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夏、僕ら、青春。  作者: あきよう
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08話 「これが、俺の100%だぁぁぁ」



「レディー・ファイト」

 その声が掛かると同時に和弥と米谷さんが動く。

 和弥は左拳を突き出す。そのタイミングにうまく合わせて、米谷さんは竹刀をぶつける。

 威力の上では和弥の突きのほうが破壊力が高いだろうが、竹刀の方が接着面積が狭いため体感するダメージが大きい。

 和弥は少し顔を歪める。だがそれも一瞬でありすぐに体制を立て直す。

 和弥の直線的な突きに対し、米谷さんは最小限の動きでその攻撃を避ける。

 攻撃数では格段に和弥のほうが多い。だがいかんせん攻撃が全く攻撃が当たっていない。

 それに対し米谷さんは少ない攻撃数ではあるが、確実に和弥に対して攻撃を当てている。

 一撃一撃が低かったとしても、蓄積したダメージは大きい物に変わっていく。

 そして一般の女子生徒と比べると米谷さんは格段に、身体能力が全体的に高い。

 攻撃が当てられるたびに和弥の顔がゆがむ。

 しかしそんなダメージ稼ぎの攻撃で和弥は倒れるわけはない。それは米谷さんも解っているようで、今は本当にただ単にダメージを稼いでいるだけのようだ。

 和弥は少し溜めてから突きを出す。その突きは米谷さんに当たることはなく机に当たる。だが机が飛んだことにより米谷さんは和弥と距離を置かなければならなくなる。

 もともと体力に自信がある和弥だ。その短時間だけでも体制を元に戻すには十分な時間だ。

 机が飛び交うのが止まると同時に米谷さんは前に出て、竹刀での力を込めた一撃を放つ。

 並の人間が相手であれば、その一撃は致命的な痛手となったであろう。

 だが、同年代から遺脱した身体能力とスタミナが自慢の和弥からしてみればその攻撃は恐るに足らないものなのだろう。それどころか、その後の反撃ダメージのことを考えるとむしろ恐れる必要があるのは和弥の攻撃だとさえ思う。

 彩都と戦っているときは、あまり強く感じない和弥だがそれは戦闘スタイルの違いからだ。和弥と同じように肉弾戦もしくは、接近戦を戦闘スタイルにしている人間に対しては和弥は超人的な強さを誇っている。

 和弥はその一撃を右手一本で受け止める。米谷さんは和弥の攻撃を警戒し、竹刀を手放しその場から一歩後退する。

 しかし和弥の狙いは最初から米谷さんでなく、米谷さんが使っていた竹刀だ。

 和弥はその竹刀を両手で持ち、膝蹴りを入れる。

 ベキッ

 そんな音を立てて竹刀は綺麗に木端微塵にされる。もうあの竹刀は使いものにならないだろう。

 和弥は勝利を確信して不敵な笑いをするが、米谷さんもそれに対し似たような笑いを返す。

「山崎君、ルールでは女子は一度だけ武器の補充をできたはずだ。それなら今ここでそのルールを行使させてもらう」

「ルールの行使は米谷、お前の自由だがその間もバトルは続いている。そのせいで倒されたとしても異議は認めない。そこだけは了承してくれ」

 分かっている。そう一言を発し、米谷さんは和弥の攻撃を避けながら教室の後ろに立てかけてあるもう一本の竹刀を握る。

 和弥の渾身の突きが米谷さんに対して繰り出される。今度は米谷さんはその攻撃を竹刀で受けず、反身開いてその攻撃を避ける。

 そしてそのまま流れるように和弥の背中に対して竹刀を叩きつける。

 しかし和弥はそのまま叩かれていることを気にせず突きを乱発する。

 和弥の攻撃は一撃一撃が重いせいで、米谷さんはその攻撃を避けなければならない。

 そのタイミングを使い和弥は渾身の一撃を放つ。その一撃は文字通りの一撃必殺だ。

「もらったぁぁ」

 和弥は勝利を確信したのか雄叫びを上げるように叫びながらその一撃を放つ。

 しかしその攻撃は一歩遅く、米谷さんが和弥の後ろにまわった後に炸裂した。

 その隙を狙い米谷さんは、胴、小手、突きと三連続で竹刀を叩きつける。

「そろそろ体も温まってきたことだ、私の本気を見してやろう」

「あ? 今までが本気じゃねぇとでも言いてぇのか?」

「その通りだ。ここからはさっきまでのようにはいかないぞ」

 そう言いながら米谷さんは竹刀を構え直す。

 だがそこから米谷さんは、一切動きを取らず目を閉じる。

「はっ、何が本気だ! だったら俺も本気を見してやろうじゃねかぁ!」

 和弥は力任せに米谷さんに殴りかかる。

 和弥が机の多くを飛ばしていることによって、普通の状態の教室よりかは戦い易くなっている。

 しかし、今米谷さんがいる場所は後ろに壁、横には机が連なっていて避けることは上手くいかないはずだ。

 しかし米谷さんはその攻撃を避けて見せ、和弥の後ろに回り込む。……いや避けたは正しくないかのしれない。

 和弥の攻撃の後の米谷さんの動きは素早く、目で追うことすらできないほどのものだったからだ。

 米谷さんはまだ振り向く前の和弥に対し、竹刀を肩、胴、小手、足と四連続で叩きつける。

 そして和弥が振り向き攻撃をすると合時にまた米谷さんは、和弥の後ろに回り込む。

 今度は野球のバッティングのように竹刀を振り和弥に当てる。

 和弥は吹き飛ぶことはないが、前よりも後ろのほうがダメージを食らいやすい。

 痛みに顔を歪めるが、和弥は振り向きワン・ツーのリズムで右、左の順に突きを出す。

 しかし米谷さんの動きは素早く、その攻撃をまるで最初から予想していたかのようにタイミングを合わせ一撃一撃の短い隙の間に竹刀を当てる。

 危険を感じたのか、和弥は後ろに下がるがすでにタイミングが遅すぎる。

 その下がるときの短い隙で肩、足を叩きつけられる。

 そして下がったところで、和弥はこのバトルから逃げるわけにはいかない。

 和弥は力を溜めるようにその場で拳を引く。

 たしかに和弥が勝つ方法は強力な一撃を米谷さんに当てることしか無い。

 だが、今和弥が力を溜めている場所は米谷さんの目の前だ。

 そんな場所では十分に集中することはできない。そのうえ、そんな場所では米谷さんの恰好の獲物だ。

 米谷さんは和弥に容赦なく、和弥に対し竹刀を振るう。

 その竹刀は、顔には当たってはいないが胴、肩、足、小手などに容赦のない一撃が何度も当てられる。

「これが、俺の100%だぁぁぁ」

 そして和弥が溜めていた力を一気に解放する。

 和弥自身が100%と言ったように、さっきまでの突きの威力に比べれば明らかにケタ違いの攻撃力だ。

 攻撃力はは申し分ない。和弥の持ち前の猫以下の集中力さえ治れば、完璧な攻撃だろう。

 しかし、その攻撃も米谷さんの中では予想内なのか、またしても米谷さんは和弥の後ろに回り込む。

 そして米谷さんはそのままの勢いを使い、鋭い突きを出してくる。

 ドガッ

 鈍い音が鳴り和弥にその攻撃が当たる。

 そのまま勢いに任せ、米谷さんは竹刀を振るう。

 そしてそのままバランスを崩し、膝を地面についてしまう。

 教室がしんと静かになった。

 この勝負は米谷さんの勝ちだ。

「私に勝ちたかったら、もう少し強くなることだな。少なくとも……今の君では、私に勝つことはかなわない」

 そう言って米谷さんは教室を出ていってしまう。

「おい、授業始めるぞ。席に着け」

 教室に入ってきた教師の言葉が聞こえてくる。どうやらバトルに集中しすぎてチャイムの音も聞こえてこなかったらしい。

 そういえば、米谷さんはさっき教室を出て行ったが教師には止められなかったのだろうか。

「おい、十文字。授業始めるぞ、そんなところで寝るな」

 今さっきまで竹刀で殴られ続けてボロボロの和弥に対して、教師のの言葉が響く。

「和弥~、授業始まるぞ~。起きろ~」

 俺はあくまで、さっきまで何もなかったかのように和弥を起こす。

 可哀想にな。

 内心、俺はそんなことを思いながら和弥に肩を貸し席に着いた。



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