10話 忠告
片付けも終わり、食堂に夕食を食べに行こうとすると沙希が木陰から俺たちを見ていたのが見えた。
沙希とは小村沙希と言い、中学時代の俺の知り合いだ。風紀委員に所属しており、次期風紀委員長最有力候補だ。
このとき沙希はすぐに校舎に戻っていってしまったため、声をかけなかった。だが、この時に何故俺たちを見ていたのか、沙希に聞いておけば良かったと思った。
俺達三人は、先に来ていた彩都と合流して夕食を食べる。俺達の中では最初に来た奴が席を取り、最後に来た奴が食事を取ってくるようにしている。
俺は沙希が食堂にいないか探していたので、食事を取ってくるはめになった。
みんなに何が食べたいか聞き、その金を受け取る。今日は練習をしていたため少し遅めになったためか、かなり簡単に欲しい物を頼めた。
そして頼んだものが出来るのを、少しの時間待っていると女子生徒が俺に話しかけてくる。
「君は確か、秋陽君だったね」
声のしたほうを向くと、声の主は米谷さんだった。
「君達はこの頃放課後に、面白いことをやっているようじゃないか」
「面白いかはどうか知らないけど、野球の練習ならしてますよ」
「そうか、それは楽しそうだな」
そう言われ、しばし二人で笑いあう。
「だが、気をつけたほうがいい」
「えっ」
急に米谷さんは声のトーンを落とす。さっきまでのふざけたような雰囲気と違い、一気に真面目な雰囲気になる。
それは脅しているというより、本気で忠告しているようだ。
「何で……ですか?」
「私は人が楽しんでいることを止めるのは、不粋だと思っているが真面目な方々は君達を本気で止めに来る。たしかに山崎君がいることで少しの間は大丈夫かもしれないが、生徒の中にも教師の中にもそのことを楽しく思っていない輩は、少なからずいるものだからね」
「鳳さんとかですか?」
「いや、鳳君の考えはどちらかというと私の考えと近いものだよ。生徒会という立場上あのようになってしまうだけでね。だが鳳君はあれでなかなか敵にまわすと厄介だよ。気をつけたほうがいい」
そう言って米谷さんは自分の頼んだものを持って席に行ってしまった。
そのタイミングを見計らったかのように丁度よく、頼んだ食事が出てくる。
そして席に戻り、今の米谷さんの話を伝える。
「たしかに、そのことは早めに手を打ったほうがいいな……」
その話を聞いて俺が予想していたよりあっさりと納得した。
俺は陸のことだからもう手を打っているか、全てを運に任せるかと思っていたため意外な反応だった。
「……だったら、米谷を引き入れてみたらどうだ。教師の信頼もある上に、生徒会からの信頼ならお前よりか上だろう」
どういう手を打とうか悩んでいると、意外なところから助け舟が出される。
「たしかに米谷の運動神経は良かったようだし、それが一番良い案なのかもな」
その言葉を最後に俺達の話し合いは終わる。
持ってきたのは俺だが、みんなのほうが食べるのが早かったため俺も食器を片付けみんなと部屋に戻る。
「じゃあ俺は漫画読んでるから。できるだけ話しかけないでくれよ」
そう言って陸は部屋に入ってすぐ、漫画を読み始めてしまう。
そういえば陸はいつ宿題をしているのだろう。
「……僕も実験をさせてもらう。……絶対に話しかけないでくれ」
そう言って彩都はベランダに出て、実験を始めてしまう。驚くことに他の部屋から苦情が来たことは一度もない。すべて責任をもって匂いなり何なりを中和とかしてるんじゃないか?
俺は宿題をやるか……。
そう思って宿題をやり始めるといつもなら聞こえてくるはずの声が聞こえてこないことに気付く。いつもなら筋トレをしている和弥の声が聞こえてくるんだが……。
そう思っていつも和弥が筋トレをしている場所を見る。するとその場所を見る前に、俺の右横に和弥が見えた。
「おわぁぁぁ」
よく解らない叫び声が俺の口から出て同時にベランダから爆発音が聞こえてきた。同時にガラスが割れる音がする。
「……話しかけるのは止めてくれといったが、言葉が足りなかったようだ。大きな声を出すのもやめてくれ。……死人を出したくないのならだが」
珍しく少し怒り気味の声で、彩都が話しかけてくる。悪かったと、手を目の前で合わせて詫びる。
いつものことであるが漫画を読んでいるときの陸は、どんなことをしても漫画に集中している。
「和弥、別に宿題を写すのはいいから気配を消して俺の横に座るのをやめてくれ」
一体この大がらの男の気配がどうやったら消えるのかも、疑問だが今更そんなことにはツッコミを入れない。
そしてそのまま和弥と宿題をやり、先に寝かさせてもらうことにする。和弥はいつも俺の宿題を写した後にも筋トレをする。
みんな夜遅くまで自分の趣味のようなことをやっているため、だいたい俺が一番最初に寝ることになる。
時計を買い替えていないから、早く起きるようにしないとな……。
俺はそんなことを思いながら、眠りに着いた。