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夏、僕ら、青春。  作者: あきよう
11/19

11話 飼育係

 今日は早く起きようと思っていたからか、いつもより格段に早く起きることが出来た。

 カーテンの隙間から外を覗くと、少しずつ明るくなってきている。日が出てくる瞬間を見たのは、何年ぶりだろうか。

 俺が少しの間、感傷に浸っていると和弥が起きたらしくベットからもぞもぞと這い出てくる。

「お、直樹。早いじゃねぇか」

 俺が早く起きていたのが意外だってらしく、驚いたように話しかけてくる。

「和弥も早いな……。意外だなお前がこんな早く起きているなんて……」

 俺のイメージでは和弥は早起きが苦手で、遅刻の常連のようなキャラだ。

「早起きは慣れてるからな。今からトレーニングに走ってくるんだが、直樹もどうだ?」

 そんなごく自然に当たり前のように誘われても困るんだが……。

「遠慮させてもらうよ。朝から汗もかきたくないし」

 その言葉を聞き、わかったと返事をして和弥は部屋から出て行く。

 慣れていると言っていたということは、和弥はいつもこの時間に起きて走っているのだろうか? 確か和弥はいつも俺より遅く起きていたはずだ。

 まあどちらでもいいか。俺の人生に深く関わってくる問題でもない。

 そう納得し俺は頭をすっきりさせる意味も含めて、軽く散歩をすることにする。

 今日は土曜のため授業は午前で終了だ。そして、この学園では土日には外出が許可されている。

 時計が壊れているから買い換えないといけないな……。

 この時間帯に起きている人はそうそういない。たとえ居たとしても、そのほとんどは自分の部屋の中に居るため人に合うことはそうない。

 そのまま俺は、目的地でもある中庭へ向かう。そこには俺の思っていたとおり、短く黄色い髪に動物の髪留めをしている女子生徒の後ろ姿があった。

「田中さん」

 俺はその女子生徒の背中に声をかける。彼女はぴょこっとこっちを向いて

「直樹くん、どうしたの? 私に何か用?」

 と、不思議そうに言った。

 この女子生徒の名前は田中美貴たなかみき。この学園内に居る、野生の動物の世話をしている生徒だ。

 一年の時に今日のように早起きしたとき、同じように中庭に来たとき田中さんが動物に餌をあげていたのが初めて田中さんとあった時だ。

 その時から、俺は早起きしたときちょくちょく中庭に来ている。

 この学園にそのような活動があるのではなく、彼女自身が自主的にやっている活動だ。

 そのため学園からの活動金は全く出ていないはずだ。しかし、田中さんは毎日この時間帯にここに来て餌を与えているらしい。

 前に一回だけ彼女に興味本位から資金源のことを聞いてみたのだが、うまくはぐらかされ真相は聞けていない。

「そういえば、田中さんは何で毎日餌をあげに来ているの?」

 前々から疑問に思っていたことを聞いてみる。さっきも言ったとおり、この学園にそのような活動があるわけではない。彼女がそれをやる必要はない上に、義務もないはずだ。

 しかし彼女はごく当たり前に、

「だってもう、一回餌をあげちゃったじゃん。ボクが好きであげたんだから、せめて卒業するまでは責任を持たないとね」

 そう言ってくる。

 田中さんはそのことを当たり前のように行っているがそうそう出来ることではない。金銭関係の問題もあるし、普通はそこまで長続きするものでないだろう。

「手伝うよ」

 だから俺は彼女のやっていることを手伝おうとする。缶詰を一つ取りその缶詰を開ける。これは猫の餌だろうか?

 そんなことを思った俺だが、すぐにそんなことを思っているよりすぐに逃げるべきだったということに気付かされる。

 匂いに誘われたのか、数十匹の猫が集まってくる。既に犬や鳥などが数匹いるが、猫は他の動物より格段に数が多い。だが俺はその数に感心している場合ではないということに気づく。なぜかというとその様子は俺の知っている猫と少し違い、さながら獲物を狙っている肉食動物のようだからだ。

 餌に群がってきた猫たちが、俺に向かって飛び掛ってくる。

 飛び掛ってきた猫たちは餌を取る事よりもどちらかというと俺をひっかくことに集中しているように思えるほど、俺は体中を引っかかれる。

 しばらくして俺が餌を落とすと猫たちは俺より餌に興味が出たのか、そちらの方に走っていく。

「直樹くん大丈夫? ずいぶんと玩具扱いされていたようだけど……」

 そう見えていたのなら出来れば助けて欲しかった……。

 とは言っても、ここで田中さんと言い合いになっても仕方がない。

「……ああ、大丈夫だ」

 猫が自由気侭きままなのは解るが、さすがにこれは無いんじゃないかと思うほど強力な団結力と攻撃力だった。

「猫に餌をあげるときは一番気を付けないといけないからね」

 そう言って彼女は、猫の餌の缶詰を開ける。しかし、俺の時のように田中さんのまわりに猫が群がるようなことは起こっていない。

 それどころか猫たちはちゃんと餌が皿にわけられることを待ってさえもいる。

「はい、どうぞ」

 田中さんは優しい笑みを浮かべながら平等に皿分けした餌皿三つを、猫たちの目の前に差し出す。

 さっきまでの大人しさが嘘のように、争うように餌を食べ始める。

「こうなったら猫も可愛いもんだな」

 そう言いながら俺は目の前に居る、白い毛並みの猫を撫でる。しかしその手が邪魔だったのか俺の手は、払われてしまう。

「動物は、なんだって可愛いよ? それとも動物は嫌いなの?」

 彼女は目の前に居る猫を撫でながら俺にそんなことを聞いてくる。

 動物は嫌いではない、むしろ好きだった方ではないのかと思う。

 昔はよくみんなで動物を飼ったりもしていたが、今ではそんな事はしなくなった。

 餌代が勿体無くなったのか、ちゃんと面倒をみるのが面倒になったのか今ではよく覚えていない。

 一つ推測できるのはその時俺達の中で、動物を飼うことが一種のブームだったのだろう。

 しかし、いくら一時期、物凄くひがついていたとしてもブームはブーム時が経てば忘れられた間に見ては懐かしいと思われる。

 その程度のものだ。ブームなんてものは。

「ん? どうしたの? なんか答えにくい話題だった?」

 俺が少し暗い顔をしていたせいか、彼女はそう聞いてくる。

「いや、大丈夫だよ。でも、そろそろ時間だし俺は先に戻っているから」

 俺はそう言って少し早足気味で校舎の中に戻った。

 あのままあの場所に居たくなかったのもあったのかもしれないが、食堂に行くのにちょうどいいぐらいの時間になっていたのもある。

 まだ少し早かったかもしれないが、食堂で場所を取るぐらいにはちょうどいい時間にはなっている。

 だが少しして、食堂へ向かう人数がこの時間にしては多すぎるということに気付く。

 それにまだ全然間に合う時間だというのに、大半の生徒が走っている。

 また和弥と彩都が喧嘩をしているのかもしれない。

 止めることは出来やしないが、ルールを提示しないと二人とも頭に血が上ってしまって集収がつかなくなってしまうだろう。

 そう思い俺は少し急いで食堂へ向かう。

 しかし食堂で戦っていたのは俺の予想と少し違い、和弥と米谷さんだった。

 和弥の後ろには、陸と彩都が居る。

 昨日絶対的な力の差を見せつけられたというのに、何故和弥は米谷さんと戦っているのだろう。そう疑問に思い俺は陸たちの居る方へと向かう。

「陸、なんで和弥がまた米谷さんと戦っているんだ?」

「よっ、直樹。昨日米谷を引き入れてみたらうまくいくんじゃないかと話し合っただろ? だから俺達が勝ったら仲間に入ってもらうって交換条件で戦っているんだ」

「それはずいぶん都合のいい交換条件で……」

 よくそんな条件で米谷さんは了解したな……。どんな条件にしろ俺だったら絶対にそんな条件では戦わないだろう。

「まあ、それだけ自分の力に自信があるか、相当戦いたかったかのどっちかじゃないか?」

 俺は和弥と米谷さんが戦っている方を見る。

 昨日よりかは和弥は善戦しているようだが、相変わらず米谷さんのほうが優勢のようだ。

 米谷さんは和弥の正面から瞬時に後ろに回り込む。

「消えた?!」

 しかしその動きはまさに電光石火の早業で、戦っている和弥本人からしてみれば米谷さんが消えたようにしか見えないだろう。

「つまらんな」

 その一言で和弥は米谷さんが後ろにいるということに気付くことが出来る。

 しかし既に和弥に振り向く時間は必要ない。

 竹刀でのと止めの一太刀が入り、和弥は前のめりに倒れる形となる。

 和弥の体が床についたことでこの勝負も米谷さんの勝ちだ。

「前にも言っただろう。今の君ではどうあがいても、私には勝てないよ」

 米谷さんはそう冷たく言い放つ。

 ドクン

 その時一瞬、世界が歪んだような感覚に襲われる。

 しかし世界が歪んでいるのではなく自分の体がおかしくなっているということに気付く。

 この感覚は……。

 ドクン

「ぐっ」

 さっきよりも強い歪みと激しい頭痛に襲われる。

 俺はあまりの痛みにその場に倒れこんでしまう。

 こんなに痛くなかったと思ったんだが……。

 彩都の薬のおかげでこの頃、直弥と人格を交代していなかったせいで余計に痛いように感じてしまう。

「おい、直樹! 大丈夫か!」

 陸の呼びかけが聞こえてくる。……がもうそれに答える力も残っていない。

 そして痛みで気絶したのか直弥と交代したのかよく解らないうちに俺の意識は途切れた……。



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