表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ペア  作者: 秋茄子
13/13

―別れの終章―

知らなかった。気付かなかった。人に言われて、意識した。

…ネオンが好きだ。

やっと告げた思いは、風に千切られて、彼女に届かなかったのかもしれない。だったらいっそそのまま、消えてくれればよかったのに、未だにアゲートの中に、残っている。


アゲートの笑顔を、ネオンの瞼はなかなか忘れない。目を閉じる度にちらつく、あの少し傷付いた笑顔。

アゲートが自分を好きだなんて、気付かなかったのだ。

『…何の冗談?つまらないこと言ってないで、ちゃんと軍に貢献するのよ。あんたの配属で、何人の人間が助かるかわからないわ』

傷付けるには、充分な言葉。

冗談でも、軍役が怖いわけでもなかっただろう。なのにネオンは、そう言って片付けた。

アゲートは寂しげに笑って、おどけたように敬礼した。

まるで『いつも』を演じるように。


「どうしよう」

ネオンに泣き付かれて、黒曜は溜め息を吐く。

「どうしようって、ネオンもアゲートが好きなら謝ればいいじゃないですか」

「アゲートが好きだよ。…でも黒曜も好き。朱夏も好きだしテルルも白夜も好き。ベリルもバジルもシアルもウィスタもセリーズも、みんな好き」

黒曜は微笑む。

「じゃあそれが答えです。僕もネオンが好きですよ。でも僕やネオンの好きは、アゲートの好きとは違うみたいです」

「…でも」

「傷付けたのが悲しいんですね?」

言って黒曜はネオンの頬を拭って、少し笑う。

「涙腺が壊れますよ?」

「だって…、びっくり、して…」

「傷付けたことは謝るべきです、ネオン。そして自分の気持ちを、ちゃんと伝えないと、後悔しますよ?」



「告白したの?」

ウイスタリアが素頓狂な声を上げる。

「声でかい!」

「なんて言われたの?」

「何の冗談?って…」

しばし沈黙して、ウイスタリアは溜め息を吐く。

「そりゃそうよ。見てれば分かるじゃない」

「ウィスタには言われたくねー」

「何よ?」

「ウィスタかバジルが配属ってことになったら、ウィスタだって同じことするよ。ダメだって分かってても」

また沈黙が降りた。再びウイスタリアがそれを解く。

「でもこんな急がなくても、ギリギリに言ってもよかったんじゃない?」

「もし俺の気持ち聞いて、ネオンが俺のこと好きになってくれたら、黒曜に代わってもらう予定だったんだよ。ギリギリじゃ変更きかねえだろ?」

アゲートが口を尖らせて側方を向く。

「…期待してたんじゃない?」

「悪いかよ?」

じろりと睨まれて、ウイスタリアは笑った。

「悪かないわよ。…そっか、伝えたのね…」

「ウィスタはどうするの?」

「あたしはもう伝えてるもの。そろそろ諦めた方がいいのかなぁ?」

「バジルがアイリスに告白したら、諦められるのにな?」

上目で伺うようにウイスタリアを見て、アゲートが言う。

「さあね?あいつもフられるの分かってるから、ずっと待っちゃうかもね」

「……ウィスタさ、実はもう諦めてる?」

ウイスタリアは微笑んだ。

「頭ではね」

「……そっか」

アゲートはすっきりした笑顔を見せた。


「アゲート…」

戸口から体を半分隠して呼ぶネオンに、ウイスタリアとアゲートは思わず笑う。

「何やってんの?ネオン」

ウイスタリアがネオンに近付く。

「あの、アゲートに…話が」

「なんだよ?」

アゲートも戸口へ寄ってきた。

「…えっと…」

チラリと見られて、ウイスタリアは一瞬首を傾げ、それから心得たように笑った。

「また後でね」

言い残して教室を去る。

「どうしたんだよ、ネオン」

未だ体半分を壁に隠したネオンにアゲートが言う。

「あの…」

ネオンはやっと壁から離れてアゲートの前に立った。

「さっきの、謝ろうと思って…。びっくりして、あんなこと言ってごめん。アゲートのことは、好きなの。でも、アゲートの好きと私の好きは、違うの。だから困っちゃって、あんなこと、言ったの」

アゲートは笑ってネオンの頭に手を置く。

「ありがとう、ネオン」



「何してるの?」

「……昼寝」

「いつからいたの?」

そこは屋上だった。

バジルは今さっきやってきたウイスタリアから、気まずそうに目を逸らす。

「アゲートがネオンのこと好きって、知ってた?」

「知ってたわよ」

バジルは少し笑う。

「さすが。…アゲートに会った?」

「さっきまで一緒にいたわよ」

「どう、だった?」

ウイスタリアは溜め息を吐く。

「つまりアゲートがネオンに告白するの盗み見てたんだ」

「違うよ!出るに出れなかっただけだ」

「あっそ。ところで、もう誰もいないのになんでここにいるの?」

バジルは目を逸らしたままだ。

「考えてた」

「アイリスのこと?」

「……ウィスタのこと」

ウイスタリアは驚いたようにバジルを見る。

「どうしたらいいのかな?」

「え?」

「俺はウィスタに何もできないのに、お前、そうやって待っててくれるから。だから俺は安心してるんだ」

ウイスタリアは目を閉じる。

「あたしが勝手に好きなんだから、気にしなくていいのよ」

「うそ。なんで好きになってくれないんだろって、思ってるだろ?」

「何言って…」

「俺がそうだもん。なんでアイリスは俺を見てくれないのかって、こんなに好きなのにって、いつも思ってる。だから騎士科を離れたのに、いつだって、辛い。」

声を荒げたバジルを、ウイスタリアは優しく見つめる。

「バジルも、ホントはもう諦めてるのね」

バジルはウイスタリアを見た。

「……そうかも、しれない」

「言わないの?アイリスに」

「……」

ウイスタリアは笑う。

「あの後ね、ネオンがアゲートのとこに来たのよ。…どうなったのかはわからないけど、きっとちゃんと、決着ついたんだわ」

「……そっか」



「黒曜」

呼ばれて黒曜は微笑む。

「みんな、どこに隠れてたんですか?テルルは?」

「テルルはヘルデライト博士のとこだ。私たちはアゲートとテルルの壮行式の予定を、セリーズたちと決めてたんだ」

白夜が寂しげに言った。

「僕も入れてくださいよ」

「だってもしかしたらお前の壮行式になるかもしれなかっただろ?」朱夏が肩を竦めた。

「…なるほど」

黒曜も笑って肩を竦める。

「アゲートが、行くみたいです」

「…そうか」

白夜が俯く。

朱夏がその頭を撫でた。

「黒曜が行かなくてよかったとは、思っちゃいけないんだろうな、私たちは…」

白夜の言葉に、朱夏はフッと笑った。

「いや、思うくらいかまわねーだろ」







一週間後、アゲートとテルルは赴任地へ向かった。









アゲートとテルルの隊を乗せた船の行き着く先を、ネオンは見る。

「今、一番強いペアはあいつらだったんだからしょうがないだろ?」

ベリルが言う。

「分かってるよ。何も言ってないでしょ?」

「置いて行かれて寂しいし悔しいって、顔に書いてある」

目も合わせないくせに、と思ったが、ネオンは黙ってベリルを睨む。

「オレが強くなったらいい話だろ?」

ネオンは笑い混じりに溜め息を吐いた。

「……せいぜいがんばってよ」

このやろう、とベリルの口が動いたがネオンには届かなかった。




E

なんだか中途半端に終わったきもしますが、これで『ペア』の連載を終わります。


告白シーンとか別れのシーンとか書くと、どうしてもクサくなるので逃げまくってますが、きれいな告白シーンや別れのシーンが書けるように、これからも精進いたします。


今まで読んでくださってありがとうございました。

今後ともよろしくお願い致します。




200726秋茄子

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ