−仲間の章−
「ヘルデライト氏が…!?」
生徒の言葉にアイリスは首を傾げる。
「えぇ、ゆうべ、寮に電話をくれました」
「なんて言ってたの?ウイスタリア」
先生の質問にウイスタリア・フェナスは答えようと口を開くが、バジル・エレスチャルによってその答えを奪われる。
「『うちの子が迷惑をかけたね?キミのパートナーは俺が責任持って連れ戻すから、アイリス先生によろしくね』だろ?ウィスタ」
自分に微笑みかける友人に頷き、ウイスタリアはアイリスを見た。
アイリスは驚いた顔でバジルを見て、それから彼の隣りに立つベリル・ティールを見る。
「バジル、あなたもなの?ってことはベリルも?」
「オレは話してないけど」
ベリルの言葉をバジルが補足する。
「男子寮に電話がかかってきたから、俺だけ話したよ」
「先生、アゲートたちはどうしたんですか?」
ウイスタリアの問いにアイリスは黙る。
「あいつら、この間から休んでるよな?何があったんだよ、アイリス?」
「バジル、先生を呼び捨てにしないの!」
バジルを嗜めたウイスタリアにベリルが食ってかかる。
「うるさいよ、ウィスタ!バジルはお前より年上で強いんだから、指図するな!」
「ベリル、やめろよ。それより先生、テルルたちは…」
バジルが脱線しかけた話を元に戻した。
「別にネオンなんてどーでもいいけど、ペアがいないと訓練できないし、あいつらだけサボりってのもずるいよな。寮だって全寮制なのにあいつらだけ入ってないし、だからいなくなったりするんだよ。なぁ、バジル?」
彼らのことを何も知らないベリルが、そう言ってバジルにすり寄る。
それを溜め息混じりに見て、ウイスタリアがアイリスに向き直った。
「先生、何かあったんならさがさなきゃ…。ヘルデライトさんは軍人じゃないし、アゲートたちは強いけど、まだ生徒なんだもの…」
ウイスタリアたちも、アイリスやアスターの態度から何か普通でない事態を感じているらしい。
「ヘルデライト氏は他に何か言ってたの?」
アイリスはウイスタリアに問う。
ウイスタリアは一瞬、バジルと目を合わせて、昨日の電話を思い出そうとする仕草を見せたが、すぐに首を振った。
「なにも…」
「なら、今はあなたたちは待機してなさい。何かあったとは限らないし、ネオンたちには脱走の疑いもかけられてるわ」
アイリスの言葉に三人は驚く。
「そんな…、嘘だろ?アイリス…。どうしてネオンが脱走なんかするのさ?」
「ベリル、やめろって」
ベリルがアイリスに詰め寄ろうとするのをバジルが止めた。
「オレは何も聞いてないし、あいつに変わったとこなんて…」
アイリスは眉間に皺を刻んで、三人を見渡し、言う。
「いずれにしても、本件は軍に任せなさい。いいわね?」
きつく命じ、アイリスは生徒たちの前で踵を返した。
「私は報告に向かいます。あなたたちはしばらく自主訓練してなさい」
言って部屋を出たアイリスを、バジルは追いかける。
「あ、バジル!」
ウイスタリアが声を掛けるがバジルはそのまま訓練場から出て行った。
「待てよ…」
「ベリル、自主訓練よ!」
バジルを追いかけようとしたベリルは駆け出す寸前で掴まえ、ウイスタリアはアイリスとバジルが出て行ったドアをしばらく睨むが、暴れるベリルを掴んでいるので精一杯だった。
「アイリス!」
呼び声に、アイリスは振り向く。
「…聞こえなかったの?バジル、自主訓練をしていなさい」
「なぁ、ホントにテルルたちはどうしたんだ?」
言いながらバジルは、パーティーで女性をエスコートするような優しい仕草で、アイリスをさりげなく近くの資料室に誘い込む。
「まだわからないわ。わかり次第報告します。だから訓練場に戻りなさい」
アイリスは不服そうにしながらもディスクの椅子に腰掛けた。
「…なんでそんなにきつく言うの?」
バジルはアイリスに覆い被さるようにディスクに手を突き、顔を近付けて問う。
「バジル!」
そのままキスしそうな角度に小首を傾げて、アイリスの顎に手を添える。
「苛立ってるね?アイリス…。あいつ…ヘルデライトさんのせい?」
「何を言ってるの?どきなさい」
バジルは面白くなさそうに体を放す。
「俺には厭くまで冷静、か…。夜に、遠くから見てもわかるくらい、あの人にはドキドキしてたのに…」
アイリスは首を傾げる。
「…なんの話?」
「俺、アイリスとあの人が昨晩、公園にいたの知ってるよ?テルルたちのことを話してるんだと思ったけど、違うかったんだね」
不機嫌そうなバジルにアイリスは首を振って否定する。
「もちろん、彼らのことを話してたのよ」
「嘘、じゃあなんでヘルデライトさんがテルルたちを探しに行ったこと、アイリスは知らないのさ?」
拗ねたような口調に、アイリスは溜め息を吐く。
「…私もまだ信用されてないってことだわ。そのことも含めて報告に行くのよ」
「そのことって?」
「ヘルデライト氏が何らかの方法で脱走兵たちの居所を掴んだにも関わらず報告しなかったことと、無断で、単独で彼らを探しに行ったことについて」
アイリスの言葉に、バジルは眉を寄せる。
「脱走兵?…ってテルルたちはもう脱走兵って決まってるの?」
「もちろんまだわからないわ。でもその可能性が高いの」
バジルは少し考えるそぶりを見せたが、うろんげに首を傾げる。
「…だってテルルだよ?」
「確かに彼女は幼い言動も目立つけれど、アゲートやネオンに言われたらついて行くでしょう?」
アイリスの言う通り、アゲートやネオンにべったりのテルルの性格を、パートナーであるバジルはよく知っている。
「…それは、そうかもしれないけど、でもネオンもアゲートも逃げるような奴等じゃ…」
そう、テルルの兄貴分たちが自分たちを裏切るような性格でないことも、バジルは知っている。
強くて、そのために自信に溢れているしっかり者のネオンと気のいいアゲート、そして少し子供っぽいテルル。確かに他の生徒たちとは少し違う、他者を入り込ませない彼らだけの領域を持っている感じはした。それでも彼らが確かに仲間だと、バジルには言える。
「…とにかく、決定は軍がします。あなたは戻りなさい」
「…わかったよ」
バジルは渋々、という様子で頷いた。
やっと訓練場に戻ってきたバジルを、ウイスタリアは睨み付けて声を発した。
「何してたの?バジル」
「アイリスに話を訊いてただけだよ」
ウイスタリアはバジルがアイリスを呼び捨てにしたことを今度は咎めず、じっとその目を見た。
「…私だって聞きたかったわ」
ウイスタリアの小さな声に、バジルはハッとして彼女を見る。
「私もベリルも、パートナーのことが気になるの。あなただけ、勝手なことしないで」
「…ごめん、ウィスタ」
「ウィスタ、黙れよ!それより、バジル!アイリスはネオンたちのこと、なんて言ってた?」
うなだれるバジルを庇うように立ってベリルが喚き、しかしやっぱりすぐにバジルを見て問う。
「軍はテルルたちを脱走兵って決め付けてる」
バジルは腹立たしげに吐き捨てた。
「アゲートが脱走!?」
ウイスタリアが目を見開く。
「脱走して、見付かったらどうなるんだ?」
ベリルが慌てたようにバジルとウイスタリアを交互に見る。
「生徒は一応訓練中の兵士ってことになる。しかも俺たちは上等兵候補生だ。それなりの罰があるよ」
バジルは抑えた声で返す。
「それなりって…?」
ベリルは明確な答えを求める。ウイスタリアが口を開いた。
「…銃殺刑よ」
「銃殺!?」
確かめるようにそう叫んで自分を見たベリルにバジルは頷く。
「なんてバカなことを…、アゲート…」
唇を噛み締めるウイスタリアの肩に手を置いてバジルは宥めるように言う。
「ウィスタ、まだわからないんだ。あいつらは脱走なんてする奴等じゃないだろ?」
ベリルは訳が分からない様子で首を傾げた。
「でも軍はあいつらが脱走したって言ってるんだろ?」
「ああ、だから俺たちもネオンたちを探そう」
バジルの言葉にウイスタリアが悲鳴のように声を上げた。
「何言ってるの!?バジル」
そのとき、おっとりしながらも微妙な緊張を孕んだ声が上がる。
「ねーウィスタ、さっきからいったいなんの話なの?」
「セリーズ…」
振り向いて相手を見、ウイスタリアはその名を呼ぶ。チームメイトのセリーズ・パフィオが、パートナーのシアル・クリプトンの影に隠れるようにして三人を見ている。
「ネオンたちが脱走したって、ホントなの?」
最年少でありながら大人びた口調のシアルが問うた。
ウイスタリアは迷った後、首を振る。
「軍がそう決め付けてるだけ。あの子たちがそんなことするはずないわ」
シアルは神妙な面持ちで頷き、セリーズは心配そうにシアルの服の端を握る。
「ネオンたちったら、迷子になっちゃったのかしら…。でもヘルデライトさんが探しに行ってるんでしょ?」
「ああ」
バジルが優しく微笑んでセリーズを撫でた。
「だったら大丈夫よ」
セリーズは自信ありげにニッコリ笑う。
「うん、きっとネオンたちはヘルデライトさんが見つけてくれるよ」
シアルも頷く。
バジルは微笑んだまま2人を眺めていたが、少し顔を曇らせてウイスタリアを見た。
「ヘルデライトさんが連れて帰るのを待ちましょう?バジル」
ウイスタリアの言葉にバジルは俯く。
「でも軍が…」
「だからこそ、私たちまで学校を抜け出して、脱走だなんて疑われたら困るでしょ?」
「いいよ。ウィスタが行かないならオレとバジルが探しに行く。な?バジル」
いつもの調子のベリルの様子にウイスタリアは声を荒げた。
「バカ言わないで!どうして男の子ってこう子どもっぽいのかしら。そんなだから一番年長で、私より強いのにリーダーになれないのよ?バジル」
「何だと!?」
バジルではなくベリルが喚いた。
「私たちが勝手なことしたら、先生にも迷惑がかかるのよ?」
そのセリフにはバジルの肩がぴくりと反応する。
「ウィスタ…」
俯いたままのバジルを心配そうに見て、セリーズがウイスタリアの袖を握る。
ウイスタリアはそっとセリーズを撫でて、バジルとベリルを見た。
「二人とも、頭冷やして」
「その通りね…」
戸口から聞こえた溜め息混じりの言葉にバジルが顔を上げる。
「…アイリス」
セリーズが安心したように戸口に立つアイリスに駆け寄る。
「あのねアイリス。ネオンたちがいなくて、ウィスタとバジルがケンカするの」
そう告げ口するセリーズに頷いて、アイリスは二人を見る。
「ウイスタリア、バジル。ヘルデライト氏から連絡が入りました。三人の居場所を見つけたらしいわ。三人は別々の場所に監禁されてる。軍は彼らの救出に向かいます」
バジルとウイスタリアは一瞬顔を見合わせ、それからアイリスに向かって同時に口を開こうとする。しかしそれを遮ってアイリスが口を開いた。
「ついて行きたいと言ってもダメよ。今日は全員、寮に戻って待機してなさい」
「どうしてですか?」
「これは軍の極秘任務よ。士官候補生とは言え、生徒を連れて行けるわけないでしょ?」
アイリスは言い、部屋を出る。
「生徒の救出が、極秘任務?」
ネオンたちの正体を知らないウイスタリアたちには、この任務が極秘である理由がわからない。
「どういうことかしら…」
ウイスタリアの疑問に、バジルが首を傾げた。
適当に書きたいシーンから始めた連載ゆえ、なにも考えてなくて困ってます。
さて、どうやって続けようか、まとめようか、終わらせようか…
ぐだぐだですがお付き合いください




