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夏、僕ら、青春。  作者: あきよう
18/19

18話 化学室





「じゃあ、今日の練習はこれで終わりだ」

 そう、陸が言葉にしたのは日も傾き始め、綺麗な夕焼けが見え始める時だった。

 そういえば、あまり空を見上げなくなったな……。何時からだろうか……。

 昔を懐かしむ反面、少しの虚しさも内に秘めながら俺はみんなと共に校内に戻る。

「そういえば山崎君、そういえばこんな物が送られてきたのだが……」

 校舎内に入り、みんなで食堂を目指しているときに米谷さんがそんな事を言いながら携帯の画面を見せてくる。

 そこには陸がみんなに説明をしておく、と言っていたGBO決定戦なるものの説明がされたメールの文章があった。

「なんだ? 質問か?」

 当たり前なことを聞くかのように陸はそんな事を言うが、米谷さんの言いたいことはそこじゃなくて何でいきなりそんなメールが来るのかって話だと思うんだけどな……。

「これは山崎君も入っているのか? それなら君に戦いを挑もう」

 そんな俺の考えは今、ここで幻想として砕かれたらしい。米谷さん……仮にも女の子がそんなに戦いを自分から挑んじゃいけないだろ……。

「よし、それじゃあ始めよう。悪いが審判は俺がやらせてもらうぞ」

 そう言うと陸と米谷さんは二人とも戦闘態勢をとってしまう。

 食堂に行くはずだったのにこの二人は何をしているのだろうか……。二人をほかっておくと危ないような気がするが、結局は食欲に負け、俺と和弥、そして田川さんは二人をほかっておいてそのまま食堂に向かう。

 死人が出るわけではないからな。そんな楽観的な考えから食事を頼んだ後には二人のことは完全に忘れていた……。



 


 結果から言うとあの後、陸が勝ったらしい。携帯に送られてきた  山崎VS米谷  WIN 山崎 という文章がその結果を俺たちに知らせてくれたからだ。

 しかし、食堂の閉まる時間には間に合わなかったらしく、陸のなぜだぁという言葉がよく校舎に反響したのがなんとも印象的だった。その後すぐに、注意をされていたが……。

 そんなこんなで夕食をすました後、俺は彩都に呼ばれて化学部の部室に向かっている。部室といっても便宜上そう呼んでいるだけで、現在では事実的には使用されていない化学室だ。実際には、唯一の化学部である彩都が使っているので化学部の部室とも呼べなくはないが……。

 そんなこんなを考えているうちに化学室に着く。

「彩都ー、入るぞ」

 一言声をかけてから、部屋の扉を開ける。それと同時に化学室独特の、鼻を突くような薬品のにおいが俺を襲ってくる。

 昔からこの臭いは苦手だ。

 好きな人からしてみれば気にするほどのことでもないのかもしれないが、苦手な俺から言わせてもらうと出来れば嗅ぎたくない臭いだ。

 そして俺を呼んだ張本人、彩都はいつも通り何やら実験らしきことをしている。

 怪しい煙などは出ていないのでそこまで危険な実験ではないのだろう。明らかに一般的な感覚とズレてきているような気がするが、気のせいだろう。そうだ、気のせいだ。

 よくわからない言い訳を自分ひとりでしながら一人で悩んでいる俺。

「……大丈夫か? ……体調が悪いのなら無理強いはしないが?」

 一人で悩んでいる俺が体調が悪く見えたのか、彩都は俺の心配をしてくる。

 言っちゃ悪いが俺からしたらお前の将来が心配だがな……。

「問題ないさ」

「……そうか? ……なら、そこのビーカーを混ぜておいてくれ」

 そう言って指さされたビーカーの中には、某人気ゲームの毒々しい液体スライムよろしく緑色の液体が入っていた。

「なんか毒々しいけど大丈夫なのか?」

 そんな事を言いながらも俺はビーカーを混ぜるために手前にある椅子に腰掛ける。

「……安心しろ。……毒は入っていない」

 何故か話し方のせいで怪しい薬品のように思えてしまうが、これが彩都の普通の話し方、問題はない……はず。

 そのまま集中してしまったのか彩都は無言になってしまう。ビーカーの中身をかき混ぜるという仕事は簡単ではあるが、正直面白くともなんともない。なので俺はカチ、カチという時計の秒針の音、一つ一つを数えて暇を凌ぐことにする。

 ……これも面白くともなんともないが。

 そうして秒針の刻む時間を数え飽きてきた頃、彩都がこっちの方へやってくる。

「これ、使うのか?」

「……ああ」

 そう言って彩都は俺の差し出した毒々しい液体を受け取る。

「今作ってるのはなんの薬品なんだ?」

 俺は気になっていたことを彩都に聞く。なんだかんだで彩都とも長くいるが、薬品を作るのを手伝ったのはこれが初めてのような気がする。

「……これは、何時も使っている強化薬だ。……何時もなら一人で作るんだが、最近は陸の新しい”遊び”のせいでよく消費をしてしまうからな」

 ……すまないが頼らせてもらったぞ、と彩都はつぶやく。

 個人的には彩都に頼っていることも多いから頼ってもらっても、問題はないんだがな……。

 そんな事を思っているとガラガラっと化学室の扉が開く。そっちの方を見ると、そこにいたのは教師と思わしき若いスーツ姿の人物。……名前は忘れてしまったが。

「斉藤と秋陽か……。勉強熱心なのはいいことだがもう夜も遅い、鍵を閉めるから早く出ていけよ」

 彩都が化学部とはいえほとんど勝手に使っていた教室。そのことは特には触れず俺たちを帰そうとする。

「怒んないんですか?」

「怒る程のことでもないさ。少なくとも悪戯ではなく勉強なんだろ?」

 気になって聞いてみたが本当に特に怒っていないらしい。少なくとも自分から逆鱗に触れる必要はないだろう。

 そう思いながら、俺と彩都は共に自分たちの部屋に戻っていった。闇のように真っ暗な廊下を共に歩きながら……。



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