6.少女と盗賊と騎士2
後半、残酷描写あるけど、R指定するほどではないと思いたい。
まあ、R12程度?
罠を設置し終えたリイナは、物陰に隠れて様子を伺っていた。
目隠しをさせられ、つれてこられたので出口が全く解らない。
うろうろしながら出口を探すより、外に出るであろう盗賊の後をつけたほうが早いと気が付いたのだ。
待つのは得意だ。物陰に隠れて数刻。どんっと衝撃が洞窟内を駆け巡った。
えっ、何?何?
困惑するリイナの目に、走ってくる白い物体。
「シルク・・・!?」
シルクは彼女の前で急ブレーキをかけて止まった。
「助けに来てくれたんだね、ありがとう」
彼女はシルクの首筋辺りを撫でた。
それと同時に、盗賊達の叫び声が聞こえてきたので、シルクをつれて再び物陰へ姿を隠した。
物陰から周囲をうかがうと、奥にいた盗賊達が飛び出していくのが見えた。しかし、
「ぎゃああああーーー!!」
盗賊達の悲鳴が木霊する。ちらっと見ると、盗賊達がリイナの作った罠に綺麗にはまっていた。
「あらら」と彼女は驚く。
意外だわ・・・
彼女が仕掛けた罠は短時間で仕掛けられる簡単なものだ。
それに綺麗にひっかるとは、本当に寄せ集めなのだろう。
まだ、盗賊達が奥から出てくるようなので、彼女は物陰に潜んだままだ。
盗賊達の悲鳴はディーノ達にも聞こえた。だが、まさか罠に引っかかっているとは想像していなかった。
突入した騎士達の攻撃を受けたものだと思っていた。
しかし、騎士達が見たのは、ロープに足をとられ、釣り上げられていたり、ずぶぬれになってがたがた震えていたり、側にバケツが転がっていたからバケツの水を大量にかぶったようだ。
と思えば、地面にうつぶせに倒れ、気絶している盗賊もいる。
「ぶははははっ!!」
まぬけなその姿に、騎士一同大爆笑。
「何やってんだ、お前ら・・・」
呆れたように入ってきたディーノも、盗賊達の情けない姿に、大爆笑。
「やめろ、腹がよじれる!」
ひとしきり笑った後で、ディーノは部下達に命令を下す。
「戦意喪失している間にふん締まるか」
しぶしぶ動き出した部下達だが、笑いすぎたのか目に涙を浮かべていた。
ディーノも部下達の事をとやかく言う立場ではない。彼も目にうっすらと涙を浮かべていたからだ。
捕縛した盗賊達は一箇所に集めて、騎士数人が見張りに付く。
「さて、首領の顔でも見に行くか」
彼はにやりと笑った。勿論彼女にも、騎士達の笑い声は聞こえていた。
洞窟内では騎士達がぱたぱたと動き回っていて、物陰から出る機会がなかなか見つからない。
いつになったら、出られるのかな・・・
彼女ははあとため息をひとつ。脱出にはまだ時間がかかりそうだ。
物陰から姿を覗かせていたリイナは慌てて、姿を伏せる。
こちらに向かってくる明るい茶髪の青年の視線を感じたからだ。
危ない、危ない・・・
彼女はほっと胸をなでおろし、前にも増して気配を隠した。
彼の周囲には沢山の騎士達がいて、彼のことを「隊長」と呼んでいた。
彼がこのローザンヌ地方の騎士団の隊長に当たるのだ。
彼らが通り過ぎる時、見つかるのではないかと気が気でならなかった。
リイナは物陰から顔を出す。どうやら、ほぼ全員の騎士達が奥へ向かったようだ。
それを確認し、彼女は物陰から出、騎士達が向かった先とは反対側へと走り出した。
洞窟内で感じた気配はすぐに消えた。悪い気配でもなかったので放っておいた。
一番奥の部屋が首領のいる部屋になっており、髭面の大男が座っていた。
部隊にもこういう男はいるが、
「やはり、盗賊だな」
ふんとディーノはせせら笑った。あの男は庶民育ちだが、この男とは違う。
この男はただ、不愉快なだけだ。
「お前の部下達は全員、ふん締まったぞ、さあ、どうする?マグニ」
ディーノに名を呼ばれた盗賊マグニが濁った目を見開く。それは部下達も同様だった。
「隊長、知っているんですか?」
「知っているというか因縁だな」と彼は肩をすくめた。
「俺じゃなくて相方がな」
彼は相方の整った顔を思い出す。色んな意味で規格外な奴である。
「ああ、銀獅子殿ですか」
銀色の髪を持つ相方は、その強さも相まって通称銀獅子と呼ばれていた。
「あいつ、幼少時に浚われた事があってな、その犯人がこいつなんだよな」
「あれは詐欺だ!!」
今まで沈黙していたマグニが叫ぶ。
「ま、まあ、それは否定しねぇな・・・」
ディーノも苦笑した。相方の小さいころは本当に女の子にしか見えなかった。彼は一歩踏み出し、
「捕まれば、あいつの拷問が待っているけどな」
にやりと笑った。ひいとマグニは悲鳴を上げる。
ディーノもあれだが、あいつはそれ以上にえげつない拷問をする事で有名だ。
何しろ、あの顔で平然としているのだから怖い。
「そ、それだけは勘弁を・・・!!」
マグニもその怖さを聞き知っているようで、必死になって命乞いをしている。
「二度とこんな事はしませんから・・・!!」
「そうか」と満足そうに頷いたディーノに、マグニはほっと一安心。
必死の演技を見破られなかったようだ。「それなら」とディーノはにやりと笑う。
彼は嫌な予感がした。抜かれたディーノの剣が宙を舞う。一瞬のうちの出来事で剣筋が見えなかった。
「ぎゃあああーーー!!」
マグニの悲鳴と共に鮮血が飛び散り、ぼとりと彼の指が床に落ちた。
「盗賊をやめるのなら、その指はいらないよな?」
ディーノの剣はマグニの鮮血に塗れていた。
指を押さえ、「痛い、痛い!!」と叫ぶマグニをディーノは冷ややかに見つめている。
「お前達に殺された人間もそうやって死んでいった」
ぼそりと盗賊達が、「悪魔」と呟いたのを聞き逃さなかった。
「悪魔?」
彼ははんっとせせら笑った。
「上等だ、ほめ言葉と取らせてもらうぜ。俺達を王都の騎士団と勘違いしてもらっては困るな。王都の騎士団ほど上品じゃないんだ」
部下達は同様に盗賊達を見ている。盗賊退治にはイレギュラーな部隊が一番役に立つ。
「捕らえろ、死なせないように傷の手当だけはしてやれ」
ディーノはくるりときびすを返した。
ああ、やっぱり、胸糞悪いわ・・・
彼は空を見上げ、苦笑した。
ディーノとその相方さんは最凶コンビです(おい)。