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夏、僕ら、青春。  作者: あきよう
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01話 日常


 ドゴォォォォン

 どこかで爆発が起きたような大きな音が響き渡る。

 またいつものことか……も少し寝かせてくれよ……。

 そう俺……秋陽直樹はそんな軽い考えでいた。

 またいつものように朝みんなが騒いでいるのだろうと考えていた。

 まあ、朝騒いでいるとしても爆発が起こったような音がするのはおかしいのだが……。

 ドオォォォン

 もう一度起きた爆発音で浅いまどろみの中にいた俺は無理やり目を覚まされる。

「たっく何なんだよ……」

 こんな爆発音を出せる学生を俺はこの学校で友人しか知らないが、どうしても悪態をついてしまう。

 あたりはまだ暗く生徒はまだ寝静まっているはずの時間だ。

 普通は学生でこんな音が出せるやつはいないはずだが、さっきも言ったとおり俺はこんな音を出せる人間を、数人知っている。

 俺はゆっくりと他のルームメイトが寝ているはずのベッドを見る。

 俺は頭の中で最悪の結果を予想する。こうしていればそれが現実になったとき俺の精神に対する負担が少ないからだ。

 俺が他のベッドを見ると、最悪の予想どおり三つのベッドには人はいなかった。

「なんで人間最悪の予想が当たることのほうが多いんだよ……」

 先に予想していたとはいえ、無意識にそんな悪態が口から出てしまう。

 そんな日々を少し楽しんでいる俺も変なのか? 深い溜息を一ついてから俺は急いで着替え部屋を出る。

 こんなこともよくあることなので、俺はもう早着替えも慣れている。

 その音がしている場所に向かう途中でも何か物が破壊されている音は止まらない。

 ドゴォォォォン バアァァァン

 この音だけを聞いていると自分は奮戦地帯に放り込まれたのではないのかと思うぐらいだ。

 俺が行ってもできることは少ししかないのだが、友人としてこれを止めに行く義務がある。

 俺の予想どおりその音は、食堂で二人の男が出していた。

 右側にいる黒い腕輪をしている筋肉質の大男。こっちの名前は十文字和弥だ。

 さっきから素手で机や椅子をたたき壊しまくっている。

 毎回見るたびに思うのだが、あれは誰が修理代を出しているのだろう……。

 そして、左側で攻撃をずっと紙一重で交わしている白衣の男は、斉藤彩都。

 彩都は本来、運動神経はないと言っても間違いがないのだが、今の彩都は普段からは想像のつかないほど素早く動いて和弥の攻撃を躱している。

 二人の周りには他の生徒が多く集まっている。

 こんな夜遅くなのにみんなはどこで情報を手に入れたんだ?

 そんなことを思っていると、しなくてもいいものを自分の感想を述べている生徒がいた。

「さすが十文字だな……。部活に入ってない中で机を素手でたたき割れるのはあいつぐらいしかいないな……」

 さすがに部活に入っていても、素手で机を割る人間はいないだろう……。

 そして今度は彩都が、白衣の内側から試験管を取り出して投げる。

 ドゴォォォォン

 その試験管が地面に触れると同時に、爆発が起こる。

 さっきしていた爆発音はこれか……。

 「やはり斉藤もすごいな……。最初に注射を打ったあとは素早くなるし、試験管は爆発するし、「歩く科学」は伊達じゃないな……」

 小学校の頃からずっと一緒だが、思わず俺も感心してしまう。やっぱりすごいなふたりとも……。

 って感心している場合じゃない。

 俺は二人の喧嘩を止めるために、間に入る。

「「直樹!?」」

 二人は驚いたように、お互いの攻撃をずらす。

 和弥の拳は俺の右側を通り、彩都の試験管は俺の左側を通り抜けて言った。

 俺の後ろで爆発音と悲鳴が聞こえてくる。

「どんな理由で喧嘩してるんだよ」

 俺は一番疑問に思っていることを聞く。

「理由?そんなもんねぇよ。戦いたいから戦う。それだけだ」

「……僕にも理由はない。……売られた喧嘩を買った。……それだけだ」

 和弥、彩都の順に理由を話してくる。和弥はすでに理由でもないが……。

「危ないぞ。どいてろ」

 そう言って和弥は俺をどかす。

 和弥に押されて俺はまわりの野次馬の中に飲み込まれてしまう。

 二人はまたすさまじい音を立てて喧嘩を始めてしまっている。

 野次馬がさっきよりもヒートアップしているせいで、俺はもう二人のもとにたどり着くことすら出来ない。

 少し癪だが、ここはあいつに頼るしかないか……。

 俺があたりを見回してそいつを探してみると、そいつは今まさに食堂から出ようとしていた。

 薄情な奴め……。

 友人の喧嘩をそのままにして、部屋に帰って行こうとするそいつを俺は止める。

「陸、何で帰ろうとしているんだよ。俺じゃ止めれないんだからせめて喧嘩を止めてから帰ってくれよ……」

「何言ってるんだ直樹。面白いからいいじゃないか。それにあいつら同士なら死にゃしないさ」

 こいつの名前は山崎陸。俺の幼なじみだ。面白いことが好きで少し危険であってもこういうことならすぐには止めないやつだ。

 今さらっとすごいことを行ったが本当のことなので、野暮なツッコミはしないでおこう。

「怪我人が出てからじゃ遅いだろ」

「まあ、たしかに怪我人は出したくないしルールは必要だな……」

 そう言って陸は野次馬をかき分けてラクラクと和弥と彩都の居るところに行く。

「二人とも、止まってくれ」

 陸のその一言でふたりとも動きを止める。二人とも陸に反対しても、どんなことでも勝てないことをよく解っているからだ。

「どうせ今回も理由はないんだろうから理由は聞かないが、このままだと戦いに不公平が出るからルールをつくろう」

「何でそんなものが必要なんだよ?」

 和弥がそう聞くが、たしかに怪我人を減らすことがそれとどうつながるのか俺にもよく解らない。

「お前は素手で戦うが、彩都は化学で戦うだろ? それだったら戦っている途中にも新しいものを作ることもできるから不公平だろ? だからルールを作るんだ」

「……ルール?……それはどんなルールなんだ?」

 さっきまで殆ど黙っていた彩都も陸に対して疑問を口にする。

「お前たちの喧嘩はもうすでに学園中の見世物となっているだろ。それを配慮してまわりの野次馬に気を使うんだよ」

「そんな事する必要ねぇだろ。怪我なんか承知でやってきてるだろ野次馬共は」

 彩都も返事はしないが、無言で和弥に肯定する。

「たしかにそれは確かだがお前たちはそんな事で停学や退学になりたくないだろ?」

 その言葉を聞いて和弥も彩都も言葉をつまらせてしまう。

 それなら喧嘩のルールを作るんじゃなくて、喧嘩をしないルールを作ればいいのにな……。

「まず、其の壱武器は自分の手持ちからなら何でも良し。其の弐手持ち以外のものを武器に使わない。其の参どちらかが足と手以外を地面に着けたら終了だ。わかったな!」

 其の雰囲気に飲み込まれ、和弥も彩都も頷きを返してしまう。

 ただ喧嘩をするなと言われたわけではないので、二人とももう一度お互いに向き直る。

「レディー・ファイト!」

 その声を掛け声にもう一度喧嘩が始まる。

 喧嘩が始まった瞬間動いたのは意外にも彩都だ。試験管を懐から取り出すと和弥の手前に投げつけ、爆発を目眩ましのように使っている。

 確かに爆発自体はさっきの爆発よりも小さく、あくまで目眩まし用らしい。

 だがその爆発の威力は机や椅子などを吹き飛ばすほどはあるらしい。

 その短時間の隙を使い彩都は注射を自分に打つ。

 さっきの薬の効果は切れているのか、動きはいつもの彩都だ。

 動きは早くなっていないため、多分攻撃強化か防御強化の注射だ。

 見るたびに思うのだがあの薬はどうやって作っているのだろう。

 いろいろな薬品を白衣の中に入れて持ち歩いているし、法律とかには引っかからないのだろうか。

 彩都が和弥にめがけて突きを入れる。

 和弥は珍しくそれを避けるが今回はそれは正解だつたのだろう。

 彩都の突きは後ろにあった椅子に当たる。

 その突きで椅子は壊れるにはしないが、思いっきりその椅子は吹っ飛んでいく。

 野次馬の中に飛んではいくものの野次馬もそれに当たるほど馬鹿ではない人間がここには見に来ている。

 それもこれまで怪我人がいない理由の一つだ。

 あの注射は攻撃強化か……。

 このルールは一見公平になっていると思えるかもしれないが、これは明らかに携帯している武器の数で彩都が圧倒している。

「これは和弥のほうが不利じゃないのか? 陸は確か和弥が不利だからルールを作るって言ったよな?」

「まあ黙って見てろ。ルールってのはどこで牙を向くか分からないぜ?」

 意味深に笑う陸を横目にもう一度俺は二人の状況を見る。

 相変わらず彩都が圧倒している。

 そう思っていると、状況は明らかに公平になっていた。

 彩都は柱の裏などに隠れ攻撃を確実に当てるようになったに対し、そのおかげで攻撃数が少なくなっているので和弥は積極的に前に出て攻撃をしている。

「注射が攻撃、防御、高速の三つをそれぞれ一セット。試験管爆弾が二十個」

 陸がいきなりよく分からないことを言う。

 彩都のことを言っているのはなんとなく分かるが、それが何を指しているのかはさっぱりわからない。

「なんの話だ?陸」

「彩都の武器数さ。彩都は化学を使って自分自身の弱さをカバーしている。だがその数は無限じゃない。それにそもそも、もっと威力のある武器は喧嘩を擦る前に彩都は組み立てていないから、このルールは長期戦になればなるほど彩都のほうが不利なのさ」

 薬の効果も無限じゃないしな。陸はそういう。

 たしかにこのルールは公平になるルールだ。だが本当に公平なのは不利と有利がどっちにもあるって意味じゃなかったよな……。

「うおらぁぁぁぁ」

 和弥は渾身のパンチを彩都に向かって出す。

 彩都も持っている試験管を投げつけ至近距離でどちらも巻き込む爆発が起こる

 どちらも後ろに飛ばされ、彩都は膝を和弥は背中をついてしまう。

 引き分け。

 これでこの喧嘩は終了だ。

 カンカンカンカン

 どこから用意したのか陸がプロレスなどで使われるような試合終了を告げる鐘を鳴らす。

「そこで終了だ。結果は引き分けだ。お前らも早く寝ろよ」

 そう言ってあくびをして陸は部屋に戻って行く。

 時計を見ると時間は午前二時半を指している。

「……僕も帰らさせてもらう」

 彩都も興味を失ったかのように白衣を翻して戻って行く。

 どうでもいいが彩都は寝る時も白衣を着ているのだろうか……。

 彩都が帰るのと同時に周りにいた野次馬も自分たちの部屋に帰っていく。

 一瞬頭を打ったようでまだのびている和弥を起こそうかと思ったが、起こしたら起こしたで面倒なため置いていくことにする。

 すまん和弥。

 野次馬の大半は二人が嫌い合ったりして喧嘩をしているように見えるだろう。

 俺にもたまに二人は嫌い合っているのではないかと思うほどだ。

 だがあの二人は不良に絡まれたりしても絶対に手は出さない。

 それは自分が自分で思っているよりも普通ではない、ということを自覚しているからだ。

 そういう意味でも二人は本来はお互いを認め合っているのだろう……。

 こんなことさえ普通に接することができるようになった。

 こんな非日常の光景が、俺達の中では日常の光景になっていた。



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