09話 チーム名
そして授業も終わり昼休み。
俺達はいつもの四人で、昼食をとっていた。
「陸、そういえばチーム名って決まってるのか?」
俺は少し疑問に思いそのことを陸に聞いてみる。
陸の口からチーム名が出たことはこれまで一度もない。さすがに自分から言っておいてチーム名を決めて無いなんてことはないと思うが……。
「そういえば、まだ決めてないな……」
おいおいおいおい……。
「お前って大切なこと、たまに忘れるよな」
和弥のツッコミも的確だ。
「チーム名か……。どんなのにするか……」
そのツッコミを綺麗にスルーして陸は、話を続ける。
和弥は椅子の上でいじけて暗いオーラを出しているが、ほかっておけば治るので今は無視しておこう。
「ベースボールファイターズってのはどうだ?」
なんとなく頭に浮かんだ名前を言う。
「おっ、その名前いいな。チーム名はベースボールファイターズに決定な」
俺のなんとなく思いついたチーム名で決まってしまった。こんなのでいいのか?
「さすが直樹。いい名前じゃないか。気に入ったぜ」
さっきまで落ち込んでいたはずの和弥も復活して話に入ってくる。
「……お前はメンバーではないだろうが」
これでいいのか……。まあこれが俺たちだよな。
そう、一人で納得した俺は、少し微笑んでいたかもしれない。
今日も一日の授業が終わる。
今日の最後の授業は実験をやった。
実験をやるときはかならず授業に出ているはずの彩都は、今日はいなかった。
珍しいこともあるもんだな……。
そんなことを思いながら、俺はグラウンドへ向かう。
今日はメンバー集めをせず、練習をすることになっているからだ。
みんなは先にグラウンドに行っているため、急いで教室を出ると和弥が後ろから着いてきた。
「和弥、なんでついてくるんだ?」
そう俺が訊くと和弥はいきなり俺に対して土下座をし始めた。
「お願いします。直樹様、俺もチームに入れてください」
「え、なんだよ。これは新手のいじめか?」
和弥なりに本気なのだろうが、どうしてもツッコミがでてしまう。
「チームに入っていいかは、陸に聞いてからだけだけど……何故急に?」
最初の時は確か、知らない奴と力をあわせるのがなんとかと言って断っていたはずだ。
「いや、彩都はお前たちといなくても化学部があるだろ? だけど俺はお前といなきゃだめなんだよ。この気持受け取ってくれよ、直樹」
なぜだか周りで何名かの女子がこっちを見てキャーキャー言っている。「BLよ! ビーエル!」とか叫んでいるが断じてそういう関係でない。虚しくなってきた……。なんでだろうな……。
とにかく俺は和弥とグラウンドに出る。そこにはすでに、みんな揃っていた。
「遅いぜ直樹。……なんで和弥が居るんだ?」
陸もそのことに対し、少し首をかしげている。
「いや、なんでも和弥も野球がやりたくなったって言ってて……」
「そりゃ大歓迎だ。ほらな直樹。分かってくれる時はきただろ?」
たしかに陸はそんなことを言っていたような気がする。
「今日の練習はフリーバッティングでの守備練習だ。ピッチャーは上野、バッターは直樹、俺はショートを守る。田川はセンターを守ってくれ」
「おいおい陸、俺のことを忘れるなよ」
そう、和弥は陸に笑いながら聞く。
「お前は誰だ」
さっき歓迎していたはずなのに誰だはないだろ……。
「陸、冗談でも傷つくぜ」
「俺は本気だが?」
「何故だぁぁぁ」
当たり前のように言った陸の言葉に対して和弥はノックアウトされる。
相変わらず和弥はメンタル面は最悪だな……。
「そうマジになんなって、冗談だ。和弥はファーストを守ってくれ」
それを聞いて足早に和弥はファーストへ向かう。
「陸くん、センターって何ですか?」
「さすが田川だな。そこからの説明か……。センターっていうのはあそこら辺な」
そう言って陸はセンターの場所を指さして教える。
「そしてボールが来たらそのボールを上野に投げ返してくれ」
「ありがとう、陸くん」
そう言って田川さんはセンターの場所へ向かう。
「上野、今日は全部真ん中の球を投げて欲しいんだが……。出来るな?」
陸は相変わらずむちゃくちゃな注文をしている。
「いいぜ、真ん中だな」
そう言って上野はそのまま納得してしまう。
バッターボックスに入る前に一応、上野に確認しておく。
「全部真ん中になんて出来るのか?」
「さあな、体調が悪くなけりゃできない話じゃないと思うぞ」
そう言って上野は陸とキャッチボールを始めてしまう。
上野の狙いに関しては、前の陸とのバトルで立証されている。本当に出来ない話ではないだろう
俺は自分のやることに集中する。
野球は小さい頃遊んだことがあるため、大体のルールは知っている。細かいルールはあまり知らないが、今回の練習では関係ないためゆっくり覚えよう。
そうして俺はバッターボックスに入る。
バットを構え上野の動きに集中しようとする。
一球目
上野は振りかぶって投げる。
ど真ん中の直球。打ちやすい絶好球だ。
カァァン
しかし、俺はボールを前に飛ばすことが出来ず後ろに飛んでいってしまう。ファールだ。
二球目
今度も上野の球はど真ん中。
すごいコントロールがいいな……。俺はそんなことを考えながらバットを振り抜く。
カキィィン
心地よい音がしてボールが三遊間。つまりサードとショートの間に飛ぶ。
抜けるか……。
そう思っていると、陸がボールを捕球する。手前でボールが跳ねてしてショートバウンドになったというのに、陸はそれを難なく捌く。
そのまま一回転をして体勢を直しファーストの和弥に向かってボールを投げる。
パァン
和弥のファーストミットに丁度良くボールが収まる。タイミング的にアウトだ。まあ、ボールが前に飛んだだけタイミングはあってきたか……。
そんなふうに練習を夕方まで続けた。
俺が思っていたより遥かに上野のコントロールは良く、50球中の48球が真ん中にきていた。その中でも俺がバットに当てることができたのは、27球。その中で前に飛んだのは、半分以下の11球。そのうちヒットになったのは、4球しか無い。
運動神経は良い方ではないことは自覚してはいたが、それでも散々な結果だ。
「こんなに運動神経悪かったっけ……俺」
最近体をあまり動かしていなかったためか、疲れもひどい。
今度からは準備運動をやってからじゃないといけない。明日の筋肉痛は覚悟しないといけないな……。
俺達は野球道具を、勝手に占領した部室に入れる。
少し罪悪感はあるが、俺の友人で既に部室を私物化している奴が居るので問題はないだろう。
俺はふと空を見上げた。紫がかった空がどこまでも続いていた。一番星が頭上できらめいていた。