表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ペア  作者: 秋茄子
12/13

―別れの序章―

「訓練室へ」

ウイスタリアの号令で一同は教室を出る。

「次って座学じゃなかった?応急医学の」

テルルが首を傾げる。

「実技なのかな?」

セリーズが答えた。

「何の知識もなしに?医学なのに」

ネオンが不思議そうに言う。

「あ…」

真っ先に訓練室へ辿り着いたアゲートがドアを開けた状態で止まる。

「何?…誰?」

戸口で立ち止まったアゲートの肩越しにシアルが中を覗き込んだ。

「PK科」アゲートが呟いた。

「あの子たちが?」

シアルが言いながらアゲートの背中を室の中に押し入れ、自分も中に入る。

朱夏と白夜が興味深そうに、先に来ていたアイリスの隣りに立つ少女たちを見る。

黒曜は急に機嫌が悪くなったネオンの傍を離れて、アゲートに近寄る。

「あの子たちがPK科の?」

「トトとココだ」

アゲートも不機嫌に言う。

二人を知らない黒曜たちやセリーズとシアルにも不機嫌が伝染しそうに空気が悪い。

「ねー、ネオンはぁ?」

PK科の一人、恐らくトトが首を傾げる。

その態度は確かに傲慢そうで、性格が良さそうには見えない。

だが黒曜としては話したこともない人間を決め付けたくはない。

「何よ?」

ネオンが前に出るのを、見守った。

「あー、ネオン!久しぶり」

昨日会ったばかりだけど、とトトは笑う。

相変わらずココは静かにトトの隣りに立っているだけだ。

「整列!」

アイリスが号令をかけ、騎士科の一同は渋々足を踏み出し、アイリスの前に立った。

「紹介します。今度新設されたPK科のトト・キャロルとココ・キャロル。PK科と騎士科は合同授業が多くなるからよろしくね」

「お願いしまーす」

トトがひらひらと手を振った。

「…お願いします」


アイリスが説明するのを、ネオンは眉を寄せて聞いている。

「…と言うわけでPK科は、PK、つまり超能力という特殊能力を持つ生徒を集める予定です。PKと魔導の違いは、科学的に分類できるかできないかよ」

「…」

騎士科は首を傾げて聞くだけだ。

「このキャロル姉妹は、テレパシー能力をもっているわ。無線機や魔導による風送りなど、戦場において、隔距離間での意思疎通の方法はいろいろあるけれど、PKによるテレパシーの長所は、通信を傍受されないってことと、電波障害による通信不通の心配がないことね」

「そして短所はボクたち二人の間でしか通信できないこと…。ほかの能力者がいても、ボクたちの念波はボクたちの間でしかやり取りできない」

トトが口を挟んだ。

「じゃあ使えないじゃない?」

ネオンが声を上げる。

「それをこれから見せます。ネオン・ガレナ、トト・キャロル、前へ」

言われてネオンは不審そうにトトを見る。

トトはそんなネオンににっこり微笑んだ。

「それから漆原黒曜、前へ。黒曜対ネオン、トトペアで試合をします」

「ウィスタとベリルは?」

ネオンがアイリスを見上げる。

「一対二の試合形式を行うので、今回はトトと組んでちょうだい。ちなみにトトは戦わないから、ネオンはトトを守りながら戦うこと。いいわね?」

ネオンは憮然とトトを睨む。

「よろしく、ネオン」



訓練室と違い、障害物の多い野外訓練場の、中でも特に障害物が多く設置されているエリアに、声が響く。

「ネオン、右だよ!」

「なんで分かるのよ!?」

ネオンの疑問の通り、二人の少女の周りは壁に囲まれていて周囲が見えない状態だ。

「アイリス先生からの指示だよ」

ネオンは舌打ちをして、右の壁の隙間から身を踊らせる。

「いた!」

言うが早いか、ネオンは黒曜を後ろから襲い、拳を寸止めした所でトトがストップをかける。

「そこまで!ネオン、黒曜、教室に戻るよ」

ネオンは黒曜から離れて、トトを見る。「訓練室じゃないの?」

「みんな教室に移動してるってさ」

三人が教室に戻ると、アイリスが迎える。

「おかえりなさい。どう?ネオン、黒曜」

「情報がある方が有利なのは当然です」

黒曜が答えた。

「そうね、だから敵も情報を手に入れようとする。黒曜もネオンが得た情報を聞いていれば、対応ができたはずよ。そして、無線機や風送りなら、ある程度技術があれば傍受できたわね」

黒曜は憮然と頷いた。

「…テレパシーはそれができない」

「単純な模擬戦闘でもその有益さが分かるでしょう?」

アイリスが一同を見渡す。

「これから、キャロル姉妹にはあなたたちとの合同訓練を通して、自分の身を守るだけの体術と剣術、銃術などの武術を習ってもらうと同時に、騎士科、PK科両科の共同戦線を想定した訓練を受けてもらいます」

「…はいっ」

騎士科、PK科の一同が姿勢を正して敬礼しつつ、お互い剣呑に目を合わせるのをアイリスは見渡し、溜め息を吐いた。

「…それからアゲート・ジェード、テルル・マルメロの両名はこの後私の所にきて。以上で解散します」

アゲートとテルルが顔を見合わせた。



「ネーオン!」

廊下をウイスタリアと共に次の教室へ向かうネオンに、トトが後ろから声をかける。

ネオンが振り向くと、トトの隣りでココがペコリと頭を下げた。

「聞いた?国境でのこと…」

「は?」ネオンは馴々しいトトに眉を顰めつつ首を傾げる。

「反乱軍の攻撃で、一個小隊が全滅だって。怖いねー?こんな時期に、配属待ちの騎士科の生徒を呼び出して、アイリス先生ってばなんの話だろうね?」

ネオンはますます眉を寄せる。

「何?それ…?」

トトが笑う。

「新しい剣王が起ったばかりでしょ?しかも革新的な王だから、まだ国が定まってないんだ。それで反乱軍が調子乗ってるみたい」

「…それって」

ウイスタリアが目を見開いて、トトからネオンへと視線を移した。

「置いてけぼりかもねぇ?ネオン、かわいそうだねぇ?」

トトが毒のように吐き出す言葉がネオンの中にそっと溜まる。

中から犯して壊そうとでもするように…。

「アゲートとテルルが、…配属?」

ウイスタリアが小さく呟いた。



アゲートとテルルは堅い顔をして戻ってきた。

「なんの話だったの?」

目を合わせずに、ネオンが問う。

「…あたしたちが、配属される話よ」

テルルが呆然と答え、周りがざわめく。

「俺が隊長でこいつが副官。一個小隊を任せられるらしい、国境で全滅した隊の代わりに」

アゲートが補足した。

「そう、…おめでとう」

ネオンは言い、部屋から出て行った。


「ボクの言った通りになったでしょう?ネオン」

屋上に佇むネオンの後ろ姿に、トトが声をかける。

「うるさい」

トトはクスクスと笑う。

「泣いてるの?ヒューマノイドのくせに」

「泣き方なんて、しらないわ」

「じゃあ心配?前線にでるあいつらが」

「あたしたちはヒューマノイドよ?死や、死別への恐れなんて、知らないのよ。知ってちゃいけないの」

ネオンは呟き、消えるように黙った。

「じゃあ何を落ち込んでるのさ?」

しばらく待って、トトが首を傾げる。

ネオンは何も言わない。

「ねえ?」

トトの声など聞こえないように黙っている。

「ねえってば!」

再度トトが言い、ネオンの肩を掴んだとき、ネオンは勢いよく振り向いた。

「なんで、あたしだけ、…あたしだけ置いてけぼりなのよ!?」

「そんなの…」

トトは僅かに怯む。

「ボクだってそうだよ!!」

そして叫んだ。ネオンが目を見開く。

「軍に入って、騎士科の代わりに戦って、功績を上げる。そのために、PKを強化させる実験を施されてきたんだ。なのにあんな、人形なんかが先に…」

ネオンは静かにトトを睨む。

「…アゲートとテルルを、人形だなんて言わないで。あたしたちは、あんたたちとほとんど変わらない。人間よ。アスターはそう言ってくれるもの」

「…だったら」

トトは目を逸らす。

「だったら一人じゃないじゃん。…仲間たちみんな、残ってるじゃない。あいつらこそ、たった二人で前線に行くんだよ?しかもつい最近、抗争で隊が全滅したところへ…。そこで、見も知らない大人たち率いて、戦うんだよ?」

ネオンはトトを見た。

「トト?何言ってんの…?」

「バカが、なんにも分かんないで拗ねてるからさ…」

「トトは、配属が怖いの?」

トトの戦闘能力は皆無に等しい。

確かにその能力は有益だが、すぐに配属されないのはその戦闘能力の乏しさ故だ。

今戦場に出ても、自分さえ守れない。

「怖くなんかないよ。ただ、いつになったらボクたちは強くなれるのかな?…あんたくらい強ければ、すぐにでも配属が決まるのに…」

トトの不安は、訓練してもすぐに強くなどなれないことへの不安だ。


「…ネオン」

扉が開く音と共に声が聞こえて、ネオンとトトは振り向く。

アゲートが立っていた。

「…トト?」

トトの姿に眉を寄せ、首を傾げるアゲートを笑って、トトはそちらへ向かう。

「ボクは退散するよ」

そう言って、アゲートの横をすり抜けて出て行った。トトの後ろ姿を少し振り向いてから、アゲートはネオンを見る。

「配属は一週間後だ」

「…そう」

「でも俺、断ろうと思う」

アゲートの言葉に、ネオンは目を見開く。

「俺が断るなら代わってもいいって、黒曜も言ってくれてるし…」

「…どうして?死ぬのが怖いわけじゃないでしょうね?そんなので配属命令を蹴るなんて…」

ネオンの問い詰めに、アゲートは俯いて、それからすぐに顔を上げ、ネオンに近付いて抱き締めた。

「ネオンと離れるのが怖いんだ」

「アゲート…?」

「…ネオンが好きだ」

「え?」

時間が止まった気がした。



E

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ