に取り器用に皮を剥きながら。ふとそんなことを言う彼に、「あぁー、そうだね」なんて小さく相槌を打って応える。


『にも関わらず、炬燵から出る気配は無いね、君は』

「…!? むぐふっ」

言うと同時に突然口に蜜柑を突っ込まれて変な声が出た。それを聞いて笑う彼は心底楽しそうである。

『口半開きだったからつい』

「"つい"じゃないから…!」

突っ込まれた蜜柑を噛めば、途端に広がる甘酸っぱい味。あ、そういえば今年初蜜柑だ。


もぐもぐとそのまま咀嚼していると、窓の外の目が行き。ちらちらと空気中を舞う白いものが目に入る。

「雪だね」

半ばひとりごとのようにぽつりと呟けば、隣に座る彼も顔を上げてわたしの目線を追うように外に目をやる。それからすう、と小さく息を吸って。


『"雪やこんこ、霰やこんこ

降っても降ってもまだ降りやまぬ

犬は喜び庭駆け回り

猫は炬燵で丸くなる"』


「…ふふ」

思わず笑いが漏れる。

炬燵から出る気配の無いわたしを猫に形容してみたとかそんな意味もあるんだろうな、この選曲は。

ちらと顔をやると、蜜柑を綺麗に食べ終え、今度はなにやら折り紙で遊んでいる。こう見えて三十代だというのだから、童顔とは恐ろしい。いい大人が折り紙遊び、というなんとも不思議な組み合わせに、また笑い声が零れる。


「…あ」

『ん?』

ふと思い出したようにあげた声に、彼が顔をこちらに向けて首を傾ぐ。

「いや、大したことじゃないんだけど」

『うん』

「そういえば年明けてから、お互い新年の挨拶してないなぁと思って」

『……あ、そうかも』

ぱちりと目が合って。

小さく微笑う彼。つられて微笑うはわたし。


「明けましておめでとうございます」

『明けましておめでとうございます』

ほぼ同時に、小さくお辞儀して。

「今年もよろしくお願いします」

続けると。

『…今年だけ?』

なんて問う。


「勿論、来年も。再来年も」

『よろしくしてくれますか?』

「よろしくしますとも」

『じゃあ』


そう言いながら、わたしの左手を取って。左から二番目、折り紙で出来た指輪をはめて。


『これからも、よろしくお願いします』


そう笑う彼に、


「こちらこそ」


同じく笑って、答えた。


---


猫に与ふは小判より指輪、

これから先も隣に居る約束


---



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