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夏、僕ら、青春。  作者: あきよう
16/19

16話 陸と上野



 結局、それだけでフリータイムは終わってしまい、俺は準備体操もできないままグラウンドへ向かうこととなる。

 しかし俺がグラウンドに着いたのはまだ早めだったらしく、陸と和弥の二人しか居なかった。

 二人して来ていたのはもっと前だったらしく、練習道具を出し終え二人とも準備体操をしている。

「おっ、来たか直樹」

 俺が来たことに気づいた和弥が体操をしながら振り向き、話しかけてくる。

「直樹、今日もいきなりバッティングから始めるってよ。体、ちゃんとほぐしとけよ」

 そう言われても、何をすればいいかなんてことはわからない。

 だがとりあえず、アキレス腱を伸ばしておけば問題はないだろう。

 それから五分ほどが経ち、田川さん、上野の順にグラウンドに出てきて最後の一人である米谷さんがやってくる。

「む、私が最後か……。少し遅かったかい?」

「いや、俺らが早かっただけだ。遅れちゃいない」

 米谷さんの質問に対し陸は、自分の腕時計を見ながら答える。

「陸、今日はどんな練習をやるんだ?」

 次に質問をしたのは上野だ。俺が和弥からバッティングと言われたときは上野は居なかった。

 その上、俺も詳しくは知らず、バッティングとしか聞いていない。

 バッティングはバッティングでもやり方が違うかもしれない。

「いや、今日も昨日と同じでバッティングだ。ただ、今日はバッターは交代制でやる。ひとり持ち玉は二十球な」

「俺が打つときはどうするんだ?」

 説明を終えた陸に質問を投げかけたのは、またもや上野だ。

 確かに俺達のチームには上野以外のピッチャーは居ないのだが、陸はそこはどうするつもりなのだろうか?

「上野がバッターをやるときに限っては俺がピッチャーを受け持つ」

 それなら問題ないだろ? と、陸はもう一度念を押すように行ってくる。

 問題の有無以前にピッチャーをやることが出来るのはこの中では陸しか居ないと思うのだが……と損なツッコミはせずに持ち場に向かう。

 最初のバッターは陸から始まる。守備の方は田川さんがファースト、和弥がレフト、米谷さんがショートで、俺がセンターを守ることになる。そしてピッチャーは、もちろん上野だ。

 マウンドから上野は一球目を投げる。

 カァァン

 爽快な金属バットの音がなり、痛烈なゴロが三遊間に飛ぶ。

「和弥、そっち行ったぞ」

 ショートは米谷さんが守ってはいるが、さすがにあのスピードでは捕れないと思い和弥に声をかける。

「そう簡単に抜かせやしないさ」

 そう言うと共に米谷さんは俺の予想に反しボールを捕球し、ファーストの田川さんに向かって投げる。

 その球のスピードは速く、田川さんは恐怖で目をつぶってしまっているためボールをとれる可能性なんて皆無に等しい。俺がため息をつこうとすると、米谷さんの投げた球は操られているかのように田川さんのグローブの中に収まった。

 昨日、陸が行ったプレイとほぼ同じだ。

「くそっ、抜けなかったか」

 陸は悔しそうな顔をしながら独り言のように言う。

 カァキィィン

「よっしゃぁ」

 ラストのボールを完全に捉え、そのボールをレフトの前まで運ぶ。

 陸のバッティングは長打は少ないものの、理想的なバッティングフォームのそれだ。

 丁寧にミートしてヒット性の当たりを打っている。

 正直米谷さんがショートじゃなかったら前に飛んだ球は全てヒットだっただろう。

 二十球中の陸の成績は、十九球を前に飛ばしそのうちヒットになったのは八球だ。

 しかし米谷さんがショートだったことを思えば好成績の方であり、それが違えば十五球以上は固かっただろう。

「じゃあ次は上野がバッターな。ピッチャーは俺がやるが、それ以外は適当に着いてくれ」

 その一言で俺たちは少しポジションを変える。

 田川さんがセンターに移動し、俺はファースト、和弥はキャッチャーに着いた。米谷さんはそのままショートだ。

 このようなポジションに変えた理由は……というよりさっきのポジションが少しおかしかったのだ。

 このようなバッティング練習にはだいたいキャッチャーが着くか、ネットを後ろに用意しておくものだが陸の場合はどちらも着けなかった。

 着けなかったというよりかは正しくは着ける必要がなかったのだが、それは一部のみ出来ることであって俺たちにはもちろん出来るはずがない。

 上野がバッターボックスに入り感覚を確かめながらバットを構える。

 それを見た陸も、マウンドの感覚を確かめるように足で地面をならしてから、セットに入る。

 綺麗なフォームから一球目が投げられる。

 ブルン

 外角低めのストレートが投げられる。

 勝手に拝借してきたスピードガンには 125㎞/秒 と出ている。

 キャッチボールも何もなしに投げたというのに、素人が投げた球としては速すぎると言ってもいいほどの球速だ。

 その後も聞こえてくる音はキャッチャーミットにボールが入る音とバットにボールが当たる音が五分五分といったところだ。

 そして二十球目

 バットにボールは当たりはするがピッチャーの正面のゴロになる。

「全然飛ばねーな。やっぱ陸みたいにうまくは行かねーか」

 そう言いながら上野はバットを置き、グラブをはめ、陸からボールを受け取る。

「では、次は私が行かせてもらおう」

 ショートの方から落ち着いた米谷さんの声が聞こえてきた。


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