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剣と華  作者: 風吹流霞
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8.少女と王弟

ジウとリイナの出会い、前編。前編はリイナ視点。

無駄に長い手続きを済ませ、ディーノは一旦村に戻った。

王都に行く準備もあるし、部下達にも説明しなくてはならない。

迎えてくれたケヴィンに、少女が居なかったことを伝える。ケヴィンは驚いた顔をしていた。慌てて、

「じ、自力で脱出しただろうから、大丈夫だろう」

と付け加えたら、ケヴィンの口から意外な言葉が吐き出された。


「リイナちゃんなら、昨日の夜、うちに泊まっていきましたけど」


それはもうあっけらかんと、それはもうあっさりと。さすがのディーノも脱力してしまった。

ケヴィンの話によると、リイナが帰ってきたのは昨日の夕方。さすがに出発は無理だと悟った彼女は、ケヴィンの妻の誘いもあり、家に一泊した後、今朝方出発したという。

色んな意味で、ディーノの予想を斜め上で行く少女だ。


まるで、エディオールのようだ・・・


エディオールというのは、ディーノの相方である絶世の美青年のことである。

若干20歳の若さで、王都の騎士団の重要ポストを任せられている天才騎士だ。

近いうちに、副騎士団長への昇進するのではないかと取りざたされていたが、本人はその噂も何のそのマイペースに剣を振っている。

マイペース野郎とマイペースな少女、案外、話が合うかもしれない。


案外早く州都バルトルに辿りついたリイナは、パン屋のウィンドウに顔をくっつけて眉間にしわをよせていた。

マリカがいたら、本当にしわになるからやめなさいと眉間をぐりぐりされそうだ。


うう、小麦粉の物価あがっている・・・


ウィンドウに並ぶ数々のパンの値段が去年と比べて軒並み倍になっている。

これは原価の小麦粉が値段を上げたことが考えられる。


そういえば、去年は天候不良で小麦の発育がよくなかったって・・・


道すがら、ケヴィンが呟いていたのを思い出した。

「大丈夫かな・・・」と一抹の不安を残しつつも、リイナはパン屋を後にした。

次に向かったのは、街道だ。待合馬車の待合所を横目に見ながら、彼女は通り過ぎた。

州都から州都までは待合馬車が走っている。健脚な成人男性は街道を歩いていくが、それが出来ない人もいる。

体の小さい子供や、足腰の弱い老人達、病気がちな人や、身重な女性と。

そんな人々を運ぶために考えられたのが待合馬車だった。

話には聞いていたが、リイナは使用したことはない。

待合馬車貸切はそこそこのお金がかかるし、動物のシルクがいることもあって、遠慮している。

シルクは大人しいが、人々の中には動物が嫌いな人もいるし、同乗者に迷惑はかけられない。

てくてくと歩き出した少女と一匹の犬を見て、大部分の人が振り返る。

普通の女子供は、待合馬車を使うので、健脚な成人男性と同じように歩く少女が珍しかったようだ。

加えて、シルクの存在。犬を連れている人はいるが、シルクほど美しい犬はいなかった。

純粋にリイナはシルクがほめられるのは嬉しい。

「良かったね、シルク。シルクは美人さんだから皆が見てるよ」

思わずにっこりと笑みがこぼれた。目の前に休憩所を発見したリイナは、

「お昼にしようか」

とシルクに話しかける。シルクは嬉しそうにわんっと鳴いた。

近付くと待合馬車が停車していた。しかも貸切状態。

目立つのは嫌だったが、水分補給もしたいから、仕方ないと割り切ることにした。

休憩所の入り口に立って、リイナは硬直した。


美形さんがいる・・・、きらきらしてる・・・


黄金こがね色の髪に、紺青の瞳をした美青年は白い制服が良く似合う。

いあ、美形さんは何着ても似合うと思う。リイナの頭の中にそんな考えが浮かんだ。

一緒に居るのは従者だろうか。ならば、彼は騎士なのかもしれない。


「どうした?入らないのか?」


入り口で硬直していた彼女に、美青年が声をかけた。

「連れが動物なので・・・」

「動物?」と彼らが首をひねると同時に、シルクが横に並ぶ。

シルクを見て、彼らは口をあんぐりと開けた。

「あ・・・、やっぱりいいです・・・」

その様子を見て、リイナはくるりと踵を返しかけた。外で食べよう、うん、そうしよう。


「君が飼い主なら君の命令は聞くだろう?」


彼女はこくりと頷く。シルクは大人しく賢いから、この人達に迷惑はかけないだろう。

「それなら構わないよ」と彼は微笑んだ。

絶世の美女であるマリカで多少免疫はあるが、美形さんの笑みは心臓に悪いとリイナは思った。

お邪魔しますと彼女は小走りで奥の端へ行って、腰を下ろした。

愛用の鞄から水筒を取り出し、給水場から水を汲む。シルクに干し肉を与え、自分はパンとジャム、それにナイフを取り出した。


よかった、まだ、柔らかい・・・


このパンは出発する際、ケヴィンの奥さんが焼いてくれたものだ。

パンにナイフで切り込みを入れ、ジャムを塗り、パンをかじる。


明日から干し肉とドライフルーツ生活か・・・


パン屋で見かけたパンは軒並み価格が上がっていて、手が出せなかった。


小麦が駄目なら、他の作物を育てないとなぁ・・・


今年は何を育てようかと考えをめぐらすリイナを、彼の人がじっと見ていたことを彼女は気付かなかった。

筆が乗ったので、調子に乗って本日2回目の更新。

やっと相方さんの名前が決まりました。エディオールはまったりマイペース天然キャラ(何でこんなキャラになっちゃったんだろう)。

リイナも天然マイペースキャラなので、気が合うかもしれない。

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